殺戮者
突如ブローウニンの屋敷に現れた王国騎士隊。
(何故彼らがこの場に現れたんだ?)
王国騎士隊はエレンの両親が出した救援要請を受けて現在この街に留まっているけど、この街も表面上は落ち着きを取り戻したのでそろそろこの街を経つと聞いていた。
ブローウニンの屋敷に突如姿を現した王国騎士隊の事を不思議に感じてはいたけど、あまりに予想外すぎる状況となってしまった事で、先程まで僕の中で激しく渦巻いていた憎しみの感情が一気に静まるのを感じる。
そのお陰で先程より冷静になった僕は、ホールに続々と入ってくる王国騎士達がまだ僕の存在に気が付いてない事を察知したので、一端その身を柱の陰に隠すと同時に、僕が裁きを下した者達の元に急いで駆け寄っていく王国騎士達の様子を呆然と只眺めていた。
そして王国騎士達は、僕が裁きの鉄槌を下した相手に向かって必死に悪党共に声を掛け、悪党共の安否を確認している。 その光景を見た時
(どうして騎士達は悪党共の安否何か必死になって確認しているのんだ?)
この時の僕は王国騎士達が悪党の安否を必死に確認するその意味が、さっぱり分かっていなかった。
「……どうだ? 何があったか聞けそうな生存者はいそうか?」
「……中の人間も全員駄目そうです、隊長。
外の人間もそうでしたけど、全員『同じようなとてもつなく強い衝撃』を受けて即死した痕跡が見られますので、この事件は恐らく同一犯による【殺戮行為】だと思われます」
「全く、たまたまこの町で飯食ってる最中に『この屋敷で騒ぎが起きている』と住民から通報を受け、何事かと思って来てみれば”飯食った後に見たいとなんてとても思わない悲惨な状況”を、見せられる羽目になるなんてな……」
「やっとサナッタ・シティの騒動も落ち着きを見せてきたので、王都から来た私達のお役も御免となり王都に戻れる目途が立ったと思った矢先、こんな事件に遭遇するなんて我々もツイてないですね」
現場を検証する王国騎士たちの話を聞いていると、僕にとっては聞き捨てならない言葉が耳に入った。
(殺戮……行為?)
この時の僕は最初その言葉を耳にした時、その意味がサッパリ理解出来なかった。
なぜならこの時の僕は
『悪党共に正義による裁きの鉄槌を下していただけなのだから、僕が悪党共にやっていた事は”殺戮”ではなくて”裁き”のハズなのに、どうして”殺戮行為”呼ばわりされなくてはいけないんだろう?』
この時の僕は本気でそう思っていたからか、僕は先程自分が裁きを下し何時までも床に寝転がって起きようとしないブローウニンに対して、強い苛立ちを感じたので「強引に起こしてやろう」と思いその体を軽く蹴飛ばしてやる!
うつ伏せで倒れていたブローウニンを僕が軽く蹴飛ばすと、思った以上に力が入っていたようでブローウニンの体は反転して仰向けになった。
そしてブローウニンの体が反転した瞬間、僕はおぞましいと感じる物を目にしてしまった……
それは、顔面がもはや原型が分からない程悲惨に潰され【もう動く事がない死体】という物言わぬ骸となったブローウニンの姿だった!
そしてその瞬間こそ、僕が先程まで「裁きを下した相手」としてしか認識していなかった物が、実は「自分の手で殺してしまった相手」だと明確に認識した瞬間だった。
そしてその事をハッキリと意識した瞬間、僕の中で【人をこの手で殺めてしまった】という罪悪感と、罪の意識が芽生えてしまう!
(違う!
僕は裁きの鉄槌を下しただけだ!!
僕は誰も【人を殺して】なんていないんだ!!!)
僕は自分に必死にそう言い聞かせ自分の仕出かした事から! 目の前にあるかつてブローウニンだった物から目を背けようとした!
【僕は一切悪くない】
誰かにそう言ってもらいたいから、僕は目の前にいる王国騎士達に向かって一歩踏み出そうとしたけど、それ以上僕の足が王国騎士達の居る方に進むことはなかった。
それは、王国騎士達の方に目をやって僕の目に嫌でも最初に入ってきたのは【僕が殺した者達の無数の亡骸】だったから……
「!! おい、誰かそこに居るのか?」
僕が一歩踏み出そうとした際に物音をを立ててしまったようで、この場に居る王国騎士の一人が僕の居る方に向かって照明用の魔道具を向けてくる。
僕は今の醜い自分の姿を見られたくなかったので、慌ててホールの柱の裏に再び隠れた。
「……どうやら一人だけ生きている者がいるようだな。
おい、そこの柱の後ろに隠れているお前!
