総合武術大会⑨ ウィル VS ダンタリオン
「ダンタリオン、ジェイドはどうした」
「ジェイド……? あぁ、君の目の前にいるじゃないか」
「茶化すな。真面目に答えろ」
悪魔はこの地上で活動する際に、器が必要になる。
ただ──その器は人間や獣人亜人の身体を乗っ取る形になるので、器がもし消滅した際は、精神体としてこの地上に浮遊する。
はっきりと分かっているのは、器が無いと攻撃して来れないし、神聖魔法にも滅法弱い。
現に僕が倒したベリアルも、精神体の状態の時は攻撃して来なかったし、逃げるだけだった。
消滅させた時も、オールピュリフィケーションで一瞬にして消滅したので、悪魔も無敵という訳では無い。
そして──ダンタリオンの器だったジェイド・マーセナス。
今はダンタリオンが彼の肉体を支配しているが、ジェイド自身は生きているのか?
もし生きているならダンタリオンの精神体だけ抜き取って救出することは可能なのだが、もし──死んでしまっていたら、そのまま彼の肉体ごと葬り去ってしまう方が、戦いとしては楽だ。
けど相手は悪魔で、自称頭が良いと言っているダンタリオンだ。
正直に話すことはないだろう。
「もし──彼が生きてるとしたら、君はどうするんだ? ワタシから彼を助けるか? それとも、彼ごと葬り去ってしまうか?」
「決まってるじゃないか。貴様ごと葬り去る」
ここは駆け引きだ──
人間なら──同族を守るために助けるというだろう。
でも僕は違う。
敢えて──逆の事を言うことにより相手の動揺を誘い出す。
動揺している隙に、行動阻害系の魔法を撃ち込むことによって、ダンタリオンを捕獲する算段だ。
この作戦で行けば──
「──可哀想なことに、嘘は良くないね」
「どうして嘘じゃないと言える」
「だって──君とジェイドの関係は肉薄だが、もし彼が生きていたら君は助けるだろう。人間は同胞のために生命を賭してでも助ける美徳の集合体だからね」
「僕がその──美徳の集合体からかけ離れてる人間だったら?」
「それはない。君は誰かの為に命を張れる人間だ。ダンジョンでベリアルと戦闘した時も、同級生のスレブに刺された時も、スタンピードの首謀者、ベリアルを討ち果たした時も──」
くそ──全部お見通しってワケだ。
そういえば、ダンタリオンって嘘を暴けるんだっけ?
だとしたら──彼に嘘をつくのは愚策だ。
いくらこちら側が相手と心理戦を繰り広げたところで、相手は全ての嘘を見破れる。
正面から突撃したほうが、まだ勝機はあるか。
「そこには常に誰かが居て、常に誰かを守ってる。君は、この世界の為なら──自分の命まで捨てて守り抜こうとする人間だ」
「それはちょっと違うかな──」
「──はて?」
「世界なんてどうでもいい。そばに居る大切な人たちが、笑顔で居てくれればそれでいいんだ」
世界がどうのとか正直どうでもいいんだ。
偉大なる御方って奴が復活するのは嫌だから、そこは世界を守る為に死なないよう努力するけど。
てか──僕が死ぬイコール世界の滅亡なら、尚更──自分自身の命を賭ける行為はタブーじゃないか。
そんな危険なこと出来るわけないよね。
「頭が良い割には、人間の気持ちとかには頭が回らないようだね。つまらない論争はやめて、僕の質問に答えてもらおうか」
「ワタシに対して知ったような口を利くのは君が初めてだよ。良いだろう教えてやる。ジェイドは生きている。ちゃんとワタシの中でね」
「信用できない。証拠は」
「抜け目ない人間だな。ほら──」
ダンタリオンの人を馬鹿にするような目つきから、誰かに助けを求めるような目つきに変わった。
もしかしたら芝居かもしれない。
注意しないと。
「君はウィル・グレイシーなのか? そうだよね。なら聞いてくれ、エルフ国が危ないッ。ぼくのことはいいからそっちを──」
「ええいッ!! 余計なことまで喋りやがって」
押さえつけるようにダンタリオンに戻った。
だが──この慌てよう、確かにジェイドが生きていることは間違いないみたいだ。
だけど、このままではジェイドの心が危ない。
文献に書いてあった。
これ以上ダンタリオンに肉体を支配され続けると、ジェイドの心自体が消滅しかねない。
それに──エルフ国が危ないってどういうことだ?
