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ミスティツインズ 神秘の国の対の魔法使い  作者: レエ
【少年期2】万能の双子
34/43

3-6 大会・二回目2

 クリフの優勝が決まった闘技場内。

 そこには祝福と戸惑いが入り混じっていた。


「あれ、何だったの? クリフの体が魔力になった」

 マッドが心配そうだ。魔法道具の眼鏡は省エネのために一度外してもらった。

「分かんない。体が魔力に磨り潰されたんだけど、終わったらちゃんと戻ったよ」

 アリエルが見たままを伝える。

「…………」

 アッシュも少し心配そうにしている。


 クリフは救護席に座って、治癒魔法使いに診てもらっているようだ。

 そのクリフに女性が近づいてきた。


「あの人……」

 アリエルはその姿をじっと見て、確信する。

「闇の魔法使いだ」

 クリフとタタンと草原で魔物の大軍に遭遇した日。

 タワーから放たれた魔法の気配。


 あの後、兵団に聴取された時、あれが誰の魔法だったか聞いた。

 十賢ガッド。

 リリアンクの矛と呼ばれる魔法使いだ。


 彼女は救護席の屋根に飛び乗った。

「心配するな! 私のと変わらん。もう何年もこうだが、ご覧の通りピンピンしている」

 彼女は大音声で観衆に告げると、外套の前を広げた。

 肌を露出する薄着で、体の一部が闇の魔力化している。


「貴様ら、今日は面白いものを見たな。まさに火力の化け物が生まれた瞬間を」

 そういうと観衆の熱気はさらに高まった。

 あの魔力化の原理は分からない。

 だがクリフが十賢と同じ領域に踏み込んだということは理解した。


「ところで諸君、もっと面白いものを見たくないか?」

 会場からは応じる声と疑問の声が溢れる。

 ガッドの言に、会場が注目し左右されている。

「クリフとノアバート。三年間、この大会のトップに立っていた二人の決着がついた。だが、君達は今日、誰か足りないと思っていないか? そう、いまだ神秘のヴェールに包まれた存在に……」

 会場がどよめく。


 ガッドは、アリエルとアッシュを指差した。

「エキシビションマッチを行う! 対戦カードは優勝者クリフ、そして神秘の双子のタッグだ!!」

 会場は今日一番の盛り上がりをみせた。




「勝手なことを!」

 会場にいたレベル3クラスの教師は声を荒げた。

 フィールドの入口へと走っていく。

 だが、途中で別の運営が道を塞ぐ。

「ガッドからの命令です。この試合の間、誰も通すなと」

「こんなこと許されると……!」

「聞こえませんでしたか。十賢からの命令です」

 彼は歯噛みしてその場を去った。




 フィールドと会場を分かつ結界に、隙間が開けられた。

 アリエルとアッシュはそこから浮遊魔法でフィールドに入る。

「勝った方には、そうだな……私から豪華温泉旅行を贈ろう!」

「旅行!」

 アリエルとアッシュは大きく反応した。

 友人宅でのお泊まり会や、修練場近くでキャンプをしたことはあるが、全て市内や市の周辺だ。

 マナグレイスにも温泉はあるが豪華なホテルはないので、きっともっと遠くだろう。

 見知らぬ土地……。アッシュと行きたい!


「それと! 負けた方は罰ゲームだ」

「ええっ」

 アリエルはアッシュの手を引く。

「なんだろう。嫌なことなら勝負したくないな……」

「どうせ僕達が勝つから平気だよ」

 アッシュはクリフ相手なのに自信満々だ。

「リリアンク代表のクリフは、負けたら猫耳を付けてもらう! ちょうど黄色の耳が似合いそうな髪色だしな!」

 きゃあああっと観客が喜ぶ声ですごい騒ぎだ。

 クリフの人気はすごい。

 どうやらリリアンクの聖獣リンクの真似をさせるらしい。

(罰ゲームで神様の格好していいのかなあ?)




 教師は今度は会場席からガッドに近づこうとした。

 だが横目でそれを察知したガッドは、大きくジャンプしフィールドの中程へと移動した。

 教師は声を張り上げるが、会場の熱気に押されて聞こえそうにない。

「くっ……」

 教師は踵を返して会場を後にした。




「罰ゲーム、簡単そうでよかった」

 アリエルは安心した。

「僕達は何の格好をするのかな」

 ガッドは続けて告げる。

「ミスティアの二人は! えーと、人魚?」

 今度は観客の反応が悪い。

(人魚……?)

