憎悪する闇
シェイドから授かった【神遺物】事『憎悪する闇』を装着した途端、僕の心の奥深くから沸き立つのは、怨嗟の籠った言葉
(僕の左手を壊しただけでなく、父さんと母さんの命を奪った奴等に鉄槌を! 裁きを下せ!!)
その言葉に従って、僕は僕を今の状況に陥れた者達の元に向かうべく、窓を突き破って屋敷の外に飛び出した。
後方から必死にアルフォンスが、何かを訴えかけるように叫んでいたけど、神遺物を纏った僕の走るスピードは、常人を遥かに超える速さだった為、アルフォンスの叫びは一瞬で僕の耳から消えていった。
そして目の前に高く聳え立つのは、屋敷を囲む塀。 常人なら、決して飛び越える事が出来ないような高さの塀を目の当たりしたって、今の僕には簡単に飛び越えれる物だとしか思わない。
その証拠に、現に僕はあの高い塀を悠々と飛び越えていて、あれだけの高さから着地したというのに、一切痛みを感じないどころか、着地音すらしない。
さっき屋敷を駆け抜けていた時も感じていたけど、神遺物であるこの鎧を身に着けている間、移動の際に生じる音は、この鎧が全て消してくれる。
そして最も驚いているのは、ついさっきまでロクに動かせなかった「利き腕である左手」が、以前のように、何の違和感も感じる事無く動かせている。
(これがシェイドの言ってた力の片鱗……)
鎧を纏っただけで、僕の身体能力をコレだけ強化してしまうなんて、流石『神遺物』と呼ばれるだけの事はあると、素直に感じた。
そして屋敷の外に出てみると、既に日は完全に沈んでいて、これから闇夜が始まろうとしている。
その光景を見て僕は「この漆黒の鎧は暗くなればなるほど闇に紛れ込めるし、この鎧が移動音を消してくれるなら”闇夜”という条件こそ、この鎧の特性を最も活かしつつ、ターゲットに近付く事が出来る好条件だ」という事に気が付く。
(ああ……これはきっと僕が復讐を果たす為に、全てシェイドが僕の為に、好条件を整えてくれたんだ)
この時の僕は、そう思わずにいられない程、神遺物を授けてくれたシェイドと、神遺物であるダークネス・オブ・ヘイトレドの力に酔いしれていた。
僕はそのまま闇夜に紛れ、音もなく人気のない場所を駆け抜け、今僕の住む地域”アーク・タウン”から最も近い地域”プリンストン・タウン”に居る悪党の元に向かった。
その悪党こそ、プリンストン・タウンを以前管理していた有権者を殺してから奪い取った男”ブローウニン”
この男は、プリンストン・タウンを支配下に置いてから、よからぬ薬を配り回ってその勢力を拡大させているからか、最近は「ブローウニン・ドラッグファミリー」なんて名乗り始めているという話を耳にした事がある。
『この街を堕落させようとするゴミめ……まずはお前達に裁きの鉄蹄を!』
ブローウニンが居城としている屋敷を、近くの建物の屋根から見下ろしている僕は、己の決意を口にした後、ブローウニンの屋敷の前に降り立つ。
「!!! なんだお前? どっから現れた!?」
突然音もなく目の前に現れた僕に、驚きの様子を隠せないのは、ブローウニンの屋敷の前に立つ門番の男二人。
門番を務めているだけあって、その体つきは相当ガタイが良い格好をしていているから、きっと普通の人間なら、まず近寄ろうとしないだろうね。 そう思えるだけの風貌を醸し出しているから、普段の僕なら好んで近付こうとも思うんだろうけど、この時の僕は、沸き立つ憎悪に駆られてしまっているせいで
「目の前の存在が、憎き存在であるのか? そして憎き存在であるなら、どうやったら最も凶悪な罰を下せるか?」
その事だけを考えていたし、そのような見方でしか相手を見る事が出来なかった。
「突然現れた! ってだけでも不気味なのによぉ~、更に髑髏の被りモン被って面を隠してるってなるとよぉ~ 如何にも怪しいって言ってるような野郎だなぁ~? オイ!」
「……お前そんな怪しい格好しといて、ブローウニン様に用があるとか、ま・さ・か言わないよな?」
門番の問いに対して、僕は無言でコクリと頷くと、二人居る門番のうちの一人が、僕に向かって近づき、片手で兜を掴む。
「オイオイ、いくら何でもよぉ~ 会う要件も言わないし、そんな悪趣味な面で面隠してる怪しいヤツをよぉ~、只でブローウニン様に会わす訳にはいかねぇなぁ~!
