幕間のひと間 その9
アタシの名前はシノ・エクシア──
フローレス公爵家に仕えるエクシア侯爵家の長女。
今は学院の課題で王都の近くにあるアンキラブル大迷宮の探索任務に出てる。
なんでこんな事しなきゃいけないのかわからないけど、王都では学院の総合武術大会が開催されている。
出場しない生徒に対して課題を設けているんだけど、別に大会の観戦してもよくない?
なんでわざわざ迷宮に入って探索任務しなきゃいけないのよ。
こんなんだったら面倒くさがらず、アタシも大会に出ればよかった。
今日の探索任務は10階層から13階層までの異変の調査なんだけど、アタシとアリスで任務に当たっていた。
アリス・フローレス……もとい、アリス・トゥルメリア。
アタシの幼なじみで大親友。
フローレス公爵家はアタシの家の直属の上司みたいなもので、そこのお嬢様だと思ってた。
けど──アリスは実はトゥルメリア王家のお姫様で、5歳も年上。
正直──そのことを聞かされた時は、何が何だかさっぱり理解できなかった。
悪魔に命を狙われてて、身を隠すために死んだことにされてフローレス公爵家に匿われて。
グレイシー公爵家のウィルも、実はアリスと同じ境遇でグレイシー公爵家に匿われて。
変身魔法を使ってまで自身の身を守ってるし、実際の姿は凄くお姉さんぽくてかわいいし。
「ホント、意味わかんない……」
「どうしたの、シノちゃん?」
やばっ──
口に出ちゃった。
不思議そうにこっちを見てるけど、凄くかわいい。
お人形みたいで美しい。
麗しの乙女ってこういう人を指すんだろうな。
「あ、いや、なんでもない。ただの独り言」
「そう……。でもいいなぁ、ウィルたちは今頃大会に出て頑張ってるんでしょ? 私も王女じゃなかったら出てたのに」
「寧ろ──王女のくせに探索やらされてるのが面白いけどね」
「全然面白くないからッ しかもお父様も学院の課題はしっかりやりなさいって言うのよ? 公務で観戦させてくれないの酷いわ 」
そりゃあ、見るからに堅物の国王様だもんね。
他の人と特別扱いしないのはいい事だけど、ちょっとワガママ気質なのがホントのアリスなのかもね。
昔はしおらしくて大人しい子だったけど、それも──自分を守るために演じてたってことだよね。
ならアタシの存在って──
「ねぇ、アリス──」
「ん? どうしたの?」
「アリスにとって──アタシってなに?」
「えっ……大事な親友だよ? なに、今更──」
大事な親友って──
でも──アタシはホントのアリスを知らなかった。
アリスはそのことを隠していて、いつの間にか遠い存在になってた。
なにそれ……大事な親友なら、隠さないでよ……。
「なにそれ──意味わかんない」
だめ──
それ以上言ったら、アリスを傷つける。
自分でも分かってるはず。
隠さいでよって本心で思っていても、実際は言えるわけない。
どんなに大切に思われてても、アリスが負った心の傷は、アタシなんかじゃ肩代わりできない。
ずっとずっと──苦しかったはず。
家族と離ればなれになって、お母さんを失って。
身分を隠しても、ずっと悪魔に狙われる。
アタシだったら耐えきれないよ。
なんで……なんで、そんなに強いの?
なんでそんなに笑っていられるの?
アリスはそっと──アタシを優しく抱き締めた。
暖かい温もりが、アタシの身体を伝播していく。
アタシの目からすーっと涙が流れた。
「ごめんね、シノちゃん。ずっと黙ってて」
「なんで──なんで黙ってたの……」
「私の秘密を打ち明けたら、みんなに迷惑かかっちゃうの。それこそ──私を匿ってくれたフローレス家のみなさんや、逃がしてくれたお父様。なにより──ウィルにも迷惑がかかる。もちろん、シノちゃんにもね。だから──なるべく知ってる人を増やさないで黙っているのが最善だったの」
「それってアタシのこと信用してないってこと?」
「違うよ。私はシノちゃんのこと信頼してる。誰よりもずっと側に居たから、私の心の支えなんだよ? でも──私のひと言が世界を滅亡させることになるから、言えなかった」
アリスの目からも涙が流れる。
アリスはずっとひとりで耐えてたんだ。
アタシがこんなこと言っちゃいけない。
彼女の辛さをアタシは受け止め理解してあげなきゃいけないんだ。
じゃないとアリスは誰も信じられなくなってしまう。
「いじわるなこと言ってゴメン。アタシも頭ではわかってるから。アリスはよくひとりで耐えたよ。アタシだったら無理。途中でなにもかもぶちまける」
「シノちゃん……」
「もし──また辛くなったら、アタシに言ってね。力になれることは少ないけど、話聞いて寄り添うことくらいは出来るから」
「ありがとね、シノちゃん……私……私──ッ」
今まで張り詰めていたものが切れてしまったのだろう。
アリスは大粒の涙を流し泣いた。
アタシたちダンジョンでなにやってんだろうね。
女の子が二人、ダンジョンで泣いてるなんて。
アタシはアリスを抱き締め返し、背中を優しくさすった──
アタシとアリスは探索任務が終了すると、ようやく解放され、地上に戻ってきた。
「まさか──ダンジョンで泣くとはね」
「でもよかったじゃない。ようやくシノちゃんと腹を割って話せたし」
「そだね。アタシの制服に鼻水付けたことはナイショにしてあげるッ」
「ちょっ──シノちゃん!? 絶対に言わないでね!?」
「どうかなー?」
結局──アリスがどんな人間だろうと、アタシにとってアリスは大切な人に変わりはない。
立場は違えど、アタシとアリスは15年も共にしてきた。
これは紛れもない事実だし、そこには確かに──アタシたちの絆がある。
これからもこの先もずっと、アタシたちは一緒だ。
「シノちゃん、あれ──」
「どうしたの?」
アリスは何かを見つけたかのように指を差した。
そこには──ひとりの女性が傷だらけで倒れていた。
手には魔道具が握られている。
ただ──その女性の容姿は、アタシたち人間とはちがう。
透き通るように肌は白く、耳が尖っている。
白装束に身を纏い、綺麗な金髪の長髪。
どこか──アンジェラ先生に似てた。
アリスは一目散にその人に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「うっ……うぅ……」
意識はあるみたいだ。
ただ──朦朧としててこのままでは彼女が危ない。
アリスはとりあえず、怪我が深い場所にヒールを充てる。
「アンタ、聞こえる? 身なりからしてエルフっぽいけど、どうしたの!?」
「ここに……アンジェラという……エルフは……居ますか……」
ようやく喋った。
アンジェラ……
もしかして、アンジェラ先生のことをいってるのかな?
「それって、アンジェラ・カリオペって人?」
「そ、そうです……取り急ぎ……彼女に会わせてください……エルフ国が、エルフ国があぶな……」
「ちょ、ちょっとッ!! アンタッ!! しっかりしなさいッ!!」
そう言うと彼女は気絶してしまった。
アンジェラ先生を尋ねてここまでやってきたのだろうか。
だが──エルフ国と大迷宮は反対側に位置しているし、手には魔道具が握られてるし、転移魔法が付与されていて、ここに流れ着いてしまったのだろうか。
「シノちゃん──とりあえずアンジェラ先生の元に向かおう」
「そうだね。話はそこから」
アタシとアリスは彼女に肩を貸し、テレポーテーションで闘技場に向かった──
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