 アリエルは足を縛られてのたうつ自分達を想像した。

 ちょっとやだ。


 会場から他の案がいくつも飛び出してくる。

「白くま! ゆきんこ白くまでお願いします!」

 その中で特に必死な女の子の声が聞こえた。


「白くまって、もっと北の生き物じゃなかったっけ」

「でもそれを言ったら人魚なんて空想だよ」

 喧騒の中で、アリエルとアッシュはのんびりと会話する。

 リリアンク市からミスティア王都まで、馬車で北へ一か月。

 ミスティアが年中雪景色だと思っている人がたまにいる。


「よーし、ミスティア側は負けたらゆきんこ白くまだぁ!」

「やったああ!」

 ガッドの決定に、女の子の歓喜の声が聞こえる。


「くま可愛いよね。でも負けないよ!」

 ようやく始まるエキシビションマッチに向けて、アリエル達は気合を入れた。




「ノザン!」

 貴賓席にいた男は、外から鋭い声に振り向く。

「ジュジュ、少し外す」

「うん」

 側にいた『美少女』に声を掛けて、ノザンと呼ばれた男は貴賓席から出た。


 そこには焦りを露わにした防御魔法の教師がいた。

 貴賓席の扉に付いている護衛から、二人は距離を取って話す。

「師と連絡は取れないのか!」

「声を落とせ、タッカー。ゴーリーは地方へ視察中だ。それに連絡が取れてもこの場にいないのではどうしようもない。相手も十賢だ。試合の短い時間、ゴーリーを無視して押し切るつもりだろう」

「師の不在を利用して! あの野蛮な若造が……!」

「しっ」


 近づいてくる足音に、ノザンは反応する。

 ノアバートが駆けてきたようだ。

 ジュジュのいる貴賓室が騒がしかったので気になったのだろう。

「父さん、と先生……」

「ノアバート、ジュジュの側にいてくれるか。不機嫌だからなだめてくれ」

「ああ……俺が負けたから」

「いや、原因はその後のクリフとのハグだろうな」

「?」

「お前はよくやった」

 ノザンはノアバートの頭を撫でた。


 ノアバートが貴賓室に入るのを見送り、二人は再び声を落とす。

「ゴーリーには、アリエルの件については無理をしなくていいと言われている」

「なっ」

 タッカーはさらに不機嫌になった。

 彼は指示を受けていないのだろう。


「お前は師の味方ではないのか」

「……ゴーリーは国第一の功労者だ。彼がアリエルを危険視するなら、私は彼に従う。だが彼が重要でないと思うなら、万能適性を研究したいという者に力を貸したい」

「だがあいつらは師との約条を反故にした!」

「…………」


 ノザンもガッドの行儀の悪さは好かない。

 ゴーリーが主導権を握れたのは、常日頃の国への貢献を評価されてのことだ。

 それを力づくでひっくり返すなど、十賢の権力の乱用だ。

 だが……。

「ゴーリーはガッドが仕掛けてくることを予想していなかったのだろうか」

「どういうことだ」

「あの人にしては隙があり過ぎる。そう思っただけだ」






 アリエルとアッシュ。そしてクリフがフィールドで向かい合う。

「クリフ先輩、タッグ相手いなくていいの?」

「うーん。ノアバートがどこか行っちゃったんだよな」

 三人できょろきょろしていると、ガッドが声を掛けた。

「時間がない。クリフは一人でいいだろ」

「はい」


 ガッドはフィールドを離れた。

 そして運営に協力している魔法使いに、結界を閉めるよう指示する。

 閉まっていく結界。

 ――そこへ黒い影が一つ飛びこんだ。


「!」

 乱入者に皆の注目が集まる。


「三年、クナイ。魔法道具の暗器を使う。クリフ君のパートナーを務めたい」

 それは一人の男子生徒だった。

 口をマフラーで覆った怪しい姿。

 ローブタイプの制服のようだが、足を開きやすいよう改造されている。

 その手には黒い刀身の短刀と思わしき物が握られている。

 あれが魔法道具の暗器なのだろう。


「クナイ……? 大会には参加していなかったね」

「魔法道具込みでの戦いが俺の戦いゆえ」

 大会では魔法道具を使えない。

 それで参加を見送ったようだ。

「三年の授業でも目立った存在ではないな」

 クリフの声音は、クナイの参加に消極的なように感じた。

 息の合った万能タッグに、試合経験の少ない者と挑むくらいなら、一人がいいと思ったのだろう。

「……目立つ気はなかったのですが」

 そう呟いて、クナイは消えた。

「――!」

 そして一瞬でクリフの後ろに現れた。

「中等部の双璧の戦いに、神秘の国の双子の参加……。少々熱くなってしまいまして」

 クリフは冷や汗をかく。

 おそらく俊敏の魔法を瞬間的に使ったのだ。恐ろしい練度だ。

 もしこれが試合中なら、一撃を受けて負けていただろう。

「いいよ。組もうか」

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