20話
「さてあくまでシラを切るというなら次の証人を呼びましょうか」
そう言って僕はまた魔法を使い扉の外へ合図をする
【小音爆弾】
扉から現れたのは白いローブをまとったメガネの女性
「誰だそいつぁ?」
「お気づきになられない?おかしいですね?よくあなたと遠征に出ていた方ですが」
ヴェレツが口を開く
「シアさん?!」
ステーレンは心当たりがないようだが
ヴェレツは知っていた
彼女は遠征部隊の依頼で怪我をしたとき自分に回復魔法を使ってくれていた回復術師だったからだ
今回の秘密兵器その1
「回復部門のシアと申します」
「シアさん、貴方は遠征部隊の依頼にどれだけ参加なさっていましたか?」
「ほぼ毎回、募集があるたびに参加していました
ステーレンさんは私の事なんて覚えてなかったようですが」
「なぜ何度も参加していたんですか?」
「他国を巡り美味しい物を食べるのが趣味なので・・・」
「はぁ~~?」
ステーレンはいきなり訳の分からないことを聞かされて困惑している
彼女に肝心なことはまだ聞いていないから黙ってて欲しい
「さて、シアさん、お呼びした理由はおわかりでしょう?話していただいてよろしいでしょうか?」
彼女が息を呑む
「はい!」
そして話始める
「私はヴェレツさんの傷を回復魔法で何度も癒してきました
その度に辛そうな顔をしていたのを覚えております」
あまり役に立たなそうな証言にステーレンが口を挟む
「なんでぇ、そんだけかよ」
「まだあります!」
彼女がローブの中から書類を出した
「私たち回復部門は回復魔法を使った時に必ず記録を残しています
これは遠征部隊についての書類ですがヴェレツさんの傷を回復した記録しかないんです」
「だからヴェレツが弱っちいせいでこいつだけ怪我してたって言ってんだろうが!」
ステーレンがシアを怒鳴りつける
彼女涙目になって僕に助けを求める
僕は
「書類を渡していただいてもよろしいでしょうか?」
と言って彼女から記録を受け取る
「ステーレンさん、実はこの記録は回復魔法の使用したことだけを記録したわけじゃないんですよ」
「はぁ?」
「この記録はどうして傷を負うことになったのか、傷をどう癒したのかの記録も記載されているんです」
言葉に詰まるステーレン
口をあんぐりと開いて黙ってしまった
こんなものが出てくるとは思ってもいなかったのだろう
「『ステーレンが牙イノシシを取り逃がし依頼主に接触しかける、ヴェレツが庇い右足を骨折 【治療】を使用』
『盗賊の矢が依頼主を狙う、ステーレンの指示でヴェレツが剣で矢を振り払うも矢の欠片で擦り傷を負う 小ポーションを使用』
『ステーレンがゴブリンの巣を発見、大声を上げゴブリンと戦闘開始、戦闘中ステーレンの薙ぎ払ったゴブリンがヴェレツに直撃、ゴブリンの歯が刺さる ポーションと念のため【解毒】を使用』
と、こんなことが書いてありました
どれも貴方が主原因のように見受けられますが」
「くっ・・・」
ステーレンは口を閉ざしその場に居直る
意地を張っているようにも見えるな
「シアさん、ありがとうございました」
「では失礼します」
シアにお礼言うと彼女が部屋から出ていく
まだこれで終わりじゃない!
「最後にもう一つ、重要な証拠があります」
正直この情報だけではステーレンもミスをしていただけにも見えるのだ
そこで秘密兵器その2を投入する
「ギルド長」
「ああ、入ってもらいたまえ」
ギルド長が合図を送る
会議室の扉がまた開く
入ってきたのは銀色に輝く鎧を着た褐色の男性
このあたりでは見ない顔だ
隊長達もステーレンもこれが誰なのか分かっていない顔だ
「この方は隣の国の港町の警備責任者の方です」
「はっ!シルバと申します」
この国ではない別の国の敬礼をして名前を言う
「シルバさん、お話をお願いしてもよろしいでしょうか」
「了解であります!」
彼が懐から紐でまとめられた紙を出す
ゴホンと咳ばらいをし読み始めた
「数日前わが国では闇市場の取り締まりを行いました!
この度3軒の裏の素材屋を摘発出来たのです!
今回こちらの『牡牛の角』からの情報提供があり助かりました!
そして!その中の情報屋からの帳簿を確認したところ、ステーレンという男の名前が何度も出てきたのであります!」
これが今回の最終兵器その2だ
今回の調査で得た証言を隣の国の港町の警備にリークした
結果、すぐに対処して摘発したようだった
是非お礼をとギルド長に連絡が来たので今回のステーレンの追放に役立つ情報が無いか聞いたところこの方を送ってくださった
まさか隣の国の裏の素材屋の摘発がすぐさま行われるとは思ってもいなかった
ギルド長はただ『恩でも売っておくか』と思いついただけだったらしいが・・・
「シルバさん、ありがとうございました」
僕が情報提供者にお礼を言うと彼はその場に敬礼をし、ギルド長へ深く頭を下げた後退室していった
あとで僕もお礼をしに行かなければならない
そしてまたも静まり返ったこの場にギルド長の言葉が響く
「もう言い逃れは出来ないようだな」
ステーレンが頭を上げてギルド長を見る
しかし何も言葉が出てこないようだ
「意義は無いと見えるが」
ギルド長が続ける
ステーレンが奥歯を噛み締め、深く頷く
「ではステーレン、お前は追放だ
お前の今までの働きを考慮して横領を不問とする
そして『退職金』を出す
そしてこの国の冒険者ギルドすべてにお前の名前を周知させる
今後この国以外冒険者活動は制限しないが、我がギルド『牡牛の角』の名前を出して行動しないことを魔法契約してもらう」
事前に決めた彼への措置をギルド長が淡々と説明する
ステーレンは振り絞るような声で
「わかり・・・ました」
とだけ言った
ギルド長が杖を取り出し魔力を集中し始める
ステーレンの足元に魔方陣が出現した
【魔法契約・執行】
ギルド長が呪文を唱え魔方陣が光を発し、ステーレンを包み込む
魔法文字浮かび上がり、彼の体に入っていく
すべての文字が彼の体に入り魔法契約が結ばれた
「ではこれで終わりだ、ステーレン」
「出ていきたまえ」
彼は生気を感じられない顔で頭を下げた後、足取り重く部屋を後にしようとする
「待ってください!」
僕は彼に声をかける
ステーレンはゆっくりと顔を上げる
「最後にヴェレツさんに謝ってください」
と言った
追放の仕事はした
だがこれだけは僕のわがままだ
彼が不当にステーレンのせいで傷を負ってきたのは覆せない
ステーレンはヴェレツのほうを向いて
「すまなかった」
とだけ言った
ヴェレツは
「お世話になりましたチーフ」
とだけ返した
こうして今回の追放の仕事は終わった
『牡牛の角』からステーレンが追放された
続き鋭意執筆中
ライブ感だけで書いているので矛盾があったら教えて欲しいです
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