カウントダウン②
それは遡ること数時間前──
アリス、シノ、ケイン、シェナと僕は、とある用事の為、王都セリカにあるギルド本部に赴いていた。
ハンターたちで賑わっているギルド本部だが、相変わらず酒に呑んだくれたり、くだらないことで小競り合いしたり、アリスたちをいやらしい目で見たりと質の悪いハンターが多い。
アリス曰く──前回ここに訪れた時にガルドに注意をしたらしいのだが、前に来た時と全く変わってないと憤慨していた。
そりゃそうだろ。
この世界のハンターは幼い頃から腕っ節だけで成り上がってきた人が多いし、ろくな教育を受けずハンター業だけで食っている人が大半だ。
素直に言うことなんて聞かないし、そんなの焼け石に水ってものだ。
あれだよ、あれ。
よくゾンビ映画とかで善人は真っ先に死んで、ズル賢い人とか悪人とかが生き残ってる現象に近い。
そんな悪人一歩手前まで片足を突っ込んでるハンターたちがいる中、僕たちは頭を悩ませていた。
「やっぱ、このクエストがいいんじゃないか? 俺たちの実力を考えれば、少し無茶しても問題ないだろ」
「何言ってんの? アンタね、アリスとウィルが居るんだから無茶しちゃダメじゃん。なんかあったらアタシ責任取れないから!」
「シェナ、たくさん稼ぎたい。シェナだけ無茶する」
「私とウィルのことは気にしないで。なんかあったらウィルがどうにかしてくれるから」
「待ってよ。僕の意思を無視した上に他力本願ってそれはないでしょ」
「何? 文句あんの?」
「大アリだよ!」
事の経緯はこうだ──
夏休みになるとAクラスの生徒はダンジョンでの討伐を課題としたミッションが与えられる。
素材のレアリティで評価が変わるのだが、この課題の条件としてパーティーを組んでダンジョンに潜らないといけないという制約がある。
夏休みになると、どうしてもみんな遊び呆けていたり、家に引きこもってダラダラする人が居るから、なら──夏休みに入る前に課題をクリアしておこうという、理由はどうであれ効率が良い優等生の夏休みの宿題の消化の仕方だ。
元居た世界で学生時代は夏休みが終わる1日前に必死こいて課題を消化した記憶しかないな。
てか、みんなもそうだろ?
夏休みはクーラーの効いた部屋でゲームしたり読書したり撮り溜めたアニメやドラマを鑑賞したり、そうやって1日が過ぎていくものだ。
安心したまえ、社会人になってもお盆休みは自ずとそうなるから。
僕がそうだった。
そんな話はさておき──揉めてる内容としては、10階層のリザードマンの討伐をするか、20階層のジェネラルオークの討伐、どちらかにすることで揉めている。
僕としてはどちらとも手っ取り早く終わるので、正直どちらを選んでも大差はないのだが、折角みんなで挑むからね、ジェネラルオークのほうが達成感あるのかな。
みんなCランクのハンター(初めてのシェナはさっき計測してCランク認定)だし、20階層はBランク相当だけど、ある程度戦い慣れはしているから、ここはやはり──
「なら──ここは、25階層のアークワイトにしない?」
「はっ!? アリス何言ってんの!?」
アークワイト──
ワイトの上位種で、通常のワイトと違い群れで行動し、統率の取れた連携で魔法を繰り出したり、連携攻撃をしてくるなど、厄介な存在。
Bランクハンターでも手こずる、Aランク相当の相手だ。
「だって、どっちにするか迷うなら、いっその事めっちゃ高ランクのクエストやったほうがいいじゃない?」
「いやいやいや、そもそもCランクの俺らが受けられるクエストじゃないでしょ」
「そうだよアリス、身の程を知った方が返って自分たちを危険に晒すことが減ると思うんだ」
「何よその言い方! みんなが揉めるからじゃない!」
現実的に考えてCランクの僕たちがAランク相当のモンスターに挑むことは出来ないのだが、これ以上揉めても不毛だし、ジェネラルオークにするか。
「わかった。危なくなったら僕がなんとかするから、これ以上の議論は無し! ジェネラルオークにする!」
