どうしてこうなった②
「えぇ〜、絶対似合うからウィルもメイド服着ようよ」
「僕は嫌だ!大体、発案者がメイド姿とか有り得ない」
「発案者だからこそ着るんじゃね?」
僕はメイド服を着ることに、大いにゴネていた。
女子たちのメイド姿が見たいという邪な気持ちから招いたこの事態。
まさに、ミイラ取りがミイラになる──そんなとこだ。
「とにかく──僕はメイド服なんて着ません!」
「ウィル、君のそういう所、本当に頑固だよね」
「クラスの代表であまり出し物に参加できないって言ってメイド服になることを辞退したケインに言われたくないね!」
「じゃあウィル、アンタなにやんのよ」
メイド服を着たくないが為にただただダダをこねている僕ではない。
これでも元平成生まれ令和社会人独身サラリーマンだった僕が、世間という荒波に揉まれながら生きた証を今証明しようではないか。
「アリス、メイド喫茶に必要なものは?」
「えっ? そりゃあ、メイド服?」
「それはもちろんだよ。シノ、このメイド喫茶は、ただのメイドさんの姿をした学生の披露会か?」
「喫茶って名前が付いてるから、料理出さなきゃだよな」
「そう!!僕はこのメイド喫茶の料理長になる!」
「「「……………………」」」
え?なにその反応。
あ、あれだ。
どうせウィルが料理なんて出来るはずがない。
メイド服を着たくないがための方便だ。
料理はそこらへんの料理屋から買うだろう。
そう思ってるんだろうな。
「その実力を証明するために、君たちには厨房に来てもらった!」
Aクラスの生徒は午後は自習になるため、アリス、シノ、ケイン、アンジェラ先生──そして、アリスが仲良くなりたいということもあり、シェナも呼んでいる。
でも──シェナはアリスを見てずっとビクビクしている。
なにかあるのかな?
「んで──今からなに作んの?」
「メイド喫茶といえばの料理だよ」
「ん?ウィルはメイド喫茶に行ったことがあるのか?」
まぁ、元居た世界の時に一度だけね。
高校時代の友達、佐藤くんと社会人になって初めて秋葉原のメイド喫茶に行ったことがある。
佐藤くんはそのメイド喫茶の常連で、意味分からない言語と判別不能な表情をしてたな。
『この光景、こ、これはまるで天下一武道会みたいだよ』ってね。
そのあと激辛の料理食べて、佐藤くんの顔が爆発寸前まで赤くなったんだっけ。
佐藤くん、元気にしてるかな。
「行ったことはないけど、看板に書かれていたメニューを僕なりにアレンジした料理を作るつもりだよ」
「シェナ、楽しみ」
「私心配だよぉ〜。ウィルが料理できるなんてこれっぽっちも思ってないもん」
「それは酷い言いようですね、お嬢様」
「こらっ!からかってんの?」
「まあまあ、ここはウィルに任せようじゃないか。正直、何が出てくるのか、俺は楽しみだけどな」
「もうっ!失礼しちゃうわ!」
ケイン大人な対応ありがとうございます。
「あぁ、そうだ──お前たちに伝えておかなきゃいけないことがある」
アンジェラ先生が何かを思い出したかのように話し始めた。
表情からして深刻ではない話題のようだ。
僕は下処理をしながら耳を傾けた。
「ここに居るシェナ・マクレーンだが、今後ウィルとアリスの護衛につく為Aクラスに昇格になった。元々後方支援の為にBクラスに配置していたから、お前たちには認知させていなかったが、今は有事だ。そこんとこ理解していて欲しい」
「遅らばせながらご挨拶失礼します。シェナ・マクレーンです。以後、お見知り置きを」
調理場からは拍手が響く。
ちょっと無表情で何を考えてるか分からないが、アンジェラ先生が僕たちの護衛に付ける程だ。
腕はたつのだろう。
てか──僕たち裏で同じ学生さんに守られてたのね。
もういっそのこと、裏で護衛している方々いっぺんに出てきてくれませんかね。
「改めて自己紹介するね。私はアリス・トゥルメリア。よろしくね」
「アタシはシノ・エクシアよろしく。気軽にシノって呼んでいーよー」
「俺はケイン・スミス。ケインって呼んでくれ。よろしくな、シェナさん」
「ほら!ウィルも挨拶しなさい!」
アリスはオカンか!
僕は下処理する手を止めてシェナに向く。
「僕はウィル・グレイシー」
「よ、よろしくお願いします。ウィル様」
「いやいや、学院内では同級生なんだから、普通にウィルって呼んで? 世間には王家の人間って隠してるから」
「し、失礼しました……で、では……うぃ、ウィルくん……」
「──────ッ」
今──僕の脳天には電撃が走った。
頬を赤らめて上目遣いにうるうるした瞳にウィルくん呼び!