「エルフ国が危ないってどういうことだ」
「君には関係ないことだ。忘れてくれ」
「いや──無理な話だね。トゥルメリアとエルフ国は、形骸化したとはいえ──同盟国の間柄だ。なにかあったら同盟国として対処するのは当たり前なことだろう」
ダンタリオンは呆れたようにため息をつく。
ジェイドがこのタイミングでエルフ国のことを言ったのは、何かしらこの戦いに関係あるということだ。
しかも──素性をバラしたのにも関わらず、ダンタリオンは自ら僕に攻撃する素振りすらない。
口では大きなことを言っているが、攻撃してこないことが何か意図的に感じてしまう。
ならば──
僕は二丁拳銃を取りだし、横に旋回しながら連射する。
ダンタリオンはいきなりのことに面を食らった表情をしているが、軽々とバリアで防御した。
「ほぅ、そんな面白い武器をここで見れるとは。君はもしかして──」
「生成スキルで作ったオリジナルの銃だ。従来の銃とは違い、軽量化してかつ魔力を込めることによって、魔弾を連射できる優れものさ」
「ワタシが言いたいのはそういうことじゃないんですがね。まあいいでしょう。そろそろ十分時間も稼げましたし、ワタシのお役はここまでです」
ダンタリオンは宙に浮く。
どうやら逃げようとしているのだろう。
僕は逃がさまいと浮遊魔法で宙に浮きながら、銃を連射させる。
ダンタリオンとの間合いに入ると、刀を取り出しダンタリオンを切りつけようとするが、ダンタリオンも剣を取り出し、それを止めた。
「神聖魔法が付与されてる刀ですか。君の持ってる武器はどれも奇抜で面白い。でも──ッ」
ダンタリオンは剣で僕を払うと、一定の間合いをつくり、すぐさま詠唱を始めた。
「目を開け、口を聞け、耳を閉じろ。理は世界を歪める──インフィニット」
闇魔法──
インフィニットってなんだ?
聞いた事のない闇魔法だ。
闇魔法を発動したダンタリオンが、どう出てくるか分からない。
ここは僕も神聖魔法を発動するしかない──
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。そして──我が言の葉の願いを叶え給い、悪しき者から尊き者を救う力となれ、オールハイネス」
闇魔法──インフィニットを発動したダンタリオンは目の前から消えた。
だが、僕のオールハイネスは通常よりも100倍の能力補正がかかる。
ダンタリオンが僕の後ろに付いて攻撃してくることはすでに分かっていた。
僕はすぐさま振り返り、彼の斬撃を刀で受け止めた。
「オールハイネスを発動しワタシの斬撃を受け止めるとは。しかし妙ですね。インフィニットを発動しているのに、オールハイネス程度で受け止めるなんて」
「そのインフィニットってのがどういう能力かしらないけど、僕のオールハイネスは100倍の能力補正がかかるんだ」
「ハハハッ、なんだその頭の悪いガキが考えたバフ補正はッ」
頑なに自分の情報を漏らそうとはしないか──
自分が隠匿している情報が漏れたら、自分自身が不利になるってことが分かっている立ち居振る舞いだ。
動きから推測して、ある程度の俊敏補正があるようだ。
ただそれだけじゃないだろう。
僅かながら斬撃も重くなっていた。
オールハイネスの下位互換なのか?
