31話
7日前
僕は広報部門へと足を運んだ
僕一人では外部の商人や搬入業者からアンケートを取るのは難しい
そこで広報部門に協力してもらって伝手や人手を借りられないかと考えた
その後で購買部門に行き、商人と搬入業者を教えてもらおうと思っている
広報部門の部屋の扉をノックする
中から「どうぞ」と返事が聞こえたのを確認して部屋に入っていった
「お邪魔しまーす」
「あら、お久しぶりですチーフ」
「もう僕はチーフじゃないよ、ヒロミさん」
「そうでしたね、追放部門の隊長さん」
そこにいたのは僕の元部下で主に事務と雑務を担当していたヒロミさんだ
僕よりも年上だが丁寧な言葉遣いでいつも接してくれていた黒髪メガネの女性である
彼女は僕が出ていってからここのチーフになったようだ
胸に雑な文字で「ちーふ」と書かれた名札を付けている
「ああ、これですか?アンジーが作ってくれたんです
ふふっ可愛いでしょう」
「やっぱりアンジーの仕業だったのか
うん、似合ってるよ」
取り留めのない会話をする
元の職場にいた時の暖かい空気が懐かしい
「ところで、今日はどうされたんですか?」
彼女がいきなりやってきた僕の用件を聞いてくる
「ちょっと力を借りたくてね・・・」
僕は今追放部門でやっている案件について詳しく説明した
元部下なので口止めも必要ないだろう
信頼しているのだから
「なるほど、それでアンケートをする人が必要だと」
「うん、僕がやってしまうと追放部門の仕事だってアントンのところまで漏れてしまうかもしれないからね」
少しでもアントンに怪しまれたり、情報が漏れてしまわないようにしなければならない
大変だなぁ
作戦はこうだ
まずアンケートを取りたい人物をカフェか何か人が多いところに呼ぶ
僕がいるところを見られないようにと、呼び出したとしても怪しまれないように、だ
・・・カフェの料金は経費で落とそう
ヒロミさんに対面でのアンケートをお願いする
決められた質問以外で聞きたいことがあったら、僕が対象の後ろの席で隠れて音魔法で指示を出す
「こんな感じでどう?」
「密偵みたいな感じね!楽しそうだわ~」
彼女が両手を合わせて体を左右に揺らしている
たしかに物語に出てくるような作戦である
「ちょっと演技力とか必要そうだけど、できそうかな?
「ええ、私はポーカーフェイスは得意なので」
彼女が胸を張って言う
「私、隊長にカードで負けたことが無いんです♪」
「えっ」
あの、人の表情を読み、心の中を見通し、からかう事を人生の楽しみにしている広報部門隊長のシャル・コーマにカードで負けたことが無い?
やはりヒロミさんも優秀な人だ
広報部門のチーフ時代にもひしひしと感じていたが
心強いなぁ
こうして僕はヒロミさんという強い味方を手に入れ、カフェにアンケートを取りに行ったのだった
カフェにて
様々な人が来店するギルド前のカフェである
仕事に行く前の冒険者、商人や御者、朝の一仕事が終わった主婦らしき女性の集団、本を片手にコーヒーを啜る貴族っぽい老紳士など・・・
貴族もこんなところのカフェを利用するんだなぁ
家で静かな朝を過ごしているのだと思っていた
「親分!こんなところにいたんですかい!そろそろ教会の屋根の修理ですぜ!」
「おう、ちっとくれぇコーヒー啜る時間くらいあるだろうめ!すぐ行くから待ってろや!」
コーヒーを勢いよく流し込んで去っていく老紳士
・・・・貴族じゃなかったね
さて、そんなことはさておき今から呼び出された商人や搬入業者のアンケートを行う
僕はヒロミさんの座っている席の前のテーブルでヒロミさんに背を向けて座る
呼び出された人物と背中合わせになるように
振り向いてヒロミさんを見る
彼女が笑顔で会釈をする
楽しそうである
ぶっちゃけ僕も楽しみだ
しかしこれは仕事なので気を引き締めて、少しでも多くの情報を引き出そう
僕は店員が持ってきたコーヒーを啜る
・・・舌をやけどした
呼び出された最初の商人の男はいろいろなことを話す
『牡牛の角』の購買部門は良い商品ばかり入荷すること
開発部門では同じ品を仕入れてくれるので安定した収入を得られること
アマゾネスの名物双子が可愛いこと
購買部門の隊長が値切るのが上手いこと
名物双子に惚れたこと
名物双子にプレゼントするなら何がいいかなど
関係ない事ばっかり話すじゃんかこいつ!
