総合武術大会⑤ ニーナ VS スレブ
「それでは早速、一回戦第一試合と参りましょうッ」
一回戦第一試合はニーナとスレブの開幕試合だ。
大事なオープニングゲームだから、戦いに慣れてないニーナにはかなりの重圧がのしかかっている。
相手は予選から勝ち上がってきた下級Bクラスのスレブだ。
公爵家といえど、他の貴族より魔力量と魔力操作に関しては分がある。
それでも──ニーナは負けられない。
だって──この試合に勝てば、待っているのは因縁が深いジェイドだ。
「ニーナ、頑張ってね」
「シェナ、応援してる」
「ササッと倒してきちゃいな」
「ありがとうみんな。頑張ってきます」
ニーナは柔らかい笑顔でフィールドに向かった。
「大事な大事なオープニングゲームッ!! 対戦するカードは、下級Aクラスのニーナ・オースティンと、予選から勝ち上がってきた下級Bクラスのスレブ・レニツァです!! お二方はこの試合どう見ますか?」
「やってみなきゃわからないが、公爵家のスレブが一歩有利ってとこかな。あとは知らん」
「そうね──ニーナちゃんって戦闘系ってよりかは事務方の非戦闘系だからちょっと心配だけど、私の大事な教え子だから勝って欲しいわ」
やはり──下馬評では、ニーナが戦闘を苦手としている為、スレブ有利なのは変わりないか。
でも、ニーナには最低限の戦い方は教えたつもりだ。
あとはその教えを生かすも殺すも、ニーナ次第ってとこだ。
「ニーナ・オースティン。伯爵令嬢で戦闘が苦手なキミが、この大会に出場してるなんて驚きだよ」
「レニツァ様──わたしもイチ貴族として負けられない理由があります。全力で相手させて頂きます」
「とは言うものの、手足が震えてるのはやはり緊張と不安から来るものだ。言っておくがあの時の傲慢で怠惰で醜いオレとは違う。正々堂々敬意を持ってお相手願うッ!!」
スレブの口からそんな言葉が出てくるなんて……。
なんだろ、感動で涙が出てきそう。
いや泣かないけどさ。
でも──スレブも本気で改心して努力してきたんだな。
その表れが言動に出てるのは彼が実行して来た証だ。
けどさ、これが外面用の常套句だったら、僕許さないからね?
消し炭にしちゃうからね。
「それでは──試合ッ 開始ィ!!」
大歓声と共に試合が開始された。
試合が開始されて数十秒は睨み合いが続いた。
相手の出方を探る上では読み合いにおける間のとり方だが、戦闘に慣れてないニーナにとっては、先手で攻撃を仕掛けてはカウンターを入れられてしまうと、経験値の差でその後の戦闘がキツくなってしまう。
なので──ここは、一旦スレブに先に攻撃させて防御しつつ、相手の行動パターンや攻撃パターンなどを把握して攻めに転じたい。
ただ──スレブも分かっているだろう。
ニーナ自身戦闘に不慣れで自分から仕掛けてくることは無いと。
一向に攻撃してこないスレブに痺れを切らせて、ニーナから攻撃を仕掛けさせカウンターを入れる手法もある。
でもそこは大丈夫。
ニーナには絶対に自分から動くなと伝えてる。
そうすれば不用意にカウンターを貰うことは少なくなるからね。
「両者、読み合いの時間が続きます。アンジェラ先生、これはどういうことでしょうか」
「二人とも相手が攻撃してくるまで動かないつもりだわ。ニーナは戦闘の経験値が少ないから、自分から攻撃することは無いだろうし、スレブに関しては、ニーナが痺れを切らして攻撃してくるのを待ってるのよ」
「まあ──この試合、すぐケリがつくだろうよ」
「そうね、一瞬の判断ミスが致命傷になるわ」
しかも──改心したといえど、スレブの元の性格は傲慢だ。
改心しても変えられないのは人の性格で、1ヶ月やそこらで簡単に変わるなら、そんな個性は個性じゃない。
自分の戦法が通じなかったら、すぐさま作戦変更してくるだろうし、きっと──痺れを切らしてスレブから攻撃してくるだろう。
「なぁウィル、ニーナは勝てるか?」
「大丈夫──ニーナはきっと勝てるよ」
「ニーナ、強い、シェナが保証する」
「ほら──シェナさんのお墨付きですよ」
シェナはケインに対しドヤ顔でサムズアップした。
ケインもそれを見てやれやれと微笑んだ。
そして──試合が動いたのはそう時間が経ってない時だった。
先に動いたのは、やはりスレブからだった。
「水星の巫女よ、我の言の葉の力に呼応し水の加護を与えよ。バブルマシンガン」
バブルマシンガン──
水魔法の中位魔法で、無数の水の弾丸を発射させる。
「雷帝よ、我の言の葉の力に呼応し雷の加護を。バリア」
ニーナはしっかりと雷魔法の詠唱をし、スレブのバブルマシンガンを防いだ。
本来──ニーナは無詠唱で魔法を行使できるが、実は──無詠唱魔法の発動は、通常の魔法発動に比べて魔力の消費量が多くかかってしまうのだ。
口に出して詠唱すればイメージせずとも、言葉だけの簡略化で魔法は使える。
だが──無詠唱はイメージする分、詠唱で簡略化出来ないので、その分魔力が消費される仕組みってワケだ。
