幕間のひと間 その8
「報告します──第一次防衛ライン、第二次防衛ライン共に突破されましたッ!!」
私の元に来た連絡係が血相を変えてやってきて報告したのは、その名の通り絶望の知らせだった。
エルフ国の軍総司令の職を担う私──フリーゲル・カリオペは現在、突如侵攻してきた魔族に対する防衛を行っている。
こんな真夜中に侵攻してきた魔族に私たちの軍は、急な事もあり動揺が隠しきれなかった。
現に──ふたつの防衛ラインが突破され、残すは最終防衛ラインのみ。
力でも数でも勝る魔族にどうやったら太刀打ちできるのか──
やはり──エルフ族だけでは魔族の侵攻に対し為す術はないのか──
「予備戦力を投入しろ。神聖魔術部隊も投入して構わない。とにかく──魔族の侵攻を食い止めろッ!!」
「お、仰せのままに……」
「フリーゲルお兄様……」
「……ノエルか。何の用だ」
銀髪でスラッとした長さ。弱々しい華奢な身体の姪のノエルが私の元にやって来た。
私の姉の娘で、ハーフエルフの使えない子供だ。
正直──こいつに構ってるヒマはない。
「わたしも、何かできることがあるなら……」
「お前にできることなど何も無い。引っ込んでろ」
「でも──」
「──引っ込んでろと言ったのだ。聞こえなかったか」
「申し訳ございません……」
私の怒気に萎縮したのか、ノエルはここを去ろうとする。
いや待て──こいつにも使い道はある。
「待てノエル」
「は、はいッ」
「トゥルメリア王国に行って、アンジェラに会って今の状況を伝えてこい。曲がりなりにもこの国とトゥルメリアは同盟関係にある。支援を要請しろ」
何百年も前に締結された同盟で既に形骸化されてるものだが、今の現状を伝えればトゥルメリアの奴らも支援せざるを得ないからな。
ここエルフ国が突破されれば人間側にも多大な影響を被ることになる。
エルフ国だけで対処できないのは嘆かわしいことだがな。
「しかし──わたしはこの国から出国するのは禁止されていて──」
「今は有事だ。そんなことを気にしなくていい。一刻も早く──アンジェラの元に迎え」
「お、仰せのままに……」
「それに──ここから逃げて自分だけが助かろうと思うなよ。お前が生かされてるのはこの私のお陰なのだからな」
それを聞くとノエルはこの場を去った。
ただでさえ純血で高貴なるエルフという血に、人間という【不純物】が混ざりあっているノエルだ。
ノエルさえ居なければ姉さんはこの地で大成出来ただろうに。
自ら交流の使節団になり、まさか──人間と子を宿すなんて。
なんとも嘆かわしい不名誉だ。
しかし──今はノエルのことを考えているヒマはない。
このエルフ王国が魔族によって存亡の危機に瀕しているのは変わりないのだから。
「これより──神聖魔法による浄化作戦を行う。エルドレットの部隊はどうしてる」
「エルドレット様の部隊、敵魔族と交戦中です」
「エルドレットの部隊に告げろ。後方に下がって神聖魔法の詠唱準備。前線の部隊はエルドレットが神聖魔法を発動するまでなんとしてでも耐えさせろ」
「はッ!! 仰せのままにッ」
「私も全然に赴く。この場の指揮は副官──頼んだぞ」
「仰せのままに」
私たちエルフはここで滅亡してはならない。
高貴なる血であり、なにより──魔法に優れ、世界に秩序をもたらす種族だからだ。
魔族如きがエルフの土地を穢すなど笑止千万。
私はエルフの誇りを胸に、戦地に赴いた──