「これだと、まだ気づかないようだね。まあ何せ、100倍の能力補正だっけ? それは時間がかかるだろうね」
「勿体ぶらないで言ってみたらどうだ?」
「なんだよ、考えることを放棄したのか。面白くないなぁ。君はもっと思考を巡らせられる人間だと思っんだが、ワタシの見当違いだった」
「煽ってるつもりなら、それは無意味だよ」
僕は何度もダンタリオンを切りつける。
だが──ダンタリオンはそれの全てを受け止め、何故か余裕の表情まで浮かべていた。
「そろそろ、だね──」
なんだか身体が重い。
相手を切りつけるなんて、別に大したことではないのに、急に疲労感が襲ってきた。
刀を持つことすら憚られる。
「お前──何をした……」
「インフィニットだよ。しょうがないから効果を教えてあげよう。インフィニットは対象者が物理的攻撃を術者に行った場合、その攻撃した分だけ攻撃速度と体力を奪い──重い疲労感を与える魔法だよ。ちなみに──急にワタシが早くなったのは魔法でもなんでもない。ワタシの身体能力そのものだ」
要するに──僕はデバフ魔法を掛けられたってわけだ。
オールハイネスを発動しても、デバフの効果は消えず、僕が攻撃する分だけオールハイネスの恩恵は削られ、疲労感を与えられていたのだ。
なんて厄介な魔法だ。
これでは──刀での戦いは彼に対し有効ではない。
しかも──ダンタリオンは本気を出していなかった。
急に攻撃速度や斬撃が重くなったのは、インフィニット自体がバフ効果があると錯覚させる為の"ブラフ"だったのだ。
まんまとやられた……。
「これで少しは大人しくなった訳ですが、残念──今日はここまでみたいです」
ダンタリオンはそう言うと、剣を収めた。
今僕を仕留める絶好のチャンスなのに、何故やらない。
まあ、襲いかかってきたところで直ぐさまオールパージを起動し、オールグラビティとオールバインドで拘束するんだけど。
「僕を倒す絶好のチャンスなのに、そのチャンスをみすみす逃すんだね」
「それも嘘ですね。ワタシが間合いに入ったら、直ぐさまオールパージをし、オールバインドとオールグラビティで拘束するつもりだったのでしょう」
やはりだめか──
ダンタリオンは全てを見通している。
ただ、インフィニットはオールパージで解除できる情報をくれた。
僕の企みは潰れたが、有益な情報は得られた。
「オールパージ」
インフィニットで付与されたデバフが解除されていくのがわかった。
身体が軽い。
「やはり──比較的簡単な神聖魔法なら、無詠唱で発動できるのは読み通りだったね」
「それじゃあ、2回戦目といきますか」
「それは遠慮しておきます。既にワタシの時間は終わってるからね。ここでお暇するよ」
「逃げるのか? まるで負け犬だな」
「逃げる? 見当違いも甚だしい。目的を遂行した戦略的撤退ですよ。むしろ──ワタシをみすみす取り逃したそちらが負け犬なのでは?」
「────くッ……」
ぐうの音も出なかった。
近接戦闘ではインフィニットを使われてデバフを与えられるし、純粋な魔法の対決では、やはり──魔法に長けているあっちに分がある。
今の段階で、ダンタリオンに勝てる算段が見つからない。
このままダンタリオンを逃がしてしまうのか?
そしたら、ジェイドを助けるのも難しくなってしまう。
「さて──反論はないようだね。もっと君は狡猾さを身につけた方がいい。その点に関しては、ベリアルのほうが何枚も上手だったよ。それでは──」
そういうとダンタリオンは消えてしまった。
僕はダンタリオンを倒すことすら出来ず、ジェイドをも助けられず、何も出来なかった。
神聖魔法という絶対的な力を持ってるのに、何一つ出来なかった。
僕は弱い──
何も出来なかった絶望からか、僕は膝から崩れ落ちた。
「ウィル様──ッ」
僕は絶望に打ちひしがれながらも前を見ると、シェナが僕の元に駆け寄ってきた。
「ウィル様、大丈夫ですか? こっちは魔獣の駆逐完了しました」
「そうか……ご苦労さま……」
「どうなさったのですか? 心做しか元気が無いと見受けられます……ひゃッ──ウィル様……?」
僕はシェナの手を握った。
暖かい……そして柔らかく綺麗だ。
シェナってこんな美しい手をしてたんだね。
悔しさのあまり──涙が溢れた。
それを見て、シェナは僕を優しく抱きしめた。
「何も言わなくていいです。シェナはウィル様のお傍に居ますから。今はたくさん泣いてください」
「ごめん……シェナ……僕、助けられなかった……ごめん、ごめん……」
僕はシェナの胸の中で、暫く泣き続けた──
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