34話
アントンの長い、長い自白が終わった
購買部門の隊長マイルズさんとギルド長は神妙な面持ちで彼の自白を聞いていた
沈黙が続く
アントンは家族のためにと横領をしていたのだ
それを飲み込むか否かはマイルズさんとギルド長に委ねられている
長い沈黙の後、マイルズさんが口を開いた
「なぜ・・・ギルドの誰かに話さなかったのですか」
アントンは奥歯をグッと噛み締めた後にマイルズの質問に答えた
「私の一週間の休暇は購買部門の仲間たちが無理をして作ってくれたものでした
その休暇で事故があり娘が病となったのはお話ししたでしょう
そして、その治療費のために私に仕事を回してくれたことも・・・
私はそんな仲間たちを裏切り!盗みを働いていたのです!
何を・・・!何を!話せばよかったのでしょうか!!」
アントンが声を大にして叫んだあと、張り詰めたものが切れたように嗚咽する
マイルズさんも黙ってしまった
アントンの長い自白でいろいろなことがわかり、僕たちはこの話し合いまでの間に必要なことを行った
その説明をするのは今だろう
「アントンの自白を聞いて分かったこと、行ったことがあります
それを今から説明します」
僕はニーナに合図をしてマイルズさんとギルド長に書類を渡してもらう
「まず、アントンの事故報告書の偽造についてです
これは本人の自白と筆跡鑑定、そして出勤時間などを合わせた結果、事実と判明しました
ほかに偽造を行っている者はおらず、アントン単独によるものでした
次はダイスについてです
先日、ダイスは酒場で暴れていたところを巡回兵によって捕縛されました
ダイスはアントンを呼ぶよう要求していますが、アントン本人の意向により保釈金を出さないようにさせ、今は王都の留置場に入っております
そこで、警備兵及び巡回兵に裏の買取屋の情報を渡しました
今頃ダイスは王都の警備兵たちよってに尋問されていると思われます
次に横領したアイテム等についてです
これはアントンの家とダイスの家に買い取り屋に流される前のアイテムが残っていました
購買部門の販売員協力のもと、事故報告書偽造によって横領されたアイテムだと確認されました」
アントンの自白で僕たちの調査に足りなかったピースがほとんど埋まってしまったのだ
追放部門の調査が不十分だったとは認めたくないが、本人の自白は何よりも強いと感じた
ちょっと悔しい
出せるものはすべて出した
後のことを決めるのはギルド長と購買部門隊長のマイルズさんである
僕はこの話し合いの前にアントンに言った
「僕たちはあくまで追放となる人を調査して精査する部門です
追放を決めるのはあなたの上司であるマイルズさん、最終決定を下すのはギルド長です
あなたが追放されたくないのだとしても、結果は僕たちには決められないことをどうかご理解ください」
と・・・
アントンは
「わかりました・・・
私は許されないことをしました
娘の治療費のため、家族を養うためと言い訳できる段階はとうに過ぎ去っているのでしょう」
と言っていた
アントンは結果がどうあれ罰を受ける覚悟を持って僕たちのもとへやってきたのだとその時感じた
僕の結果報告が終わり、沈黙が訪れる
口火を切ったのはマイルズさんだった
「少し・・・時間をいただけませんか?」
マイルズさんはこの話し合いの間ずっと困惑し続けていた
アントンの自白を聞いて追放をやめにしようという考えが浮かんだのかもしれない
そしてギルド長が口を開く
「では10分後、再開するとしよう」
「ギルド長、二人でお話がしたいのですが」
「ああ、わかっている」
ギルド長とマイルズさんを会議室に残し、僕は部下二人とアントンを連れて部屋を出ていく
会議室の外の長椅子でアントンの膝が揺れ続ける
彼は吐きそうな顔をしていながらも下を向きながら祈るように手を合わせている
ギルド長たちの話し合いの結果がどうあれ、彼には報われてほしい気持ちがある
決めるのはギルド長たちだ
僕たちは一度も口を開かず二人の話し合いの終わりを待った
10分後・・・
長い、長い10分だった
アントンにとっては人生でもっとも長い10分だっただろう
時間になったので会議室の扉を叩く
「はいりたまえ」
ギルド長から入室の許可がでたので4人で部屋に入る
僕たちは元の席へと戻り、静かにギルド長の裁定を待つ
誰かの唾を飲み込む音が響く
そして『牡牛の角』の長が口を開いた
「アントン、君を追放とする
我がギルドから、そして王都から出ていきたまえ」
無情にもアントン追放の宣告が下された
アントンは上を向き、眉間にしわを寄せてその言葉を飲み込んだ
しかし
ギルド長の言葉はそれだけでは終わらなかった
「アントン、君の追放先に関してだが・・・」
「・・・はい」
「君を『エルフの里』へと送る」
「えっ?」
今・・・なんと言ったのだろうか
エルフの里・・・?
アントンは状況を呑み込めていない
僕達もだ
マイルズさん以外がギルド長を見つめたまま動けなくなった
ギルド長はそれを歯牙にもかけず話を続ける
「君の行ったことは仲間への裏切り、そして我がギルドに多大な金銭的被害をもたらした
その賠償として、エルフの里へと追放とする
そこで横領された金額を全て返してもらうまで働いてもらう
・・・・ああ、そうだ
家族も連れて行け
君の過ちはいずれこのギルド中、そして王都にも広がるだろう
君の家族も君の過ちのせいで『誰かしら』から『何か』を言われるのかもしれないからな」
ギルド長の下した追放は、王都からの追放・・・なのだが
まさかエルフの里へとは誰も思っていなかった
エルフの里は空気が澄んでいると評判で、スライム肺炎の治療のために滞在する者もいるという
ただし、里のエルフたちの許可があってこそ滞在できるのだが・・・
ギルド長は里の方でも権力があるようだ・・・
そして、さっきのギルド長とマイルズさんの話し合いはこのためだったのだろう
人が悪いなぁ
いや、エルフが悪いって言うのだろうか
アントンはギルド長から下された処遇を飲み込み、涙して、何度も何度も礼を言う
マイルズさんがアントンに声をかける
「君は昔から真面目に働いてくれていました
それは購買部門の仲間たちが見ていました
もちろん私もです
エルフの里でしっかりと罪を償いなさい
そして、娘さんの治療の成功を祈ります
これからが正念場ですよ
それまで王都には近づくことは許されません」
それはマイルズさんからの激励の言葉のようだった
ここでギルド長が口を挟む
「おいおい、これでは私は道化じゃないか」
ギルド長はこの状況においても楽しんでいるように見受けられる
わざとらしすぎるようにも感じるけどね
今回の案件の結果・・・
アントンは『牡牛の角』から追放された
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
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