カウントダウン③
「にしても──戻ってくるのは暫く先だと思っていたんだけど? 君の器はあの時浄化されて無くなったはず」
「目論見が外れて残念だったな。悪魔ってのは簡単に死なねえからよ、執念深いことを嬉しく思えよ」
一度、アリスの神聖魔法『オールピュリフィケーション』で器を無くしたベリアルは、この世界に戻ってくるのに15年の歳月を要した。
二度目はこの間、僕の『オールピュリフィケーション』で再度器を無くし、誰もがベリアルが戻ってくるのは暫く後だと思っていた。
でも──ベリアルを地獄に送ってからまだ月日は半年すらも経っていないのに、こうやって僕の元に戻ってきている。
考えられるのは、器の一部を持っていれば、誰かしらが器の再生をし適合させる技術を悪魔側が持っていること。
もしくは──この15年の間に器自体を量産して、現行使っている器を無くしてもすぐ戻ってこられるようにするかのどっちかだ。
しかし、後者の場合だったらこんなに感覚を空けて攻めてくるのは些か疑問だ。
だとしたら、最適解は前者になるかな。
まぁ、どちらにせよ──ベリアルを精神体諸共滅ぼしてしまえば、こんな執拗に攻めてくることはなくなる。
ここが天王山ってワケだ。
「確かに、15年も僕たち姉弟に執拗に付きまとっている点に関して言えば、執念深いことも頷けるね。でも──僕はこの間初めて会った感覚なんだけどな」
「だよなぁ、あの時テメエは赤子だったもんなぁ。あの時はテメエを殺さず生け捕りってお達しだったが、人間の云う成人した身体ってなれば、生死は問われねえ。そろそろオレたちの物語に幕を下ろそうじゃねえか」
「僕も君にはもう会いたくないからね。ここでお終いにしよう。三下の相手は疲れるんだよ」
「さっきから三下三下ってうるせぇな。テメエを殺して、オレは晴れて偉大なる御方の大側近ってワケよ。それじゃあ、死んで貰うぜぇぇぇえ!!!」
ベリアルは勢い良く僕に突進してきた。
インベントリから咄嗟に刀を取り出した僕は、間一髪でベリアルの攻撃を阻止した。
ベリアルの攻撃は前回よりも格段に威力を増している。
初めからオールハイネスを使っているのか?
いや──だとしても、通常オールハイネスの効果は5倍の底上げが限度。
生成スキルで作った刀で斬撃を与えても、ベリアルの皮膚は硬化しており、刃先が入らない。
「自分の攻撃が効かないって思ってるだろ? もちろん──オールハイネスは使ってねえよ? 前回と違って全力で攻撃してるからなァ!!!!」
「ウィル様ッ!!」
更にベリアルの攻撃は増してくる。
見切れないワケではない。
ただ──攻撃の手数が多すぎて、反撃の隙間が無い。
ここは耐えるしか無い。
「お前のこと応援してるあのオンナ、お前を殺した後に美味しく頂いてやるからよ。あぁ、それと──アリスもテメエの父親も何もかも嬲り殺してやるから安心して死ねッ!!」
「言いたいことはそれだけか? ベリアル──」
「あぁ? 反撃すら出来ねえ奴が、強がってんじゃねえよ!! 所詮──人間なんざ、神聖魔法が使えなきゃ悪魔すら倒せない弱い生き物なんだよ!!」
そろそろベリアルの悪口を聞くのも飽きてきたな。
常に自分が強者だと思っているその傲慢さ。
そうか──そういうことか。
自分を強く見せたいんだな。
「オールグラビティ」
「──んぐッ!!」
オールグラビティ
相手を重力で押さえつける神聖魔法の一種。
闇魔法にもグラビティという魔法があるが、あれは相手を押し潰す意味で使われる為、オールグラビティには殺傷能力は無いが、相手を一時行動不能に出来る魔法だ。
浮遊していたベリアルは、オールグラビティでそのまま地面に叩きつけられる。
「ウィル様ッ!! そこは──」
「大丈夫、シェナは魔素溜りを吸ったら危険だから、そこで待ってて──」
そのままベリアルが押さえつけられている場所まで降下していくと、僕はベリアルの首に刃先を押し付けた。
「テメエ、やってくれるじゃねえか」
「やっぱり地面に激突しても死んではくれないか。まあ、悪魔だから死なないのは当然として」
「その刀がオレの首を斬ったとしてもオレは死なねえぞ。ほら──詠唱しろよ」
「だめだよ。その間にオールグラビティを解除して間合いを詰めるんでしょ?」
ベリアルから間合いを取ると、あっさりオールグラビティは解除され立ち上がる。
ならダメ元で──
「オールバインド」
──オールバインド
神聖魔法の一種で、相手を拘束する時に使われる。
オールグラビティ同様で殺傷能力は無い。
「おい、オママゴトなら他所でやれよ」
ベリアルはオールバインドも簡単に解除した。
ですよねー。
だって元天使だもん。
それくらいやってのけるよね。
「ねえベリアル──ひとつ聞いていいかな」
「ンだよ」
「偉大なる御方って誰?」
「…………ハッ」
ベリアルは僕をバカにするかのように嘲笑った。
