ウィル VS ダンタリオン
どうしたらいい──
そう何度も頭の中で自問自答したが、答えは出てこなかった。
ジェイドを見殺しにしてまでダンタリオンを倒すべきなのか、それとも──ジェイドを助ける為に、僕自身が犠牲になるべきか。
でも、僕が犠牲になったらそれこそ、悪魔たちの云う偉大なる御方という存在の復活をさせてしまう。
一か八かだが、やってみるしかない。
僕は頬を伝う涙を拭き取り、強く刀を構えた。
「決意は出来たようだね、ウィル・トゥルメリア」
「あぁ──お前を倒してジェイドを救う」
「一つしか選択肢は無いのに、二つを取るなんて傲慢にも程がある。その選択を悔やむがいい」
「オールバインド──」
ダンタリオンを拘束し、彼の胸に手を充てた。
身動きが取れないようにしたが、焦る表情は一切見せず、余裕の表情すら浮かべている。
そうやってせいぜい余裕の表情でも浮かべてろ。
「オールエクストラクション──」
オールエクストラクション──
対象の魂を抜き取る魔法で、魂に限らず対象の毒などの状態異常を抜き取る魔法だ。
魔族に有効な魔法なのだが、悪魔に有効かは分からない。
間違えたらジェイド本人の魂を抜き取ってしまうことだって有り得るし、万が一抜き取ってしまったら、ジェイドの魂は霧散し、ダンタリオンが肉体を完全支配してしまう。
ここは、慎重にやらないと──
「考えたね。でも──ワタシも簡単にそれをやらせるつもりは無い」
魂を抜き取る感覚があった。
だが──これはダンタリオンのではない。
ジェイドの魂だ。
僕はオールエクストラクションを中止し、間合いを取った。
やはり──僕がオールエクストラクションを発動するのを読んでたんだ。
あまりにも厄介すぎる。
ジェイドの魂を盾に、自分は安全な所から高みの見物だ。
しかも──余裕の笑みまで浮かべる始末で、僕の行動を先読みして対策を講じてくる。
使える神聖魔法は制約されているのも厄介だ。
「どうしたウィル・トゥルメリア。ジェイドを助けてワタシを倒すんだろ? まだワタシはここにいるぞ?」
「ジェイドの命を盾に使って自分は何もしないなんて、やっぱり悪魔は卑怯だね」
「それが悪魔だからね。卑怯だの卑劣だの、悪魔にとってはお家芸みたいなものさ」
「でも──ダンタリオン、君は僕を倒せないだろ?」
「なに──?」
食いついた。
さっきから僕が対策を講じてるだけで、ダンタリオンは何もしてこない。
ジェイドの命を盾にしているのであれば、一方的に攻撃できたはすだ。
でも──ダンタリオンはそれをしてこない。
いや、出来ないのだ。
僕がオールハイネスを発動すれば、そのカウンターでインフィニットを発動してくる。
オールエクストラクションを発動すれば、ジェイドの魂を盾にしてくる。
即ち──ダンタリオンは防御しかしてこない。
なら、ジェイドの魂を取り出して、一時的にオールケージで隔離しておけばいいのだ。
守りの姿勢を続けているのであれば、こっちにも勝機はある。
僕は再び──ダンタリオンをオールバインドで拘束した。
「また同じ手ですか。何度も同じことをされると飽きがきますね」
「オールエクストラクション──」
魂を掴む感覚があった。
間違いない──ジェイドの魂だ。
僕はそれを優しく抜き取ろうとする。
「遂にジェイドの命を諦めましたか。一人の命を犠牲にすれば、君にとっては多くの人間が救われるからね。英断とでも言っておこ──」
「──ジェイドも助けるに決まってるだろ」
「────は?」
「オールケージ──」
ジェイドの魂を抜き取ると、直ぐさまオールケージで僕の右手を封じた。
ソフトボールくらいの大きさに集約すると、すっぽりとジェイドの魂が収まった。
これで、気兼ねなくダンタリオンと戦える。
「や、やりますね。人間にしては上出来だと褒めてあげましょう……」
明らかに動揺し始めたな。
人質であるジェイドの魂を抜き取られたんだ。
これで否応でも僕と戦わないといけなくなる。
「さて──ダンタリオン、お前の最期だ」
「それで勝ったと思わないことだな。ジェイドの肉体はワタシが支配している。ワタシを倒すには肉体からワタシを切り離さいといけないが、もちろん──肉体を傷つければ、ジェイドが戻った時に彼にもその負担を負ってしまう。どうする?」
確かに──ジェイドの肉体に傷を付けることは許されない。
だからといって、ダンタリオンをこのまま逃がす訳にもいかない。
しかも──肉体から魂を抜き取るデメリットも存在する。
それは、抜き取られた魂は一定時間を過ぎると、霧散とは別に、昇華が始まってしまう。
その昇華が始まる前に、ケリを付けなきゃいけないのだ。
時間は持って10分も無い。
オールピュリフィケーションは肉体が消滅してしまうから使えない。
使うとしても、ダンタリオンの精神体と引き剥がしてから使うことになるだろう。
ならば──方法はこれしかない。
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。そして──我が言の葉の願いを叶え給い、悪しき者から尊き者を救う力となれ、オールハイネス」
オールハイネスを発動した。
これでダンタリオンもインフィニットを発動するだろう。
これでいい──
「あの時の経験が生かされてないのは、やはり──君は力押しで能がない証拠ですね。目を開け、口を聞け、耳を閉じろ。理は世界を歪める──インフィニット」
