総合武術大会⑦ ニーナ VS ジェイド
ニーナが入場すると、様々な野次が飛んできた。
「次こそちゃんと試合しろよーッ」
「お嬢ちゃん棄権すんなよーッ」
「こっちは生活かかってんだからちゃんとやれよな」
前の三試合は棄権者が出てまともな試合にならなかった。
しかも、棄権しているのは一回戦から出場している生徒だけで、観客の中にはニーナも危険するのではないかと懐疑的な人も居る。
だからと言って、ニーナが野次を飛ばされる筋合いはないが、見てる観客もフラストレーションが溜まってるし、この大会で賭けごとをしてる人も居るから、これ以上は暴動に発展しかねない。
でも──この状況、ニーナには少し酷すぎるんじゃないか?
僕ならまだしも、人に注目されることすら慣れてないニーナが野次の対象になってしまうのだ。
僕なら逃げちゃうかも。
逃げないけど。
「ニーナ・オースティンと対戦するのは──今大会初出場、上級Aクラスで、あのマーセナス公爵家の跡取り、ジェイド・マーセナスです」
ジェイドが入場すると、打って変わって歓声に包まれた。
6家の中でも最有力の公爵家、マーセナス家の跡取りが出場するのだ。
周りからの期待はもちろん、整った顔立ちに高身長、金髪のウルフヘアで、所謂──イケメンって感じだ。
実際のところ、いくらジェイドに黒い噂があろうとも一般庶民の人たちが具体的に知ることはあまりないし、風の噂で聞いた程度のことをイチイチ信じる人は居ない。
だから、一般庶民の間ではジェイド・マーセナスは一定以上の人気があるのだ。
そして──二人は世間から認知された婚約者同士。
それだけでも周りの盛り上がるには十分な話題だし、ジェイドが勝って関白を貫くか、ニーナが勝ってしりにしくのか──ゴシップ好きにはたまらない一戦だ。
「まさか──ニーナがワタシの初戦の相手だとはね」
「これまでのこと、全て──勝利をもってお返しします」
「そうか……ハハハッ。本気でワタシに勝てると思ってるのか。いいでしょう──ワタシも本気で相手してあげよう」
いざジェイドが対峙すると、ニーナの足は緊張で震えていた。
無理もない。これから自分自身に傷とトラウマを植え付けた相手と戦うのだ。
怖がるなと言うのが無理な話かもしれない。
でも──やれることはやったんだ。
あとは自分を信じるのみだよ、ニーナ。
「わたしが勝ったら、あなたとの婚約を破棄させて頂きます」
「おーっとぉ!? ニーナ・オースティン、勝利した暁には、ジェイド・マーセナスとの婚約の解消をする気だァ!!」
会場はザワついた。
ニーナの唐突な婚約解消宣言に、周りは理解が追いついてなかった。
でも──ニーナの目には迷いは無い。
「そう来たか。面白い、その条件飲んであげよう。もし君が勝ったらの話だがな」
「約束は守ってもらいます」
「いいよ。でも──こちらが勝利したら、ニーナ。君には一生ワタシに隷属してもらう。いいね?」
「わかりました」
「波乱とアクシデントが巻き起こる今大会ですが、こんどこそ、試合が開始されそうですッ!! それでは二回戦最終試合、試合ッ 開始ッ!!」
大歓声と共に試合が開始された。
定石通り──ニーナは自分から攻撃を仕掛けることはしなかった。
ジェイドもニーナの動きに注意しているのか、簡単に動こうとはしない。
だが──不気味な笑顔のまま、ニーナを見下していた。
「君から攻撃してこないのは分かりきっていることだが、ワタシから攻撃しないと観客は退屈してしまうからね。ワタシから仕掛けさせてもらうよ」
ジェイドはニーナに対し手のひらをかざすと、詠唱を始めた。
「風の精霊よ、我が言の葉の力に呼応し疾風の迅速を与えよ。ウィンドブラスト──」
ウィンドブラスト──
風魔法の下級魔法で竜巻状の風を形成し放たれる魔法。
殺傷能力はないが、威力次第では相手を吹き飛ばしたり、その場に止めさせたりと、一時的な行動不能を誘うことができる。
