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贖罪と解放

 オーウェン家の屋敷で行われたサナッタ・シティの新領主を僕が務める報告会は、無事に終わり僕はこの街の新たな領主となった。

 こうして今まで目を背けていた問題に対して一つケリを付けた僕は、また一つ自分が犯した罪と向き合う為に、僕の屋敷から帰路につく有権者達の中で、どうしても話したい事があるあの人の元に向かった。


「……お久しぶりです。 ジェームス・バーキン子爵」

「ああ……お久しぶりですね。 ウィルフレッド・オーウェン伯爵

 この度はオーウェン家の新たな当主と、この街の新たな領主に就任おめでとうございます。

 大々的な功績示した直後にこの街の新たなリーダーとして名乗りを上げ、相手に反論する時間を与えなかった優れた手腕は、どうやらお父上譲りのようですね」

 僕が気まずそうに声を掛けた相手は、僕が一方的に婚約破棄を突き付けた事で、大いに傷付けてしまった元婚約者であるエレンの父親であるジェームスさんだった。


「いえ、僕が上手く事を運べたのは僕を、オーウェン家を今でも支えてくれる優秀な領民達がいたからこそです!」

「そう思って頂けたらなら光栄です。

 では、一つ人生かつ統治する者の先輩として助言させて頂きましょう。

 ウィルフレッド伯爵!

 いくら自分の地位がこの場で最も上だとしても、その地位は自分より地位が低い者がおり、尚且つその地位の低い者達が上の地位の者を支えるから、その立場は成り立つ物なのです。

 ですから常にその事を踏まえ『自分を信じて付いてきてくれる者を敬う気持ち』は、これからも決して忘れないようにして頂きたい!」

「は、はい! 肝に銘じておきます」

「それで?

 私に今になって声を掛けてくるという事は、もしかして私の()()()()に関する事で何かお伝えしたい事でも?」

 そう言って”ギロリ”とキツイ睨みを入れてくるジェームスさん。

 でもジェームスさんの立場なそんな態度も取りたくなるだろう……

 なんせ僕はジェームスさんにとって「世界で一番可愛くて愛してる一人娘」を傷つけただけでなく、ジェームスさん達の期待を裏切った人間だから……

 そんな人間に対して、ジェームスさんが厳しい表情を向けるのは当たり前だと思う。


「その……エレンは元気にしてますか?」

「……正直に言えば、あの子は今元気とは言い難い状態ですね。

 なんせあなたから”婚約破棄を言い渡されて”から、この二週間ずっと部屋に引き籠っていますので」

 ジェームスさんからエレンの現状を言い渡され、僕はエレンに対する激しい罪悪感を感じる。

 だけど僕が今更罪悪感に苛まされた所で、エレンを傷つけてしまった事実は変わらない。

 そして僕が罪悪感に苛まされたって何かが変わる訳じゃない!

 だから僕は、今持てる勇気を振り絞ってジェームスさんに今思っている事を素直に伝えた。


「エレンに……エレンに一方的に酷い事を言ってしまった事を謝らせてもらえませんか?」

「……娘に謝った後、何をどうするつもりで?

 もしや……そちらから一方的に突き付けてきた婚約破棄の件、今更取り消すなんて言うおつもりですかね?」

「いえ……婚約破棄の件は取り消すつもりはありません。

 今の僕ではエレンを今後支える事なんて出来ませんし、このままエレンが僕の両親の死の一件を引き摺り続けたら、きっとエレンは自分の夢を失ってしまいます!

 だから……エレンにちゃんと謝った後しっかエレンと話し合って、エレンを僕という枷から解放しなきゃいけないです!

