咎人の決意
アルフォンスに付き添われつつ僕はびしょ濡れのまま我が家に帰ってきた。
アルフォンスに言われるがままに、とりあえず濡れた体を熱いシャワーで温めた後、そのまま自室に入り呆然としながらベッドに腰かけた後、あえて何も考えないようした。
だけど自室の静かな一人の空間というのが、逆に自分の犯した罪の意識を強く認識させる結果となり、自分の罪に対して様々な恐怖が押し寄せ来るから、僕の目からは再びとめどなく涙が溢れ出てくる。
「坊ちゃま、失礼します」
さっきの僕の様子から僕の事が心配で仕方なかったんだろう。
アルフォンスが声を掛けた後僕の部屋に入ってくる。
普段なら入室の許可を出さないと”絶対”僕の部屋に入ってこなかったアルフォンスが、主人の許可を得る事無く部屋に入ってきたけど、今の僕はそんな事より特に何も言わず黙って僕の傍に腰かけてくれて、僕が泣き止むまでずっと隣で付き添う姿勢を見せてくれた事の方が、一人だと自分の犯した罪の意識に耐えれそうになかったから、本当に助かった。
その後、一体どれだけの時間僕は泣いていたのかは分からないけど、その間隣に信頼出来る人が付いてくれた事や、自室という最も慣れ親しんだ空気と空間に身に置いている事が、ようやくマイナスからプラスに働いてきたこともあって、僕の心は徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「少しは落ち着かれました?」
「……うん、ありがとう、アルフォンス。
君が隣に居てくれたお陰でやっと自分の仕出かしてしまった事を、ほんの少しだけど受け入れる事が出来た気がするよ」
「そんな、お礼言われるなんてとんでもございません!
私の家系は代々オーウェン家に仕えてきた家系です。
ですから仕える主人がいかなる状況であろうとも、主人を隣でお守りし支えるのが私の役目です」
ニッコリと笑いながらそう答えるアルフォンスを見ていると、やはりアルフォンスも僕にとっては「大切な家族の一員」である事に改めて気付かされると同時に、僕がこの一夜のうち犯してしまった大罪をアルフォンスに伝えた時、唯一残った【家族】にどんな顔をするんだろうか……
その先を想像すると、親しき者に拒絶されてしまった場合のイメージばかりが湧いてくるし、実際にそうなった場合の恐怖は計り知れない。
そしてもしそうなったら、僕はもう二度と立ち上がれない気がした。
だから僕は再び黙りこんでしまう。 こうして再び沈黙の時間が始まった……
そう思った矢先
「お坊ちゃま、失礼を承知で伺います。
先程屋敷を飛び出された後、お坊ちゃまの身に何があったのか、教えては頂けないでしょうか?」
沈黙を破ったのはアルフォンスの一言だったけど、アルフォンスは僕が昔から自分にとって都合が悪い事が起きた時、僕がだんまりを決め込んで、ほとぼりが冷めるのを待とうする事を知っていた、
だから、きっとアルフォンスは自分から尋ねないと、僕は何も話さないと思ったのだろう。
「……アルフォンス、僕がもし『人として許されない最低の事をしてしまった』としたら、アルフォンスは僕の事……どう思う?」
「それはもちろん今後も変わらずお坊ちゃまに、オーウェン家に誠心誠意仕えさせて頂きます!」
「どうして? 僕は法を犯すような事を沢山してきたかもしれないんだよ?」
「それはもちろんお坊ちゃまが『理由も無く罪を犯す人間ではない』と、私は信じていますから」
「例えそうだとしてと….…罪を犯した人は結局『罪人』なんだよ?」
「そうですね。 罪を犯した者は確かに『法の上では罪人』です。
ですが罪人が法の上では”悪”であったとしても、法の上ではない私やこの街にとって”善”である事だってあります。
ですから私は、法の上で正しい事より『私やこの街にとって本当に正しい事をしている』と思った方に私は付くだけです」
「……そんな考えで僕に仕えてたら、いつか僕と一緒に地獄に落ちるかもしれないよ?」
「望むところですよ!
なんせ私は地獄の落ちようが、オーウェン家! いえ、お坊ちゃまに生涯お仕えするつもりですから」
そう言ったアルフォンスの表情はとても真剣であり、その言葉に嘘や偽りを一切感じる事は無かったから、心から「本気でそう思って言った言葉」だと思える何かを僕は感じ取った。
だから僕は、そんなアルフォンスに対して正直に自分の犯した罪を告白した上で
「アルフォンスは本当にそれでも僕に仕えてくれるのか?」
その判断はアルフォンスに任せようと思えた。
「アルフォンス、僕は……僕は大勢の人の命を……この手で不用意に奪ってしまったんだ……」
僕の罪の告白を聞いても、アルフォンスは何も言わず真剣な眼差しを僕に向け、只黙って僕の話を聞く姿勢を取り続けた。
きっとアルフォンスは、僕が罪の全てを吐き出すまで待っていてくれるんだろう。
だから僕は屋敷を出てから自分が何をしてしまったのか、その経緯を包み隠さずアルフォンスに話す事にした。
・・・
・・
・
「そうでしたか、そのような事が….…『人を殺めた事で大きな罪を犯してしまった』その事を身を以て実感してしまったお坊ちゃまの心境、さぞお辛かったでしょう……お坊ちゃまの心中お察しいたします」
アルフォンスは、僕がブローウニン一味事「ブローウニン・ドラッグファミリー」の人間を皆殺しにしてしまった経緯を聞いても、非難する事も推定する事もしなかった。
「ねぇ……アルフォンス? 僕は人を殺めるという大罪を、父さんと母さんを殺した奴等と何一つ変わらない罪を犯してしまった僕は、この先どうすればいいと思う?」
「その質問に答える前に、まずはおぼっちゃまがこの先『どうしたい』とお考えなのか、聞いてもよろしいですか?」
アルフォンスは再び真剣な眼差しで僕を見つめ、僕の答えを再び黙って待っている。
(果たして僕がこれから伝えようとしている事を、アルフォンスはどう受け止めるんだろう?)
