6. どうしてこうなった
ベリアルとの戦いからしばらく月日が経ち──
トゥルメリア魔法学院は夏休み前になると文化祭の季節になる。
僕の生まれ育った世界では、文化祭は秋にやるのが定番なのだが、この世界では夏休み前にやるのが一般的らしい。
文化の違いって時に混乱する時あるよね。
例えば──日本人は贈り物をいただく時、一度遠慮をしてからいただくが、アメリカ人などは贈り物をいただいた時は素直に受け取るのがマナーとかね。
この例は人によりけりな部分があるが、でも文化の違いこそあれど、楽しむ事は大事だからね。
さて──僕たちAクラスは何をやるのかな。
と、その前に。
教壇に立っているアンジェラ先生の横に、ひとりの見知らぬ女の子が立っていた。
この学院では、頻繁に生徒の入れ替えが行われる。
僕が居るAクラスは一番上のレベルのクラスだが、その下にB.C.Dとグレードが別れる。
Aクラスの劣等生はBクラスに。Bクラスの優等生はAクラスに入れ替わるシステムだ。
これも生徒間の競争力を促すのが目的だろうが、Aクラスからスタートしたこの学院生活、Bクラスには落ちたくはないよね。
「みんな、紹介しよう。前回の定期テストでBクラスの優秀者で、今回Aクラスに昇格してきた、シェナ・マクレーンくんだ。仲良くしてやってくれ」
「しぇ……シェナ・マクレーンです……宜しくお願いします……」
パステル紫色の髪の毛に、小柄な体躯。絶妙なまでに男心をくすぐる上目遣い。いわゆる小動物系女子ってやつだ。
にしても、凄くモジモジしてて声も小さいけど、緊張してるのかな?
大丈夫、ここにオオカミなんて居ないから安心してね。
「さて──シェナくんは、あそこのアリスくんの隣に座ってくれ」
シェナはコクッと頷くと促されるままに席に着いた。
「シェナちゃん!よろしくね!私の名前はアリス・トゥルメリアよ」
「うっ……よ、よろしくです……」
ベリアルとの戦い以降──アリスは自身の身分を隠すことはやめ、トゥルメリアの姓を名乗っている。
一度死んだことになっていた王女が実は生きてました、みたいなことに国中大変なことになっていたが、順応力が高い国民性があってか、みんなすんなりと受け入れていた。
ただ──アリスのことを人目見ようと色んな貴族連中がAクラスに押し寄せては告白してくる始末で、その際、
『私にはウィルという素敵な御方が居るの!残念だけど諦めて貰えるかしら』
と、虫除けにされてる。
僕が死んだ魚の目みたいな顔をしているから、女子の間では、上手く使われてるだけと認識されているが、男子の間では、憎しウィル・グレイシーの意思が形成されている。
ホント、男子って単純よね!
ちなみに僕は、悪魔のいう──偉大なる御方の器なので、リスクヘッジの為にも元々王家の人間だということは伏せている。
まあ、王家に戻ったら色々面倒だし、脳筋グレイシー家の人間が収まりやすいポジションなので、こちらからお断りします。
アリスの年齢はみんなにバレてるよ。
「シェナちゃん、私のことはアリスお姉ちゃんって呼んでいいからね」
「あ、アリス……お姉ちゃん……」
「やだもぉ〜、シェナちゃんかわいいわ!」
「自分で言わせておいて現金な人なこと」
「なら、ウィルもアリスお姉ちゃんって呼んでくれていいのよ?」
「やなこった。死んでも言わないよ」
「もう、一度くらい呼んでくれたっていいのに」
お願いです。
出会った頃のアリスに戻ってください。
姉弟なので姉なのは変わりませんが、まるで別人です!
僕怖いです!
