裏の顔にて遭縫
「くっ……騎士をこんな目に遭わせといて只で済むと思うなよ!」
性根の腐った騎士共を軽く一掃し、最初に捕らえてやったマフィア達と揃って”悪党同士仲良く”縛りあげてやった。
しかしそれなりにダメージを与えているのにまだ捨て台詞を吐ける体力があるというのは、腐っても騎士だという証拠かな?
もっとも形式上は騎士であろうとも、目の前にいる騎士は只の”クズ”でしかない。
そんな騎士の姿をしたクズの言葉なんて僕の耳に入れたくなかったので、僕はクズを黙らせる為に「ある物」をクズの目の前に放り投げてやる。
そして僕が放り投げた「ある物」をクズ共が目にすると、クズ共の表情は見る見る青褪めていった。
「な……お、お前! 何故コレを!?」
僕がクズ共の前に放り投げたのはたった一枚の写真なんだけど、その写真には
【今一緒になって仲良く縛られてるマフィアと騎士が、ガッチリと握手しつつ町中で堂々とマファイから賄賂を受け取っている瞬間】
がバッチリ写っているので、この町の治安を守る存在が
(さて……そろそろ今日の本命が、この状況を嗅ぎ付けてくれる頃だと思うんだけど)
そんな事を考えていたら、不正現場の証拠写真を見せれば黙るかと思ったクズが「こんな物見せた所で……」だの「俺達の後ろにいるのは……」と言って、ワーワー騒ぎ出す。
不断の僕なら”騎士のクズ如き”に、何言われようとも気にもしないんだけど、憎悪する闇を装着している状態だと、どうしても憎悪の対象と認識している存在が何かを言うだけで、僕の中の憎しみが強く刺激さてしまう。
(全く……僕が自分の中に渦巻く憎悪の感情を制御しつつ、お前らにみたいなクズに不要な労力を使いたくないから黙らせようとしてやった事が、まさか逆効果となるなんて……
幾らクズ共の負け惜しみとは言え、憎悪の対象と認識している僕からすると不快に感じるし、その所為で僕の内で渦巻く憎しみが益々強く反応してしまうので、否が応にもクズ共に対して不要な殺意が掻き立られてしまうのは、とんだ誤算だった……)
このままアイツ等の言葉を耳にしていれば
【僕が自分で自分を押さえられなくなって、以前のように取り返しの付かない事を仕出かしてしまう】
可能性を考慮した僕は、本来の狙いを達成する事を諦めてこの場から去ろうとする。
「全員その場から動くな! この場は聖騎士隊が包囲している!」
(来た!)
この場から去ろうとした瞬間に、漸く僕の待ちわびた今日の本命である聖騎士隊が表れた!
僕は事前に「聖騎士隊がこの場所の近くで夜間パトロールを行う」情報入手していたので、後は僕が悪党と戦って騒ぎを起こせば、その騒ぎを聞きつけ騒ぎの現場に最初に突入してくるのは、モーリス・タウンの騎士達!
そしてココに突撃してきた騎士達が、中々現場から戻ってこないとなると「異変を察知した聖騎士隊達は、否応この場にやってくる」と踏んで待っていたのだけど、やっと今日の狙いのお出ましだ!
後はこの現場と僕が用意した証拠の数々をエレン達聖騎士隊が目にすれば……その後どうなるかは説明するまでもない。
「この町の騎士が通報を受けて向かった先から中々戻ってこないので、心配になって様子を見に来て見れば……『一体何がどうなったら』こんな状況が生まれるのかしら?」
そう言った後、エレンはモーリス・タウンの騎士達を思いっきり睨みつける。
するとクズ……もといこの町の騎士達の表情が「完全に自分たちの人生が終わった」事を悟ったかのように、絶望の表情を示していた。
そんなクズ達を見下ろしながら、エレンは腰に携えた剣に手を添え
「さて……この状況説明してもらうわよ! 髑髏の闇騎士!!」
エレンはそう言った直後、僕に向かって剣を素早く”シュッ”っと鋭い音を立て空を切る。
するとエレンが空を切った剣の軌道に沿って現れたのは、エレンの得意とする光魔法を使って作り上げた斬撃が、僕に向かって猛スピードで飛んでくる!
咄嗟に飛んできた斬撃に対して対応が遅れてしまった僕は、エレンの飛ばした斬撃を直撃寸前の所での所で受け止めざる負えなかった。
エレンの飛ばした斬撃を受け止め、ダメージこそ負ってはいないものの、闇魔法で隠していた僕の存在は見事に顕にされてしまう。
「はじめまして、髑髏の闇騎士殿! 私は聖騎士隊の率いる隊長のエレノア!!
