近付く祭事
カフェで心地良い時間を過ごした後、そのまま三番通りの気になるお店を回ったり、日用品を買い足したりしていたら、いつの間にか夕日が沈みそうな時間が迫っていたので、もう家に帰ろうとしたら
”PPPPPPPP”
ウィルさんから渡されたバーに関する連絡用の魔導具から、今日の出勤の可否の確認通知が届く。
ウィルさんのバーは毎日開いている訳じゃないから、ウィルさんがお店を空ける時に私が出勤可能かどうか連絡できるように、距離が離れていても簡易的に連絡が取れる魔道具を渡されている。
自分から「雇ってください」って頼み込んでおいてこんな事言うのもアレだけど、遠距離で連絡が出来る魔導具って凄く高価なんだよね。
そんな物をサナッタ・シティで最も治安が悪い場所に住んでる私に手渡すのは、いくら家がお金持ちだからってちょっと不用心だと思う。
だってこの町モーリス・タウンの三番通りが他の通りより治安が良いと言っても、この町の治安が悪い事には変わりないから、私がこの場でこの高価な魔道具を取り出すのだって、周囲の目を気にしないといけない。
もしこの魔道具を私が持っている事に周囲の人達が気が付けば、その中の数人は確実にこの高価な魔導具を私から奪ってまでお金を得ようとするぐらい、この町の人達には余裕がないんだよね……
今の所次の盗みに入るターゲットを定めてないし、私はバーで今後盗みに入るターゲットの情報と単純にさっきお金使ったからバイト代も欲しかったので、その場で出勤OKのコールをウィルさんの元に送った。
こうして夜の予定は決まったから、私は家に五番通りで買った物を一旦家に置きに戻った後、ウィルさんのバーに向かう事にした。
ウィルさんのバーがあるアーク・タウンに行くために、モーリス・タウン三番通りから出発するバスに乗り込みバスに揺られる事20分。
ウィルさんのお店の近くのバス停で降りた私は、そのままウィルさんのバーに入って
「こんばんは」
「こんばんは、マリリン。 今日もよろしくお願いするよ」
私はコクリと頷いたあと、裏手に回って制服に着替え終えると、今日の私の夜の仕事が始まる。
・・・
・・
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「……今日はお客さん少ない方ですね」
お店を空けてからお客さんが入るペースは疎らで、尚且つ最後のお客さんが入ってから一時間近くお客さんがゼロの状態が続いているので、おもわず私はぼやいてしまった。
「そうだね」
「常連さんもあんまり顔出さないなんて珍しくないですか?」
「それは仕方ないよ。 なんせこの街、いや、この国で最も大きな祭事の一つである『死者の日』の開催まで、後一週間だからね。
皆が飲みに来なくなったって事は、皆が飲み間も惜しんで死者の日に関する準備に励んでる証拠だよ」
ウィルさんそう言われて、私はすっかりこの街に住む人間にとっては大切な祭事が間もなく開催される事を思い出す!
「……もうそんな時期なんですね」
「ああ……この街で悲劇が起きてもう八年の歳月が過ぎたけど、未だにこの街にとって死者の日は大きな意味があるからね」
そう言ったウィルさんの表情にどことなく影を感じてしまったけど、お互いあの抗争で大切な者を沢山失ったから、きっと今の私もウィルさんと「似たような表情になっている」のは、何となく分かった。
死者の日は冬に入る前にこの国全体で行われる祭事なんだけど、その目的は【死者を偲び感謝し、生きる喜びを皆で分かち合う日】だとされている。
そしてこの街にとって死者の日は、八年前に”大規模なマフィアの集団とこの街との抗争が終わった日”でもあるから特に力を入れているんだけど、それは「二度とあんな悲劇が起きなように」という強い祈りも込められているから、この街の人達は死者の日の祭事に凄く力を入れる。
というかあまりも力を入れて大規模な祭事を行うようになってから、他所の街や王都から大勢の人がこの街の死者の日の祭事を見に来るぐらいで、この日だけはこの街に中心地である「王都以上にこの街は盛り上がる」って外の人から言われるぐらい有名な観光行事になってるぐらいだし。
「「……………」」
