アンデルの陰謀②
国王が療養している部屋に着くと、大勢の人だかりが出来ていた。
容姿から察するに、医者や貴族のエルフが殆どだ。
フリーゲルを前にし人混みを掻き分けて中に入っていく。
そこには──ベッドで横になっているエルフ王国国王が居た。
「国王陛下ッ!!」
だが──国王から返事は無い。
横に居た主治医に顔を向けると、目を瞑って横に首を振った。
「陛下はどうしたというのだ。──まさか」
「申し訳ございません。先程陛下は……」
「嘘だ……。この有事に陛下が崩御されるなんて。なにかの間違いだ」
既にエルフ王国国王は亡くなっていた。
国がめちゃくちゃな時に、しかも──魔族が侵攻してきたタイミングで国王が亡くなるなんて、いくらなんでもタイミングが良すぎる。
国王は国の象徴であり希望だ。
その希望を亡くしたんだ。
貴族や国民は絶望するし、立て直しを計りたい側からしたら大きな痛手だ。
しかも──実質国の舵取りを行うナンバー2は自分の私服を肥やすことしか考えてないあの王子。
何もかもが最悪の状況でしかない。
「お父様……私はお父様にまだ……まだ謝っておりません。どうして、どうして逝かれてしまったのですか……」
アンジェラ先生は涙を流しながら国王の手を握った。
エルフ王国を追放されて15年という月日は、たった一度謝罪をするのには長い月日だ。
アンジェラ先生の気持ちを考えたら心が痛くなる。
だが──悲しみに暮れている暇はない。
少し酷な話になってしまうが、国を立て直すほうが第一の優先事項だ。
でないと、国の国家機能は麻痺を続けてしまい、それこそ数で勝る魔族が弱体化したエルフ王国に再度侵攻を開始する可能性だってある。
「アンジェラ先生、まずは──」
アンジェラ先生が握る手を見ていた僕は、あることに気がついた。
僕は国王の手を握り、まじまじと観察する。
「どうしたのです、ウィル様──」
「主治医、国王陛下の体調不良の原因はわかりますか」
「え、あ、はい。陛下は2年前から体調を崩されていて、それでも公務をなさっていたのですが、1年前から病床に伏せっておりました」
「その際、食事の管理と持ち運びは誰が?」
「食事ですか? それは……」
「ウィル王子、どういうことですか」
「国王陛下は毒殺の可能性が高い。しかも──長期的に毒を摂取させられていた。その兆候が指に出てるんです」
人間は長期的に毒を摂取させられると、爪が白く濁る傾向がある。
爪は死んだ細胞の塊みたいなものだから、その成分が混じって白くなってしまうんだ。
「なんだと──」
「そんな──まさか毒だなんて……」
反応から察するに、主治医とフリーゲル総帥は毒殺には関与していないみたいだ。
だとすると──国王を殺してまで得するのは誰だ、という話になる。
今日エルフ王国に来て国の中枢のエルフ族たちと話をしたが、怪しい人物はやはりあいつしか居ないみたいだ。
「国王陛下がお休みになられてる場所に人間風情が入るなど無礼にも程があるぞッ!!」
なんとも丁度良いタイミングで入ってきたものだ。
人混みを掻き分け、荒々しい言葉とともに入ってきたのは、第一王子のアンデルだった。
横には第二王子のテネスも居る。
国王の亡骸を見た二人は、わざとらしいような驚きをする。
「お、お父様ッ!! まさか──」
「国王陛下はお亡くなりになられました。しかも、毒殺で──」
「毒殺!? 貴様ッ!! もしや──国が混乱している最中に国王を殺したな!?」
「落ち着いてください。お兄様ッ!! ウィル様には不可能です」
「ええい、うるさいッ!! 国王を殺してこの国を乗っ取ろうとしたのだろう、それを確認する為に真っ先にここに来るとは……この簒奪者がッ!!」
ダメだ、本当に聞く耳を持たない。
しかも──ここには多くのギャラリーが居る。
そのギャラリーにあることないことを吹聴することで、あたかも今言った言葉を真実にしようとしている。
あと僕は人間だ。
エルフは人間を見下しているし、毒殺と見破ったのも僕だ。
エルフ王国の王子の言葉となれば、誰が何を信じるかは明白だ。
「さぁ──簒奪者ウィル・トゥルメリア、貴様を国王殺害の被疑者として斬首の刑に処すッ!!」
「アンデル王子、まだ僕の言い分を言ってません」
