小さな幸せ
(……やっちゃったな~私)
出来るだけ明るい内は【何があっても関わらないようにしていた】4番通りに関する出来事。
だけど今日の私は昨日の成功事例で朝からとても気分が良かったからか、目の前で人として最低の事をやっているアーサニーク・ファミリーの下っ端の姿を見てしまうと、一気にいい気分が最悪の気分になってしまった。
だから私は今までなら絶対やらなかった事を、下っ端に対して最低の事を止めるように声を出して言ってしまったんだと思う。
「んん? 何だ、ガキが偉そうに!
俺は今忙しいんだ、殺されたくなかったらさっさと消えろや!!」
下っ端は、女の人を苦しめるの止めるように言った相手が私だと分かると、相手にする気を見せずこの場から去る様に促してきた。
「えっと……ガキに偉そうな事言われちゃうような事を平然やってるダサいオジサンが『殺す』とか無理して強そうな事言ってのって……ダサいオジサンがますますダサく見えるよね」
「……おい、ガキ!
いくらお前がガキだからって、大人に言っていい事と悪い事があるって知らねぇのか?
それに俺はまだ『25』だからオジサンじゃねぇ!」
何かどうでもいい情報を自称25歳のダサいオジサンが教えてくれたけど、どこからどう見ても顔がオジサン顔なので言ってる事の信憑性が全くないんだよね。
そもそもこの自称オジサンじゃない下っ端のオジサンの年齢なんて、私にとっては心底どうでも言い情報なんだけど?
そして「大人に言っていい事と悪い事がある」って、人として恥ずかしい事してるのに良く言えるよね?
「大人だからって弱い人から一方的に物を奪うのは間違ってる、と思うんだけど違うの?
それに自称オジサンじゃない人は、パパとママから『人から物を勝手に盗ったら泥棒』だって教わんなかったの?」
「……口の減らねぇクソガキがぁ!
誰に物を言ってんのか分かってんのか?」
「誰って……自分のやってる事が最低だって事すら分かってない痛々しい自称25歳のオジサン?」
「ホントに口の減らねぇクソガキが!
ぶっ殺してやるよ!!」
私の煽りに耐えきれなくなったダサくて痛々しい自称25歳のオジサンは、私に向かって拳を振り下ろす。
だけど
「……おっっっそいから。
あと、先に手を出したのはそっちだからね?」
「ハァッ!?」
私目掛けて振り下ろしたハズの拳が私に当たる事なく空を切った事で、ダサくて痛々しいのに短気な自称25歳の下っ端のオジサンは素っ頓狂な声を上げていた。
そして私が何処に消えたか探そうとした瞬間
”バキィィィーー!!!”
「ゴハァァァ」
私は風魔法で身体能力を強化した後、ダサくて痛々しいのに短気で動きもトロイ自称25歳のオジサンの拳を身を屈めて躱し、そのまま体を上げる反動を使いつつ思いっっきり力を込めた蹴りを、オジサンの顎に入れてあげた。
すると、ダサくて痛々しいのに短気で動きもトロイくせに、私の蹴り一発で泡を吹いて気を失って倒れそうになってる情けない自称25歳の下っ端のオジサンは、白目を向いたまま大の字で横たわった後に泡を吹いていた。
「あっ……この後の事考えてなかった」
私は怒りに任せて最低オジサンを倒してまでは良かったのだけど、この後この最低オジサンをどうするのか全く考えて無かった事に気が付く。
(このまま放っておく訳にもいかないし……)
正直「コレどうしたらいいんだろう……」と困っていると
「おい、この家か?」
突如後ろから複数の男の人の声が聞こえて来たので咄嗟に振り向くと、そこには4番通りに住む人達が結成した自警団の人達が騒ぎを駆けつけてやって来る姿が目に移った。
そして自警団の人達は急いで家の中に入ってくる。
「大丈夫か? レンリーさん!」
「は、はい!」
「男が押し入ってきて暴れてるって聞いてきたが……見事に伸びちまってるな、コイツ」
「慌ててきてみたら誰かがコイツを黙らせてくれたみたいですけど、一体誰が」
「えっと、そこにいるフードを被っている子が……って、あれ?」
レンリーと呼ばれた女性が指を差した場所には、横たわっている男だけでレンリーの言うフードを被っている子の姿は何処にもなかった。
「……後はヨロシクお願いしますね」
私は自警団の人達が入ってきた瞬間に、窓から外に飛び出して脱出した。
事後処理を自警団の皆さんに丸投げしちゃうのは申し訳ないけど、事情聴取されてもし私がマリーン・モーリスだって気が付く人がいるかもしれないから、私はそそくさとその場を後にした後、目的のカフェに向かう。
***
「お嬢さん、今日はなんだか良い顔してるね?
何か良い事があったのかい?」
「うん、 ちょっと……ね!」
隣の通りである3番通りにある行きつけのカフェで、モーニングセットを注文して食べていると、珍しくカフェのマスターが私に話しかけてきたけど、ついさっき”腹が立った最低のオジサン”をやっつけて気分がスッキリしていたから、ちょっと照れながらもマスターの質問にYESの意味を伝えた。
「そうかい、なら良かったよ!」
「……私フードで顔隠してるのに、マスター良く私の気分が良いの分かったね?」
「なーに、お嬢さんの口元が嬉しそうにしてる見たの初めてだったからね。
それでつい気になって声を掛けちゃっただけだよ」
(えっと……そう言われるって事は、私は今までこのお店でどんな顔をしてたの?)
マスターに声を掛けられた理由を聞いて、私はこのお店で一度も笑顔を見せた事が無いと言う衝撃の事実を知る事になる。
(でも考えてみたら、私が一人で生きるようになってからこんなに心が軽やかな時って久しぶりかも)
今まで私はその日を生き抜く事に必死だったから、本当に余裕が無い生活を送っていた。
アーサニーク・ファミリーを狙った泥棒を始めても、結局僅かな金品を奪う事しか出来なかったし、奪った金品は私の生家であるモーリス家を、今でも敬ってくれる四番通りの人達を中心に返還していたから、私はずっと心身共に厳しいと思える生活を送ってきた。
だけど、昨日今日と今でも憎くて仕方がないアーサニーク・ファミリーの人間達を、私自身の力で倒せたし、お金だってウィルさんのバーで働き始めてからそれなりのお金が入るようになったから、前みたいに生きる為に形振り構わない生活をしてた頃に比べると、断然マシになった。
(なんだか髑髏の闇騎士と出会ってから、色んな事が上手く行くようになった気がするなぁ)
そう思えるぐらい私の生活は、髑髏の闇騎士と出会った日を境に大きく変わった。
そもそもこのお気に入りにのカフェだって、髑髏の騎士と出会う前は月に一回来れたらいい方だったし。
(なんか不思議な気分だな……今までやってきたが報われたような気がして)
そう思うと私の心に、不思議と暖かい何かが宿って心がポカポカしているように感じたし、そんな気持ちで飲んだこのカフェのキャラメルマキアートは、特別に美味しくて一生忘れられない幸せの味になりそう!
なんて素直に思えた。
最後までこの話を読んで頂きありがとうございました。