まずは小手調べという感じか。
ニーナもそれに対応するべく、バリアを発動させる。
もちろん──無詠唱だ。
バリアが展開され、ジェイドのウィンドブラストは無に帰した。
「なんと──ニーナ・オースティン、無詠唱で魔法を発動した!! 一回戦では詠唱していましたが、ここに来て本領発揮ということでしょうかッ!!」
「私もニーナちゃんが無詠唱で魔法を発動出来るなんて知らなかったわ。彼女──才能あるわね」
「担任のアンジェラ先生も知らなかった事実。この試合、面白くなって来ましたッ!!」
再び会場に熱気と歓声が戻ってくる。
場内からはニーナコールが響いた。
「たかが無詠唱だろ。そんな驚くことはないさ」
「わたしはあなたの事が大っ嫌いです。いつまでも澄ました顔をしてると、足元すくわれますよ」
「それなら君から攻撃したらどうなんだ? カウンターばかり狙って、自分からなんも出来ないじゃないか」
「なら──ワタシの一撃をおみまいします」
ニーナは手をかざすと、ジェイドの頭上に魔法陣が顕現する。
ジリジリと音を立てる紫電は、ジェイド目掛けて落下していく。
ニーナはサンダーボルトを発動させた。
だが──範囲が狭いのか、ジェイドは軽々とそれを避けた。
「ダメだよニーナ。上級魔法を使う時は相手をしっかり拘束しないと。ワタシはまだ無傷だよ?」
「それは陽動です──」
ニーナは横に展開する。
先程サンダーボルトを発動させて魔力が枯渇寸前になってしまったので、ニーナのユニークスキル、リペアが発動した。
リペアのお陰で、ニーナは直ぐさま次の行動に移し、両手で銃の形をつくり、何発もショックボルトを連射する。
ショックボルトは下級魔法の一つで、それほど魔力を必要としないから、リペアを発動しているニーナはショックボルトを連射出来るのだ。
ショックボルトの何発かが、ジェイドに命中する。
「────ッ!!」
「ニーナ・オースティンの攻撃がジェイド・マーセナスに直撃するッ!! ジェイド、対抗策はあるのかァ!!」
「うるさい外野だな……君の力は認めようニーナ。だが、ワタシも負けられないんでね」
ジェイドは風を手に纏い、ウィンドブレードを形成した。
ショックボルトを弾きながら、ニーナとの間合いを詰めていく。
「近接戦闘は苦手かな? ニーナ」
「あなたは本当に弱いものイジメが好きなんですね。雷鳴剣──」
ニーナは紫電を手に纏い、剣を形成した。
雷鳴剣は、サンダーボルトと並ぶ上級魔法で、魔力量はショックボルト並みで魔力を必要としないものの、切り裂けば瞬時に真っ二つに出来る、高火力の武器になる。
「雷鳴剣──あの子すげえな。近接も遠距離も戦えるなんて、ガルド以来の天才かもな」
「そうね──でも、あの子は事務方志望だから軍には入らないと思うわ」
「そんなのわかんねえだろ。俺は是非欲しい」
「軍に入ったら即戦力かもね」
ニーナとジェイドは斬撃を交わす。
1週間でここまで鍛えたが、実践的な動きはまだまだだ。
やはり──戦闘慣れしているジェイドがニーナを攻め、ニーナは防戦一方になってしまう。
やがてニーナの体力は限界に近づき、リペアの発動も収まってしまった。
無防備になったニーナを、一方的に暴行した。
静まり返った闘技場にニーナの惨たらしい悲痛が響き渡る。
ジェイドは横たわるニーナの髪の毛を鷲掴みし無理矢理立たせた。
ニーナは最後の力を振り絞り抵抗する。
「やはり──ここまでか。伯爵家の人間にしてはよく頑張ったよ。ワタシはまだ余裕だけどね」
「まだ……まだ、戦える……わたしは、あなたに負けない」
「殊勝なことだ。諦めないその姿勢、誰に影響されたんだろうね。でも残念。君の負けだよ? ニーナ」
ニーナの息は完全に上がっており、魔力も枯渇して頼みの綱であるリペアも発動しない。
勝負あった。
ニーナは抵抗を止め俯いた。
「うぅ……わたしの負けです……降参します……」
