48話
僕はスミスの報告をし終えた
あとはギルド長がスミスの今後の処遇について宣告するだけだ
いつも通り、ギルド長は沈黙を貫く
さっさと発表すればいいとは思っていたが、これを以前に意識して溜めてるのか本人に聞いた
『処遇を決められる側に、皆の前で自分の行いを言われるんだ
噛み締める時間、覚悟する時間は必要だろう』
との事だった
威厳を出すとかそういうことだと思っていたんだけど、まさか気を使っていたとは
人を揶揄うことが好きなギルド長は真面目な所は真面目にするんだなぁと思った僕である
そしてギルド長が沈黙を破り、口を開いた
「スミス、お前を我が『牡牛の角』から追放とする」
スミスの罪は許されることが無かった
スミスはギルド長から目を逸らさないでじっと見つめる
「お前が呪われて操られたことと、鍛冶部門の素材の横領は確かに繋がった
しかし、それは呪いのネックレスによって悪化しただけである
その前から横領を行っていたことはお前も認めたことだ
異論はあるか?」
スミスはこの問いに対し
「ありませんです」
腕を組みながらも毅然とした態度で返す
やはり彼は覚悟が出来ていたようだ
今までの追放された二人はさすがに動揺していたが、彼は一切の動揺など見せない
ちょっとかっこいい
やったことは悪いことだけど・・・
「では追放後の事を話そうか」
ギルド長の話には続きがあった
これはゴブニュさんとギルド長とで話し合って、僕たちは知らないことだ
まぁ最終的な処遇はいつもギルド長と追放者の所属する部門の隊長が決めるんだけどね
さすがにこれにはスミスも少し反応する
「ゴブニュとも話し合ったことだが、お前はギルドから出ていった後でどこかの鍛冶屋で働くか、故郷に帰ろうとするだろう
それでは優秀な鍛冶師をただ放り出すことになる
我がギルドの今後を考えた結果、ゴブニュの知り合いの鍛冶屋で働いてもらう
そこで横領された素材分を借金として、すべて返すまで働くように」
「このままお前さんが出ていくと儂らが教えたことが無駄になっちまうしな
それにまだお前に秘伝も伝えていなかっただろう
さっさと借金返して戻ってこいや」
「た、隊長・・・」
スミスの今までの毅然とした態度はどこへやら、漢泣きをしている
ギルド長たちのスミスへの処遇は僕が考えていたよりちょっと軽かった
正直なところ借金返させるためにどこかで働かせるだろうとは思っていた
しかし返し終わった後でならギルドに戻ってきても良いとは考えていなかった
これはかなり寛大な処置だなぁ
「ありがとう・・・!ありがとうございます・・・!」
スミスは泣きながらゴブニュさんとギルド長に感謝している
「では、スミスの追放の件はこれで終了とする」
ギルド長のこの一言で、この話し合いは終わる
この後で僕たちは部門に戻り、今回の調査についてまとめる仕事をする
・・・はずだった
「あーあ、こんなもんで終わるんですか~」
クリスチャンが唐突に口を開いた
無事に終わるところだったってのに今更場を荒らすようなことを言わないで欲しい
「アランさんが彼をただ放り出すだけだったら良かったのに
そうしたら呪いの被験体として、私が雇えたんだけどなぁ」
クリスチャンが急に物騒なことを言い出した
「てめぇ!何を言いやがるんだ!」
ゴブニュさんもさすがにこの発言には怒りを隠せない
クリスチャンは元はギルド長からだが、今は僕の責任でここに同席している
もう終わるところだけど場を荒らされるのも困る、さすがに黙らせないと・・・
【消音!】
僕はクリスチャンを黙らせるために音の魔法を使った
彼は懐から大きなメダルのようなものを取り出す
それが光を放った
「・・・?!」
なんだ!?声が・・・でない!
もしかして【消音】が反射された?!
「やだなぁマークさん、話し合いは先ほど終わったところですよ?
私に魔法をかける権利はもうないはずですよねぇ??」
今までの胡散臭かった表情と打って変わって、口角が引き上げられて、何とも言えない悪い表情で僕に言う
彼に感じていた拒否感というかなんというか、間違ってなかったのか?
このタイミングで本性を現しすとは・・・
「やめないかクリスチャン」
ギルド長がクリスチャンを諭す
彼は持っていた杖をクリスチャンの方へ傾けて、いつでも魔法を使えることを表している
「私はただ魔法を返しただけですよ~?
これくらい抵抗もできない彼が悪いと思いませんか~?」
クリスチャンはギルド長に臆することなく答える
今はもう冒険者じゃないから抵抗する手段なんて無いよ!
昔と比べて衰えを感じるなぁ
「まぁ【消音】くらいすぐとけるでしょ?
それより約束通り、終わったんで呪いのネックレスはいただけますよねぇ?」
「ああ、ちょっと待て」
ギルド長が指を鳴らす
するとボムンと音が鳴り、クリスチャンの目の前に箱が出現した
クリスチャンがその箱を開けると、中から呪いのネックレスを取り出した
「確かに~
では私はこれで帰りますね~」
彼はいそいそと会議室の出口へ向かう
ドアの前で立ち止まるとこちらを向いた
「ではマークさんお世話になりました~
ちょっとは楽しかったですよ~」
僕はまだ【消音】がとけていないので返事が出来ない
それをわかっているようでニヤニヤと悪い顔をする
「ニーナちゃんとラビヤーさんもまたお会いしましょう~」
「ひぅっ!」
「・・・」
ニーナは彼のあくどい笑顔に怯え、ラビヤーは彼を警戒している
その反応を見てさらに彼の笑顔の迫力が増す
こいつ変態だぁ・・・
「では皆さんお疲れさまでした~
また遊びに来ますねぇ~」
そう言ってクリスチャンはギルドから出ていったのだった
「キャサリン!塩持ってこいや!」
ゴブニュさんの怒りが収まらないようだ
ブリブリと怒りながらキャサリンさんに塩を要求している
・・・本当に塩持ってこいって言うんだなぁ
「ギルド長の許可があれば持ってきます」
「かぁ~!頭かてぇな!」
キャサリンさんは冷静に返した
当のギルド長はというと、何も言うこと無く席を立ち、部屋を後にする
出ていくときに僕にウインクひとつしていっただけである
気を使ってくれたのかどうかわからないけど、男のウインクなんて嬉しくないよぉ
この場に残されたのは気まずさ
この案件の主役?であるスミスの追放もクリスチャンの勢いに飲まれた
結局特に何も言えることも無い、部屋に残された僕たちは解散した
何とも後味の悪い終わり方をしたなぁ・・・
スミスは『牡牛の角』から追放された
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
感想 いいね ブックマーク よろしくお願いします
Twitterにて更新のお知らせ等しています
@moongekko01




