14. 誰かの為に、強いては自分の為に
えーっと、ここはどこだ?
僕が居る場所は、辺り一面真っ白な空間だった。
周りを見渡しても、いくら歩いても続くのは真っ白な景色のみ。
確か──神聖魔法の行使のし過ぎで気絶したんだっけ。
でも気付いたらこんな何も無い空間にひとりポツンと立っていて、ひたすらに歩いていた。
もしかして──僕死んだ?
折角退屈しない世界にやって来たと思ったのに、魔法の行使のし過ぎで死にましたなんてことだったらやり切れませんよ!
まだ研究しつくしてない魔法だってあるのに。
生成スキルで作りたいものだってあるのに。
死んだら何もかも終わりじゃないか!
でもさ──死んでしまって報われないのは、ジェイド自身だ。
僕は、ジェイドを守れなかったんだ。
彼と面識は無かったし、どんな人間なのかは分からないけど、ジェイドだってこの先長い人生でやりたいこと、叶えたい夢があったはず。
でも、悪魔──ダンタリオンに身体を乗っ取られていいように使われて、殺されて……。
もっと僕が強かったら彼を助けられたのかもしれない。
僕は……弱い。
「ったく、退屈しない人生を願ってた人間をやっと見つけたのに、こんなにくよくよと悩む人間だったとはな」
──誰だ?
口に出して無いはずなのに、僕の思ったことに的確に返答してきている。
こういった読心術はアンジェラ先生が得意だけど、声がアンジェラ先生じゃない。
「誰だ──ッ」
「誰だって言われてもねぇ。お前さんのクライアントって感じかな。日本人。いや──ウィル・グレイシーくん」
今、はっきりと日本人という言葉が聞こえた。
こいつは僕が転生者だって知っている。
しかもクライアントってなんだ?
すると──いきなり、ソファに寝そべっている一人の男がそこに居た。
見た目は若く20代半ばくらいか、白髪で整った顔立ち。喋り方の感じからしてかなりいけ好かないのは分かる。
「僕が元々日本人だってことを何故あんたは知ってる。何者だ」
「おいおい、そう構えないでよ。だって──君をこの世界に転生させたのは私だからね」
「てことは──あんた、神か!?」
「おぉ!! 正解ッ! よく分かったね!」
僕を転生させるってなったら、そんな芸当は神ぐらいしかやってのけないことだ。
天使は人間なんかに興味は無いし、転生させる事ができても理由がない。
「なんで僕を転生させたんだ?」
「まぁまぁ、そこは追々話すとしてだ。ウィル──お前、ちょっと神聖魔法に頼りすぎ」
「え? だって──悪魔を倒すには神聖魔法しか……」
「そりゃそうだけどよ、そこじゃないんだよ」
「どういうこと?」
「あのな、悪魔に対して神聖魔法を使うことは何の文句も無い、寧ろ大歓迎だ。だけど──悪魔以外に使うことを自制しな」
どういうことだ?
さっぱり分からない。
「分からないって顔してんな。いいか──今お前の身体は壊れかけてる。このまま神聖魔法を行使し続けると、間違いなく死ぬぞ」
「死ぬって、いきなりそんなこと言われても……」
「ほら、これが君の魂だ」
神は人差し指でクイッとやると、僕の胸から光る何かが出てきた。
これが神の言う魂ってやつなのか?
「魂は日々消耗して欠けていく。生まれた時は球体のように丸い。だが、君の魂はどうかな?」
「確かに……僕の魂は歪というかなんというか」
僕の魂は丸い球体というよりも、上半分が欠けた状態だった。
ということは神聖魔法を酷使しすぎると、魂が削られて死んでしまうってのは本当のようだ。
「まったく……生命をなんだと思ってるんだよ。神聖魔法が使えるからって、君は万能じゃないし不死身でもない。頭が胴体から離れたり、脳を撃ち抜かれたりしたら君だって死ぬんだぞ。もっと自分を大切にしろ」
今までの事を考えると、ベリアルの時もダンタリオンの時も、僕は神聖魔法を魔力の限界まで行使していた。
現に気絶するさっきだって魔力の限界まで神聖魔法を使って身体に支障をきたす程酷使している。
これは神の言う通り、このままだと本当に死ぬかもしれない。
「今回は君の魂を修復してあげるけど、次はないからな? いいか? これは警告だ」
「わ、わかったよ……。これからは気をつける」
「本当にわかってんのかよ。まぁ、いいけど」
神は人差し指をクルクルと回す。
すると──僕の魂はゆっくりと丸い球体へと修復されていく。
そして神は僕の胸に魂を戻した。
やっぱ──この神、鼻につくしいけ好かない。
勝手に転生させてこの世界を守ってるのは僕なのに、いきなり出てきて初対面で説教とかどういう神経してるんですかね。
日本だったらクレームものですよ。
「全部聞こえてんだよッ!! 悪かったなッ!! ちょっと忘れてたんだから仕方ないだろッ!!」
「忘れてたのかよッ!! 人に世界守らせといてその態度はないんじゃないですかね????」
「干渉したらバカ息子たちに勘づかれるから無理なんだよ!!」
「バカ息子? 誰のこと言ってるんだ」
「あのなぁ、私は神で息子と言ったら天使だろ」
そういえば神だった。
