報告と訪問者
「報告する内容は2つあります。まず1つ目は例のスキル不明の少年を王都に連れてきたこと。2つ目は先程王都周辺で襲撃に遭いました。その際四天王と名乗った魔物と遭遇したことです」
ボルスの報告に場は騒然とした。
「成程...当初の目的よりも2つ目の内容の方が気になりますね。先に魔物について詳しく報告をしてください」
右大臣がボルスに続きを促す。
ボルスは無言で頷き話を続ける。
「襲撃に遭った敵の目的としては我ら騎士団の殲滅ではなくこの少年の連行。又は暗殺だと考えられます」
ボルスは一連の流れを全て説明した。
最初襲ってきた正体不明の集団は全員撃退したが、その後ミルの襲来があったこと。
そしてミルにボルスですら足元にも及ばないレベルの強さを感じたこと。
気になったのは右大臣はボルスの話を真剣に聞いているのに左大臣は適当に聞いている。
この国はどうなってんだ。
「...以上が魔物に対する報告です」
「報告ご苦労様です。2点聞いておきたいことがあります。
まず1つ目は最初の集団の正体。2つ目はミルという魔物と関連性はあるのか」
「1つ目の質問の答えですが尋問の途中でミルに殺されたので分かりかねます。あのお方というワードだけしか情報はありません。2つ目は関連性はあると考えられます。魔物は集団のことを使い捨てのコマと呼んでいました。依頼者なのか仲間なのかは不明ですが繋がってはいます」
右大臣は答えに質問を続ける。
「では関連性はあるとして最初の刺客も魔物だったのでしょうか?」
「可能性としてが低いと思いますが魔物の説は考えられます。騎士団のメンバーと同格の強さの者もいました。私が知る限り人間で我が騎士団と互角に戦える者は数えるものしかおりません。闇ギルドの連中の可能性もありますが...」
闇ギルド。知らない単語が出てきた。
名前的にいい印象は持てないな。
「分かりました。なかなか頭の痛い話ですね...」
しばらく場に沈黙が続く。
しかし静寂は汚い声で消された。
「何が頭の痛い話だ。結局この無能な騎士団が敵から情報を聞き出せず。あげくに魔物に逃げられた話でしょう?」
話を聞いてなさそうだったのに嫌な所だけは聞いてる左大臣だった。
右大臣は左大臣の言葉に眉をひそめる。
「騎士団が生きて報告しただけで素晴らしい戦果だと思います。私が頭を痛めているのはそんな内容ではないのです」
「何が違うと言うのだね右大臣?ではその内容を聞かせてもらおうか」
喧嘩腰に話をふっかけた。こいつ絶対仕事できる右大臣嫌いだろ。
「はい。この少年リルクさんの件については我々でも一部の者しか知らない情報です。それを相手側が知っているというのは簡単に言うと我が国の関係者に情報を流した者がいると言うことです」
右大臣の言葉に皆が驚きの表情を浮かべる。
確かに言われてみれば当たり前だが刺客が騎士団ではなく俺を狙ってきた時点で想像出来る。
左大臣は右大臣の言葉に焦りを隠しきれていなかった。
「なんだと!?我が国に魔物に対して情報を売っている裏切り者がいると言いたいのか!?」
「はい。誰かは知りませんがその可能性は高いです。もしくは情報が漏れた可能性もありますが」
「私を疑っているわけではないだろうな!」
「まさか。左大臣殿が情報を流すとは思っていません。ですがこれは調査しないといけませんね...」
左大臣の言葉を軽く流し真剣に考えていた。
やっぱりこの右大臣は仕事の出来る男だ。
「この件に関しては私が管理します。他の者はこの話を他言することを禁止します」
右大臣が魔物の件は請け負ってくれるらしい。この人なら安心だ。
左大臣は納得していない様子だったがこれ以上話しても意味がないと思ったのか黙り込んだ。
「では次にリルクさんの件ですね。本当にスキルは不明なんでしょうか?」
またも無言が続く。
「おいお前に聞かれてるんだぞ」
ボルスが俺のことを見た。
あっ、俺に聞いてたのね。
「えー...はい。スキル不明ってより?が3つ付いていたスキルの効果も名前も分からないって感じです」
慣れない敬語で話す。一応村長に教えてもらって正解だった。
まさかこんな偉い人に使うとは思ってなかったけど。
「スキル???ですか...どんなスキルか興味深いですね。王都にはスキル検査の施設が揃っているのでスキルの効果や正体が分かると思います。しばらく王都に滞在してもらうことになると思いますがいいですか?」
「大丈夫です。俺も自分のスキルの正体を知りたいですし」
「ありがとうございます。王都に滞在してる間は不自由ない生活と協力代を保証しますよ」
まさかのお金までもらえるとはラッキーだった。
俺はスキルの効果を知れれば良かっただけなのに。
右大臣様一生ついて行きます。
ボルスが唐突に手をあげた。
何か言いたいことでもあるんだろうか。
「この少年の身柄は騎士団が預かります。また敵が襲ってきても騎士団であれば対処出来るでしょう」
なにいらんこと言ってんだ!
