幕間のひと間 その3
皆様ごきげんよう──
フローレス公爵家のアリスです。
今日──ウィル様を含む私たちは、ハンター登録の為にギルドに赴いております。
私たちが在籍するトゥルメリア魔法学院は、Aクラスに入るとダンジョンにおける実技研修がございます。
しかしながらダンジョンに入る為にはハンター登録が必要でして、このハンター登録を完了していないと、たとえAクラスでもダンジョンに入れないことになってます。
ダンジョンは魔物やモンスターが多数生息している場所ですから、国がそういう規制を設けたのです。
生死は自己責任のダンジョンですから、誰彼構わず入ってしまっては、返って──死人を増やすという事になりかねませんからね。
無駄な死人を増やさない。という点では良い規制だと思います。
さて、ギルドに入ったのはいいのですが──不埒不遜なハンターが多すぎるではないですか。
まるで──女性を自身の欲望を満たす為だけの存在だと言わんばかりの視線。
身なりも臭そうで最悪。
気色が悪いし嫌悪します。
そんなことばっか考えてるから女の子にモテないし、相手にされないのよ。
男性なら女性に対して紳士的に接することを忘れてはなりません。
例えば──ウィル様みたいにね。
心の中で不満をぶつけては居ますが──そんなこんなでギルドマスターとの話が終わり──
「あぁ、それと──アリス、お父さんから預かりごとがある。ちょっと座って待っててくれ」
「私ですか?……はい」
ギルドマスターに足止めをくらった私。
まあ、大体予想はつきます。
私を残して部屋を後にするウィル様たち。
その様子をガルドは見送ると──私に跪いた。
「アリス様──本日はこのような場所に赴いて頂いたこと、感謝の念に絶えません」
「挨拶は結構よ、ガルド。それで──用件は?」
ガルドは椅子に腰掛ける。
「明日、アリス様たちがダンジョンに潜入することが、打倒派に知れ渡りました」
「それで? なんらかの動きはあるの?」
「はい──ノーマン曰く、刺客が送り込まれると予想しております。ですので──彼の御方含め、今回の実技研修は参加を見送って欲しいとの事です」
ノーマンらしい考えね。
でも──ここで見送ってしまったら、相手の手の内を探るのが一歩遠のいてしまう。
もう時間が無いっていうのに──
「それはできないわ。多少リスクがあっても、いつかは邂逅してしまうもの」
「ですが、姫様──」
「──今はフローレス家のアリスよ。それで私を呼ばないで」
「し、失礼しました……」
苦虫をかみ潰した様な表情をするガルド。
分かるわ。あなたがこの国を思う気持ち、私も一緒だもの。
あの御方が奴らの手に渡ったら、厄災が始まりこの地は蹂躙され、人が住めなくなってしまうもの。
それは人間種だけではない。
エルフや亜人だって、そのことは同じ。
「お父様はなんて?」
「陛下は今──ダグラス卿と裏で糸を引いている者の炙り出しを行っております。しかし──進捗は芳しくありません」
「簡単にしっぽは掴めないわ。また新しい情報が入ったら知らせて頂戴」
「かしこまりました」
これ以上は目新しい情報は無さそうね。
私は席を立ち、部屋を後にしようとする。
あ、そういえば──もう1つ言いたいことがあったんだわ。
「ねぇ、ガルド──」
「なんでしょうアリス様──」
「ハンターたちの民度が最悪だわ。私たち女性を下劣な目で見てたわよ。あなたどういう教育してるの?」
「も、申し訳ございません!講習を受けるようにと再三言っているつもりなんですが、いかんせん──どうも受講率が低くて……」
呆れた。
ギルド本部なうえに、ギルドマスターが舵を切っているこの場所で、講習もままならないなんて。
この人本当にギルドマスター?
ここは一つ、アリス様が叡智を授けねば。
「良い? これからは半年に一回、講習を受ける義務を設けなさい。期限までに講習を受けなかった場合、ハンターランクの1階級ダウン、無視し続けた場合は資格停止にしなさい」
「そんな──今でもかなりの人手不足なのに!有事の際はどうしたらいいんですか!!」
「そうならない為に講習を受けさせなさい!!食い扶持が無くなったら困るのはハンターの方です。ただでさえハンターの犯罪率が高いんですから、これくらいして当然です!」
口を噤むガルド。
ふふん、してやったり。
「か、かしこまりました……」
「よろしい。それじゃ、よろしくね〜」
私は部屋を後にする。
フロアの中央では、ウィル様たちが談笑していた。
ウィル様は私に気づくと、にこやかな表情で手を振ってくれた。
うん、そうだよね──
私はこの人を命に変えても──




