仕事と私事
「ウィル! これ見て!!」
エレンは朝からご立腹の様子で、僕の目の前で今朝の朝刊を広げる。
するとそこには
『アーバントン・タウンの統治者兼ザコニアム商団を運営するザコニアム氏の邸宅に、漆黒の髑髏の恰好をした騎士が襲撃!?
そして拘束されたザコニウム氏と共に見つかったのは、裏で商団が偽造品を多数流出させていた確かな証拠の数々!!
闇夜に悪事を明るみにした髑髏の騎士、彼はこの街の新たな英雄なのか!?』
昨夜何の遠慮もなく叩き潰してやったザコニウム商団の記事が、大体的に新聞の一面に取り上げられるのは分かっていたけど、コレだけ派手に取り上げられるのを見ると、もう僕は後には引けない道を進んでいるのを嫌でも実感する。
そして今日、程度はともかく”エレンがご立腹の様子で僕の前に現れるだろう”というのも予想はしていたから、僕はあらかじめ用意しておいた言葉を述べた。
「この件か……僕も夜中に突然報告を受けた時は驚いたし、この件に対する対処に今でも追われているから僕も色んな意味で困っているよ。
なんせこの街のありとあらゆる物流に関わっていた商団の実態が、偽造品を裁く悪徳集団だったんだからね。
お陰様で今日は朝から役所は何処も電話が鳴りっぱなしで、ほとぼりが冷めるまで役所で働くてくれている皆に、大いに苦労を掛ける事になりそうだよ……はぁぁぁ」
「そうだったの! ウィルも大変……じゃなくて!」
「えっ? 他に何か質問があるのかい?」
「そうじゃなくて、なんで『こ・ん・な・ヤ・ツが!』この街に居るのかって情報を、私に教えてくれなかったの?」
そう言ってエレンが新聞記事に大きく記載されている「漆黒の髑髏の騎士」の部分を、指で叩いて講義してきた。
前回僕が新聞をエレンの元に持って乗り込んだ時とは違って、今回はエレンが僕の対応に対して苛立ちを感じ、僕を責め立てようとしているようこの状況だけど、エレンの立場かるするとエレンの怒りは、最もだ思う。
なんせ治安維持を任されている騎士団が、成すべき仕事をどこの馬の骨とも知れない存在に奪われたとなれば、騎士団の沽券に大いに係わるってくるからだ。
そもそもこの一件、エレンの怒りが僕に向くように僕が仕向けているんだけど、これは僕の裏の活動を色んな意味で目立たせる為でもあり、そして僕とエレンの立場の違いをハッキリさせる為にも重要な事だ。
だからと言って本当は全て知ってる事を、何も知らないフリをして幼馴染を騙す行為は、正直心苦しい……
だけど、こればっかりはこっちの事情もあるから仕方がないと割り切り、僕は心を鬼にしてエレンに【領主としての立場と意見】を”ハッキリ”と言わせてもらう事にする。
「確かにこの記事に書かれている者と同一存在と思われる人間の情報は僕達行政側にも入っているし、その情報を僕がエレンに伝えなかった事は謝るよ。
だけどいくら情報を持っていると言っても、僕らがこの人物に関して持っている情報に関しては
『どの情報も正確性の欠ける不確かな噂話のような情報』
ばかりなんだ。
そもそも僕らの持ってる情報なんて端的に言えば
『その姿をハッキリ見てないけど、闇夜に悪党を懲らしめてる人間が居る』
その程度の情報かつその人物の特徴すら掴めていないんだよ。
この情報だけじゃ本当にこの漆黒の髑髏の騎士と噂の人物が同一人物とは断定出来るような情報ですらない。
果たしてそんな【不確定要素】が大いに詰まった噂話程度の情報をエレン達に渡した所で、その情報は騎士団の活動の役に立つと思うかい?」
「そ、それは……」
僕の言葉を聞いてエレンは狼狽えているので、僕は一気に畳みかける事にした。
「僕だって情報はエレン達騎士団に優先かつ素早く提供したいと思っているよ。
だけどエレンだって言っただろ?
エレン達が以前逮捕したイットリウムを追い詰められたのは、僕の提供した情報が『正確だったから』だって!
つまり正確かもわからに情報をエレン達与えるという事は、僕たちが意図せずして君たちの捜査を邪魔してしまう可能性がある、
その可能性がある以上、僕たちも騎士団に渡す情報は正確性を重視しつつ、渡す情報も慎重に選ばなくていけないんだ」
僕の言葉聞いたエレンは”シュン”とした表情を見せるので、そんなエレンの姿を見るのは正直僕としても心苦しい。
だけど僕だってこの街の治安維持に携わってる一人であり、エレンとは管轄も違えば立場も違うので、いくらエレンに積極的に協力したくても出来ない事情もあれば。公私を分別しないで僕に接そうとする気の強いエレンには、立場と私事を混同させると”ロクな目に遭わない事”を身を以て知ってもらうべきだと思っていた。
だからこの一件はエレンにとっても「自分の立場を考える」いい機会なるハズだ。
だから僕は心を鬼にして、僕は領主として様々な人達の責任と身の安全を背負って行動する以上、エレンの完全な味方にはなれない事をしっかりと伝えた。
「……ごめんなさい。
私の発言がお互いの立場を考えてない『私情が強く混じっていた発言だった』事を、この場で謝らせて」
「いいんだよ!
