カウントダウン⑤
「アンジェラ様!! この数はさすがに劣勢です」
「たとえ身体の一部が無くなろうとも戦い続けなさい!! 援軍は必ず来るわッ!!」
「そんな無茶なぁ〜、アタシ魔力枯渇しそう」
「程良い感じに授業サボってたからね。そのツケが来たんだよ」
「はぁ!? 今魔力回復したわ!! ケインより討伐してやっから!!」
「健闘を祈るよ」
万を超える魔物の軍勢と戦闘を始めて早1時間──
さすがにこちら側の疲労は隠せなかった。
大部分のハンターが魔力枯渇を起こしていて、満身創痍の中剣を振るっている。
遠距離魔法隊も回復のポーションを使いながら断続的に魔法を繰り出しているが、ポーションの在庫も残り僅かと聞く。
まだ軍の援軍来ないの?
そろそろ来てくれてもいいんだけど──
「アンジェラ様、ぼくは一旦引いてインフェルノの詠唱に入ります。発動タイミングで友軍を引かせてください」
「あなたそんな事したら──」
「大丈夫です。こういう時の最上位魔法ですから」
インフェルノ──
上位魔法ラピッドファイヤよりも上の魔法で、辺り一帯を焦土化する魔法。
とてつもない攻撃魔法なのだが、魔力消費が激しく発動した後は一定時間動けないのが難点の大技。
私でも二発撃てるかどうかの大技なのに、彼はここで発動するなんて。
生意気な子どもだったあの時から成長してるのね、トーマス。
「わかったわ。インフェルノの発動までこちらで抑えるわ。けど──そう長くは持たないから急いでちょうだい」
「はいッ!! 我が最愛なる女神よ!!」
「まったく……ブレないわね」
さて──ここからは暫く耐久の時間になるけど、この戦線を耐えつつダグラスに念話をいれましょ。
「ダグ!! ちょっと援軍はどうなってんの!?」
『それが──王都に魔力障壁が干渉しててテレポーテーションが使えねえ。どうやら障壁外に魔法を発動できないよう細工してあんだ』
「はぁ!? いい、今前線は消耗仕切っていて、トーマスがインフェルノを詠唱中なの!! これで魔物の数が減らなかったら、もっと押されることになるわ!!」
『そう言われてもしょうがねぇだろ!! 俺とガルドが援軍に行く!! それまで持ちこたえろ!! バカエルフ!!』
「あんた!! 最後は本当に余計なひと言!! ちょっと? ちょっと!!」
念話は途切れてしまった。
頼みの綱だった援軍は見込めない。
かと言ってこっちは既に消耗仕切っていて、いつ戦線が崩れるか分からない。
こういう時本当にツイてないわね私って──
でも──泣き言言ってたって仕方ない。
私は再度、オールハイネスを発動する。
これで発動は二回目……。
私の魔力量的に神聖魔法を使えるのはあと一度。
ここで大多数の魔物を屠らないと、後がない。
「うらぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
風魔法で練った魔力を両手に纏い、ウィンドブレードを形成させていき、魔物の急所を確実に狙って倒していく。
魔物にはコアというものがあり、そのコアを破壊するか、首を切断するかどちらかで倒せる。
ただ──個体によってはコアの場所は別々で、例えばオークは胸部、リザードマンやゴブリンは頭にコアがある。
でもそれを個体によってダメージを与える場所を変えてしまっては、時間のロスは計り知れない。
なのでこういう時は首を切断する方が、より効率的で多くの魔物を倒せる。
「これで200体目──もうそろそろ、オールハイネスが切れる頃ね」
それでも──終わりの見えない魔物の軍勢に、一瞬絶望すら覚えた。
「アンジェラ様!! 友軍を引かせてください」
「わかったわ!!」
いいタイミングでインフェルノを発動出来るじゃない。
やっぱり──ダグラスが期待してるだけあるわね。
私への好意は頂けないけど……。
私は友軍を引かせ、魔物と距離を置く。
「我が至高なる業火に焼かれよ──インフェルノッ!!」
上空から広範囲の炎の柱が降り注ぎ、魔物を焼いていく。
思わず綺麗と言ってしまいそうな、熱く燃え盛る炎。
やがて──炎が落ち着くと、そこには焼け焦げて死んでいる大勢の魔物が居た。
「や……やりましたか……」
「すごいわトーマス。少し惚れちゃったかもッ」
「それでは……挙式をあげるため……教会に……ぼくはずっとあなたを……愛して……」
「トーマス? トーマス!!」
トーマスはその場に倒れ込み気絶してしまった。
一瞬死んだかと思ったじゃない!!