案の定──インフィニットを発動したダンタリオン。
それを待ってたよ。
僕は再度神聖魔法を詠唱する。
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。そして──我が言の葉の願いを叶え給い、悪しき者から尊き者を救う力となれ、オールハイネス」
「オールハイネスを二重がけ!? バカな──ッ」
いや──まだだ。
お前にはまだ足りない。
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。そして──我が言の葉の願いを叶え給い、悪しき者から尊き者を救う力となれ、オールハイネス」
「三重がけだと!? 貴様正気か──ッ」
さすがに三重がけともなると、身体に負担がかかる。
僕は吐血しながらも、今回は刀身の無い刀を構えてダンタリオンの間合いに入った。
刀身が無いのは、神聖魔法の刀を作るため。
神聖魔法の刀を使えば、ジェイドの肉体を傷つける心配はない。
神聖魔法が刀身を模すと、僕は思いっきり斬りつけた。
オールハイネス三重がけで300倍のステータス上昇している僕の身体を、ダンタリオンは追いつける訳もなく攻撃を食らう。
「んぐぅぅぅぅぅッ!!」
それでもインフィニットのせいでステータスにデバフは入ってしまう。
だが──300倍のバフがかかってるのだ。
ちょっとの疲労感など屁でもない。
更に──何度も何度も斬りつけた。
斬り付けるたびに、ダンタリオンの魔素が霧散していく。
これはダンタリオンにダメージが入っている証拠だ。
それでもダンタリオンは攻撃をしてこない。
出来ないと行った方が適切か──
「やはり──頭が良いだけで戦闘能力は皆無のようだね。こんな奴に苦しめられてたなんて、自分自身が恥ずかしいよ」
「ふッ……ワタシは元々事務仕事専門なんでね。戦闘は得意じゃないんだよ」
「言い訳か? 見苦しい」
「これ以上攻撃を受けると消滅するからね、ここで退散するよ──。そうそう、この肉体は返してあげよう」
ダンタリオンは僕から間合いを取った。
だが──右手は胸の辺りを触っていた。
嫌な予感がする──
「やめろ、ダンタリオンッ!! やめろッ!!」
「君が悪いんだよ、ウィル・トゥルメリア。君がジェイド・マーセナスを殺した」
「ふざけるなッ!! お前ごときにジェイドを殺させないッ!!」
「貴様ごときに、ワタシは倒せない」
咄嗟に走った。
ダンタリオンがこのまま心臓を貫けば、ジェイドの魂を戻したとしても、ジェイドは死んでしまう。
止めないと。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
ダンタリオンを掴むと直ぐさまオールエクストラクションを発動した。
ダンタリオンの魂を掴むと無理矢理それを引っこ抜こうとする。
だが──
「残念。ゲームオーバーだ」
ゴキッと鈍い音が鳴った。
ジェイドの胸にポッカリと穴が空いていたのだ。
ひと足遅かった。
僕はダンタリオンの精神体をオールケージで閉じ込める。
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。そして──我が言の葉の願いを叶え給い、悪しき者を尊き力によって、魂を浄化せん。さすれば──罪は消え、堕落した者を救う光の導きは、尊き者に変わり永遠の安らぎを給わるだろう──オールピュリフィケーションッ!!!!!!!!!」
オールケージ内で強い光が放たれた。
ダンタリオンの精神体が浄化されていく。
「ウィル・トゥルメリア……お前は弱い。一年後、偉大なる御方は復活する。その時がお前の最期だ。その瞬間を見れないのは心苦しいが、思い浮かぶよ。君は絶望しながら、この世界の終焉を──」
ダンタリオンの精神体は消滅した。
僕はすぐさまジェイドの魂を肉体に戻す。
時間が経過しすぎたのか、魂は昇華を始めていた。
魂を肉体に戻しても、ジェイドの心臓は潰されていて、ジェイドが生き返る保証は無い。
大規模な神聖魔法を発動してしまったせいか、オールリザレクションを発動する魔力もなく、オールヒールでなんとかするしかなかった。
「ジェイド帰ってこいッ!! ジェイドッ!!」
だが、オールヒールでは肉体の再生が追いつかない。
それでも僕は手を止めなかった。
「ウィル……」
ジェイドが目を覚ました。
辛うじて心臓の再生は間に合ったが、口からは血を大量に吐いていて、このままでは出血多量で死んでしまう。
「ジェイド、今すぐ助けるから待っててくれ、気をしっかり保ってくれ」
「ウィル……」
「あぁ、僕はここにいる。ここに居るから」
「ありがとう……。ニーナにすまなかったと謝ってくれ……」
「そんなの自分で謝るんだよ。君はまだ助かるから……助かるから……」
「ありが……」
「ジェイド? ジェイドッ!!」
ジェイドから返事はなかった。
それでも僕はヒールする手を止めなかった。
やがて──魔力が枯渇し、オールヒールすらも発動しなくなった。
「なんで……なんでッ!!!!!!!!!」
それからジェイドは目を覚ますことはなかった──
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