そんなことも知らないのかっていう意図を感じるのだが、残念ながら文献には『偉大なる御方』ってワードが出てきても誰のことを指しているのか、どの文献にも載ってないんだよね。
「テメエに教えても意味ねえだろ。どうせ死ぬ奴が今更知識を持ったところで無意味だ、無価値だ」
「そうそう、どうせ死ぬなら誰にもこの情報は漏れないと思うんだけどな。それとも──情報喋って負けるのが怖いの?」
「あ? テメエ? さっきからオレの神経を逆撫でしてくるけどよぉ、何が目的なんだ?」
「本当のことを知りたいだけだよ。そうそう、そういえば──この間、アザゼルっていう君と同じ悪魔が挨拶して来たよ」
「アザゼル? …………あのガキッ!!」
その様子だと、アザゼルが僕に接触して来たことを知らないみたいだ。
これで確定した。
悪魔は一枚岩では無いことを。
「あのガキなんて言ってた」
「それは君自身で聞くことだよ。それとも力ずくで僕から聞いてみるか? 或いは──さっき僕がした質問と引き換えに答えるか」
「ここで交渉してくるとは見上げたもんだな」
まあ、僕がした質問は割とどうでもいい質問なんだけどね。
偉大なる御方が誰だろうが、僕には関係ない。
何故なら──僕が死ななければそいつは復活することはないのだから聞いてもしょうがないのだ。
それよりも聞きたいことは別にある。
この感じだと答えてくれなさそうだけど。
「まあいい。お喋りはここまでだ。やろうや、ウィル」
「もう一つ聞きたいことあったけど、君を倒してから聞くよ」
僕とベリアルは再度互いの斬撃をぶつけた。
斬撃の反発で互いに後ろずさむが、またぶつけ合う。
三度四度五度と何度も斬撃をぶつけるが、決めてに欠けダメージを与えることが出来ない。
やはり──本気を出すベリアルは強い。
こっちも本気で挑んでいるが、戦いは平行線のままだった。
間合いを取り──雷魔法を編み込んだ遠距離系の斬撃を繰り出すが、ベリアルは自身の鉤爪で斬撃を軽々と真っ二つにする。
「おいおい、こんなんが本気なのか? ウィル」
「君も本気で挑んでいる割には、僕にダメージを与えられてないけど、こんなのが本気なのか?」
「そんな皮肉を言えるんだったら、まだまだ楽しませてくれるよなァ!!」
目の前に居たベリアルが一瞬にして姿を消し、いきなり僕の横に現れた。
奇襲するだけなら有効打になるけど、なんとも読みやすい攻撃だ。
鉤爪を刀で受け止めると、腹部に思いっきり蹴りを繰り出した。
「────ガハッ!!」
「まだまだ終わらないよ」
ゼロ距離でラピッドファイヤを繰り出し、ベリアルを掴んで地面に叩きつけた。
「バインド、グラビティ」
「──んぐッ!! 」
「親愛なる光の神よ、我が言の葉の願いを聞き光の加護を。オールケージ」
オールケージ──
光の檻を形成し、相手を閉じ込める神聖魔法。
殺傷能力は無いが、檻に触れるとたとえ悪魔でも皮膚がただれる。
「──おいッ!! 出せ!! 出せウィル!!」
「出せって言われて出すバカはいないでしょう」
「クソ──ッ!! 痛ぇなッ!!」
「悪魔でもオールケージは有効だったか。さて──ベリアル、もう終わりにしよう」
「やれるもんならやってみろよ」
「あぁ、でも──その前に聞くことがある」
「あぁ? まだ話あんのかよ」
「神聖魔法についてだ」
「神聖魔法? あぁ、そういうことか」
ベリアルは全てを察したかのように理解する。
「お前、母親亡くてすぐグレイシーに引き取られたんだもんな。本当だったら真実を知る権利があったのに、その機会も失ったんだよな」
「真実? 王家は何か隠してるのか?」
「隠してるもなにも、お前が聞きたいのは──神聖魔法が何故、長い間王家以外の人間も扱えるようになるっていう嘘が世の中に浸透しているのかっていう疑問だろ?」
やはり──ベリアルは知っていた。
だが、その事は本当は僕自身王家の人間で居られたのなら、知るべきだった真実だなんて初耳だ。
コイツのせいでグレイシー家に匿われることになったのだけれど。
しかし──そうなると、国王陛下はこの真実を知っていたことになる。
でもまあ、コイツから聞き出せるのなら、真実を隠されたとしても問題ない。
「神聖魔法は王家しか使えないのか? それと──ザガルトスが言うように、王家の人間になれば──それが例え簒奪した王位でも、使えるようになるのか?」
「まあまあ落ち着けよ、答えてやるからよ」
「早く応えろ」
僕は神聖魔法を纏った刀を、ベリアルの喉元に突きつける。
「おいおい、おっかねえことすんなよ。まずその刀を降ろせ」
「これは護身の為だ。そのまま話せ──」
「ったく……話してる途中で殺すなよ」
「その後に楽に殺してやる」
ベリアルはニヤリと嗤ったが、僕はそれを気にも止めなかった。
「神聖魔法はな、正当なる王家のみが使える──特別な魔法だ。例え王位を簒奪してもそれは行使できねえ。何故なら──」
刀を持つ僕の手は一瞬緩んだ──




