最初で最後の町
サナッタ・シティを構成する13地域の内マフィアの残党に支配されている地域は、残す所モーリス・タウンだけとなった。
それはつまり、漸くこの街が【以前のような平和で穏やかだった頃の姿】を取り戻す基盤を再び築ける所まで、後一歩の所まで辿り着いた証だ。
しかし問題はこの後一歩が”もっとも厄介かつ一筋縄では行かない”と分かっていたからこそ、モーリス・タウンをマファイ達から解放するための活動が最後になってしまった。
だから未だマフィア達の圧政に苦しめられているモーリス・タウン人達には、本当に申し訳ない事をしていると考えると、僕の犯した罪は更に深くなっているのだろう。
ハッキリ言ってこの現状は僕が領主としても、裏で悪を裁く存在としても、自分の能力が至らないからこの状況になってしまったのだ。
だから僕は、一刻も早くモーリス・タウンを牛耳り支配する存在である”アーサニーク”の手から解放しなくて行けないと強く思っている。
しかし、この男を最後に相手にせざる負えない状況になってしまったのも、この男がこの街に根付いたマフィアの中で、最も厄介な相手だからだ!
アーサニークは今まで相手にしてきたマフィア達と違って、非常に堅実かつ着実な手を使って自分の支配域における自分の地位と安全性を確保する。
要は相手の付け入る隙を与えない体制を維持しつつ、自分の地位だけはしっかり確保するのがアーサニークという男の特徴だ。
まずこの男、もしも自分の身に何かが起きた場合に備えて、直ぐに自分の代わりにモーリス・タウンの支配を任せられる後継者的存在を置いているのだ。
つまりそれは、例え現統治者であるアーサニークを今すぐ打倒出来たとしても、直ぐに後継人の誰かが自分の後を継ぐように仕組んでいるのと一緒で、相手をする側からすると実に厄介極まりない保険を掛けているような物なのだ。
その為、モーリスタウンをマフィア達の手から解放しようと思ったら、まずはこのアーサニークの後継者となる弟子達を先に排除しておく必要がある。
そして次の問題点として、アーサニークによって買収されている行政の人間や、治安を守る人間達に対する対応だ。
彼らもまたアーサニークの口車に乗りつつ、アーサニーク・ファミリーが渡す金の力によって、本来行うべき住民の為の業務を平然と疎かにしつつ、自身の身の安全と私腹を肥やす為にアーサニークの悪事に加担しているのだ!
つまりアーサニークを法の下で裁かせようにも、例え騎士の元に付き出した所で、この町の司法がアーサニークを裁く事はマズ無いだろう……と僕は考えている。
つまりモーリス・タウンの行政と司法は、実質”アーサニーク・ファミリーの一員になっている”と言っても、過言ではない状態なんだ。
そして最後の問題点として、モーリス・タウンの人間が他所の地域の人間を、ほとんど信頼していない事だ。
モーリス・タウンは、七年前のこの街とマフィアとの抗争において、最初にマフィア達に占領されてしまった地域なのだが、その際モーリス・タウンは武力を持つ地域から最も離れた地域であった事もあって、モーリス・タウンがアーサニークの支配下に置かれた後も、中々どの地域も救援に向かう事が出来なかった事実を利用し、アーサニークはモーリス・タウンの住民達に執拗に
「お前達は見捨てられた! その証拠に、何時まで経っても助けが来ないだろ?
所詮お前らの価値なんて、この街からするとその程度ものなんだよ!!」
アーサニークにいくらそう言われようとも、モーリス・タウンの人達も最初は『違う!』と、大いに反論を続けていた。
だけど実際アーサニークの言う通り、何時まで経っても他の地域から援軍が来る事はなかった。
そしていざモーリス・タウンに援軍が来た時は、既にアーサニークによってモーリス・タウンの支配は完了した後だった。
こうした後手に回ってしまった対応が、モーリス・タウンに住まう住民が他所の地域の住民に対して、大きな不信感を持つ原因となり、この一件からモーリス・タウンの人間は未だに領主である僕にさえ、あまり協力的な姿勢を示してくれなくなってしまった。
このように大きな問題点三つと、その他諸々の事情が混ざっている事もあって、モーリス・タウンの内情に関しては、同じ街の中だと言うのに中々新鮮かつ新しい情報が入手しにくい状況が続いている。
この問題には流石の聖騎士隊も大変困っているようだ。
なんせ地域住民と担当区域に住む在中騎士達の協力を得られなければ、調べたい事件に関する捜査も進まない。
だからと言ってこの現状を打破する為に捜査を強引に進めようとした際に、モーリス・タウンの住民を刺激してしまった所為で、町の住民達の猛反発を買ってしまい、聖騎士隊は町の中にさえ入れてもらえない事もあったようで、王都から派遣されたエリート集団である聖騎士達も、この状況にはお手上げだった。
っという話を、この前エレンが僕の店で半泣き状態になりながら愚痴っていた事を思い出すと同時に、その際にヤケを起こしたエレンが勢いで、僕にまでヤケ酒に付き合わされたの思い出したら……ハァ、何か頭が痛くなってきた……
こうして政務から治安、それに罪のない街の住民まで使って外部からの侵入を遮る強固なバリケードをモーリス・タウンに築いているから、アーサニークはマフィアの中で最も厄介な存在だと僕も感じていた。
だけどあの男が作った体制なんて、所詮は力と恐怖で住民達を強引従わせているだけに過ぎない。
それにこの世に完璧な物など無いのだから、この幾重にも張り巡らせられたバリケードを破る為の小さな綻びという物は必ず存在する。
そう、例えば僕のように【ルールも法も人の目も無視して、自由に悪を裁いて回っている存在】というのは、その綻びを広げる役割として最も適任だからね!
