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【第四部後編開幕】神に選ばれた転生貴族は、世界を救うことにしました 〜退屈だった人生から始まる英雄譚〜  作者: リオン
第二部 エルフ王国攻防編

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アンデルの陰謀③

 小瓶に入っている無臭の液体の正体は、この時代において毒を盛って殺すにはテンプレすぎる代物だった。


「これは、水銀ですね」


「水銀──ッ?」


 みんな何を言っているだという顔つきになっていた。

 そうか──この世界は医学が発達していないから、水銀は長寿の薬として服用していたんだ。

 かの有名な始皇帝でさえ、死ぬことを恐れて不老不死を求めるあまり、不老不死の秘訣として水銀を固めた丸薬を服用していたんだっけ。

 でも──それは、毒素が体内に蓄積されて一定の限界値に達すると、心身に異常を来たし徐々に死に追いやる毒物だ。


「ウィル様──水銀は健康長寿の為の薬みたいなものです。とてもじゃないけどそれで死ぬなんて」


「違うよアンジェラ先生。水銀は毒素を体内に溜め込んで、服用者を死に追いやる害のある液体なんだ。継続的に少量の水銀を服用すればジワジワと相手を死に追いやれるし、一気に大量の水銀を摂取するともちろん即死だ」


「そんな……私たちはそれを良薬と信じて……」


「認識を改めたほうがいい。死なない生き物なんてこの世に存在しないんだ。生き物はいつか死ぬ」


 でも──水銀が良薬だと信じていたこの世界で、アンデルはそれが人に死をもたらすものだと知っていた。

 誰かの入れ知恵か?

 いや──そもそも認識が間違っているこの世界で、水銀が害のあるものだと気付いて警鐘を鳴らしていれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 実際に国王陛下の息子であるアンデルならば、父親を殺さまいと動くはずなのに弟のテネスを使って、継続的に水銀を服用させていた。

 そもそも──国王陛下を殺して得になるのはアンデルなのに、何故こんな回りくどいことをするんだ?

 この件には誰か裏で糸を引いている人物がいる。

 決して頭が良いとは言えないアンデルが、単独で行ったとは言い難い。

 しかも、悪魔が魔族を使ってエルフ王国に侵攻してきたタイミングで国王陛下が亡くなったのだ。

 あまりにも都合が良すぎる。


「アンデル王子、あなたにオールトゥルースを使います。拒否権はありません」


「お、王族である余にそ、そんな愚行許されるかッ」


「すみませんが、国王陛下を殺した容疑がかけられてます。真実を明らかにし、あなたが無実なら、僕はあなたの目の前で腹を斬りましょう」


「ウィル様ッ!! それはダメッ!! シェナは許さない!!」


「そうですウィル王子。そんなことをしなくても、しっかり調べればいずれ──」


「──悪魔と魔族の侵攻。エルドレッド将軍の戦死。そして──国王陛下の死亡。どれも全部タイミングが良すぎると思いませんか」


「た、確かに……タイミングは良すぎるかもしれませんが、たまたまってことも」


 たまたまだなんて有り得ない。

 それは身をもって理解している。

 僕だって──この世に転生してきた15年前から、ベリアルの策略によってグレイシー家に匿われていたんだ。

 あのことは偶然じゃないし、きっと──この一件だって必ずなにか裏があるはずだ。


「良いですね、アンデル王子」


「ま、待て。その前にエルドレッドは死んだのか?」


「えぇ、悪魔の捕虜になった後に拷問を受けて殺され、そのまま悪魔の器にされました」


「そ、そんな──ッ!! 話が違うッ──ハッ!!」


 ようやくボロを出してきたな。

 ここに居る誰もがその失言を聞き見逃さなかった。


「話が違う……? どういうことですか?」


「な、なんでも無い。言い間違いだ……」


「いえ、王子はハッキリ、話が違うと言いました。あなた、なにか知ってますね?」


「余は何も知らんッ!! 水銀を渡したのは確かだが、まさか──それが害のあるものだと知らなかったのだよ。し、信じてくれッ!! ウィル王子ッ!!」


 水銀を渡したのは認めるが、あくまでも良薬だと思って渡したと言うか。

 だが、それでも──咄嗟に出たボロは取り消せない。


「オールトゥルース──」


「や、やめてくれ──ッ」


 僕はアンデル王子にオールトゥルースを発動した。

 ──だが、いきなり口から大量の血を吐血する。

 無理もない──今日は大量の魔力を消費して、既に限界を迎えている。

 フリーゲル総帥にオールトランスファーを発動して貰って魔力譲渡をされても、二回目の神聖魔法だ。

 僕の身体は悲鳴をあげている。

 もう──これ以上は魔法を使えない。


「ウィル様ッ!! 無理なさらないでください」


「ありがとうシェナ……でも大丈夫」


「大丈夫じゃないです……だって……」


 今にも泣きそうな顔をしているシェナ。

 そんな泣きそうな顔をしないでよ。

 僕、これから死ぬみたいじゃん。

 でももう、今日は魔法を使わないから安心して?