どうしてもブローウニン様に会いたいっていうならよぉ、まずはその隠してる面……拝ませやがれぇ~!」
そう言って門番の一人が、強引に僕の兜を脱がせようとするが、僕は微動だにもしない。
その様子を見て、もう一人の門番は格好が付かない相手を見て、愉快に笑っている。
「おいおい、そんな貧相なヤツの兜も剥ぎ取れないなんて、なっさけねぇな!
こうゆうのわよ、こうすんのが手っ取り早いんだって!!」
そう言った直後、もう一人の門番が、手に持った警棒のような鈍器で、僕の頭を思いっきり殴りつけ
”ガキーン!”
という音が闇夜に鳴り響く。
「……嘘だろ?」
僕の頭を鈍器で殴りつけてきた門番は、僕が鈍器で思いっきり殴られても、その場からよろめく事もなく、立ち続けている様子を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
そして僕は、この鎧が簡単に剥ぎ取れるような物ではないという事と、思いっきり警棒に殴られた程度じゃ、鎧も僕もビクともしない防御力を与えてくれる物だというのは理解した。
「お前達に尋ねる!
お前達は、この街とマフィアの抗争に参加したのか?」
「はぁ、何言ってんだ?」
「もう一度訪ねる!
お前達は、オーウェン家の屋敷を襲撃するのに参加したのか?」
僕の質問に対して、二人の門番は「言ってる意味が分からない?」とでも言いたげな表情を浮かべ
「あのなぁ、そんなの参加したに決まってるだろ?」
「あぁ~、戦場から最も近い場所に居た俺達がぁ~、参加しない訳ないだろうがよぉ~!
そんな当たり前の事聞いてぇ~、どうすんだぁ~?」
「……そうか、だったら」
僕はその言葉を聞いて、僕の目の前に居るこいつ等に、僕が何をすべきかが決まった。
「容赦なくお前達に裁きの鉄槌を下せるよ!」
そう言った後僕は、目の前にいる門番の一人に向かって、全力である利き腕で門番の一人を殴りつける!
すると、門番の男の骨が砕ける鈍い感触が僕の左手から脳に伝わった後、門番の男は派手に吹き飛んで地面を転がった後、ピクリとも動かなくなった。
「……てっ、てめぇー!」
もう一人の門番が僕に襲い掛かってくるが、今の僕にはその動きがとても遅く見えたので、自分から僕の射程内に入ってきた愚か者に、鉄槌の拳を【こいつ等の所為で】ロクに動かせなくなった左腕で下してやると、この門番も面白いように吹き飛び、その吹き飛んだ門番の体が、閉ざされていた門をこじ開ける。
止まらない復讐心に駆られた所為か、加減が聞かなくて門前で派手にやってしまったけど、誰かが屋敷から出て来る様子がないという事は、この場所ではこのような事は日常茶飯事なのかもしれない。
もっともこの様子だと自分たちが、これから暴力を振るうのではなく、振るわれる側になるとは、微塵も思ってもないんだろうけど。
勝手に慢心してくれて、警戒が疎かになっているなら、僕はその状況を最大限に利用する為、ある場所を目指す。
道中何人かのブローウニンの部下に出会ったけけど、特に何の苦労もなく拳一発で黙らせ、この屋敷のライフラインの源である魔力室に辿り付く。
「さぁ、悪党共!
今から僕が、お前らを一人残らず裁いてやるよ!!」
そして僕は屋敷の魔力室に設置された魔道具、魔力炉を力任せに破壊すると、屋敷の内部を照らす明かりは全て消え去った。
こうしてこの屋敷は、暗闇の世界へと変貌すると同時に、僕が悪党を裁く為の断罪の場となった。
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。




