実家へ帰らせて頂きます④
カマルの斬撃は重かった。
しかし──受けきれないことはないが、剣よりも刀身が細い刀では、押されてしまう。
しかも相手はあの屈強な体躯を持つカマルだ。
力でゴリ押しされては敵わない。
「美しい業物ですが、やはり──細い刀では純粋な力には勝てませんな」
「戦いとは力だけが勝敗に直結するものではないよ」
「それはもちろんです。その技量を活かす為に、我々は身体を鍛えてるのです。脳筋集団と言われますが、理にかなってることをしてるのですよ」
ごもっともだ。
だが──今は相手を圧倒する為だけに力でゴリ押ししくるだけだ。
こちらが戦法を変えれば、カマルも力だけに頼った戦い方を止め、テクニカルなことをしてくるだろう。
「なら──その技量ってやつを見せてよ」
僕は一歩足を踏み出し、刀で剣を撫でるように逸らした。
カマルの身体が前傾姿勢になりよろける。
「──なッ」
僕はすかさず、カマルの脇腹に前蹴りを入れると、カマルは横に尻もちを付いた。
だが、こちらに攻撃の隙を与えない為か、直ぐさま立ち上がる。
「うおらぁぁぁあッ!!」
雄叫びと共に剣を振り下ろしてくる。
また刀で撫でるように剣戟を流す。
そんなものは想定済みと言わんばかりか、カマルは二撃三撃と止めどなく剣を振ってくる。
剣戟を正面で受け止めると──カマルは前蹴りを繰り出してきて、それを諸に食らってしまった。
「──くッ!!」
痛みを堪えてるヒマは無い。
間髪入れず──カマルは剣を大振りしてきた。
それを避けるが次は一歩踏み出し予備動作無しに横に大振りしてくる。
「ウィル様──避けたり躱したり、そればかりだけでは勝てませんよ」
「攻撃するだけが戦いじゃないよカマル。時には相手の攻撃を躱したり、間合いをしっかり取って次の攻撃に備え息を整える。そういうのも大事だよ」
要するに読み合いということだ。
剣道において──読み合いとは最も重要だ。
相手の体躯や些細な動きを見て、攻撃を予測する。
そしてそこに生まれた一瞬の隙を突いて自身の一打を撃ち込む。
その読み合いこそが──瞬時に決着を有するのだ。
実際にカマルの攻撃や立ち回りは、僕に攻撃の隙を与えないようにしているが、だが──こちら側が攻撃せず防御や回避に徹していれば、カマルは自身の打撃を与えることにリソースを吐く。
攻撃にリソースを吐く分、体力の消耗は激しい。
体力が消耗した時の防御や回避は甘さが生まれる。
その隙を縫って、カウンターする算段だ。
こういう身体が大きく攻撃が大振りな相手って、攻撃に大部分のリソースを吐くから、防御や回避が甘くなるんだよな。
現に──カマルは攻撃を断続的に行っていたせいか、息切れを起こしていた。
対象的に僕の体力はまだまだ余裕だ。
「カマル、お前もう疲れたのか?」
「すみません総帥──中々攻撃が当たらなくて」
「それはそうだわ。あなたの場合──大振りな攻撃ばかりしてるから、ウィル様はなんのリスクも無く回避できるのよ」
「シェナが見た感じ、あれは目をつぶってても避けれるわね」
シェナさん、それは言い過ぎかもしれません……。
アンジェラ先生の言う通り──カマルの攻撃は大振りだから、回避しやすいってのもそうだ。
だが──これが剣以外の攻撃が含まれた場合、例えば──殴打、掴み、蹴りなどの攻撃を含まれたら厄介かもしれない。
「カマル、今後の為に一つ助言をしてあげるよ」
「助言? 戦いの最中に余裕ですね」
「なら──攻撃を躱しながら助言しましょうか?」
「わたくしも舐められたものだ──ッ!!」
また大振りの攻撃をしてくる。
だが──僕は何事も無かったかのように避ける。
「カマルは僕に──技量を活かす為に、身体を鍛えてると言ったが、現にカマルの攻撃はなんの捻りも無い、脳筋そのものの戦い方をしてます」
「と言うと?」
「なら──技量を活かした戦いとはどういうものか実戦を以て助言しましょう」
刀をしまい、剣を取り出した。
生成スキルで練習用でテキトーに作った剣だから、斬撃には耐えられないと思うが、無いよりかはマシだ。
僕は敢えて──縦に大振りな攻撃を繰り出した。
カマルが躱し剣が空を切るが、次は横に大振りな攻撃を繰り出す。
これもカマルは避けるが、ここまではカマルがしてきた攻撃と一緒。
だが──ここから違うのが、技量を使った戦い方だ。
袈裟の角度から切り込もうとすると、カマルもそれに応戦して剣と剣がぶつかり合う。
僕はそのまま突き飛ばすと、カマルの腕を取り──背負い投げをした。
地面に叩きつけられるカマル。
「────ガハッ!!」
僕はカマルに剣を突き付けた。
「カマル──あなたは剣だけの攻撃に頼りすぎです。大振りの攻撃をしていればいつかは当たると思いますが、僕みたいな身体が細く、シェナみたいに動きが俊敏な相手にはまず当たらないでしょう。それで活かされるのはあなた方がいつもやってる、組手の体術です」
実際に剣だけの戦いは有り得ない。
防御で使っている盾を相手に攻撃する名目で当てれば打撃になるし、剣が弾かれたり折れたりすれば、体術戦闘になる。