俺は城で可愛いメイドさんを眺めてながら楽しい生活を満喫しようと思ってたのに!
右大臣もボルスの言葉を聞いて少し考えて納得する。
「そうですね。ではリルクさんのことは騎士団に一任します」
俺の輝かしい城での生活が...
まぁ襲われて死ぬよりましだけど。
お金をもらえるだけでもありがたいからいいか。
夢の生活は諦めることにした。
「ではこの辺で本日は終わりましょう。私も色々やることがありますのでリルクさんの検査は明日からにしましょう」
右大臣の言葉の後に左大臣がすぐに立つ。
イラついた表情で無言のまま外に出た。
周りのとりまきも急いで跡を追った。
「では我々もこれで失礼します」
騎士団も退室しようとするが呼び止められる。
「ボルスとリルクさんは少し話したいことがあるので残って下さい。それ以外の皆さんは申し訳ないですが退室をお願いします」
ボルスはアイシャ姐さんを見て無言で頷いた。
アイシャ姐さんはそれを見て退室する。他のメンバーも続いて部屋から出ていき俺含め3人だけになった。
3人になってしばらくすると右大臣が口を開いた。
「今回は中々大変だったようだなボルス」
「ああ。今回はさすがに死ぬかと思った。お前こそこれから色々大変だろうが大丈夫なのか?」
「大丈夫ではないがやれることはするさ」
いきなりの2人のタメ語に困惑する。
「え?ボルスお前なんて何失礼なこと言ってんだよ」
「いいんだよ。この部屋は結界が張られてるから外部に話も漏れることはないから安心しろ。てかさっきのお前のこいつに対しての敬語面白かったから笑いそうになったよ」
「うるせぇ!てかまた失礼なこと言いやがって。この人めちゃめちゃ偉い人なんだろ!?」
右大臣は俺とボルスの会話を見て微笑んだ。
「いいんですよリルクさん。ボルスとは昔からの仲ですから」
「そうだぞ?こいつには小さい頃にこの国を支える2本柱になるぞ!って誓い合った仲だ」
その後ボルスと右大臣との関係について色々話してくれた。
2本柱というのは武力と政治のことだ。
簡単に言うとボルスが武力で国を守り、右大臣が国を中から変えていくことでいい国にしようと昔約束したらしい。
現在はボルスが騎士団長。お友達はこの国のナンバー3の立ち位置らしい。ちなみに2番目は左大臣。
「いつになったらこの国の王になるんだ?俺は約束通り騎士団長になったのによ」
「耳がいたい話だな。時間はかかるが必ずなるから安心しろ。この国の王になるまで俺は死ぬわけにはいかないからな」
右大臣それ死亡フラグっす。
「ところで私の自己紹介がまだだったね。私はこの国の右大臣をしているネスだ。ボルスとは幼馴染といった立場になる。王都で何かあったら私を頼ってくれたらいい」
ネスは笑顔で右手を差し出した。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
俺も笑顔で右手を出し握手する。
王都ではネスさんにお世話になることが多そうだ。
「じゃあ自己紹介が済んだ所で2人を呼び止めた理由を話そうと思う」
「裏切り者の正体に心当たりがあるのか?」
ボルスの言葉にネスは驚きの表情を浮かべる。
「よく分かったな。確信があるわけではないが何人か心当たりがある」
「長い付き合いだからな。それで怪しいやつは誰なんだ?」
「考えられるのは3人いる。まず1人目は...」
ネスが話し始めようとした時ドアが凄い勢いで開いた。
「リルクさんどこ〜!」
真剣なムードには似合わない女性の声が響いた。
入ってきた人物を見ると10代後半位の見た目の女性だった。