お前を今からこの場で起きた『プリンストン・タウン統治者邸で起きた大量殺戮事件』の『重要参考人』として、我々と同行してもらう。
こっちとしても手荒なマネはしたいと思っていない! だから大人しく姿を現してもらえるだろうか?」
王国騎士達の隊長と思われる人物が、柱の裏に隠れた僕に足して姿を現すように声を掛けてき。
だけどこの時の僕は
「違う……僕は……僕は殺戮者なんかじゃ……」
そう言って自分の犯した罪を認めたくない状態で、半ば錯乱状態に陥っていた。
*
「……隊長、相手は何かブツブツと独り言を呟いているようです。
精神的に相当危険な状態である可能性も……」
「ああ、分かっている」
王国騎士達は、柱の陰に隠れているこの悲惨な状況を作り出したと思わしき人物に対して、大いに警戒の姿勢を見せていた。
「いいか皆! 今からあの柱に隠れている者を包囲するが、何を仕掛けてくるか分からない以上決して気を抜くなよ?」
「「「了解」」」」
隊長からの命令に従って王国騎士達は最新の注意を払いつつ、柱の裏に隠れた者が何時、何を仕掛けてきても対処できるように、武器をスグに構える事が出来る状態を維持しつつ柱を包囲しようと動き始めるが、騎士達の表情には緊張が走っている。
「良いか、俺の合図と共に一斉に柱の裏の回り込み、ヤツの身柄を押さえる!
……行くぞ!」
隊長の合図と共に、王国騎士達は一瞬で柱の裏に回り込んだ!
「……いない……だと?」
柱の裏に回り込んだ王国騎士達は唖然とするしかなかった。
なんせ確かに「ついさっきまでそこに居たハズの人間」が、一瞬にしてその場から忽然と姿を消していたのだから……
*
「……違う…違うんだ!!!
僕は、僕は只正義の裁きを……鉄槌を悪党に下しただけで……うぅぅぅぅぅぅ」
僕は王国騎士達から、自分にとって今でも「憧れを捨てきれない存在」から【殺人者】と認定される事が恐ろしくて堪らなかったから、王国騎士達の元から逃げるようにブローウニンの屋敷から逃げ去っていた。
幸い僕の姿は王国騎士達にハッキリと認識されていないから、僕があの状況を作り上げた犯人だと王国騎士達が気が付く事はないと思いたい。
だからといって僕は自分の仕出かした事の、事の重大さが無くなる訳ではないし、事の重大さをしっかりと認識してしまった僕に押し寄せて来るのは、様々な恐怖と罪の意識だけだった。
そして必死に自分の屋敷目がけて逃げるように戻ってきたが、自分にとって今最も安息できる場所を目にしても我が家に戻るの足取りはひたすら重い。
そしていつの間にか僕の体を纏っていた神遺物は消えていて、聖遺物を纏っていたから今まで気が付かなったけど、外は大粒の雨が降り注いでいて、僕の体は一瞬でずぶ濡れとなったが今はそんな事どうでも良かった。
そして僕が屋敷の入り口付近に辿り着くと、そこにはアルフォンスが大雨の中一人入り口の前で傘をさして立っている姿が目に入った。
どううやらアルフォンスは僕の帰りをずっと外で待っていてくれていたみたいで、僕の姿に気が付くいたアルフォンスは急いで僕の元に駆け寄ってきた。
「お坊ちゃま、無事に戻ってこられたのですね! お坊ちゃまが窓から飛び出していった際は
『もしかしてお坊ちゃまが、二度とこの屋敷に戻ってこないのでは?』
なんて思い至ってしまいましたが、杞憂で終わって本当に良かったです」
そう言って僕の事を本当に心配そうにしつつ、僕が無事に戻ってきた事を心底喜んでくれるアルフォンスの姿は、不安定な心境の僕にとってどれほど救いとなった事か。
そんな優しくて暖かい言葉を掛けてくれるアルフォンスに、僕はしがみ付くと
「うぅぅぅぅ……アルフォンス……僕は、僕は取り返しの付かない事をしてしまったのかもしれないんだ……」
僕は大粒の涙を流しながら自分が人として最低の事を仕出かしてしまった事を、懺悔するようにアルフォンスに伝えようとした。
だけど、自分のやってしまった罪の重さを口に出してしまえば、僕は自分が殺人を犯した咎人だと認めているような物なので、その現実をまだ受け入れきれいない僕は、肝心の伝えたい事が思うように言葉にして出せない。
そんな僕を見てもアルフォンスは
「お坊ちゃま……心身共に大変お疲れのようですね。 まずはお屋敷に、あなたの帰るべき場所に戻りましょう」
そう言ってアルフォンスは僕を優しく屋敷に迎え入れてくれた。
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