でも──ここまで王国の為に命を張れる男性は嫌いじゃないわ。
彼がエルフだったらすぐ好きになってたのに残念。
「うわー、すげぇインフェルノだったなぁ」
「ダグッ!!」
「よっ!! トーマスのお陰で大分魔物を殲滅できた感じだな。この様子じゃ俺たち要らなかったかもな」
「そういうこと言うんじゃねぇ。アンジェだって前線で指揮を執りながら奮闘してたんだ。労ってやれよ」
「おッ!! 昔からの大真面目ガルドくんッ!!」
「本当、あんたっていつもこの調子ね」
トーマスのお陰で万を超える魔物の軍勢は百も満たない数まで減った。
あとは消化試合、もう私たちが出る幕は無いわね。
しかし──ゼノ大森林から一匹の巨体が姿を現した。
オークのような姿に岩で出来た、とにかく硬い外皮。
見上げると首が痛くなるその大きさは、20メートルは優に超えている大きさ。
「なにあのデカいの」
「あのデカさは俺もみるのは初めてだね」
シノとケインが驚くのも無理はない。
だってあの魔物──ギガントデスイーターは、深層70階のフロアボスなのだから。
私がダグラスたちとパーティを組んでいた頃──深層70階まで踏破したことがある。
その時のフロアボスなのだが、あの時全盛期だった私たちのパーティでも特に苦戦したのはギガントデスイーターだった。
大苦戦の中、結局撃破したのだけれども、これ以上は無理ってなって引き返したんだっけ。
そのあとダグラスひとりで行ったらしいけど、よく生きて帰って来れたわね。
あなたも十分規格外よ。
「なーんだ。ギガントデスイーターか」
「懐かしいな。お前が無茶ばっかするから、えらい目にあったのを覚えてるよ」
「そういや、ガルドばっかりターゲットされてたもんな!! お陰で俺はフリーで切り込めたよ」
「先生たち、あのデカいのと戦ったことあるんすか?」
「そうだぜエクシアの嬢ちゃん。んじゃ──ここいらで久しぶりに、最強ダグラス様とそのご一行パーティの一時復活としようじゃねえか」
「本当にそのネーミングセンスどうにかならないの?」
「イカしてるだろ?」
イカれてるの間違いよ。
ノーマン、ジェフ、そして──マーサ。
三人はこの場に居ないけど、私たち三人で出来るわよね。
てか──やるしかないわ。
「おい、この中で水魔法得意な奴いるか?」
「え、あ、はい。一応使えますが……」
ケインが手を挙げて前に出てくる。
彼は全属性の魔法が使えるけど、中でも水魔法はずば抜けて扱いが上手いのよね。
「それじゃ、ギガントデスイーターの足場をリヴァイアサンで思いっきり放ってくれ」
「足場をですか? わかりました── 水星の巫女よ、我の言の葉の力に呼応し水の加護を与えよ。リヴァイアサン」
勢い良く飛び出したリヴァイアサンは、ギガントデスイーターの足場を強襲し泥濘を作った。
それによって、ギガントデスイーターの足が取られて身動きが取れなくなった。
「いいか──ギガントデスイーターは見た目の通り、デケェ身体をしてるが、その反面──脳筋で動きがトロいんだ。足場を取ればあっちは簡単に攻撃できねえ」
「まるでダグラスみたいだわ」
「おいッ!! バカエルフ!! その言葉は余計だッ!!」
「あんたねぇ!! その呼び方止めないとエンチャントしないわよ!!」
「今回エンチャントは必要ねぇ。アイツ、足場の泥濘を無くす為に、自ら水を吸い込む習性があるんだ。その時に──ガルドッ!!」
「あいよッ!! ──雷帝よ、我の言の葉の力に呼応し雷の加護を。サンダーボルト!!」
サンダーボルト──
雷魔法の上位魔法で、雷魔法の加護を持つガルドの威力は通常よりも莫大な効果を持つ。
地面を伝ったサンダーボルトはぬかるんだ水に通電し、ギガントデスイーターの身体を襲う。
「グオオオオオオオオッ!!!!!!」
「うし、効いてるな。このように水を含んだ身体に通電させると、アイツも暫くは動けなくなる。そして──水を含んだ身体は柔らかくなり、剣が通り易いってワケだ」
「すげっ……。こんな戦い方があるなんて」
「さて──これでテメエの幕引きにしてやるよ」
ダグラスは剣を抜くと素早い動きで間合いを詰め、ギガントデスイーターの首を目掛けて、剣を振り抜いた。
首と胴体を切り離されたギガントデスイーターは、抵抗することなく倒れ絶命した。
昔──あんな苦戦していたギガントデスイーターをいとも簡単に倒してしまうなんて。
やはり──戦鬼の二つ名は伊達じゃないわ。
「まあこんなもんよ。これで──魔物の軍勢の殲滅完了だな」
周りを見渡すと、魔物の残党は周りのハンターたちによって全滅していた。
勝った……勝ったのだ。
一時はどうなるかと思ったこの防衛戦だけど、一番の功績は、トーマスのインフェルノだわ。
もちろん──ここまで耐えてくれた友軍にも感謝したいわ。
「すごい……アタシたち、ホントに魔物の軍勢を倒したんですね」
「あぁ、今回ばかりは俺も疲れたよ」
「私も疲れたわ。トーマスのインフェルノが不発だったら、私のオールピュリフィケーションが最後の頼みの綱だったわ」
「でもコイツ役に立っただろ? やっぱトーマスを側につけていたのは正解だったな」
「あなたは美味しい所掻っ攫ってっただけだけどね。まるで泥棒猫みたいだったわ」
「おい、やっぱお前はひと言多すぎるんだよ!!」
「さて、どうかしらね」
魔物の軍勢は打ち払ったわよ、ウィル──
あとはあなたの番。
どうかマーサの仇を──