「降参? 生ぬるいなぁ。まだ君は立ってるじゃないか。勝負はまだ着いてないよ」
「もう戦える力は残ってません。降参します」
「黙れよ、人間が。負けを認めた人間なら、ワタシの一撃を食らって負けろ」
まずい──
ジェイドは降参するニーナにトドメを刺すつもりだ。
彼女を投げ飛ばし間合いを取ると、ジェイドは詠唱を始めた。
だが──ニーナは魔力も体力も無いから、その場から動けずに居る。
ジェイドの言動もおかしい。
急にニーナのことを人間と言い始めている。
もしかして──
「面白い試合だったよニーナ。これで終わりだ。火炎の戦神よ、我が言の葉の願いを聞き給い顕現せよ──」
「やめて……ジェイド様──」
ダメだ、このままではニーナが死んでしまう──
でも今いる距離から闘技場のフィールドまで距離がある。
こんなところでテレポーテーションなんて使えないし、彼女を助けることが出来ない。
考えてるヒマは無い、僕はとにかく走った。
「インフェルノ──」
ニーナの頭上に魔法陣が顕現し──業火がニーナを襲った。
ダメなのか──
「オールバリア──」
インフェルノがニーナを襲う刹那──
誰かのオールバリアが直撃スレスレでニーナを救った。
アンジェラ先生の神聖魔法が、彼女を救ったのだ。
「ジェイド・マーセナス。彼女は降参しています。これ以上の攻撃は、あなたの立場を悪くしますよ」
「んだよ──邪魔しやがって……」
助かったことに安堵したニーナは、その場にへたれこんだ。
もし──アンジェラ先生のオールバリアが間に合ってなかったら、ニーナは死んでいた。
それも間違いなく──
ニーナの元に辿り着き駆け寄ると、ニーナは酷く憔悴仕切っていた。
「ジェイド、ニーナはもう戦えない。今すぐここから引けッ!!」
「おいおい、そいつはワタシの婚約者だぞ? 婚約者同士のことに外野が首を突っ込まないで頂きたい」
「けど──お前はニーナが戦闘不能だって知りながら、インフェルノを発動させた。明らかに殺そうとしてただろ」
「なにを言ってるんだ君は。ニーナがインフェルノ如きで死ぬワケないだろ。そんなに脆いのか? 人間ってのは」
「お前も同じ人間なんだから、インフェルノを食らったら死ぬって分かってるハズだ。さっきからおかしいぞ」
「勘の悪いガキだよ。こんな奴にアイツは負けたのか」
「お前……まさか──」
僕は考えるよりも先に身体が動いてしまった。
インベントリから刀を取り出し、ジェイドに切りかかろうとする。
「待てッ──ウィルッ!!」
僕はいきなりの制止に、動きが止まった。
ケインだった──
「悪いけどウィル、そいつの次の相手は俺なんだ。ニーナと一緒にそこをどいてくれないか?」
それは総合武術大会での話だ。
でも今は、ジェイドは本性を現した。
口では言わないが、明らかに人間とは違う雰囲気を漂わせている。
「ダメだ──君じゃ勝てない相手だ。このまま僕がやる」
「そんなの分かってるよ。いいから──俺にやらせてくれ」
ケインの目は本気だった。
仲間をここまでコケにされて、許せない気持ちもケインは一緒だったのだろう。
僕はそれを了承し、ニーナとともにフィールドから撤退する。
「アンジェラ先生ッ!! 観客を退避させてください!! このままでは巻き込まれて死人が出ますッ!! 早くッ!!」
「ダグラス……」
「ウィルに従う。おい実況──大会は中止だ。観客全員退避させろ」
「えッ──でも……」
「でもじゃねぇ!! これは軍の命令だ。わかったな」
「は、はい──ッ」
実況のアナウンスにより、観客の退避が始まった。
一部は不満を爆発し居座る人が居たが、そこはさすが父さん。ドラゴンのような威圧感で追い返した。
そして──観客全員の退避が終わると、闘技場は異様な静けさに包まれた──
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