アンジェラ&シェナ VS アスモデウス② (シェナSide)
完全に油断していた。
いや──細心の注意は払っていたつもりだけど、シェナが避けられないほどの不意打ちを食らわせてくるなんて。
常に察知能力のアンテナは張っていた。
なのに避けられなかった。
とりあえず──早く戦線に復帰しないと、アンジェラ様ひとりでこの状況は無茶すぎるわ。
激痛を我慢しながら、シェナはオールヒールを発動させた。
傷口がみるみると塞がり、痛みも段々と引いていく。
悪魔や魔族が使う闇魔法、静かなる《サイレント》終焉は付与されてない事が唯一もの救いだ。
完全回復したシェナは再度オールハイネスを発動させていく。
「あら──もう復帰するの? もう少し休んで貰ってくれても構わないのよ?」
「あなたの余興に付き合うヒマはない。これは遊びじゃないの」
「意外と堅物なのね、シェナちゃんって」
シェナはアンジェラ様の横に立つ。
数分間ひとりで耐え忍んでいたアンジェラ様だが、やはりひとりで相手するには相当厳しかったのか、魔獣を倒したのはたった5匹程度だった。
「アンジェラ様、申し訳ございません。不覚を取りました」
「仕方ないわ。相手はあの悪魔ですもの。それより──大丈夫ですの?」
「大丈夫です。戦えます」
本音を言うとちょっと休んでいたい気持ちはあるけど、そんなこと言ってる余裕はない。
目の前の魔獣を倒して尚且つ、高みの見物をしているアスモデウスにも勝たなきゃいけない。
でも──倒しても倒しても湧いて出てくる魔獣を相手しているだけで、なんの打開も見当たらない。
「シェナ、あなたは最短でここを突破してアスモデウスに襲いかかりなさい。ここは私がヘイトを買いますわ」
「でも、この数だととてもじゃないけどアンジェラ様が──」
「──真面目に戦っても消耗して負けるだけだわ。なら、ひとり囮になって本丸を叩いたほうが得策よ」
たしかに──それは一理あった。
でも、アンジェラ様が大量の魔獣に押されて負けてしまうリスクだってある。
それでも、賭けるしかないか。
「わかりました。シェナがアスモデウスとの交戦を仕掛けます。くれぐれも死なないでください」
「誰に言ってんの、私が強いのはあなたも知ってるでしょ。さぁ──行ったッ!!」
「はい──ッ!!」
同時に動き出したシェナとアンジェラ様。
シェナはアスモデウスに動きを察知されないよう魔獣を倒しながら間合いを詰めていく。
時折──アスモデウスとの距離を確認しながら彼女の顔を伺うが、アスモデウスはニヒルな笑みを浮かべながら余興を楽しんでいた。
まだこちらの意図には気付いて無いみたいだ。
「アンジェラ様、ちゃんと魔獣を引き付けてください」
「うるさいわね。こっちがしんどいことしてるんだから、さっさと魔獣を片付けなさいよッ!!」
「今やってるとこでしょッ!!」
「痴話喧嘩しながら魔獣を片付けるなんて、余裕があるみたいね。ひとりが引き付けて、ひとりが背後から確実に仕留めていく。面白いやり方だけど、耐え切れるかしら? 早くしないとアンジェラが死んじゃうわよ?」
もちろん──そんなつもりなど毛頭ない。
シェナたちはあくまで、アスモデウスに狙いを絞ってる。
そして──そのチャンスがやって来た。
アスモデウスとの間合いを詰め、シェナはオールブーストを発動する。
一気にアスモデウスの懐に入り込んだ。
「絶拳──ッ!!」
「残念──それ残像なのよね」
絶拳を放ったタイミングでアスモデウスは霧散していった。
どういうことだ?
ここにずっと座っていたのはアスモデウス本体では無いってことか?
