闇の襲撃
「ブローウニン様! 襲撃者は今ホールで暴れ回ってます!」
側近から報告を受けたブローウニンは、勇み足で襲撃者が暴れている屋敷のホールへと向かっていた。
未だに照明が復旧していない為、ブローウニンは屋敷の窓から差し込む薄暗い明りを頼りに、ホールへと繋がる扉を目指して進む。
そして薄暗い明りの中で、ホールへと続く扉がブローウニンの目に入ると、ブローウニンは歩く速度をより早め、先行していた側近に追いつくと、側近を激しく手で払い除ける。
そして扉に手を掛けると、ブローウニンは豪快に扉を開けた!
「誰じゃあーい!
この『ファントム・グリナリー』とまで呼ばれたブローウニンに、喧嘩を売る……」
ブローウニンは、襲撃者に向かって怒声を響かせながら、勢いよく名乗りを上げようとするが、目の前に飛び込んできた光景を、自身の部下達が血まみれかつ、物言わぬ骸となってホールの床に転がっている光景を目の当たりにした瞬間、ブローウニンの怒気の籠った言葉は、尻すぼんでいった。
「なっ……わしの……わしの兵隊が全滅じゃ……と?」
『目の前に広がる光景が信じられない』と言わんばかりの表情を浮かべながら、驚きの声を上げるブローウニンだが、そんな状況であっても、目の前に”例の襲撃者”の姿が見当たらない以上、ブローウニンは警戒を緩める事無く、周囲に気を張り巡らせれ、襲撃者の気配を察知しようとするが、ブローウニンが感じる生きている者の気配は、自分の後ろに居る側近だけ。
「どこじゃ!? 姿を現せい! このブローウニン様を前にして怖気づいたか? この臆病者め!」
ブローウニンは自分の配下であり、目的を達成する為の駒を潰された事に対する怒りを込め、姿を見せない襲撃者に対して、威勢の良い言葉を向けるが、相変わらずホールは静まり返ったままで、本当にこの悲惨な惨劇を作り上げた者が、このホールに潜んでいるのかが、疑わしいレベルの静粛さを保ち続けている。
【グシャリ!!】
突如ブローウニンの後方から【肉のような物】が潰されたような、生温かさを感じるような鈍い音が鳴 り響いた!
その音に気が付いたブローウニンは、瞬時に後方を振り向く!
するとそこには、闇の中だというのに不気味に黒光りしている者が、ブローウニンの側近の頭を地面に思い切り叩きつけており、地面に激しく頭を叩きつけれた側近の頭からは、床に水溜が出来る程の夥しい量の血が溢れ出し、ブローウニンの側近は息絶えている光景が、ブローウニンの目に飛び込んできた。
「……貴様か! わしの兵隊を全て殺ったのわぁー!!」
ブローウニンがそう叫ぶと、ブローウニンの側近の頭を地面に叩きつけていた者が、側近の頭を手を放し、ゆっくりとブローウニンの方を向くと、暗闇の中でもブローウニンの目にもハッキリと映る。
ブローウニンの目に映ったその者の姿は、闇夜でも黒光りする漆黒の甲冑で身を包んでいるだけでも、十分不気味さを感じると言うのに、髑髏の意匠を凝らした兜が、よりその者の不気味さを引き立てたいたため、世間から”悪党”と謳われているブローウニンでさえ
(不気味かつ悪趣味な奴じゃのう!)
と思わせるほど。
そして、漆黒の甲冑を纏った者は、ブローウニンに向かって、しっかりと体を向けた後「次はお前だ!」と言わんばかりの勢いで、ブローウニンに肉薄しようと、駈け出した。
「甘いわぁー!!!!!」
だがブローウニンも、そう来るだろうと読んでいたかのように、ブローウニンが叫んだ瞬間、地面から無数の木の根が生まれる。
ブローウニンの得意とする「樹魔法」によって生み出された無数の木の根は、まるで意思を持っているかのように、漆黒の甲冑を纏った者に一斉に襲い掛かると、一瞬で漆黒の甲冑を纏った者を、雁字搦めにして、その動きを完全に封じ込めた。
「困るんじゃがのー? せっかく集めた兵隊を、こうも簡単に皆殺られてしまうと!
さーて、この状況に対する落とし前……どう付けてくれるんじゃ!?」
そう言いながら、鋭く冷たい眼光を漆黒の甲冑を元った者に向けた後、ブローウニンは、樹魔法で捕らえた漆黒の甲冑を纏った者の周囲に、毒々しい濃い紫色をした花を、次々と咲かせ始めた。
「さーて、お前の周りに咲いた花が、一体何か分かるか?
その花はのう、ワシが得意とする樹魔法で、独自に作り上げた花でなぁ。 ちょっと特別なんじゃ!