「はいはいそこ!静かに!今から今度開催する文化祭の出し物を決めて貰うわよ。ケインくん、進行よろしくね」
アンジェラ先生に名指しされると、ケインは登壇し進行を始めた。
「それでは、我々Aクラスの出し物を決めるのだが、みんな、なにかいい案はないか?」
「「「「……………………………………………」」」」
まあそうなるよね。
ただでさえ12人しかいないクラスなのだ。
やれる幅が限られるし、ひとりひとりの負担のかかる出し物は出来ない。
文化祭を楽しみたい生徒だっているかもしれないから、クラスに付きっきりってのもしたくない。
程よい案はないものか。
「限られた人数で行うからかなり限定的ではあるが、みんな出しうる限りの案を出してほしい」
「案って言ってもアタシらでやるのは展示会が精一杯じゃない?なんせAクラスなんだし優秀な人間はたくさんいるんだから」
「シノの言うことに一理あるな。このまま他の案が出ないのであれば、展示会になるが他には」
「本当に展示会でいいのか?優秀クラスには賞品がでるぞ?」
アンジェラ先生の言う通り、文化祭の出し物で優秀クラスに選ばれたクラスは賞品が貰えるのは知っている。
だが──賞品をゲットするにも数で劣るAクラスは他のクラスみたいに大掛かりな出し物はできない。
いや──あるじゃないか。
文化祭名物が。
何故それを忘れていた──
「メイド喫茶──」
僕が言葉を発した瞬間──男子たちの目が血走った。
そう──この世界でもメイドさんには一定の需要がある。
そして、このクラスの女性陣は3人と少ないものの、アリス、シノ、シェナ、アンジェラ先生を含めればレベルが高い。
男性陣が全力で裏方サポートすれば優秀クラスも夢じゃない。
「えぇ〜アタシはパス。メイドとか興味無い」
「私も嫌よ!王女がメイド姿なんて威厳的によろしくないわ」
「シェナは……恥ずかしいです……」
「いいじゃないかメイド喫茶。私は面白そうでいいと思うけどな」
アンジェラ先生以外はNGですか。
でも──そこで諦めないのが男子だ。
行け!男性陣たちよ!!
「まあ、アリス様が言うなら仕方ないか」
「てか、貴族の俺たちがメイド姿になるなんて、親たちが知ったら怒られるぞ」
「それな!まず勘当は間違いない」
えぇ〜、あんなに血走った顔してたのにそれはないよ男性陣諸君〜
諦めるしかないのか、夢のメイド喫茶……。
「ならこうならいいんじゃない?私たち女性陣は裏方でサポートするから、男子たちがメイドやるって!」
アリスくん、君は一体何を言っているんだい?
男子がメイドの格好する?正気なのか君は!!
「それ名案じゃん!絶対話題になるって!」
「でしょ!んで、私たちはタキシードを着て接客するの!」
「おぉ!それはいいな!先生として採用を進言する!」
「シェナも男子のメイド姿見たい」
「だよねー!シェナちゃんもそう思うよね!」
まてまてまてまてまて!
元居た世界では文化祭で男子がメイドの格好をするってよくある話だが、そういうのはだいたい寒くなっていつの間にかシラケるパターンなんだよ!
女性陣盛り上がってるけど、良くないからね!
ダメだからね!やりたくないからね!
「そんなの横暴だ!」
「男がメイドの姿なんてシラケるに決まってる」
「ここは女子がメイドの姿になるべきだ」
「オレはウィルのメイド姿見たいよ」
おい、ひとり変なの混じってるぞ。
みんなケインに注目する。
ケイン、冷静によく考えるんだ。
ここで認めたら、お前もメイド姿だぞ?
いいのか?それでいいのか?ケイン・スミス!
僕の親友!!
「まぁ、話題作りにはなるから採用で」
「「「やったぁ〜!!」」」
ケイン、僕は君を親友だと思ったことに恥ずかしさを覚えるよ。
どうして裏切ったんだ。
君も苦い顔をしただろ!
そうかあれか、あれだな!
面倒くさくなったんだろ!
それしか考えられない。
僕は女子のメイド姿を見たかっただけなのに、ちょっと邪な気持ちで言った案なのに、どうして……
どうしてこうなった──