死者の日の話題を話すと、少し私とウィルさんの間に流れる空気が重くなって、なんだか会話し辛い雰囲気になってしまった。
この空気はあんまり良くないと思うので、何か話題を出そうと思ったけど、気まずい空気になるとどんな話題を出していいか分かんない私は、ちょっと困っている。
”カラーン”
「「いらっしゃいませ!」」
だけどそんな話辛い雰囲気を良い意味で壊してくれたのは、お客さんの入店だった。
どうやらウィルさんも私と似たような感じの事を考えていたみたいで、ウィルさんも直ぐに入店してきたお客さんの方を私と同時に振り向くと、ちょっと重かった空気を壊してくれたお客さんに対してつい力が籠った挨拶してしまった。
「こんばんは、二人揃って今日は元気がいいわね」
そう言ってお店に入ってきたのはエレンさんだった。
「ハハハ……ちょっと今日はお客さんが少ないから、久しぶりに誰か来てくれるとつい嬉しくてね」
「あら? 私が来たからじゃなくて?」
「もちろんそれもあるけどね――」
ウィルさんとエレンさんが楽しそうに話し始めたので、私はしばらくその様子を眺めている。
「……やっぱり今日もかぁ」
そして今日も二人が楽しそうに話しているのを見ると、今日もなんか「モヤ」っとした感覚が自分の中で生まれたから、ついその事を小声で嘆いてしまう。
どうして二人が話しているとモヤっとした感覚が生まれるのか?――その答えが未だに分からない私は、一人悶々としつつ二人の会話がある程度終わったタイミングを見計らって
「ご注文は?」
「そうね……カルヴァドスをボトルで、ロックでお願い出来るかしら?」
「はい、少し待っててください」
(エレンさんはお酒が強い方だけど、いきなり度数が高めのブランデーを頼むなんて珍しいな)
そんな事を考えながらエレンさんに頼まれたブランデーのボトルを探した後、ロック用の氷をトレーに乗せ、エレンさんの前に差し出しすと、エレンさんは「ありがとう」っと言った後、一人静かにブランデーを口し始めた。
そしてエレンさんが来た後、お店に新しいお客さんが入ってくる事なく30分ほど経った時に
「……今日は珍しいわね」
突如エレンさんが私に向かってそんな事を言ってきたので
「……私いつもと何か違いますか?」
「ええ、あなたいつもならそろそろ私に何か余計な一言を言ってくる頃よ?」
エレンさんが不思議そうに言ってきたけど、私そんな頻繁にエレンさんに対して言ってたかな?
その事を確認の意味でウィルさんの方にチラリと目をやると、ウィルさんの表情が「確かに」とでも言いたげな表情をしていたから、どうやら私は今までエレンさんが来てから30分以内に何か一言いうのが当たり前になってたみたい……
「もしかして、何かあったの?」
「……そんな事はないですけど」
とりあえずそう言ってみたけど、本当はエレンさんの言う通り私はエレンさんに対する印象が変わったというか、戦闘技術を盗んだというか、参考にさせてもらったから、今の私にとってエレンさんは【戦いの御師匠様】という目で映ってしまう!
だから前みたいに平然と嫌みを言いづらくなってしまったんだよね。
だけどその事を言ってしまえば「私が銀青の泥棒猫だと勘付かれるかもしれない」ので、下手な事は言えない。
だからこのままこの話は流してしまった方が良いと考えた私は、一端裏手に逃げようとしたんだけど
「もしもよ、もしも何か悩みとか不安な事があるならちゃんと言いなさいよ?
悩みも不安も一人で抱え込んだっていい事なんてないんだから」
だけどエレンさんは私を逃がしてはくれなかった……というか、もっと絡もうとしてきた!
「いえ、本当に何もないのでご心配なく」
「そう……だったら良いんだけど」
エレンさんがそう言った後に、別に裏手に回る用事があった訳じゃないんだけど、逃げるように私は裏手に回った。
「……ずるいんですよ、いきなり昔みたいにお姉ちゃんぶってくるなんて!」
本当はエレンさんが心配してくれて凄く嬉しかったし、エレンんさん言う通り私は悩みも不安も沢山ある。
だけどその事を尊敬している人に素直に話せない事情を抱えている私は、ばつの悪さを感じつつその場から逃げる事しか出来なかった……
最後までこの話を読んで頂きありがとうございました。