どうじゃ? ワシが作った花の花粉を吸ったら、徐々に目の焦点が、合わなくなってきたんじゃないのかのう?」
ブローウニンは、怒りを込めつつ、捕らえた漆黒の甲冑を纏った者に対して問いかけるが、漆黒の甲冑を纏った者は、ブローウニンの生み出した、毒々しい色をした花から出る花粉を吸ってから、苦しむように頭を振り出し、ブローウニンの言った事など耳にも入っていない様子を見せるが、その姿を見たブローウニンは「ニヤリ」と不気味に笑う。
「ヒヒヒヒ、どうやら始まったみたいだのう!
恐らくもう聴こえていないじゃろうが、わしがどうして『幻緑』と呼ばれるようになったか教えてやろう。
わしの作った花の花粉を大量に吸うと、吸った者は過去に経験した中で、もっとも強烈なトラウマを、より強烈な形にした幻覚を見せてくれるんじゃ!
そして、幻覚見るようになってから、しばらくこの花粉を吸い続ければ、やがて花粉はお前の体を蝕む毒となり、このまま花粉を吸い続ければ、いつかお前の心の臓を止めて、最終的死に至らしめる。
こうやって幻覚を見せながら人を殺していたら、いつしか『幻緑』と呼ばれるようになってのう! ヒッヒッヒッヒ」
ブローウニンは、黒い甲冑を纏った者に、死の運命を宣告すると同時に、自分が苦労して集めた兵隊を皆殺しにしてくれた相手を、どうやって「より苦しめながら殺すか」考えた結果。
幻覚作用で大いにに苦しめた後、致死量まで麻薬を吸わせて殺すより、現在黒い甲冑を纏った者を捕らえている無数の木の根に「より強い力を加えて、徐々に絞め上げ殺す」イメージを思い浮かべた。
こうして漆黒の鎧を纏った者を縛る木の根は、より強い力で捉えた者を締め付け始めた!
しかし、どれだけ黒い甲冑を纏った者の対して、どれだけ強く締め付けるイメージを頭に浮かべても、黒い甲冑にダメージを与えている様子が見られない。
(波の鎧なら、とっくに鎧がボコボコになるレベルで締め付けているんじゃぞ?
それなのに未だ鎧は無傷じゃと……? この鎧の防御力……見た目通りの化け物クラスじゃのう)
自分が作った麻薬で幻覚を見せ、恐怖を煽るだけ煽った後に、息の根を止めるつもりだったブローウニン。
だが、己が作り出した木の根の力は、本気を出せば分厚い鉄板程度なら簡単にひしゃげさせてしまう力を持つと言うのに、今対峙している漆黒の鎧はいくら絞め上げようとも、ロクなダメージを与えられていない。
その事にブローウニンが、少し焦りを感じ始めていると
「ハハハハ……アハハハハハハハハハハハ!」
締め付けようが、幻覚を見せようが、一切言葉を発する事をしなかった人物が、突如、大声を出して笑い始める。
「ヒヒヒヒ……どうやらワシの薬が見せる幻覚で、完全に気が触れたようじゃな!」
ブローウニンは、予定していたやり方とは違ったが、対峙している相手を確実に死に追いやる方向に事を進めている事を知ると、安心した様子を見せる。
そして、相手を締め付ける事より、より多くの麻薬を生成して、時間は多少かかろうとも確実に死に追いやれる方法。 要は麻薬の致死にて、漆黒の鎧を纏う存在を始末しようとする。
「……僕が笑ったのが、気が触れたからだって? 違うね!
僕が笑ったのは、僕がお前達悪党に裁きを! 鉄槌を下す事が出来る!
その瞬間をやっと今実感出来たから、僕は”笑わずにはいられなかっただけ”なんだよ!」
漆黒の甲冑を身に纏った者がそう叫んだ後、なんと彼は、ブローウニンが作り出した自身を縛り上げてる強固な木の根を、強引に引きちぎって拘束から脱出した後、一気にブローウニンの目前に迫った。
「これが! 僕がお前達『悪党』に与える裁きの鉄槌だぁぁぁぁぁ!!!!」
そう言って一瞬でブローウニンの目の前に、漆黒の甲冑を纏った者が迫った後、漆黒の甲冑を纏った者は、ブローウニンに対して、左拳から繰り出される強烈な一撃を、ブローウニンに叩きこんだ!
【メキメキメキィィィィィ!!!】
ブローウニンの顔面を砕く鈍い音が、ホールに木霊する!
そして、その音が鳴り響いた元であるブローウニンの顔面は、原型が分からないレベルまで砕かれ、顔面を砕かれたブローウニンは、力なく地面に横たわるのであった……
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