小柄な体躯で言ってしまえば小動物っぽい雰囲気の女の子がこんなことしてみろ?
元居た世界の友達、佐藤くんがこんなの見てしまったら──
『ひでぶううううううう!!!!!!!』
──と、発狂して倒れてしまうだろう。
危ない……僕まで佐藤くんの二の舞になってしまうところだった。
恐るべし、シェナ・マクレーン。
僕は耐えたぞ、佐藤くん。
「ウィルくん、どうしたの?」
「な、なんでもないよ。よろしくね、シェナ」
「はい……」
なんでそんな頬赤らめるの??
熱でもあるんですか?
いや──これは緊張してたことによる紅潮だ。
まあでも、いいものを見せてもらった。
この対価は美味しい料理で支払おう。そうしよう。
僕は下処理に戻った。
「シェナちゃ〜ん、ウィルの時だけなんか態度おかしくない?」
「それアタシも思ったわ」
「どうなのよ? シェナちゃん、ウィルのことどう思ってるの?お姉ちゃん聞いてあげるよ」
「そ、それは……」
「そこまでにしてやれよ。ウィルに憧れる生徒ってたくさんいるらしいんだから、その中のひとりみたいなものだよ。ね?シェナさん」
コクリと頷くシェナ。
ケインの言葉に些か疑問は残るけどね。
さて──下処理も終わったのでこれから調理していきます。
この世界のコンロは、真ん中の魔法石に熱を加えると、火が出る仕組みになってる。
有り難いことにツマミで調節できるから便利。
でも──不思議だよな。この世界って、元居た世界と同じ食材と調味料が存在してるんだもん。
読み方も同じだから凄く便利。
でも──存在してない料理とかもあるから、今度作ってパーティでもしようかな。
フライパンに5ミリ角に切った鶏肉、玉ねぎを塩コショウで下味を付けながら炒める。
ほんのりきつね色になったら、お米、ケチャップ、バターを加えて更に炒めていく。
綺麗に混ざったらチキンライスの完成。
チキンライスを別のお皿に移しておいて、その間にボウルに卵2つと塩を2つまみ。
箸でしっかり掻き混ぜて、少量の油を敷いて中火で熱したフライパンに溶き卵を投入。
火が通りにくい真ん中を2回ほど掻き混ぜて、その上にチキンライスを投入。
玉子を破かないように綺麗に包んで、お皿に移したら──
「完成!!ウィル特製オムライスの出来上がり!」
「おぉ〜!!」
みんなから拍手が湧き起こった。
まるで奇跡が起こったかのように。
調理している場面を見ていたんだから、奇跡とは言わせない!
料理も実力だ。
ささっと全員分を作り終えた僕は、オムライスをテーブルに並べた。
さぁ──僕に向けた懐疑的な目、その料理を以て忘れるが良い!
いざ──実食!!!
「いただきます!!」
「──ッ!!おいしーい!!」
「んぁ!マジだ!これはウマい!」
「初めて食べたが、チキンライスと玉子のフワフワがマッチしていて、食べやすい」
「シェナ、オムライス好き」
「あら、今まで食べてきた中で一番美味しいわ。まだこんな逸品が残ってたなんて」
久々にオムライスを作ったけど、やっぱり美味しいね。
日本では割とお子様メニューに近かったりするけど、この世界には無い概念の料理だ。
これはお金の匂いがするねぇ。
「美味しすぎてすぐ食べ終わっちゃった。ウィル、おかわりないの?」
「ふふふ……あはは! アリスお姉様?お口にお米が付いてますよ……あははは!」
「ちょっ!やだ!!恥ずかしい!!てか、こういう時だけお姉様って呼ぶな!」
「ごめんごめん、同じサイズだと食べきれないと思うから、少し小さいのにしておくね」
「えっ、やった!ありがとね、ウィル!」
まったく──チョロいお姉様なこと。
褒めちぎったり、物を買い与えて何もさせなかったら、ダメ人間になりそうだ。
でもこれで僕が料理出来ることが証明できた。
後は僕が料理長として文化祭に参加できれば、メイド姿になる必要が無くなる。
「料理を堪能できて満足したかと思うけど、これで文化祭は僕が料理長って事でいいよね?」
「私は大賛成!」
「アタシは問題ないけど」
「シェナも無い」
「いいんじゃないか。俺も異論は無いよ」
「私も賛成だ」
よし!!これで上手くいった!
これでメイド服を着なくて済む!
「では、この僕がAクラスの料理長ということで!」
「──あっ、でも、メイド服は着てもらうよ」
「……………………はっ?」
「アンタ、メイド服着ながらでも調理出来んじゃん」
「……………………えっ?」
「シェナ、楽しみ」
「ま、まぁ……頑張れよ、ウィル」
いや──だから、なんでこうなる?




