7、終わり良ければ総て良し。
―――終わり良ければ総て良し。
とはよく言ったもので、クリステアは卒業と同時に第二王子と婚姻を結び妃となった。
王子は第二妃から第五妃候補の女性たちとの関係をすべて清算解消し、日常生活のありとあらゆる面で満足し、公務に勤しんでいるそうだ。
自分自身をすべてさらけ出すことは恐ろしいが、その分得られるものはあったとクリステアからの手紙には記されていた。
自領に戻ってからなかなか会えなくなってしまった親友が、月に二回必ず送ってくれる手紙を四つ折りにして、レヴィローズは青い空を見上げた。
午後に差し掛かったばかり太陽が緋色の髪を明るく照らしている。
今日もこれからニルヴェルトと訓練だ。
ニーグランドの領地で体験した空から降る星を堪能する星祭りは人生で一番楽しい、素敵な思い出になった。
ニルヴェルトの勧めもあって町娘に扮して領民たちと一緒に楽しんだ祭りの風景は、あの嫌な出来事をすっかり忘れさせてくれた素晴らしい出来事だ。領民たちがいかに彼を慕っているかを教えてくれ、是非領地に来て欲しいと懇願されたことはまだ記憶に新しい。
様々なところを見せて、触れさせて、経験させてくれたニルヴェルトには心の底から感謝している。
その母君とは毎週手紙のやり取りをするほどの仲となり、まるで実の娘のようにかわいがってもらっている。正直クリステアへの手紙より、筆を執る頻度が多い。
先日も次回の滞在時期を打診する手紙が届いたばかりだ。新しくドレスを新調したいから、早めに返事をするようにと添え書きがあった気がする。
「ドレスより、動きやすい騎士服の方が性に合ってるんだけど」
と抗する度に、なぜかニルヴェルトと母君が頑として首を縦に振らないのは何故だ。解せぬ。
あの後彼はクリステアの護衛騎士を辞して、中央の騎士団も辞めてしまった。
二週間前からアッシェンバッハ領に友人として滞在していると知ったら、彼女は何というだろうか。
ニルヴェルトは、父と兄に非常に重要な相談事があると話していたのだが、難航中の模様でまだまだ時間がかかりそうだとあっけらかんと笑っていた。
領主のくせにアッシェンバッハの騎士団に入りたいとか無理難題を言ったのではないかとハラハラしたが違うらしい。それに近い内容を相談中だとは言っていたが、詳細は解決するまでレヴィローズには教えないと頑として言われてしまった。
しょんぼりと肩を落とした自分を憐れんでか、継ぎ足すように、今後の人生のために必ず解決しなければならない非常に重要な相談事としか教えてもらえていない。
もう少し話してくれてもいいのに。
ふと泡のように浮かび上がった感情に、レヴィローズは小首を傾げた。
なんだかモヤモヤというかチクチクというか、消化不良の食べ物が食道の入口に引っかかっているような、不快とまではいかないが何とも言えない感情になったのだ。
「話す、か」
自分の全てを他人にさらけ出すのは恐ろしい。
特に嫌われたくない相手。大切な相手ならば猶のこと。
クリステアもレングルトもそれが原因ですれ違い、周囲を巻き込む大騒動になった。
相手の心は見えない。自分の心も相手には見えない。
本音にベールを被せて自分を偽っても、口から出す言葉、外から見える所作や振る舞いがその人の全てではないことを、この数か月の出来事で嫌というほど学んだ。
言わなければ伝わらない事でも、羞恥や理性が邪魔をして伝えられないことは世の中にたくさんある。それでも、分かり合いたいと願うのであれば、自分の心を相手に向けて、言葉として伝えなければならない瞬間が、誰にでも必ず来る。
黙っていては伝わらない。
心を丸裸にして、相手と向き合わねば伝わらない時が誰しもあるのだ。
「レヴィー!」
思考を中断させるように、この数か月間で驚くほど自分の耳によく馴染んだニルヴェルトの声が届く。その少し低い声で自分の名を呼ばれると、なんだか気恥ずかしいような心臓が跳ねるような、何ともくすぐったい気持ちになる。
「病気、とかじゃないか、聞いてみようか」
胸に手を当てて眉根を寄せると、もう一度名前を呼ばれる。
屋敷の方から木剣片手にゆっくりと歩いて来る淡い緑の瞳の青年に、レヴィローズは考え事を後回しにして屈託ない笑顔で走り寄った。
Fin
お嬢さん、それはね「恋の病っていうんですよ(ククk)」(←この後殴られます)
こんにちは!こんばんは。おはようございます!
変態執筆者代表の雲井です(違う)。
短編企画として冬休み楽しんでいただける、あたおか作品を!
をコンセプトにお送りしてまいりましたがいかがだったでしょうか?
読み切りの短編として企画を立ち上げ、プロットをザクっと製作し、キャラクター一覧表を作ったのは良いものの。悲しいかな。最後まで第二王子の名前が覚えられず、キャラクター一覧片手に最終章まで書き上げました。行動が異質すぎるので記憶に残るかと思いきや、第二王子という肩書の方が脳内で優勢で、どうしても個人名自分がつけたくせに覚えられなかったんだよ。ごめんね。
そんな懺悔の元に、「恋愛要素まだぁ?」(アスカ風味)と言われそうなので、最後の方で叩きこんでおきました。スッキリ。
ニルヴェルトには悪いのですが、一応箱入りとして男の中の漢であるパパんと過保護すぎる兄上たち(あと一人います)に育てられたレヴィは、周囲がびっくりするほど恋愛に疎い感じで仕上がりました。ああ、相談事難航してそうだなぁとか、血で血を洗うとか、暴れる熊を何とか抑えようとする理性派の執事とか、オニイサマとニール君の黒い腹の探り合いとかになってなければいいなー。とか妄想しつつ、ニヨニヨ楽しませていただきました。
物語はこれにて終了となりますが、またいつかくすっと笑っていただけるような物語でお会いできましたら幸いです。
それでは最後まで、拙作をお読みいただきまして誠にありがとうございました!