「しょうがないわね」
「うしっ!!」
「シェナ、がんばる」
「ウィル──本当にいいんだな。俺は構わないが、君だけが無茶しないでくれよ?」
「それはもちろんさ。ケインもサポートよろしくね」
「ああ!」
さてと──クエスト受注する為に受付カウンターに行きますか。
僕が立ち上がると周りのハンターが一斉にこちらを向く。
そんなに見ないでくれよ。
ただ立ち上がっただけじゃないか……。
そんなに見つめられると勘違いしちゃうよ。
「お姉さん、今回のクエストはジェネラルオークの討伐でお願いします」
「かしこまりました。ジェネラルオークの討伐ですね。クエスト達成の証拠として、ジェネラルオークから出る素材の持ち帰りをお願いします」
「わかりました、ありがとうございます」
「それとウィルさん」
「…………はい?」
「マスターからの伝言ですが、あまり無理しないようにとのお達しです」
「はは……わざわざありがとうございます」
思わず苦笑いをしてしまった。
今のさっきまで無茶がどうのこうのっていう話してたし、ガルドは僕たちが無茶をすることを想定していたのだろう。
でもごめん──このメンツを纏めるのは難しいし骨が折れる。
身の丈に合わないことはしないので許してください。
「クエスト受注してきたよ」
「さて、行くか──」
僕たちはギルドを後にしようとするが、するといきなり──入口のドアが勢い良く開き、一人のハンターが息を切らしながら血相を変えて入ってきた。
「おい!! 大変だ!! 北門から、北門から!!」
「何かあったんですか?」
「何かあったとかじゃねえ!! ギルマスはギルマスは居るのか!?」
「マスターなら今不在ですが……」
「こんな時に有り得ねえ!!」
「あの、何があったのか教えて貰えませんか?」
「き、北門から魔物の大群が押し寄せて来た!! それもちょっとやそっとの数じゃねえ! 万単位の軍勢だ!!」
「万単位!?」
万単位の魔物の大軍勢がこの王都セリカに押し寄せているというらしいのだが、アンキラブル大迷宮は正門から出て少し離れた場所に位置している。
アンキラブル大迷宮から魔物が大量に押し寄せるならまだ分かることだ。
しかし──今魔物が大量に押し寄せているのは北門側から。
これはもう──
「ウィル、これって……」
「あぁ、悪魔の仕業だ」
「それしか考えられないわね」
太古の昔から文献に記されている項目がある。
悪魔は魔物を使役できると記載されているのだ。
元々──魔物とは、待機中の魔素が濃度を増し充満すると発生する。
大量に魔素が充満するダンジョン内では、深い階層を行けば行くほどモンスターが強くなっていく。
浅い階層は魔素がそもそも薄いので弱いモンスターしか発生しない原理だ。
魔素によって断続的に生み出されるモンスターたちは、ダンジョン内の許容量を超えると、大量に溢れ出し、ダンジョンから抜け出して外の世界を徘徊する。
この上ないほど迷惑な話なのだが、悪魔が魔物を使役してスタンピードを発生させている疑いがある以上、僕たちもクエストどころではないな。
確かスタンピードが発生した場合、Cランク以上は強制招集になるんだっけ。
「お姉さん、今日のクエストはキャンセルでお願いします」
「かしこまりました。ウィル様、マスターは本日王宮にて会合をおこなっております」
「情報ありがとうございます。みんな──聴いたね」
「あぁ、大至急王宮に向かおう」
「わかったわ」
僕たちはギルドを後にし、王宮に向かった。
王宮に着くと、中は慌ただしく、誰1人サボってる人はいなかった。
仕事中なんだからサボってる人がいないのは当然だ。
謁見の間に着き扉を開くと、既に──国王陛下、ダグラス、ガルド、アンジェラ、そしてノーマンが勢揃いしていた。
「ようやく来たか」
「ようやくってなんですか」
「なんでもねえ。それより──遂に動き出して来たぞ」
父さんが言ってるのは今起きているスタンピードのことだ。