*
「おい、ヤツが……髑髏の闇騎士が、この場所にも現れたぞ!」
「何だって! おい、全員で応戦すっぞ!!
急いでヤツの元に向かうから今すぐ案内しやがれ!!!」
「そっ……それが、ヤツは既にうしろ……に」
「「「「え!?」」」」
・・・
・・
・
(ふぅ……今回も小規模とは言え無事にアーサニークファミリーの拠点制圧完了だ)
僕は自分の仕事が一段落付いたので、腕を”パンパン”と叩いた。
そして僕が力で制裁を加えた後、纏めて縛り上げてやった悪党共の前に、この拠点で行っていた悪行の証拠の数々を綺麗に並べて添えてやったんだけど、我ながらこの状況何ともおかしな状況だと思う。
なんせ悪者と悪者が犯した悪行の証拠が、セットで並んで置いてあるのだから!
傍から見ればこの状況って”罠と言うか悪ふざけにしか見えない”のかもしれないけど、この状態で悪党共を治安を担当する人間に引き渡すのが、最もスマートに悪党を法に則った罰を与えてやる事が出来るで、僕は以前からこの方法に近いやり方を使って悪党共に裁きの鉄槌を下してやっていた。
そして同時に僕がやっている事は、騎士達の本来の仕事とその仕事っぷりから騎士達が民衆から受けるべき尊敬の眼差しを、僕が奪ってしまっている。
その事もあってか、ここ最近騎士達の間では髑髏の闇騎士評判はすこぶる悪いようで、髑髏の闇騎士は騎士達に激しく強い警戒心を持たれるようなった。
自分の起こした事が原因でこうなる事は予想していたつもりだったけど、正直かつて憧れていた存在からそのような目を向けらると、未だに辛くてやるせない気持ちになる事もある。
そんな事を考えてしまった所為で僕は軽く「はぁ…」とため息を付くと
「モーリス騎士隊だ!
通報を受けてきたが、いった……い?」
アルフォンスに頼んで通報してもらっていたモーリス・タウン在中の騎士達が、漸くこの場にやってきたので、僕は一旦その場から消えるようにその身を隠す。
するとこの状況を見たこの町の騎士達は、慌てて縛って床に転がされているファミリーの人間達の元に駆け寄り、急いで悪党共の拘束を解こうとしている。
(やはり予想通りだったか……)
僕の嫌な予感はどうやら見事に的中してしまったようだ!
モーリス・タウン解放に向けて本格な裏の活動を始めて一カ月ほど経過したのだけど、僕は手始めに最近のセオリー通り悪党の前で堂々と暴れ、悪党の拠点を少しずつ潰して回っていた。
そんな僕の裏の活動を偶々見かけたモーリス・タウンの住民は、例えよそ者であっても【僕の裏の活動の姿】だけは、この街の住人達にも受け入れてくれたので、何時しかこの街の住人たちが裏の生活での僕の姿を【髑髏の闇騎士】として称えるようになっていた。
こうしていつの間にか僕の裏の姿の二つ名は、すっかりその名が定着してしまった事で、今となっては新聞でも普通にその通り名が使われる程だ。
こうして僕の存在はいつの間にかモーリス・タウンどころか、サナッタシティの住民にとって「闇に潜んで悪を討つ者」として完全に認知されてしまっていた。
と言っても、僕は自分の正体を可能な限り誰にも悟られたくないので、裏の活動中の僕は基本声を出しす事もなければ、誰かと関わる事を良しとしない。
もしもうっかり声を出してしまった場合に備えて、アルフォンスに声を変える変声の魔導具を作ってもらっているし、僕にいくら注目が集まった所で、現状表立って突破するのに困っているこの町の厳重なバリケードを大々的に突破するキッカケには全く繋がらないので大きな意味を為さない。
正直言って僕の裏の姿が、表の世界おいてもここまで大々的に売れてしまった事に関しては、僕も予想していなかった事だった。
少し話がそれてしまったけど、僕がこの街で二週間悪党の数を減らす活動を続けたというのに、その割には敵の勢力が全く衰えを見せないので、流石に僕もコレは「可笑しい」と思った。
だから僕は、モーリス・タウンの騎士が
「僕が懲らしめた悪党共を確保した後、どのように扱っているのか?」
その事実をこの目で確認する事にしてみたのだけど、結果は大方予想通り
【本来悪を裁く者が悪に加担するという、最悪の状況だった】
本来ならか弱き住民を守る義務を持った物が「その義務を果たさない」なんて、騎士の風上にも置けな事だ。
そんな騎士崩れの人間達を僕は激しく軽蔑する。
だけど、僕が下手にそんな感情を持ってしまえば、いくら憎しみを押さえる精神修行は毎日怠ってないとはいえ、また以前のように憎しみに囚われたしまった結果。
僕は正常な判断が出来なった事で無暗に人の命を奪うかもしれない!
それでは僕が一度大罪を犯してから二度とあのような大罪を犯さない為にも、自分を律する為にも続けているスタンスである
【どれだけ悪党が憎かろうが、最後に悪党を裁くのは司法に任せる】
さえ無意味にしてしまう。
そうならない為にも、僕は目の前いる騎士崩れ共に一時的な正義の鉄槌を下し、ほんの少しだが僕自身の中で未だに強く渦巻き続ける己の憎しみを抑える事にした。
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。




