58話
温泉を満喫することができた
祖父は軽くのぼせた僕が無事に温泉を出るのを見届けて、どこかに行ってしまった
僕は温泉のある建物を出てすぐのところにある、噴水の前のベンチでのぼせた頭を冷ましながら考え事をする
考えているのは女性陣を巻き込むか、否か、だ
今僕たちは旅行に来ているということを忘れてはならない
しかし僕だけで追放部門の仕事は不可能だ
僕にできることは人の話を聞いくこと、ちょっとした音魔法を使うこと、書類をまとめることぐらい・・・
ニーナとラビヤーがいなかったら仕事が成り立たない・・・
あれ・・・
僕って割と役立たずでは・・・?
悔しいが、僕には特に秀でたところは無いのだ
ちょっと昔話をしよう
僕が冒険者になったのは両親に憧れて・・・
そのために祖父母を説得し、ほかの村人たちにも応援されて村を出てきたのだ
しかし上位の冒険者なったり、何か特別なことを成し遂げることはなく、僕は冒険者の道を諦めた
小さい頃からずっとなりたかった冒険者だったが、その暮らしは輝かしいものでは無かった
冒険者になりたての頃は薬草の採取や小さな獣やスライムなどの弱い魔物を借ることくらいで、日銭を稼ぐことしか出来なかった
才能の芽も開かぬうちにできた後輩は、半年でゴブリンの巣などを少人数のパーティで攻略できるような才能あふれる子たちばかり
大きな仕事を受けられることも滅多なく、良い仕事は取られてばかり
日に日に腐っていった
結局のところ僕は、冒険者になりたかっただけで、何かを成し遂げたいと考えたことは無かったのだった
それを理解してから僕はすぐに冒険者を辞めた
そして依頼を受けるために通っていた『牡牛の角』の仲の良かったギルド員に良ければと紹介されたのが、広報部門の仕事だった
僕はそこで、冒険者時代の経験や唯一得意だった音魔法を使うことによりチーフにまでなることが出来たのだ
そして仕事ぶりを評価され、追放部門の隊長に任命された
ここまでこれたのは故郷の、祖父母や村人たちが僕を送り出してくれたからだ
その故郷を守るためなら、僕はなんだってできる
仲間たちに力を借りて問題を解決しよう
・・・力を貸してくれるか、不安だけどね
そこは僕の得意な『お話』で乗り切ろう
「というわけで、力を貸してほしいんだけど・・・」
温泉を出てきた女性陣をこの建物にある食事処に案内して、飲み物を人数分頼んだ
客は僕たち以外にいないけど、食事処として営業はしているみたいだ
普段は村人たちが温泉から出てここに寄るらしいんだけど、今日は僕たちが客としてきているので祖父の計らいによって貸し切り状態らしい
僕の祖母が店員になって、飲み物とちょっとした軽食を出してくれた
彼女は今、厨房の奥のほうで邪魔しないようにお茶を飲んでいる
そして僕は、先程の祖父からの頼みごとを皆に話した
正直、休暇を邪魔してしまうことに心苦しいが、故郷のために彼女たちの力が必要なのだ・・・
「隊長のおじい様が捕まるかもと聞いてしまっては断れませんね」
「大丈夫ですよぉマークさん!力にならせてくださいぃ!」
よかった・・・
ニーナとラビヤーは力を貸してくれるようだ
ジェーンは温泉に入っている間に二人とさらに仲良くなったようで、僕たちの仕事の話を聞いたらしい
個人名など詳しいところは話さなかったらしいけどね
そして僕たちの仕事に理解を示してくれた
さすがに彼女を仲間外れにして、僕たちだけで話し込むことはできなかったので同席してもらった
口外しないよう約束をして・・・
「隊長はいつも私の労をねぎらってくれますから
それに疲れた時だって、隊長は自腹で甘いものなど買ってきてくれますし
いつもお世話になってますし、日ごろの恩を少しでも返させてくださいな」
「そうですぅ!マークさんは先日、私がマークさんのお気に入りのカップを割っちゃっても優しくしてくれましたしぃ!」
「ニーナ、あんたはちょっと違くない?」
「いいんですぅー!私だって恩返ししたいですぅ!」
僕に恩だなんて・・・
彼女たちが仕事をしやすい環境を作ることが僕の仕事でもあるのに・・・
いかん、涙が出そうだ
「二人ともありがとう・・・」
僕は二人に深々と頭を下げて礼を言う
そこでこの話をずっと聞いていたジェーンが割って入る
「面白そうだし、あたしも混ぜてくんない?」
と言って・・・
「人出が増えるのは嬉しいんだけど、いいの?」
「だってこんな話聞いて、あたしだけ何もしないのはさすがにね
それに一人でただ温泉入ってくつろぐの、つまんないし、飽きちゃいそうだし
暇なのは嫌なのよ」
「巻き込んじゃってごめん」
「いいのいいの!あたしも定期馬車の護衛でよくこの村に来てたからね
いいところがいっぱいあるのも知ってる
それに・・・もしこの村がなくなっちゃったら仕事もなくなるし!!」
ジェーンは舌を出してウインクをする
いい人だ・・・
思わず僕は両手を合わせて彼女を拝む
「ちょっやめてよ!そんなことしないで!」
彼女は僕の仕草に慌ててやめさせようとする
その様子に思わず頬が緩む
その横でニーナとラビヤーも同じように両手を合わせた
「もう!やめないと力貸すのをやめるよ?!」
僕たちはそう言われてすぐに気を付けの姿勢をとった
そしてみんなで笑い合う
ジェーンだけふくれっ面だっけど、つられて笑い始めた
からかいすぎたかな?
日頃、人によくからかわれる僕だけど・・・
人をからかうのって楽しいんだなぁ
その気持ちがわかった気がした
そして笑いが収まったところでラビヤーが話題を進めた
「では・・・まず何から始めましょうか?」
「そうだね、僕が一人で仕事を受けると決めただけだったからさ
一応一通り話は聞いたんだけど、温泉の中で聞いただけだから情報が少ないんだよね
まずは村長である僕の祖父からもっと情報を仕入れようか」
「温泉の整備の記録とか計画書が残っていたらそれも欲しいですねぇ」
僕たちはいつも通り何から手を付けるか、優先順位について話し始める
そこでジェーンがぽつりと呟く
「あたしは・・・何すればいいんだろうね?」
確かに・・・
いつも三人でやってきたからあと一人に何をさせるかなんて決まってない
力を貸してくれると言うのだから、何か仕事を割り振らないと・・・
「うん・・・じゃあまずは僕たちと一緒に祖父から話を聞いて、何か思ったことがあったらガンガン言ってよ
違う視点があれば助かるから」
「なるほどね・・・わかった」
なんとなく誤魔化したようにも感じるが、最初の仕事って大抵が先輩の後ろで仕事を見るところから始めるよね
彼女にもそうしてもらおう
僕たちだっていつも仕事しているギルドじゃないから、イレギュラーなことが起きるかもしれない
イレギュラーにはイレギュラーな人物を当てる
そんなこともあっていいだろう
「よし!じゃあこの村のために・・・頑張ろう!」
「「「おぉ~!」」」
それぞれ飲み物を持って高く掲げて気合を入れる
その様子を聞きつけて厨房の奥にいた祖母が、こっちにやってきた
・・・皆で顔を赤らめる結果となった
そうして僕たちは、この仕事を受けることを決めて、村長である僕の祖父から話を聞くとことにした
そういや、爺ちゃんどこ行ったんだろう・・・?
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
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