悪魔ベリアル②
日差しの眩しさで目が覚めた。
どのくらい寝ていたのだろうか──
起きるのを躊躇うくらい、身体がだるい。
そういえば──学院の実技研修でダンジョンから脱出する際に謎の転移魔法陣で深層まで転移させられて、悪魔のベリアルと戦ったんだっけ。
神聖魔法を魔力枯渇ギリギリまで行使して、オールピュリフィケーションを使った後のことは覚えてない。
ベッドの上で寝ていたということは、ベリアルとの戦闘は無事に勝利した事になるのだが、肝心のベリアルは消滅したのだろうか。
また会いに来る──みたいな事を言っていたが、おそらく消滅する一歩手前で地獄に帰った可能性が高い。
どちらにせよ──ベリアルが生きていた場合、また仕掛けてくるのは容易に想像できる。
でも──僕は一体、何に巻き込まれているんだ?
アリスは何を知っている?
謎が多すぎて、どこから手をつけたらいいか分からなかった。
そういえば──左手が妙に温かいのは、誰かの感触があるからだろうか。
僕はふと、右側を見る。
そこには、僕の左手を握りながら寝ているアリスの姿があった。
「アリス、アリス──起きて」
「うーん……アリスお姉ちゃんだよぉ〜」
うん、寝ぼけてますね。
起きてもらわないと困りますよ〜。
僕は魔法で人が起きる程度の静電気を送った。
「ひゃっ!!決してウィルを独り占めしてるわけじゃありません!!」
「アリス、おはよ」
「う、ウィル!?」
驚いた顔をするアリス。
どんな夢を見ていたかはどうでもいいが──ウィルはただいま目覚めました。
アリスの目には次第に涙が溜まっていき、いきなり──僕を抱きしめた。
「よかった……よかったぁ〜!!! もう目覚めないのかと思ったぁ〜!!」
わんわんと泣くアリスだが、ごめんね?す、凄く苦しいし、息ができない……。
アリスの鳴き声を聞きつけてか、勢いよくドアが開く。
「ウィル!!起きたか!!」
「ウィル!? アンタ大丈夫なの!?」
「心配したよ。一時はどうなるかと……」
先頭で入ってきたのは僕の父、ダグラス・グレイシーだった。
そのあとにシノとケインと続き、アンジェラ先生といかにも偉そうなおじさんとそのお付の執事さん、ガルドさんも入ってくる。
「全く……深層に飛ばされて悪魔と戦ったそうじゃないか。何故そんな無茶をした!」
「そうよ。脱出用のリングがあったでしょ」
「いくら規格外のお前といえ、悪魔は人間より遥かに強い災禍なのだぞ。こんなんまでになって戦う理由が何処にある!!」
父さんの言いたいことは分かるが、そんな余裕なんてどこにもなかった。
あのベリアルは、確実に僕たちの隙をつこうとしていたのだ。
脱出用リングが発動するまでには時間がかかるし、もし──脱出用リングでの離脱をしようとした場合、確実に3人は死んでいただろう。
「父上、あの時は戦うしかなかったんです。脱出用リングでの離脱を優先したら、その隙を突いてベリアルは攻撃してきます」
「だとしてもだ!!もし──負けていたらどうする!」
いや、負けることはないんだけどなぁ。
現にあのベリアルの攻撃、全部かわしたし……
「そんなことないですよ。あいつ弱かったし」
「その油断が勝負に負けることだってあるんだ!」
「油断してませんよ!!あんな三下!父さんでも勝てますよ!!」
「自慢じゃねえけどな、俺は悪魔に勝ったことねえんだ!」
「じゃあ、とやかく言える立場じゃないですよね?魔力切れで気絶してただけなのに、父さんは大袈裟です」
「んだと!!」
父さんの表情は釈然としない、納得も出来ないと言いたげな顔だった。
僕パパのことキライ!!
「まぁまぁ、いいじゃねえかダグ。こうやってお前の倅も帰ってきたんだし」
「そうよ? 魔力切れだけで無傷なんだから、彼が悪魔に対してどれだけ圧倒的な力で勝ったのか証明したようなものじゃない」
間に入って父さんをなだめるアンジェラ先生とガルドさん。
多分僕が何言っても怒ってくる堅物頑固ジジィなので、大人の2人が相手してあげてください。
僕は身体がだるいです。状況が違えば病人みたいなものです。
そんなことより──僕は奥でその光景を見ているいかにも偉そうなおじさんが気になってしょうがない。
「ところで──その偉そうなおじさんは?」
「ちょっ!!おまッ──!!この方は!!」
「いいんじゃよダグ。ワシはこの国の国王──ジェフリー・トゥルメリアじゃ」
おっと……僕はなんて失礼な事を──
でもごめんなさい、身体がだるくて動かないので、ひれ伏すことが出来ないんです。
本当にごめんなさい。
不敬罪で処刑だけはしないでください。
するならそこの堅物脳筋頑固バカジジィのダグラス・グレイシーを処刑してください。
「すみません。寝たままの挨拶で不敬を感じるとると思いますが、ウィル・グレイシー。グレイシー公爵家嫡男でございます」
「あぁ、構わんよ。此度の戦いにおいて、悪魔を退けたこと──大変よくやってくれた。ウィル、君はこの国の誇りじゃ」
「勿体なきお言葉、感謝します」
なんだろう──
この人の眼差し、一人の国民を見る目ではない。
もっと特別な何かがあるような気がした。
でもそんなことは置いといて、そろそろ話を本題に移さないと。
「さて──ここに大物貴族が揃い踏みなのは、単に僕が悪魔を退けた凄いやつを讃えようとかそういうのじゃないですよね?」
「──と、言うと?」
「僕は一体──何に巻き込まれてるんですか?そしてアリス、君は僕に何を隠してる」
いつもウィル様と呼んでいたアリスが、あの時だけは呼び捨てで呼んでいたし、僕が神聖魔法を使えるのを知っていた素振りもあった。
「そ、それは──」
ここで話さなかったら、禁術の精神干渉魔法をつかうまでだ。
でないと──何故、ベリアルだけが僕を標的にしていた理由に進まない。
「いいんじゃ、アリス。申しなさい」
「──はい、お父様。私の名前はアリス・トゥルメリア、トゥルメリア王国第一王女です」
「うそ──アリスが王女様だったなんて……」
「ごめんね、シノちゃん。訳あって身分を偽っていたの。フローレス家に身を寄せていたのはこれから話すけど、おどろかないでね?」
もう何を言われても驚かない。
そう思っていたけど、この後に放ったアリスの言葉は僕も予想だにしなかった。
「──そしてウィル、あなたは私の弟、ウィル・トゥルメリアなの」
「………………………………えっ?」