 身体がフラフラする。

 頭も痛いし吐き気もする。

 なんだろ、インフルエンザにかかった気分だ。

 それでも──僕は今倒れちゃいけないんだ。


「アンデル王子……あなたは水銀が害のある液体だと知っていましたね?」


「もちろん──知っていた」


 まわりのみんなは驚きの顔を隠せない。

 僕は構わず質問を続ける。


「国王陛下を殺すつもりだったってことですね? でも、何故──ジワジワと殺す選択をしたのですか」


「いきなり殺してしまったら、真っ先に余の関与が疑われる。なにせ──陛下とはあまり仲がよろくしなかったからな。じっくりと身体を蝕んで殺してしまえば、余の関与は疑われず王位を継承できる」


「そんな──アンデル兄様……」


「なんたる愚行──」


 アンジェラ先生とフリーゲル総帥は驚愕していた。

 第二王子のテネス王子は自分のしたことの罪に苛まれているのか、項垂《うなだ》れて嗚咽まじりに涙を流している。

 実の兄が、父親を殺そうとして殺したなんて信じられないのも当たり前だよね。

 だが──これでアンデル王子が主犯格だと確定した。

 やはり──この殺害には王位継承が絡んでいたか。

 国王になれば地位と名声が手に入る。

 それを欲して、自分勝手に実の父親を殺したんだ。

 そんな奴が王位を継承しても、国は破綻するだけ。

 あとは──裏で誰が糸を引いているかだ。


「最後に、あなたの計画に誰が裏で──」


「やめてくれッ!! その質問はしないでくれッ!! 罪は償う、だからそれだけはッ!!」


「ダメだ。僕が聞きたかった本題だ」


「そ、そんなぁ……」


「裏で糸を引いているのは誰だ。悪魔か? エルフか?」


「この件に関わっているのは……うっ……ガハッ!!」


 するといきなり──アンデルは首を押さえて血を吹き出したではないか。

 目が充血していて、まるで──首を絞められているように見える。

 僕やここに居るシェナ、アンジェラ先生は、先の戦闘で魔力を使い果たし、神聖魔法が使えない。

 テネス王子は喋れないので詠唱が出来ない。

 だとしたら余力のあるフリーゲル総帥に頼むしかない。


「フリーゲル総帥ッ!! オールパージをッ!!」


「分かったッ!! オールパージ──ッ」


 しかし──オールパージを発動しても、アンデル王子が来るしもがく姿は変わりなかった。

 やがてアンデルはゆっくりと命を落とした。

 その姿は醜く、誰かに助けを乞うように右手を差し出しながら死んでいった。


「オールパージを使っても解除出来なかったとは」


「オールパージで大抵のものは解除できるけど、それ以上の魔法がかけられていたことになるわ」


「となると──闇魔法……」


 やはり──悪魔が絡んでいたか。

 悪魔が入れ知恵をして、アンデル王子が国王陛下を殺すよう仕向けた。

 だが、自分たちの関与を隠すために、保険としてなんらかの闇魔法をアンデル王子に仕込んだことになる。


「でも、オールパージでも解除できない闇魔法って聞いたことないわ」


 長らく生きているアンジェラ先生でも、その闇魔法の正体は分からないか。

 シェナの方に顔を向けても、シェナは何も分からないと言わんばかりに首を横に振る。


「国王陛下の殺害の黒幕は誰だかわからなかったけど、この後のやるべきことは……」


「ウィル様──ッ?」


「ウィル王子ッ!! しっかり!!」


 ダメだ、意識が遠のいていく。

 神聖魔法を行使しすぎたせいで、身体が限界を迎えてたんだよね。

 ガクッと倒れた僕は近くに居たアンジェラ先生に抱きかかえられる。

 隣でシェナが心配そうな顔で僕の右手を両手で強く握った。


「ウィル様、ゆっくりお休みください」


「後のことは私にお任せください」


「二人とも……頼んだよ……」


 そこで僕の意識はプツリと途切れた──

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