僕はヒロミさんに合図をしてアンケートを終わらせる
これ以上続けても名物双子の話だけして終わりそうだし何の情報も得られそうにない
この男はヒロミさんにプレゼントのアドバイスをもらってほくほくした様子で去っていった
こんな人ばかり集まらないよね?
・・・二人目の男も三人目の男も似たような話ばかりしていた
今日は何も収穫が無かった
明日に期待しよう
次の日アンケートに呼び出されたのは搬入業者の人四人だ
彼らはうちのギルドに雇われている人と外部の業者の二種類いた
うちのギルドに雇われている業者は仕事について真面目に話してくれたが、外部の業者はそうじゃなかった
なんとアンケートの最中にヒロミさんを口説き始めたのだ
ヒロミさんは男の猛攻を難なく避ける
男が仕掛ける
ヒロミさんが躱す
最後にその男は肩を落としながら去っていった
2日目も収穫が無かった・・・
3日目、今日は商人二人と搬入業者二人
商人の片方は女性だった
なんでも購買部門に化粧品を納品しているらしかった
ヒロミさんにも化粧品を薦め始めたのでその人のアンケートを打ち切る
それ以外の人も取り留めの無い会話や購買部門の誉め言葉を言うだけだった
今日も収穫が無い
僕は非常に焦る
そろそろ誰か情報を出してくれ・・・
4日目
今日は収穫があった
納品した商品の感想を聞こうとしたが誰に聞いてもわからないと言われたと話す商人がいた
彼が納品したのはシルクでできた寝間着である
値段を聞くと結構な高級品だった
職人が試行錯誤して作った品だったので買った人がいたら感想を聞きたかったようだ
だが納品して2週間経ち売れただろうと販売員に聞いてもわからないと言う
誰も買っていないと思い商品を買い戻すかと思ったが商品が無かったそうだ
納品した時に料金はもらっていたので販売員のだれかがこっそり買ったのだろうと商人は言っていた
高級なシルクの寝間着ね
覚えておこう
5日目は収穫なし
特に変わった人もいなかったし情報も得られなかった
コーヒーに飽きてきた
6日目
搬入業者の女性が何やら話してくれた
「搬入の時にあたいミスって、でかい箱を落としちまってさ
中の果物が割れて一緒に入ってた防具に染みがついちまったんだ
当然弁償を申し入れたんだけど、販売員の人がこのままでいいって言ってくれたんだよね」
「その販売員の名前は分かりますか?」
「もしかしてその人の事怒るのかい?」
「いえ、念のため聞きたいだけですよ」
「んー・・・名前は・・・なんだっけなー
たしか・・・アンソンだっけ」
「もしかしてアントンですか?」
「そうそう!アントン!あの人優しかったよ、誰でもミスはするって言ってくれたし
これくらいなら洗うだけで売れるからってー」
アントンがしたことと、果物の染みがついた防具についてメモを取る
優しさでしたことなのだろうか
防具の行方を調べなければならないな
アントンが言うように洗って売ってしまったかもしれないが
結局、得られた情報はこれだけだった
僕はヒロミさんにお礼を言ってカフェを後にした
後日、広報部門に彼女を借りた分の経費を支払うとしよう
隊長宛にお礼状も添えて・・・
しばらくコーヒーを飲みたくないと思えた1週間だった
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
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