お互いの管轄が違えば、出せる答えも変わってくるのはしょうがないことさ。
それにこの街を『より良い街に』という思いは、僕ら行政も騎士団も変わらないだろ?
だから今回の件はエレンが前回そうしてくれたように、僕も水に流すよ」
「そう言ってくれてありがとう。 ウィル!」
「何、こうゆう時はお互い様だよ。
それより、どうしてこの漆黒の髑髏の騎士の情報が欲しいのか教えてもらえないかな?
その理由を僕たちも知っておけば騎士団にとって有益な情報をちゃんと選別した上で騎士団に渡せると思うけど?」
「……それは」
理由をエレンに尋ねると、周囲を気にしてあまり口を開きたくない様子を見せるのが、相変わらず言いにくい事や罰が悪い事があると、左手を右手で抑えるクセは今でも建材のようだ。
つまりこの情報を知る理由に関しては、エレンとしてはあまり人には聞かれたくない事情があるようだ。
「言いにくい事情があるみたいだね……
そういえば今日、仕事って何時に終わるの?」
「えっ? は、八時ぐらいには終わると思うけど……」
「そう、もし良ければエレンの仕事が終わった後、何時でも良いからこの店に来てよ。
準備して待ってるから!」
そう言って僕は、ある住所とある店の名前が入ったメモをエレンに渡す。
するとエレンは、ポカーンとした表情を浮かべたまま首を素早く”コクコク”と縦に二回振って、僕の誘いを受けてくれる意思を示してくれた。
・・・
・・
・
「「「お疲れ様でした、団長」」」
私は騎士団の仕事を終えると、猛ダッシュで騎士団用の宿舎戻り、大急ぎ身支度を整えはじめた。
しかしウィルの誘いを意識し過ぎてしまう所為で、上手く髪型も整えられない。
(ちょちょちょちょちょちょちょっっっっっっっと、まってぇぇぇぇぇ~
今からデートォォォォォ? ディナーデートなの?????)
正直言って、今日一日の業務の事はほとんど覚えてない。
とにかく今日の仕事が終わる様に動いていた事だけは覚えているけど
(今日はどうやって? どこまで? どう仕事を進めたのか?
なんて些細な事なんてどうでもいい!)
って思えるぐらい私の気持ちは高ぶっている!
こうも私の心が落ち着かない原因は、当然ウィルから”ディナーのお誘い”を受けたからなんだんけど、誘われた時は何が起きたかさっぱり理解出来なかった。
そして特に断る理由もなかったから、思わず誘いを受けちゃったけど
(どうしよう……控えめに言って………………嬉し過ぎるわ!!!!!!)
正直言ってあまりこの事は思い出したくないんだけど……私はこの街を離れてから多くの男に言い寄られた。
だけど、どれだけ世間から良い男だと評されている男であっても、自分から言い寄ってくる男なんてどいつもこいつも”口ばっかりの男”だった。
中には「ちょっと良いかな……」って思った人も居なかった訳じゃないんだけど、何と言うか相手の事を少し深く知ると伝わってきたのは、結局の所この街を出てから出会った人男で『私の夢を本気で応援してくれる人』と思える人は一人もいなかったんだよね……
つまり私は未だに恋人との経験0!
そんな私とウィルが7年ぶりに再会した時、大人びたし以前よりより逞しく成長したウィルを見たら、再び私はウィルに対して昔のように心がときめいてしまった……
そう! 結局の所私は未だにウィルの事が”大好きで大好き”で仕方がなかったのだ!!
だけど私達の婚約関係はとっくに解消済みだし、久しぶりに会話した時もさらっとウィルから「幼馴染」と言われた瞬間
(ああ……やっぱり私達の関係は終わったんだ)
と思ったけど「前より綺麗なった」とか平然と言ってくるから「もしかしたらワンチャンあるの?」
ってちょっと期待したらいきなりディナーのお誘いですよ?
コレってやっぱり、まだ私にチャンスがあると思っても……いいんだよね!?
「……しっかりしなさいエレノア!
聖騎士」たる者、勝負所で逃げ腰になっているようでは勝てる勝負にも勝てないわよ!!」
そう自分にそう言い聞かせ、流行る気持ちを何とか押さえつつやっと身支度を整え終えた私は、決戦の場に急いで向うのであった。
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。




