裏切るけど、裏切らない人
(ここにウィルが……)
私はウィルの住むこの街の中区である地域”アーク・タウン”の外れにある小さな店の前に立っていた。
(本当にココで……合ってるのよね?)
私は何度もウィルから貰った地図の住所と現在地を確認するけど、間違いなく地図に書かれている住所とお店の名前「ライヴリー」この二つは一間違いなく一致している。
だけど久しぶり、いや、もしかしたら初めてのウィルとのディナー!
そして未だに好きだと思う人と二人きり!!
なおかつ子供の頃と違って、大人になってからの食事!!!
そんな風に考えてしまうと、その所為でもの凄く緊張してしまう。
だって今だに好きだと思う人と食事なんだもの。
(覚悟を決めるのよ! エレノア!!
そしてこのディナーが終わった後に例えどんな事が起ころうとも……後は全てをウィルに委ねたらいいのよ!!)
私はこのディナーが終わった後の事まで覚悟を決める!
そして意を決してお店の扉を開いた!
するとそこには!!
「…………………………えっと、ウィル?」
私は意を決して開けた扉の先に立っていたウィル。
しかしウィルのあまり予想外と言うか……意表を突くというか……とにかく予想とあまりに違い過ぎた格好を見て呆然としてしまったので、本当に目の前に居る人が私の好きな人と同一人物なのか?
尋ねずにはいられなかった。
「いらっしゃい。
待っていたよエレン!
さぁ、どうぞここに座って」
私は言われるがままにウィルに案内された席に座った後、しばらく頭が真っ白になっていた……
そのまま椅子に座った後も漸く脳内は真っ白になっていたけど、やっと脳が動き出したので、未だに頭の中に浮かぶ疑問をウィルに尋ねた。
「ねぇ……どうしてウィルがバーテンみたいな恰好してるの?」
「ああ、先に説明しときたかったんだけど、この事って実はまだ役所の人間にも教えてなかったから、あの場では説明しにくくてね。
実はこの店は僕が情報収集の為に経営してるバーで、僕がバーテンの恰好をしている理由は、僕がこの店のマスターだからだよ。
だからこの件に関しては、エレン以外の人には内証にしておいてほしいんだけど……いいかな?」
そう言ってウィンクを入れてお願いするウィルに、私は”キュン”と来てしまったからアッサリ頷いてしまう。
正直バーテンの恰好をしているウィルを見て「バーテンの格好してるウィルも……いい!」なんて思っている。
(……じゃなくてぇ、コレって一体どうゆう事なの??)
私は自分に対してツッコミを入れ、一端自分の頭の中を整理した後、自分の心を落ち着かせながらこの状況に対して再度ウィルに説明を求める事にした。
「ねぇ、ウィル…念の為聞いておきたいんだけどね……
今日ウィルが私をこのお店に呼んだ理由って?」
「それはもちろん、エレンと二人っきりで話がしたかったからだよ。
それにエレンがこの街に帰ってきてから、まだろくにお祝いもしなかったよね?
エレンが『この街に戻ってきたお祝いをしないと』って思っていたけど、僕が領主として大々的に祝う訳にもいかないし、プライベートで二人にどこかの店で祝おうものなら、僕とエレンの間によからぬ噂が入るかもしれない。
そうなったらエレンの騎士としての活動に支障をきたすかもしれないだろ?
だから今日エレンを『お客さん』として店に呼べば、バーのマスターとして祝う分なら”何の問題もない”って思って!
あっ、もちろん今日このお店は貸し切りって事にしてあるし、今日は僕のおごりだからエレンは何も気にせず好きなだけ飲んで行って!」
【ドン!!!!!!!!!!!!】
「!!! エっ、エレン? どうしたんだい!?
いきなりカウンターを叩いて!!」
「い、いえ……ちょっと虫がいたから……つい……ね」
私はウィルが自分が隠れて経営しているバーに呼ばれた理由を知り、込み上げてきた羞恥心と怒りを誤魔化す為に、思いっきり机に拳を叩きつけてしまった。
いや、ね? そりゃ確かにディナーの誘いだなんてウィルさんは一言も言ってないし、どんな理由で私を誘ったのか私も一切聞かなかったから……勝手に勘違いして浮かれてた私も悪いんだと思うよ?