自分の剣戟に相当な自信があるのなら剣だけの戦闘でもいいのだが、それでも──相手はあの手この手を使って倒しに来るだろう。
倒されないためにどうしたらいいか──
こちらも手段を選ばずあの手この手を使って対峙したらいいだけの事だ。
実際──命の駆け引きにおいて、綺麗事は要らないからね。
「参りましたウィル様──ありがたい助言、肝に銘じておきます」
カマルの手を取り起き上がらせる。
うわ、めちゃくちゃ重い……。
アンジェラ先生が展開していたバリアが解除される。
「さすがウィル様。ウィル様の圧倒的な強さに、シェナ感激しました」
「ありがとうシェナ。でも僕自身まだまだだよ。もっと精進しないと」
僕はシェナの頭をなでなでする。
猫人族だから本能的になでなでしてしまったけど、シェナ自身満更でもない顔してるから良いのかな。
ちょっと紅くなってるけど、嬉しさの紅潮だろう。
「そんな事ありませんよ。私は驚いてます。実際ウィル様に当たった攻撃はカマルの前蹴りだけでしたからね」
そういえばトーマスを含めた50人と戦ったけど、攻撃を食らったのは前蹴りだけだ。
でもさすがにこの人数を相手するのは疲れた。
身体の痛みは無いが、疲労で倒れそうだ。
「さて──ようやく俺の番だな」
父さんはそういうとおもむろに立ち上がった。
いや、満を持してみたいな感じで立ち上がりましたけど、もう疲れてるので勘弁してください。
「ウィル、やるぞ」
「え、嫌です」
「…………………………ウィル、構えろ」
「…………………………だから、嫌です。やめておきます」
「カマルの次は俺って話しただろ。逃げるのか」
「いや、逃げるとかそういうのじゃなくて疲れたからやりたくないだけです。またの機会に」
「そうか、逃げるんだな。この中で俺が一番強いからな。そんな俺と戦うなんてビビって出来やしねえかッ」
その手には乗りませんよ父さん。
そうやって僕のことを煽って戦意を狩り立てようとしている算段かもしれませんが、相手の挑発に乗らず冷静でいるというのも、戦う人間として大事な素養の1つです。
「だからオメエはトーマスにチビだのなんだのってバカにされんだよ。そういやこの間、アンジェがお前の心を読むのは楽しいって言ってたな。お前心読まれてオモチャにされてんじゃねえか?」
「ちょっ、私の話を今ここでしないでッ!!」
「あ? 実際にこの間の会議で言ってたじゃねえか」
「ウィル様、これには大きな誤解がありまして……」
「アンジェラ──次僕の心を勝手に読んだら、暫く父上の顔で生活してもらうよ」
「た、た、た、たい、大変ッ!! 申し訳御座いませんでしたッ!!! それだけはご勘弁をッ!!」
「なんだよアンジェ、俺の顔イカしてんだから良いじゃねえか」
「黙りなさいッ!! あなたの顔になるなんて死んでも嫌よ」
それは一理あるな。
父さんはワイルドで男前の顔立ちをしているが、それを全て帳消しにするレベルのノンデリだ。
父さんの性格を知らない人が遠目に見ればカッコイイってなるかもしれないけど、近くに居れば居るほど受け付けたくなるレベルでウザい。
この間まで寡黙で仕事人間だった父さんどこ?
「それに──そろそろ夕飯の時間が迫ってるよ。僕お風呂入りたいから先帰るね」
「え、ちょっと……」
「あら、ここのお風呂大きくていいのよね。私も入ろっとッ」
「シェナもお風呂入りたーいッ」
「わたくしたちも宿舎で一風呂浴びましょうかねッ!! 行くぞ野郎ども!!」
「「「「「うおうらぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!!!」」」」」
そして僕たちは演習場を後にする。
演習場には取り残された父さんと、気絶しているトーマスだけが取り残された。
「なぁ、トーマス。俺たち不遇だね」
もちろん、気絶したトーマスから返答は返ってこなかった──
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「やっぱり──我が家のお風呂は落ち着きますねぇ」
人間にとってお風呂とは──身体を清め、心を癒す場所だ。
どんな善人でも、どんな悪人でもひとたまお風呂に浸かれば、安息という名の感嘆が漏れる。
良くあるよね。難しいこと考えてムシャクシャしてる時、とりあえず湯船に浸かってリセットしようって瞬間。
あの瞬間って何も考えられないくらい格別なんだよな。
そんな憩いの場でもあるお風呂に──
「──なんでシェナが居るの?」
「ウィル様、背中、流して、あげたい」
しかも人化して子供っぽい姿になってるし。
人化すれば僕の貞操観念とかそういうのに配慮できるとか思ってる?
いや──逆に猫人族の姿の方が良かったね!!
結局猫耳とシッポが生えるだけで変わらないじゃん!!
人化して子供の姿の方が倫理的にアウトなんですよ!!
元いた世界だったらアウトだからね?
いや今でもアウトだと思うけど!?
さて、どうしたものか──




