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ミスティツインズ 神秘の国の対の魔法使い  作者: レエ
【少年期2】万能の双子
39/43

3-11 国

 学園の広場に並び敷かれた露店。

「だからねっ、マスターハニアスタは天才なんだよぉ」

 そこで売り子をしていたクラスメイトのティナが言う。のんびりした子だが、いつもよりテンションが高い。

「ほー……」

 アリエルとアッシュは相槌を打つ。

 ティナは付与魔法使いなので、ハニアスタの業績を詳しく調べている。マッドとはまた違った視点で教えてくれた。


【付与魔法】とは――【魔法道具】に込めたい魔法を転写し定着。

 そして再発動するための機構を組み込む魔法だ。


 ティナやマッド曰く――。

 ハニアスタの作る魔法道具は、いずれも【高性能】らしい。

 そして八種もの系統の魔法を使えるため、その効果も幅広い。


 付与魔法を使うには、術者が【付与魔法以外】にも魔法を使える必要がある。

 そのため需要の高さに比べて使い手が少ない。

 複数の系統を組み合わせた魔法道具は、他の作成者が同じ物を作れる可能性がほぼ無くなる。アリエルとアッシュは例外になりそうだが。


 ところで――。

 魔法道具の【作成者】が頑張って作ったとして、【使用者】が使えないと意味がない。

 使用者にも【適性】が求められるのだ。

 しかし、高い技術を持つ付与魔法使いが作ったならば、使用者に適性が無くても使える。


 ハニアスタは【系統の広さ】と【適性不要】という利点を両立しているのだ。



「なるほどー」

「マスターハニアスタの魔法道具が実家にごろごろ転がっていたなんて羨ましい」

「そうだね。楽しかったよ」

「軽いなあ」

 ティナはけらけらと笑った。


「でもさ、そんなすごい人なのに、防衛魔法への無断解析なんてするのかなぁ。何か理由があったんじゃない?」

 ティナはハニアスタのファンのようだ。でも悪いけど……。

「おじい様は……ろくでもない人だよ……」

「え……」

 品の良いアリエルから出てくる、非常に否定的な言葉。ティナはぎょっとした。

「しても全然おかしくないねー」

 アッシュはのほほんとしている。隷属魔法を掛けられた当人なのに、アッシュはアリエルが余波で非難されないかぎり気にしていない。


「ティナ、色々教えてくれてありがとう。おじい様のことなのに知らないことばかり。アッシュのことばかり見てちゃだめだね」

「!?」

 硬直するアッシュ。そしてカタカタと震えだした。

「アリエル様……っ。僕以外の人に目を向けるの……?」

「え、えっとね。アッシュの成長が面白くて、そっちにばかりかまけていたから、ちゃんとアッシュの……【それ】の手掛かりを知ってそうな人を見極めようって――。あれ、どっちもアッシュのことだ」

「……僕?」

「うん。アッシュのことだけを見るんじゃなくて、アッシュのために他の人の研究をもっとしっかり調べようっていう話だよ」

「うーん……」

 納得すべきか悩んでいるアッシュを、ぎゅっと抱きしめる。

「僕の一番はアッシュだけだよ。大事な大事なアッシュ」

 ちゃんと染み入るよう祈りながら伝える。

「……ふへへ」

 機嫌が直ったようだ。可愛い。

「さー、寄ってってー。神秘の双子、贔屓の店だよー」

「はっ」

 周りの注目が集まっている。ティナの呼び込みに利用されてしまった。




 ティナと手を振って別れて、露店の並びをぶらぶら歩く。

「フーシー!」

 広場を通りかかったフーシーに声を掛ける。


「これから家に帰るの? 僕達フラドさんに会いたいんだけど、フラドさんが帰ってくる時間までフーシーの家で待っていてもいいかな」

 フーシーとフラドの家はリリアンク市内の西にあり、ご近所だ。

 魔法の隠蔽についての論文。著者のフラド自身に訊けば、その全容が分かるかもしれない。


「フラドさんは出張中だよ。ちょっと長くなるみたい」

「えー、そっか」

 ゴーリーにもまだ会えていない。大人は忙しそうだ。

「出張終わったら教えるね」

「ありがとー。じゃあ用はないけどフーシーの家行っていい?」

「いいよ」

「やったー」


「あ、道場にお供えする魔木まぼくをもらってこないと。神殿に寄りたい」

 西の地区にはリリアンクの守り神である聖獣が祀られている。

「うん、付き合うよ。あ、アッシュ大丈夫?」

「だ、大丈夫……」

「近くで待っていようね」

「うん……」

 フーシーが首を傾げていたので、アリエルが説明する。

 アッシュはあの神殿に充満する魔素が苦手なのだ。ぞわぞわするらしい。

「アッシュって魔物か何か?」

「天使だよ!」


 夕食はフーシーがコック長で、ワカサギのフリットとカブのスープを作った。あっさり味で美味しかった。






 冬が深まり、もうすぐ年末休み。

 休みに入ったら豪華温泉旅行だ。アッシュが手編みしてくれた帽子も完成したし、楽しみだ。


 放課後、クラッセン銀行に今月の生活費とおこづかいを引き出しにいく。

 行くのは久々だ。

 家賃や学費は自動で支払われるようになっているので、引き出すのは食費や書籍代などの日々の買物分。マデリン商会のバイト代が手渡しで、どんどん高額になっていったので、最近はそれで済んでしまっていた。高い魔法道具素体や調合素材などを買う時だけ引き出していた。