でもたしかに──アスモデウスはここから動いてない。
動く気配すら無かったのだ。
「─────ッ!!!!」
すると──いきなり背中に衝撃が走った。
バラのツタで殴られたシェナは、そのままバラの壁に激突する。
痛みに耐えながら立ち上がると、アスモデウスが冷たい目でシェナを見ていた。
「浅い思考で浅い作戦をしてるのは分かっていたわ。あなたがペットたちを倒すフリをしてわたしに間合いを詰めてることもお見通し」
「貴様……」
「もっと良い余興を見せてくれると思ったけど、こんな騙し討ちをするなんて、さすがのあたしでも冷めるわ」
何本ものバラのツタが攻撃してくる。
それを軽々と避けるが、何度も攻撃して来てはそれを避けての繰り返しだった。
避けきれない攻撃は打撃で応戦し、それを弾く。
だが──アスモデウスは無表情のまま、ただシェナだけを攻撃してきた。
しかし、さっきみたいな後ろから不意打ちは無く、淡々と攻撃を繰り返してきている印象が強い。
「ねえシェナちゃん、あなた──あたしの子飼いにならないの? ここであなたを殺してしまうのは気が引けるわ。どうにかならないかしら」
「何度も言ってる。断ると──」
「納得できないわね。あなたはこちら側に居るべき人材よ? なのに、低脳で下劣な人間の子飼いになって、何を満足してるの? あたしならもっとあなたを悦ばせることができるのに」
「お前みたいな品性の欠片も無い奴の下に付くぐらいなら、腸を裂くほうがマシだと言ったはずだが? どうやら言葉が通じないバカみたいね」
「未来のご主人様にそんな口利いたらダメよ? でも、ちゃんと躾してあげるから安心して」
こんな奴と会話するなんて無駄なことくらいわかってる。
その間にもアンジェラ様がピンチなのは変わりない。
早く──早く、アスモデウスを仕留めないと。
バラのツタの攻撃が止んだタイミングでアスモデウスの間合いに詰めた。
右手に気を集中させる。
それと同時に神聖魔法の力も右手に集束させた。
「絶昇──ッ!!」
シェナの拳がアスモデウスのみぞおちにクリーンヒットした。
急に間合いに入られた彼女は霧散することが出来なかった。
だが──絶昇を撃ってしてでもアスモデウスを倒したかったが、精神体の昇華はしなかった。
何発もの絶拳に、今の絶昇を使ったせいか、口から大量の血を吐いてしまった。
「大丈夫? このままだと自滅するわよ?」
「黙れ──」
「そんなに大技繰り出さなくても、あたし負けないから意味ないのよね」
「黙れ──」
「諦めてあたしの元に来──」
「黙れって言ってるだろ悪魔ッ!! 」
「あら怖い──」
シェナは再度アスモデウスに絶昇を繰り出す。
だが、彼女は顔色一つ変えやしない。
シェナの口からまた大量の血が吹き出た。
「もうやめなさいって。死ぬわよ?」
「し、シェナは……負けない……貴様ごときに……」
「意地の悪いお方ね。大丈夫、あたしには勝てないから。だから安心して」
舐めたことを言いやがって。
だが──もう力が無い。
全ての力を使い果たしてしまい、オールハイネスの効果も切れてしまった。
マナポーションも無いし、これで万事休す。
シェナはチラッとアンジェラ様の事を一瞥した。
未だにアンジェラ様は大量の魔獣と戦闘してる。
とてもじゃないけど、シェナに気をかける余裕なんてないだろうし、ひとりで相手をしてるのだ。
ごめんなさいアンジェラ様。
シェナはやはり──何もできませんでした。
あの頃の弱いままのシェナでした。
ウィル様──あなたの進む王の道にシェナが側にいてそれを見届けることができないのは心苦しいですが、お許しください。
シェナの心はいつまでもウィル様の側に──
「──諦めてんじゃ無いわよッ!!」
「………………えっ?」
俯いた顔を上げると、そこにはアスモデウスの腹部に剣を突き刺したアンジェラ様が立っていた。
酷く消耗していて、息切れも起こしている。
どうやら──魔獣を一掃するために、オールピュリフィケーションを発動したのだろう。
周りには魔獣の死骸は無いし、バラのツタで出来た壁も破壊されてる。
「まだ戦えるでしょッ。立ちなさいよッ!!」
なんで……。
なんでそこまで戦えるんですか……。
シェナは死を覚悟しました。
気の使い過ぎで身体はボロボロだし、魔力だって残ってない。
そんなシェナがどうやって戦えばいいんでしょうか。
意識を繋ぎ止めることすらやっとなのに、あまりにも自分勝手過ぎますよ、アンジェラ様。
「アンジェラ様だって……ボロボロ……じゃないですか」
「私はまだ戦えるわよッ!! 」
剣を引っこ抜くが、アスモデウスは霧散していく。
やはり──これも本体ではない。
急にシェナの後ろに現れると、無言のままシェナの左腕を掴んだ。
「や、やめて……」
「選択肢をあげるわ、シェナ」
「選択肢……」
「このままあたしの子飼いになるか、もしくは──あのエルフをあなたの手で抹殺するか選びなさい?」
そんなのどっちも嫌に決まってる。
アスモデウスの子飼いになるなら死んだ方がマシだし、命の恩人であるアンジェラ様を殺すなんてできない。
……なんとも悪魔らしい選択肢の与え方だ。
結局の所、自分しか得にならない選択肢を与えて、どっちも選ばなかったら、一番得する選択肢を自分で行使するのだ。
悪魔は狡猾で卑怯で臆病で傲慢な存在だ。
「シェナは選ばない。悪魔の言いなりにはならない」
「いいの? それだと、あなたの大切なアンジェラが死ぬことになるけど、ここは大人しく子飼いになった方がいいんじゃない?」
「シェナは選ばない──」
「そう。なら、アンジェラ──あなたには死んでもうわ」
「あなたの目的はシェナを子飼いにすることでしょ。アンジェラ様を殺す理由は無いはずよ」
「殺す理由? あなた正気? 散々あたしのことを殺そうとして、殺されないと思ったの? これだから下等種族ってのは脳ミソも足りてないわね」
バラのツタがアンジェラ様を襲う。
辛うじて剣で弾くが、その間に足を取られてしまった。
「残念──恨むなら選ばなかったらシェナを恨んでね」
「アンジェラ様ッ!!」
「シェナ、あなたは正しいわ」
「で、でも──」
アンジェラ様は足を取られても尚、剣を構えることを止めなかった。
するといきなり──遠くから歌声が聴こえた。
包み込むような優しく柔らかな歌声。
「これは──精霊の旅路……」
エルフ王国に代々受け継がれる歌。
親が子に歌う子守り唄みたいなものだが、本当は全てのエルフ族に癒しと活力を与える歌である。
アンジェラ様は後ろを振り向いた。
そこには──アンジェラ様の娘である、ノエル・カリオペがそこに立っていた。
「お母様、わたしがお助けします──」
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