74話
「怪しい人・・・ですか・・・」
「うーん・・・」
ロウリュさんとユキは考え込む
いきなり怪しい人について聞いても、すぐには思い出せないかなぁ・・・
少し考えこんだ後に彼女たちが口を開く
「あたしは1年くらい王都に修行に行ってたからねー
知らない人はいっぱい見たけど・・・
ごめん!思いつかないや」
「私も夫のお仕事を手伝ったり、女性目線での温泉への口出しはしていました・・・
ですが、強いて怪しい、と言えるような人は思いつきませんね」
「そう、ですか・・・」
嫌な汗がどっと吹き出す
そして一つの言葉が脳内を巡る
焦り
僕は勝手に思っていたのだ
ここで
一つでもいいから
情報が手に入る
そんな期待をしていた
そしてそれが今、打ち砕かれたのだ
まずい・・・
「マーク?大丈夫か?」
心が折れそうになっている僕に、ジェーンが心配の声を掛けてくれる
そうだ
僕は家族のために仕事をしている
僕がここで折れてしまうと、爺ちゃん達がどうなってしまうか・・・
旅行に連れてきたニーナとラビヤーにも・・・
友達になれたジェーンも・・・
この依頼が解決しなかったら、この村での思い出が嫌なものになってしまうかもしれない
僕は仲間たちの労をねぎらうために、この村への旅行へ誘ったんだ
彼女たちには、この村を楽しんで帰ってもらいたい
それに、ニーナが書類から何か見つけているかもしれないからね
まだ絶望するべきじゃない
しっかりしろ!僕!
さっさとこの依頼を終わらせて・・・ゆっくり温泉に浸かるんだ!
そして王都で自慢してやる!!
「ごめんジェーン、持ち直したよ」
僕はそう言って深呼吸をする
・・・
よし
頭をフル回転させろ
彼女たちにした質問は曖昧で、答えづらいものだっただろう
彼女たちは冒険者でもなんでも無いから、情報を簡潔に答えるなんてことは出来ないはずだ
もっと答えやすいものに変えよう
「そういえば、前の旅館の物ってどうしてるんです?」
「えっ?」
僕は唐突に、この依頼に関係が無さそうなことを聞く
遠回りでもいい
少しずつ、一歩ずつだ
あえて関係が無さそうな事でも、何かに繋がるかもしれない
彼らが答えやすそうな『自分たちのこと』を聞いてみよう
「えーっと、そうですね・・・
取って置けるような、思い出のあるものは家の倉庫にしまいました
貴重な飾り物などは集会所に寄贈したり、邪魔になるようなものは商人に売ったり・・・
使い道がなければ壊して薪にしてしまいました」
「あたしが欲しがってた、ご先祖様の故郷の熊の木像は?」
「ちゃんと倉庫にしまってあるよ」
「他に何があったんですか?」
「うーん特にすごいものは・・・
飾り物とか家具は古いだけの物でしたし、美術品なども置いてませんでした」
ふむ・・・
爺ちゃんからの依頼は、使途不明金の使い道について明らかにすることだけど・・・
あの覆面男がこの件に関係しているかどうかも分からない
同時進行で進めていかなければならない
「特に価値あるものとかはどうでしょう?」
「価値があるとすれば、温泉に関する古い資料とかですけど・・・
今は私の父が所持しています」
『さえずり』の時と同じく、何か貴重なものが狙われているとか
そういうことではないのだろうか
「そうですか・・・サンスケ爺さんはお元気ですか?」
「え?サンスケ爺さん?」
「ああ、それはですね・・・」
ジェーンがサンスケさんの顔を見ながら不思議そうにしているので、彼がその疑問に答える
サンスケさんの父
温泉の管理人の先代
名前はサンスケである
なぜ同じ名前なのか
『サンスケ』は実は役職名である
サンスケさんは先代から温泉の管理人を引き継いだ時に、名前も引き継いだのだ
なお、僕はサンスケ爺さんの本名を知らない
小さな頃からずっとサンスケ爺さんと呼んでいた
サンスケさんも昔は違う名前だったんだけど、『サンスケ』を名乗りだして誰も彼の名前を呼ばなくなった
僕はとうに覚えていない・・・
今更呼び方を変えるわけにもいかないし、サンスケ爺さんが別の名前を名乗らない限り僕たちにとっては『サンスケ爺さん』なのだ
「後で父の元に案内しますね」
「お願いします」
サンスケ爺さんは今は山に籠っている
サンスケさんに温泉の管理人を引き継いだ後、新しい温泉を探す毎日を送っているそうだ・・・
一応山の入り口に家を設置し、そこに帰ってくるそうだ
サンスケさんかロウリュさんがご飯を届けているので死ぬことは無い、らしい・・・
さて、今はまだサンスケさん一家から、まだ情報を仕入れなければ・・・
「では質問を続けます
監督官はどんな方でした?」
「監督官・・・そうですね・・・」
「監督官ってあのイケメンだけどなんか弱そうな人でしょ?」
「ば・・・ユキ、不敬だぞ!?」
「なんでぇ?」
「お父さん、ユキはあの方の正体は・・・」
「ああ、そうだったね・・・
ユキ、あの方は・・・この国の王子様なんだよ」
「えぇ~~?!」
ユキはとても驚いている
彼女は知らされていなかったのか
それは若いからなのか、それとも・・・
ユキはロウリュさんを質問攻めにしている
どうやら監督官が王子様だってことは、村の一部の人間しか知らないことだったようだ
もしかして、秘匿されていた・・・のか?
ユキたちが話している間に、サンスケさんが話の続きをする
「監督官の話でしたね
彼は・・・いい人ではあるんですけど・・・
何と言いますか・・・」
サンスケさんは言葉を選んでいるようだ・・・
そんなに答えづらいのだろうか?
何か嫌な思いでもしたのかな?
「めんどくさい人でした」
「なんですって?」
サンスケさんの口から出た言葉は、なんとも言えない言葉で・・・僕は驚いてしまった
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
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