「どうせ国王陛下を殺してないとかの言い訳だろう。余はそのような妄言に耳を貸す気はないッ!!」
「なら──あなたは聞かなくて結構です」
「なんだと──ッ!!」
僕はアンデルを気にするのを止め話し始めた。
「国王陛下が毒殺されたのは紛れもない事実ですが、毒の兆候を見る限り、毒は遅効性によるものです。しかも長期間に渡り毒を摂取させられていました。その兆候は爪の白濁具合や手先の腫れに現れてます」
「確かに──陛下の爪は白く濁っていて、つま先も赤く腫れています」
「先程の質問ですが主治医、国王陛下に料理を運んでいたのは誰ですか?」
「第二王子のテネス様です」
みんなの視線がテネスに向かう。
テネスは慌てふためいて両手を出し大きく振った。
口をパクパクさせているが、言葉は出てこないみたいだ。
「基本──毒というのは料理や飲水、お酒に入れられるのが殆どです。そのほうが違和感無く毒を摂取させられますからね」
「おいテネスッ!! 貴様、お父様を服毒させていたのは真か!?」
テネスは驚いた顔をしてまた大きく手を振った。
喋ろうとしているのに声が出てこないテネスに違和感を感じた。
「フリーゲル総帥、僕にオールトランスファーを使ってください」
「え、今ここでですか」
「もちろん。試したいことがあります」
先程のダンタリオンとの戦闘で魔力を限界まで使い果たした僕は、神聖魔法を発動するほどの魔力を残していなかった。
オールトランスファーとは、神聖魔法を扱える者同士なら他人に魔力を譲渡する神聖魔法だ。
そうすれば、神聖魔法一回分の魔力回復は見込める。
フリーゲル総帥はオールトランスファーを発動すると、フリーゲル総帥の魔力が僕に流れていく感覚があった。
魔力の譲渡が終わると、少し身体の調子が良くなった。
「さて──テネス王子、あなたの心の声を聞かせてください」
「ウィル様、それならこの私がテネスお兄様の心の声を聴きますわ」
「いや──ここは確実にテネスの声を皆に聴かせる為に僕がやるよ」
「かしこまりました」
アンジェラ先生のユニークスキルは人の心を読む読心術だ。
だがこの読心術は自分にしか聞こえなく、他人に発信するのは不可能だ。
アンジェラ先生だけ聞こえても、それが本当のことなのか、捏造しているのではないか、逆に懐疑的になってしまう為、ここは確実に神聖魔法でテネス王子の心を読んだほうがいいのだ。
「オールトゥルース──」
オールトゥルース──
相手が体験した事や心に思っていることを、音として発信してくれる神聖魔法だ。
この魔法をかけられた者は、強制的に自白させられるのだが、確か──闇魔法にも同じような魔法あったような……
今はそれは置いといて、僕はテネスに質問する。
「テネス王子、あなたが国王陛下に料理を届けていたのですか」
『そうです、料理を届けていたのは僕です。ですが、いつもアンデルお兄様に、これはお父様の体調がよくなる良薬だと言われて、料理にそれを混ぜてました』
やはり──アンデル王子がテネス王子を騙して服毒させていたのか。
しかも実の弟を騙して服毒させていたなんて。
「よ、余はなにも知らんぞッ!! テネスッ!! テキトーなことを言うでないッ!!」
明らかに動揺しているアンデル王子。
急な発汗に唇の乾き、そして極めつけに目が泳ぎまくっている。
「その薬は今手元にありますか」
『あります──これです』
テネスはポケットから小瓶を取り出した。
僕はそれを受け取ろうとするが、アンデルが邪魔をする。
「た、他人に渡すものではないッ!! 貴重な良薬なんだ、人間風情に渡してはならんッ!!」
奪い取ろうとしたアンデル王子だったが、フリーゲル総帥がそれを制止した。
「見苦しいですぞ、お兄様──いや、アンデル王子」
「邪魔をするなッ!! テネス、それを渡してはならんッ!!」
アンデル王子の言葉は虚しく、テネス王子が持っている小瓶は僕に渡った。
「これが本当に良薬なら、何故──国王陛下はここでお亡くなりになられてるのですか?」
「そ、それは……」
僕は小瓶の蓋を開けると匂いを嗅いだ──
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