顔は幼い印象で腰まで長い黒髪が後ろで綺麗にまとまっている。
可愛い女の子って見た目だが何か不思議な雰囲気を感じさせる人物だった。
困惑気味の俺を見てネスが口を開く。
「マリス様。会議中の立て札を見られなかったんですか?」
『ごめんなさい!慌ててたから見てませんでした!」
マリスと言われた女性は頭を何度も下げて謝っていた。
ネスさんが様付けしてるし王宮にいるってことは偉い人のはずだが誰なんだろう。
「リルクは俺だけど。貴方はどちら様ですか?」
謝り続ける女性に変わってボルスが答えた。
「誰って勇者マリス様だよ。名前くらい聞いたことあるだろ?」
「勇者マリス...勇者...ってえー!これが!?」
「こんな頼りない勇者ですみません〜!」
悪いこともしてないのに俺に謝ってきた。
こんなやつが本当に勇者?
俺ですら勝てそうなんだけど...
「お前今失礼なこと考えてるだろ。普段あんな感じだが戦闘になったら俺よりも強いぞ」
人は見た目によらないってことか。
てかボルスもあんな感じって失礼なこと言ってるじゃねぇかよ。
やり取りを見てネスは軽く咳払いを付いてから切り替えた。
「マリス様。リルクさんを探してるようですが何用ですか?」
「移動中に襲われたって聞いたから探してたんです。怪我でもしてたらどうしようかと思って...」
どうやら俺の心配をしてくれてたらしい。
心優しい女性だった。
「大丈夫ですよ。騎士団が守ってくれたのでなんともありません」
「よかったぁ...」
マリスはその場でしゃがみ込んでしまった。
俺が無事だと分かって安心したのだろう。
でも俺と認識無いはずだがどうしてそんなに心配してくれるのだろうか。
俺の疑問はネスさんが解決してくれた。
「特別なスキル持ちかもしれない少年とはいいましたがそこまで心配しなくても」
「だって魔王を倒して世界を救ってくれる可能性があるスキルかもしれないじゃないですか」
あれ。もしかして俺じゃなくってスキルの心配でした?
目の前の勇者が打算的な女性に見えてきた。
「可能性の話です。スキルの調査は明日から始めるので結果が分かり次第報告します」
「明日からってことは今日はこの後何も予定ないんですか?」
「本日はこのまま騎士団の拠点で過ごしてもらう予定です」
「それじゃあ...」
マリスは両腕で俺の腕を引っ張り自分の身体に寄せた。
控えめだがしっかりと感じる胸の感覚に鼻の下が伸びそうになる。
「今日は私がリルクさんに王都を案内してあげたいんですけどいいですか?」
まじですかマリス様!
まさかデートってやつですか!?
完全に鼻の下が伸びきっているであろう俺を見てネスさんが少し呆れていた。
「特に予定はないのでかまいませんよ」
ネスの返答にマリスは笑顔を俺に向けた。
「やった!じゃあ早速行こう?」
「はい!行きます!」
食い気味で返事をする。
女の子と2人きりで街中を歩くなんてデート以外の何だというのか!
今からワクワクが止まりません!
童◯感がえぐい俺であった。
俺とマリスはそのまま会議室を出ようとした。
「おいリルク!」
その時ボルスが大声で俺を呼び止めた。
「なんだよ」
せっかくいい気分だったのに止められて少し不機嫌に返事する。
「...気をつけろよ。マリス様は...」
「分かった分かった!勇者様が一緒だから大丈夫だ。夜には騎士団の拠点に戻るから!」
ボルスの言葉を遮って言葉を残しマリスと部屋を出た。
ボルスが神妙な面持ちをしていたがあまり気にしなかった。
あの時の言葉をしっかりと聞いていたらこんなに後悔することはなかっただろう...と後に俺が思うのはまた次のお話で...