その事を考えると、正直アルフォンスの答えを聞くのが怖くて仕方がない。
だけどアルフォンスは、顔付こそ真剣だけどその目はかつて父さんや母さんが僕に向けてくれた「大切な者を心配する目」を向けてくれている。
だからアルフォンスも、僕の事を本当の家族のように思ってくれているんだと思う。
だからこそ僕は
「アルフォンスには、家族と思える人には自分の気持ちを偽っていけない!」
そう本気で思ったからこそ、意を決して自分の考えを口にする事にした。
「僕は……自分の罪をいつか償わなくてはいけないんだと思う。
だけど、今はまだ罪人として裁かれたくない……いや、裁かれる訳にはいかない!
だって、遂にマフィア達に復讐出来る力を手入れたんだ! だったら僕はこの力を使って父さんと母さんを殺し、この街をめちゃくちゃにした奴等に対して復讐を成し遂げたい!
あれだけ人を大量に殺しておいて平然と生きようとするなのは、虫の良い話だと思う。
だけど僕は復讐できる力を手に入れたのい、その力を今後使わないで平然と生きれるほど出来た人間じゃないし、この先僕の中で渦巻く恨みを晴らさそうとしなかったら、きっと僕はこの先決してそんな自分自身を許せない!
だから……しかるべき罰を受ける時が来るまでは、僕は復讐に生きたい!
そして復讐が終わった後に、受けるべき罰をしっかりと受けるよ」
僕は正直に自分の想いをアルフォンスに伝えると、アルフォンスは僕の言葉を真剣に聞いた上で、再び僕に話しかけてくる。
「つまり、お坊ちゃまはまだ自分が『罪の報いを受ける時ではない』
そうお考えなのですね?」
「うん……それに、これは僕の自惚れなのかもしれないけど、今僕が自分の罪を償う為に自首したって、きっとそれじゃあ今は何の解決にもならないと思うんだ。
だって今この街の人達が求めているのは『罪人として罪を償う僕』じゃなくて『この街の頼れる領主としての働く僕』を、この街の人達は求めているんだよね?
だったら僕が今自首したって何の解決にもならないどころか、下手したら今以上にこの街を混乱に陥れてしまうような気がするんだ。
だから僕は皆が求めている頼れるこの街の、サナッタ・シティの新しい領主となり、僕の全てを賭してでもこの街を以前のような『誰もが安心して平和に暮らせる街』に、きっと戻してみせるよ!」
これは皮肉にもブローウニンの樹魔法が見せた幻覚で、僕が屋敷に引きこもって現実から目を背けた事を非難された事。
いや「街の皆の期待に応えようとしない自分勝手な僕を、街の皆から非難される」幻覚を見せられた事で、嫌でも気付かされたことだった。
「そうお考えですか……では、失礼を承知で伺います。
今お坊ちゃまが先ほど口した事を実際に成そうとすれば、真実を知った者からお坊ちゃまは大いに非難されることになるだけでなく、おぼっちゃまは世間が正しいと認めないし世間的に間違っている言われる事に、手を染める必要があるかもしれませんよ?
そんなほか誰にも真相を理解されない苦難が続く酷く険しい茨の道を! 本気で突き進むだけのお覚悟がお坊ちゃまにはありますか!?」
「そうだね……アルフォンスの言う通り、僕がきっと今から進もうと考えてる道は酷く険しい茨の道で、終着点が地獄なのかもしれない……だけど僕は、例えそうだとしてもその茨の道を進むよ!」
「……本気なのですね?」
「正直に言うと、僕がこれからやろうとしている事ってもの凄く自分勝手の都合でやる事で、矛盾だらけの事を言ってるんだと思うから、きっと正しい事ではないんだろうね。
だけど僕はどんな手を使ってでも、両親やこの前の抗争で犠牲になった人達の復讐を果たしたいと思ってるし、この街を以前のように誰もが住みやすい平和な街へと復興させたいと思ってる!
その想いだけは本物なんだ!!
だから僕がこれからやる事の先に待っているのが、例え地獄の業火にこの身を焼かれる事だとしても、僕はマフィア達に復讐を成し遂げるのと同時に、この街の復興もやり遂げてみせるよ!
(それにきっと……こうする事がこのサナッタ・シティと僕とエレンを守って死んだ父さんと母さんの意思継ぐ事に繋がるし、そうしないと僕が数多くの命を奪ってまで生きている意味なんてないと思うから…)
「分かりました。 あなた様の覚悟、確かにこのアルフォンスしかと受け止めました!
そして、あなた様がそこまでの覚悟を持って事に挑むのでしたら、私もその地獄への一本道ご一緒させて頂きますよ。
『ウィルフレッド様!』」
「アルフォンス!……ありがとう」
「お礼は結構ですよ。
先ほども言わせて頂きましたが、例え主が罪人であろうとそれが私にとって『正しい道』だと思える限り、私は主と定めた方に仕え続けます」
こうして僕はこの日を境に、表では「オーウェン家の真の当主兼、サナッタ・シティの領主」として生き、裏では「闇に紛れて悪を暴く闇の存在」として生きる事になる。
最後までこの話を読んで頂きありがとうございます。