 エレンの夢を叶える為にも」

 僕の正直な気持ちをジェームスさんに伝えると、ジェームスさんは複雑そうな表情を浮かべていた。

 きっとジェームスさんとしても、僕の言う事に”一理ある”とは思ってくれているんだろうけど、僕とエレンの婚約破棄が成立するという事は、何代も前の世代からの悲願であり遂に達成目前まで来ていた「オーウェン家とバーキン家が一つになる望み」が、また振り出しに戻ってしまう。

 他にも様々な事情が絡んでいる事を考えれば、ジェームスさんが複雑そうな表情を僕に見せてしまうのは、ジェームスさんが何も言わずしても伝わってくる。

 コレも小さい頃から婚約者と言う立場を抜きにしても、実の息子のように可愛がってもらっていたからなんだろうね。

 そう思うと、益々ジェームスさんには申し訳ない気持ちで一杯になってくる。

 だけどこの件に関しては、しっかりケリを付けない事には、僕よりもエレンの未来の可能性が閉ざされてしまうと僕は思っている。

 だから僕はしっかりとジェームスさんの目を見て、ジェームスさんの返事を黙って待った。


「……分かりました。

 娘と話す機会を設けましょう」

「あっ、ありがとうございます!」

「ただし今すぐと言う訳には行かないかな。

 なんせ君は、まだ新たなオーウェン家の当主とサナッタ・シティの新領主に、鮮烈な形で就任したとは言え自分の足元の基盤さえまだロクに作れていない状態だろ?」

「……お恥ずかしい話ですが、ジェームスさんの言う通りです」

「だったら今はまず自分が今すぐやるべき事を見極め、先に自分の足元を固めるのが先決じゃないのか?

 じゃないとせっかく鮮烈な形でデビューして好印象を残してるっていうのに、その好印象が台無しになるぞ?」

 娘としっかり話すのは、基盤をもっとしっかり整えてからでも遅くはないのではないのではないかな?」

 ジェームスさんに自分の現状に関してしっかり釘を刺されてしまい、せっかくこの街の新たな領主に就任したというのに、さっそく重役の一人に足元をすくわれる形になる。

 どうやら僕は、やっぱりまだまだ領主として大いに力不足である事を実感させられてしまった。


「ジェームスさんのおっしゃる通りですね……自分の感情が先走り過ぎて、大事な物が見えていませんでした」 

「若い頃なんてそんなもんさ! それに失敗する事は悪い事じゃない。

 大事なのは

 『失敗した後、次はどうしたら同じ失敗を繰り返さないか!』

 その事に真摯に取り組めるどうかの方が大事なんだ。

 だから、失敗する事を恐れてはいけない」

「……はい、肝に銘じておきます」

「そんな落ち込むな。

 これから成長していけば良いだけの事だ。

 さて、ここからは個人的な話になるし周りに誰も居ないからあえてこう呼ばせてもらおうかな。

 ウィル君!

 一人で何でも背負い込もうとするなよ。

 少なくとも私を含めたこの街に元々居た地域の統治者たちは、君の味方だ!

 いくらオーウェン家の当主となり、この街の領主になろうとも、君はまだ我々からしたら子供なんだから、決して自分一人で何でも抱え込もうとするなよ」

「はい……今までのように、これからもあなたの力頼りにさせて頂きます!

 ジェームス・バーキン子爵!」

「ああ、頼ってくれたまえ。 ウィルフレッド・オーウェン領主!」

 ジェームスさんはそう言った後、僕に握手を求めたきたので、僕もその握手に応えるように力強くジェームスさんの腕を握ると、ジェームスさんは真剣な表情のまま


「……正直に言うと、娘を嫁にやるのは君意外に考えたくないんだがね……」

「え?」

「いや……なんでもないよ。

 それより娘と話をする件に関してだけど、もう少し娘の様子が落ち着いたら、またこっちから連絡を入れるよう。

 だからウィル君はその間新領主としての仕事に励みなさい」

「はい、よろしくお願いします」

 そう約束した一カ月後、ジェームスさんから


「娘の様子が大分落ち着いてきた。

 この様子なら近いうちにしっかり話が出来る時が来るだろうから、可能な時は家に顔を出してもらいらい」

 という連絡を貰ったので、僕はエレンとじっくり話す機会を設けてもらうべくエレンの元に通った。

 そして何度もエレンの元に通い、ジェームスさんとエレンのお母さんからエレンの部屋の前まで行くことを許された日、僕とエレンの婚約破棄が正式に成立する。

 そう、お互いの目指す物を叶える為に。

最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。

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