でもね! まさか「重要なディナー」のお誘いかと思ったら、実態は只の帰還祝いかつ「軽い感じの飲み」のお誘いだって……
そうだと知っていたら私だってこんな気合入れつつ、頑張ってオシャレなんてしてませんからね!
それに色々先走って”あんな事や、”こんな事”まで考えちゃった自分がもう……とにかく今の私は猛烈に恥ずかして仕方がないし、何か悔して仕方がないのよ~!!!
そんな複雑な気持ちを抑えきれなかった私は、もうカウンターに八つ当たりするしかなかった訳ですよ!
きっと全国の…いや、世界の女性の皆様方なら私のこの気持ち! 大いに分かってくださいますよね!?
そんな私の様子を見たウィルが珍しくオロオロしている様子見せるけど、そんな珍しいウィルの姿を見ると、ちょっとスカっとしつつも何だかにこやかな気持ちになってしまう私も大概なんだろうな……
「……もしかしてエレン、もっと別の事を期待してた?
いや、今日すごく綺麗な格好をしてきてくれてるし僕から誘っておいてなんだけど、僕の誘いにエレンが即答してくれたのが嬉しかったからつい僕も浮かれちゃって、肝心な部分を何も話してなかったからもしかして……と思って」
【ドォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!】
「エっ……エレンさん?」
「何でもない、何でもないから!
そしてお願いだからしばらく私に話しかけないでぇ~!!」
どうやら私の元婚約者様は天然で私をイジリ倒してくる。
期待を裏切るような事をしておきながら、直ぐに期待させるような事を平然と言ってくるとか、コレって生殺しなの?
こうして私の心境はもの凄く荒れつつより複雑な心境に陥った。
そもそも、さっきみたいに好きな人から「言われて嬉しい事と、嬉しくない事」を複合させられた事を言われた時って、世の中の人達はどう対応し、どう受け止めているんだろう?
隣に私と同じく恋に悩む女性とか、経験豊富な女性が居たら是非アドバイスを頂きたい所だけど、あいにく今日は貸し切りの為この空間に居る女性は私一人……
(うう……コレって一体何の仕打ちよ~!
私の恥ずかしいトコしっかり言い当てときながら、今日の恰好べた褒めして来るとか……私は一体どう対応したらいいのよ~!)
まさか騎士としては百戦錬磨の私が、ここに来てまともな恋愛経験を一度もしていない事で、こんな事態で全く対応出来ないなんて恥ずかし過ぎる~!
私はその事が悔しいような、恥ずかしいような、嬉しいような、そんな複雑な何とも言えない気持ちを”目の前に居る大好きな人”に知られたくがない為に、しばらく顔をカウンターに伏せたまま色々考えてみたけど、こんな状態の私が思いつけた事なんて一つしかなかった。
「ウィル!
このお店で一番度数の高いお酒出して!!」
「え? いいけど……いきなりこんな強いの大丈夫?」
「いいの! 今は全てを忘れたいから!!」
未だに複雑でどうしたら良いか分からない心境を誤魔化す為にも、私はこの日の記憶をお酒の力を使って今この瞬間の記憶を、記憶の片隅にも残らないぐらい飛ばす事に決めた。
だから私は、ウィルにこのお店で一番度数の高い酒を持ってくるように強要する!
こうして始まった私とウィルの大人になってから初めての二人だけの飲み会。
ヤケクソ状態から始まった二人だけの飲み会だけど、やっぱりウィルと話してると凄く楽しかったし、久しぶりに色々忘れて楽しめる時間なんて、この七年間一度もなかったから本当に楽しかった。
そして相当お酒が強いと騎士団の仲間から言われた私が、朝になると何故か自室のベットで寝転がっているだけでなく、聖騎士隊の皆がその日を境に私がウィルと会っているのを見ると、やたらニヤニヤしながら私の方を見るようになった……
一体この日に何があったのか気になって仕方がなかったので、対の皆にこの日の事を問いただしても
「「俺達は」」
「「私達は」」
「「何も知りませんけど隊長相当楽しんできたみたいですよ?」」
「「だってあんな隊長の幸せそうな顔初めて見ましたから!」」
そうにこやかに答えるだけ。
私は逆にその所為で、この日ウィルの酒場で私が何を仕出かしたのか聞くのが怖くなってしまい、この一件の詳細を聞くのに一週間もかかってしまった。
まさか騎士としてこの街に来て最初の失態が恋愛絡みだなんて……
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。