一応聖騎士の中でも光の騎士なんて称号を授かっている聖騎士よ」
「……」
「ふーん……大抵の悪党は私の名前を聞いたら『驚くなり、腰を抜かすなりして』くれて、勝手に捕まえる隙を晒してくれるんだけどね。
だけどお前は私の名を聞いても全く動じないとなると、もしかして『以前何処かで私と会った事がある』のかしら?」
「……」
「ふぅ……そのままずっっっとだんまりを決め込むつもり?」
「……」
(そりゃ、話したら一番身バレしそうな相手と相対してるからね。
いくら変声の魔道具を持っているからとはいえ、迂闊に話せば僕が「ウィルフレッド」である事に”最も気が付きそうな相手”と言葉を交わす訳にはいかないから!)
口には出さず内心そう思っていたら、沈黙を貫く僕の様子を見たエレンの機嫌が『明らかに悪くなっている』のが手に取るように分かった。
正直自分があえて取った行為と言えど、元婚約者兼幼馴染に対してそんな表情をさせてしまったのは内心心苦しい……
「何も話す気は”ない”と……だったら声に出さなくても答えられる質問をするわ!
この状況はお前の仕業かしら?」
僕はその問いに答えるように、クズ共の悪行の数々が記された書類を”シュッ”とエレンに向かって投げると、エレンは”バシ”書類を受け取る。
そしてそのままエレンはサッとその書類に目を通し始めるのだが、ページが進んで行くにつれて傍目から見てもエレンの顔に怒りが込み上げて来ている様子が分かった。
(良し、これでモーリス・タウンの騎士に関する問題は認識されたから、この町に対して聖騎士が介入出来る建前も得れたハズだ)
僕にとって今日の活動の一番の狙いはコレだった。
内政が腐りきっており、しかも腐った部分を蓋に覆って巧妙に隠すのであれば、誰かがその腐った物を巧妙に隠しているつもりの蓋を、あえて知られたくない者の前で堂々開けてやればいい。
こうする事でアーサニークの築き上げた行政と治安に関するバリケードを「崩すきっかけ」になると思ったから、僕はこの場にエレンを誘い出した。
本来の予定ではこのようにエレンと対峙するつもりはなかったんだけど、エレンのような実力者が相手となると、いくら僕が神遺物の力を使って強化した闇魔法で存在を隠しても簡単に察知されるは誤算だった。
さらに困った事に今のエレンは、僕が渡した書類を見て”ワナワナ”と形容したくなるほど、激しい怒りを顕にしている。
その姿は一見隙だらけに見えるのだけど、実際は周囲に対して激しい警戒心を向けると同時に、一挙一動をしっかり観察しているので、恐らくエレンは僕の事はこのまま見逃すつもりはなさそうだ。
しかし怒りに震えつつも、周囲に警戒心を与える何て事を平然と出来るという事が、エレンがパラディンの中でも上位クラスにしか授けられない【異名】を授かるだけの相当な実力者である事を暗に示している。
(初めてかもしれないな、裏の活動を始めてこんなに緊張するのって……)
七年ぶりに再会してから初めて生で感じるエレンの実力に、言葉で表せない何かを感じた為か、僕の握っていた拳が汗ばんでいた。
そして僕の渡した書類にサッと目を通し終えたエレンは
「お前達の事に関しては、後からじっくり話を聞くとして……髑髏の闇騎士!
『誰の助けも借りず人知れず、法で裁けない悪をも裁くこの街の住民の味方』
この街の人達がそう称えるだけの確かな実力があるのは良く分かったわ。
しかしそれと同時に、お前には多くの事件に関する容疑も掛かっている。
私としてはこの街の為に戦っている人間にそのような目を向けるのは心苦しいのだけど、私も上からの命令には逆らえないのよ。
だからハッキリとこの場言わせてもらうわ。
『貴様の身柄を拘束した後、私達と共に王国騎士団の元に出頭してもらう!』」
「……」
「だんまりを続けるのであれば『同行する意思が無い』と見なし、その身柄を強引に取り押さえる事になるけどいいのかしら?」
「……それはご勘弁願いたい」
ボソリとそう言った直後、僕は目くらましの闇魔法「闇霧」を高濃度で発生させ、あらかじめ考えたおいた逃走経路から、建物の外に飛び出そうとする。
「その程度の目くらましで逃げらると思って?」
「!?」
僕は驚かずにいられなかった!
なんせ建物から飛び出そうとした先には、エレンが待ち構えていたのだから。
「さぁ、御縄に付きなさい!」
そう言ってエレンは容赦なく僕に向かって剣を振り下ろして来たので、僕は手に持ったチェーンアクスでエレンの剣を受けると、闇夜にて剣と斧が激しくぶつかり合う音が”ガキーン”と激しく鳴り響く!
そして同時に、僕とエレンの戦いの幕が上がってしまった。
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。