口が悪いしいけ好かないからてっきり神だってことを忘れていた。
「私が作った世界に顕現でもしたら、息子たちはそれを察知してやってくる。そしたら今君が居る世界は戦争になる。もう分かるだろ?」
「ハルマゲドン……」
ハルマゲドン──
世界終末戦争と呼ばれるこの戦いは、天使と悪魔の壮絶な戦いである。
もし天使と悪魔が戦争を起こしたら、瞬く間に世界は戦場と化し、多くの種族の生命が絶滅寸前まで追いやられる。
「多くのことは話せないが、今──天使たちは躍起になって悪魔たちを探している。なにせ地球から悪魔が居なくなったからな。監視する対象が居なくなって、天使たちは大慌てだよ」
そして──天使たちが躍起になって探している間に、悪魔たちが云う、"偉大なる御方"という存在を復活させたいのか。
「けど──どうして世界を救うのが僕なんだ? 最初に戻るけど、どうして僕を転生させたんだ」
「悪魔たちが器とする人間はランダムに決められてる。これに関しては前もって知ることは出来るが関与はできない。だが──偉大なる御方の器がウィル・グレイシーになると決まった時に絶望したんだ」
「絶望……?」
「本来のウィル・グレイシー……いや、ウィル・トゥルメリアは、魔法の才がない無能なんだ」
「ちょっと待って──ということは、僕が転生する前にウィルには元々の魂があったってこと? でも、僕が転生する時に彼は消えてしまった……」
生命を大切にしろとか言ってたクセに、簡単に生命を蔑ろにしてるのは神のほうじゃないか。
これじゃ、僕は悪魔と一緒だ。
一方的に彼の身体を奪ってのうのうと生きて、世界を救ってる気になってる。
こんな気持ちになるなら、転生しなかったほうがマシだ。
「今すぐ元のウィルの魂を戻して欲しいって思ってるんだろ? だが──ちょっとそれは違う」
「でも僕が身体を奪ったことには変わりないじゃないか」
「話聞けよッ!! いいか──転生してきた君とウィルの魂は結合してるんだよ。所謂──融合みたいなもんだ。君たちは混ざりあって一つの魂になったんだ。これが悪魔みたいに人間の身体を支配しようとしたら心の中で争いが生まれる。そうならないように私が直接介入して融合させたんだ。だがら安心しろ、正真正銘その身体は君のものだ」
「なら──この戦いが終わったら、元のウィルに身体を返してあげてはくれないか?」
「それは無理だな。君たちが融合してから既に15年という月日が流れてる。分離させるにも時間が経ちすぎて不可能なレベルまで来てんだよ」
神が不可能なんて言わないでよ。
罪悪感に苛まれる──
「罪悪感を抱かなくていい。己を憎むな。君がもし──転生して来なかったらのifの世界を見せてあげるよ」
すると──辺り一面真っ白な世界は、いつの間にか戦火に包まれたトゥルメリア王国首都の上空に居た。
どこもかしこも無数の悪魔が跋扈していて、無力な人間たちが逃げ惑っている。
「もし──君が転生して来なかったら、ウィル・トゥルメリアはベリアルに連れ去られて、偉大なる御方の器にされて復活し、世界は終末戦争を迎えていただろうね」
そして再度、一面真っ白な世界に戻った。
「さて──時間も迫ってきたし、私が君に言いたかったことを授けるよ」
──あれ?
辺りがいきなりボヤけて来た。
目を擦ってもこのボヤけは貼れない。
神の言葉も次第に遠のいていく。
「ウィル、偉大なる御方の復活を阻止し世界を救え。天使たちがこの世界を見付けるのも時間の問題だ。そして──誰かの為に、強いては自分の為に、誰かを愛せ」
「誰かを愛せって……」
「お前の近くに居る。また会おう、ウィル──」
ゆっくりと目を開けた。
窓から差し込む光がやけに眩しい。
だが──窓から見える空は、穏やかな青空が広がっている。
「ウィル様……ウィ、ル、様……うっ…うぅ……」
僕の隣にはシェナが手を握りながら座っていた。
シェナは僕が起きるや否や、僕の名前を呼んで泣き出してしまったではないか。
「おはようシェナ、なんで泣いてるの?」
シェナは泣いたま俯き、無言で首を横に振るだけだった。
どれくらい寝てたのかは気になるけど、とりあえずお腹空いたな。
「あのさシェナ──」
いきなりシェナは僕に抱きついて来た。
シェナさんどうしたんですか?
泣いたり抱きついたり、女の子の情緒が分からない。
「ウィル様、シェナはずっとあなたの側に居ます。あなたを心からお慕いしております。どうかシェナをひとりにしないで下さい。どうか、どうか……」
「シェナ、さっきからどうしたの。言葉があまりにも深刻すぎて困っちゃうよ」
────ん?
神が言っていた、「誰かを愛せ、お前の近くに居る」って、こういうことなの?
物理的な距離だった?
いやいや、それは無いでしょ。
どうせ気まぐれで有名な神が、テキトーに言っただけだよ。
僕もそんな単純なことには引っかかりません。
「ウィル様、愛してます──」
シェナの唇が、僕の唇にそっと触れた──
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