「あなたたちがここに来てくれて助かったわ。これで探す手間が省けた」
「どういうことです? 僕たちも戦いますよ」
「いいえ──ウィル様、そしてアリス様。お二人はこの王宮で避難をお願いします」
「そうだウィル、お前は俺の息子だが王家の血を引く人間だ。もし──このスタンピードに悪魔が絡んでいたら、間違いなく戦闘になる。そんな危険なこと、お前にさせることは出来ねえ」
いや──それは逆に危険だ。
ここは王宮で、悪魔も容易に侵入できる場所。
打倒派の目もあるし、なにより僕はトゥルメリア家の血を引く人間だって世間に公表していないし、このことを知ってるのはここに居るごく一部の人間だけだ。
色んな危険が孕んでいる以上、ここに留まることはしたくないのだ。
「その提案には乗れません! もし悪魔が裏で糸を引いていて僕のことが狙いだとしても、ここに留まるのは得策ではありません」
「それはなぜだ?」
「国王陛下やアリス、ここに従事している人たちを悪魔は簡単に殺すことができます。僕だけが悪魔と対峙すれば、人質を取られる心配もありませんし、僕も思いっきり戦えます」
「馬鹿野郎!! お前はまだ子供なんだ。そんな危険なことやらせられるワケないだろ」
父さんが心配するのも分かる。
でも──結局僕を狙ってることは間違いないし、15年前、それでマーサ・トゥルメリア──僕の本当のお母様を亡くしたこともある。
同じ過ちを繰り返さない為にも、僕はここに居ない方がいい。
みんなの安全を守る為だ。
「父上、ここは僕に任せて貰えないでしょうか。まだ悪魔が裏で糸を引いているという確証がない以上、ただのスタンピードだって可能性もあります」
「それでも──」
「──そこまでじゃ。ダグラス」
平行線の会話を見かねてか、国王陛下が間に入った。
「ウィルを信じてみようじゃないか」
「しかし──」
「──これは国王命令じゃ。この件はウィルに任せる。だが、アリスはここでワシと避難じゃ」
「お父様、私も戦えます」
「それは分かっておる。だが──王女は有事の際、ここに居て民たちの戦いを祈るのが、伝統じゃ」
「………………わかりました。私はここに残ります」
話し合いの結果、悪魔が絡んでいないか調査するのに僕が単独行動することに当初決まっていたが、あまりにも危険すぎるので、護衛役のシェナがついて行くことになった。
ケインとシノはアンジェラの指揮下に入り、スタンピードを食い止めることになる。
「ウィル、必ず戻ってくるのよ?」
「心配性だなぁ。大丈夫、必ず戻ってくる」
「シェナちゃん、ウィルをよろしくね」
「ウィル様サポート。シェナの役目、任せて」
僕とシェナは謁見の間を後にし外に出ると、飛行魔法を使ってスタンピードが発生していると言われる王都北門を越えたゼノ大森林の上空を飛行していた。
「ウィル様、この森林、何か変。禍々しい」
「あぁ──確かにおかしいね」
ゼノ大森林は魔素で充満していた。
通常、この森林は空気が澄んでいて、魔素で影響が出ずらいはずなのだが、
地上に魔素が充満しているのは魔族の国くらいで、魔族の国は遥か北側にある。
なにか人為的な影響で魔素が濃くなったとしか思えないのだ。
しかも──人間がこの大量の魔素を吸い込んでしまったら人体にも悪影響が出てきてしまう。
地上に降りて調査するのが出来ないのがもどかしい。
「ウィル様、あれ──」
「んっ? あれは──ッ!!」
シェナの指差す方向に、誰かが立っていた。
その者はそう──ベリアルだったのだ。
「よぉ、ウィル。会いたかったぜ」
「僕は会いたくなかったけど」
「寂しいこと言うなよ。まぁ、女連れとは大層な余裕を感じるぜ」
「まぁ、あなたみたいな三下に負けることなんてないからね」
「オレが三下? 笑わせるなよガキ。まあいいや」
いきなり──ベリアルは間合いを詰めてきた。
以前よりスピードが段違いだ。
早く感じる。
「よぉウィル、決着つけようや──」




