78話
「・・・なんだって?」
僕はニーナが言ったことを聞き返してしまう
「ですから、使途不明金について、そこだけ全く記録も記載も無かったんですぅ!
一応、工事の初期費用と最終的にかかった金額までは書いてありましたけど、何度書類を見直しても、使途不明金が計上されてるんですぅ・・・」
ニーナが頬を膨らましながら、書類を僕に渡してくる
僕の向かいに座っていた彼女は、僕の隣まで椅子を持ってやってきて、書類を指さしながら説明してくれる
どこに何が示されているのか、そして、どこに問題があるのかを・・・
うん・・・ニーナが言うように、確かに使途不明金の記載がない
最終的に使われた金額と、工事で使った費用が合っていない
ニーナが見つけてくれたこの書類には、工事で使われた費用が『すべて』纏められたもののはずだ
たとえ写しだったとしても、『すべて』が載っていないと駄目なものである
一応、王命とはいえ公共工事なのだから・・・
誰も、これを指摘する事なく王都へと帰ってしまったのか?
いや・・・王宮の文官がこの間違いに気付かずにいられるとは思えない
書類仕事に素人である、僕の爺ちゃんが気づく程のものなのだから・・・
「・・・これって、意図して記載していないって事ないよね?」
思わず考えを口にする
これは溢れたしまった訳ではなく、自分でも確証が得られないけど、とりあえず誰かの意見が聞きたいからだ
「・・・あり得るかもしれません
使途不明金について隠してるとしたら、はっきり言って杜撰です
横領だとしたら辻褄を合わせるためにどこかの費用を水増しするはずですよね?
・・・もしかしたら、気づいて欲しかったりするんでしょうか?」
「それでしたらぁ・・・誰に気付いて欲しかったんでしょぉ?」
「うん、そうだよねぇ・・・」
気づかれる事前提だとしても、田舎の村長の家に置いていかれた書類に気付くのは、その村長か、もしくは今後温泉に問題が生じた時に見た者しかいないはず
村長が書類を確かめるとは思っていなかったのか
それとも何かしらを長期で考えていて、この早さで見つかる事は予想されていなかったり・・・
いや、流石に分からないな・・・
「これ書いた人に話が聞けたらいいんだけど・・・無理だよなぁ・・・」
書いた者や承認したものはもう、王都へ帰ってしまっているだろう
今村に残っているのは、温泉工事の為にやってきた工員のうち、移住してしまった者だそうだ
工事期間に温泉に入れたことで温泉に憑りつかれてしまった者、気持ちの良い自然に囲まれたこの村が好きになった者
村の女性を好きになってしまった者とか・・・
そうして、三人の移住が完了した
しかも、そのうちの一人は妻子持ちで家族を呼び寄せてしまったという・・・
この村を好きになってくれて移住してくれたのは嬉しいんだけど、とんでもない行動力である
それはさておき・・・
手詰まりである
天井を見上げる
「どうすればいいんだ・・・」
僕はため息をつきながらぼやく
この書類について詳しく分かる人は王都にいる
まさか、王都に戻って王宮へ行き、書類について聞いてこないとダメなのか?
この使途不明金の件と僕とラビヤーを襲ってきた男は無関係なのだろうか?
何をすればいいのか全く分からない
この件は僕達には難しい依頼だったのか
ニーナとラビヤーも黙ってしまった
今まで追放部門で扱った件と比べて、解決の糸口が全く見えないのだ・・・
今までの依頼は、ある程度の証拠を依頼主に貰ってから、仕事を始めることが出来ていたからだ
ああ、依頼を受けて二日目にして、失敗かな・・・
初めての案件失敗がまさか自分の故郷だったなんて・・・
そんなことを考えていたら、家の扉勢いよく開いた音が聞こえた
「皆の衆、戻ったぞ!」
僕達が入り口を見に行くと、ローブ姿の知らない女性を連れた祖父がニコニコ顔で仁王立ちしていた・・・
「あらあら、おかえりなさい」
婆ちゃんがキッチンの方からパタパタとやってきて、爺ちゃんを出迎える
「あら、お客様ね?あなた、そちらの方を紹介してくださいな」
「うむ、こちらはな・・・」
「あっ、大丈夫です自分で名乗ります」
その女性は羽織っていたローブを肩から降ろして名乗り始めた
「私はシルビア・シビリアンと言います
普段は王宮で働いでいます
よろしくお願いします」
「あらあらご丁寧に
マクシミリアンの妻のアリアナです」
「はぁ?」
僕は祖父が連れてきた人物が思いがけなすぎて、変な声を出してしまった
更新が遅くなり、大変申し訳ありません
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
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