なので、無駄な魔力を消費しないためにも、ここはしっかりと力を温存しながら戦っていく必要がある。
だからといって──スレブを舐めてるワケではない。
負けそうになったら相手構わず無詠唱で戦えとも指示してある。
ただ──スレブのバブルマシンガンも衰えを知らない。
断続的に攻撃を繰り出していた。
それに対しニーナはバリアで防いでるが、魔力量が少ないニーナからすれば、この持久戦はニーナ側が不利になる。
実際──ニーナの息は上がっていた。
「もう限界か? ニーナ・オースティン。オレはまだ戦えるぞ?」
「わたしだって……まだ、戦えます」
まだ戦えると言うが、実際はもう──ほぼ魔力は残ってない。
サンダーボルトを撃てるかどうかくらいしかないだろう。
「無理をするな。オレはもう弱き者をいじめることはしたくないんだ」
「わたしは……弱く、ないッ!!」
すると──いきなりニーナから白い光が霧散していくではないか。
これは初めて見る光景だが、もしかして──
「ニーナのユニークスキル……」
この世界にはユニークスキルという個人が持てる特別なスキル……所謂──異能の力を持っている。
例えば、僕なら生成スキル、シェナなら隠匿スキルのシャドウ。アンジェラ先生なら読心スキルなどがある。
そのユニークスキルをニーナは今発動しているのだ。
「これはどういったことでしょうか!! 担任のアンジェラ先生、解説を」
「ニーナちゃんのユニークスキル、リペアよ。発動すると戦闘が終わるまで永続的に魔力量が回復するスキルだわ。即ち──今のニーナちゃんの魔力量は無限だわ」
なんていうチートスキルなんだ。
元から魔力量が少ないニーナからすれば、魔力量の少なさで戦いの幅が狭まっていた所をリペアスキルで無理矢理解決させるのか。
しかも──雷魔法の加護持ちだから無詠唱で無限に魔法を撃ち込める。
もしかしたら──ニーナって最強なのかもしれない。
「魔力が復活するからってなんだッ!! キミは防御に徹してるだけで攻撃をして来ないじゃないか」
「なら──ここからはわたしの番ですッ」
スレブのバブルマシンガンを受け耐えながら、ニーナは詠唱に入った。
魔法を発動させながら次の魔法の詠唱に入るのは難しいことなのだが、これに関しては練習すれば誰でもできるようになる。
ただ──練習と戦闘は違う。
死と隣り合わせの状態と平常時では、プレッシャーで押しつぶされそうになるから、平常時で出来ても戦闘で出来なくなるというのは珍しくない。
だが──ニーナは違った。
ニーナの表情はすでに、戦う顔だった。
怯えてて震えてるニーナは、もうそこに居なかった。
これなら勝てる──僕はそう確信した。
「雷帝よ、我の言の葉の力に呼応し雷の加護を。サンダーボルトッ!!」
スレブの頭上に魔法陣が形成される。
帯電した雷は、スレブ目掛けて落ちてきた。
「な、なに──ッ」
スレブは慌てて水の弾幕を張ろうとするが、水と雷では水の方が相性が悪い。
雷が水を貫通し、スレブに直撃した。
「うぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!!!!」
会場に響き渡るスレブの断末魔。
やがて──雷が落ち着くと、スレブは膝から崩れ落ちた。
「な、なんと──ニーナ・オースティンッ!! 一発でスレブ・レニツァを仕留めたァ!! 勝者ッ ニーナ・オースティンッ!!」
会場からは割れんばかりの歓声が響いた。
それもそうだ。
伯爵令嬢が公爵家跡取りを打ち負かしたのだ。
それも、カウンターを決めたたった一発のサンダーボルトで。
「勝った……わたし……勝ちました……」
ニーナは涙を流しながら深々とお辞儀をする。
誰もがスレブが勝つだろうと予測していた中、その下馬評を覆し、ニーナが圧倒的な力の差で勝ったのだ。
ニーナが僕たちの元に帰ってくると、シェナは真っ先にニーナに抱きついた。
「ニーナ、強い、かっこよかった」
「ありがとうシェナさん」
「ニーナが一週間頑張った証だよ。おめでとう」
「ウィルくん……ウィルくんもわたしに戦い方を教えてくれてありがとう」
彼女の表情はどこか晴れやかな顔だった。
そこにはもう──前のニーナは居ない。
「次はジェイドだな」
「そうだね。ニーナの手の内は全てバレてしまったけど、ジェイドは舐めてかかってくるだろう」
「その時は真正面からぶつかって、彼に土を付けます」
「ニーナなら、あのクソ野郎、勝てる。大丈夫」
シェナさん、お口が悪くてよ。
女の子がクソ野郎なんて言葉使ったらダメです。
油断はできない。
ジェイドも公爵家の人間だし、上級生で戦い方を知ってる。
相当キツい戦いになるが、その時は今持てる全力でぶつかるだけだ。
一回戦第一試合は、ニーナの勝利で幕を閉じた──
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