 しかし、先月は講義の準備でバイトに行けなかったので、久々に来たわけだ。


「残高、急に増えた!」

 二人はあわあわと詳細を見せてもらう。

「学園から振り込みがあるね」

「『講師料』と……『報奨金』?」

「なんだろう。間違っちゃったのかな」



 さっそくエドに会って訊く。

 銀行で紙に転写してもらった詳細を、エドは指差す。

「『講師料』は講義当日と準備期間、そして経費も合わせた額になります」

「はい……」

「『報奨金』は学園局が一定の成果を挙げた研究者に、機械的に出している報奨金です。他の支援システムでもお二人は対象に選定されているので、追加でさらなる報奨金が入ってくると思います」

「ひゃあ……。学園ってお金持ちなんですね」

「あなた方の期待値に対して、当然の投資です。……いえ、あなた達は初めてですからね。お金のことは全て任せると言われたとはいえ、説明を欠いていました。次からは新しいものは一言説明しますね」

「えっと、こちらも丸投げしておいて驚いてごめんなさい。ありがとうございます」



「ところで、私からも質問してもよろしいでしょうか。踏み込んだことなので答えなくてもいいのですが」

「なんでもどうぞ!」

「では……。ミスティアから、あなた方の今後について何も言われていないのですか」

「え……?」

 なぜミスティアの話?

「はい、何も」

 とりあえず答える。

「通信器が壊れていたり、手紙を溜めこんだり、領事館からの呼び出しを忘れていたりしませんか」

 な、なぜ、そんなに念押しを。

「はい。通信器は持っていませんし、手紙は几帳面なアッシュが管理してくれています。領事館には入国時に書類を渡したきりです」

「そうですか……」


「ミスティアがどうかしたのですか」

「いえ。非常に重要な研究なので、帰国させて囲いこむということもあるかと」

「ええっ!」

 そんなの嫌だ。

「今のところ何も……。あっ。遠い国ですし、まだ僕達の発表、知らないのかもしれません」

 アリエルは入学して二年近く、あちらの話などまるで耳に入らない。

 きっとあちらも同じだろう。

「ミスティアはそんなのんきな国ではありません。即座に情報共有したはずです」

 エドは即座に否定した。

 のんき……。


「何もないなら構いません。拍子抜けしただけです」

「拍子抜け?」

「その、マスターゴーリーの囲いが解けましたが、次はミスティアに囲われると思いまして。その前に、騙し討ちのように発表してもらいました。だからミスティアから相当な抗議がくるものと思っていたんです」

 騙し討ち……。

 未検証でもいいから期限までに発表してほしい、って言われたの、そういう事情だったんだ。


「エドさんも汚い大人だったんですね」

「アッシュっ、しーっ!」

「申し訳ありません……。君達の万能適性についてどうしても知りたくて……」

 公正にみえるエドも、知識欲旺盛だったようだ。



 エドは、リリアンク国とミスティア王国間の約定についても教えてくれた。

 曰く――。

【高額取引】については、要請があれば金額と取引相手を共有する義務があるそうだ。クラッセン銀行の約款にもそれを元にした条項が記されている。

 しかし【研究内容】については、ミスティアから要請があろうと、リリアンクは秘匿できる。


 ――ただし、アリエル達の研究は、アリエル達が完全な主導権を取っていて、共有相手を決定できる。そのためミスティア王国が、リリアンクでなくアリエル達自身に研究内容の共有や譲渡を命令してきたら、アリエル達はミスティア臣民として振る舞わざるをえない。


 つまりアリエル達の研究を、ミスティアは独占できるのだ。


(難しい話……)

 アリエルはぽかんとして、アッシュはムスッとしている。

「これ以上は、リリアンクの公的機関の人間である私から教えるのは差し障りがあります。誘導と取られかねないので。ご友人がそれなりに詳しいと思うので、気になったら彼らから聞いてください」

 マッドやランドのことかな。

「もちろんあなた達自身が知りたいことはお答えしますし、困難があれば共に考えます」

「ありがとうございます。大丈夫です。多分、何も起こりませんから」


 ミスティアがアリエル達に興味を持ったことなどない。


「アリエル様」

「ん?」

「やっぱり王国建てようよ」

「建てないよっ!」

 アッシュ、王国ごっこ好きだなあ。






 家に帰って、アリエルは花壇の前にしゃがむ。

「アリエル様?」

「見てて」

 アリエルは木の棒を手に取る。

 そして花のない部分。中央辺りの土に縦線を書き、その右側に文字を書いた。


『アリエルのりょうど』


 王国ごっこだ。

「半分こ。アッシュは左ね」

 アッシュに木の棒を渡す。

 けれどアッシュは、困ったように眉を下げて、棒を持ったままだ。

 やがて――。

 アッシュは中央の線を手で消し、アリエルの文字の途中に、挿入の記号と文字を加えた。


『アリエルとアッシュのりょうど』


 アリエルは、心にきゅんと花が咲いた気分になった。

「ふふっ。そうだね。僕とアッシュは同じ場所にいないとね」

「うん」


 荷物を中に置いて、二人は再び庭に出た。


 冬の景色。

 陽が落ちるのが早くなったけれど、高台にあるこの家からは、街の向こうの地平線に広がる明るい空がよく見える。

 時折聞こえる、サク、サク、という庭師人形のプシュケの鋏の音。

 アリエルとアッシュは、ガーデンチェアに座りブランケットに包まって、温かいミルクティーを飲んだ。

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