表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヴィランズ

*アルティメットゲーマーズ

作者: 寿々喜 節句

 たしか、ミサコって名前だったかな。漢字は忘れた。

 十歳の女の子だ。

 バスケットゴールを前に、ボールを持ったままただ泣くだけで、全くシュートする気を感じない。

「遅っせえな! 早くしろよ!」

 俺は怒鳴った。

「落ち着けよフォックス」

 隣に座るラビットが言った。

 ここでは俺ら二人は狐と兎のお面で顔を隠し、それぞれフォックスとラビットと名乗っている。

「お前の方がリードしてっから焦っちまった」

「まあな。たぶんこの賭けは俺の勝ちだな」

 そう言ってラビットがにやりと笑った。

 お面は口元だけは見える。

「でもお前ずるいよな。お前のチーム、十四歳と十六歳だろ?」

「ああ。その方が良いかなと思って選んだんだよ」

「俺んとこは、十歳と十二歳だからな」

「でもその分、フォックスの方は親が若いだろう。俺んとこのは五十代だから、その点は不利かも」

「たしかにそれは言えているか」

 ラビットと話をしていたら、会場がから「うおー!」と歓声が上がった。

 ミサコがシュートをし入ったようだ。

「よし、次だ。ミワコに代われ」

 俺はマイクを使って会場に指示を出した。

 俺らの席は特等席。

 なんせ、このゲーム会場は俺らが作ったのだから。

 俺らはコンクリートと荒々しいフェンスでできた地下賭博場“アルティメットゲーマーズ”の首謀、フォックス&ラビットだ。

「これでやっと、並んだな」

「そうだな」

「でもよくこんなゲーム考えたよな」

 ラビットはアイデアマンだ。今までも多くのゲームを考えてきた。

 しかし今回は特別面白い。会場はいつになく会場が盛り上がり、賭け金額も倍以上だ。

「ああ。なんか、羊の死体を使うスポーツがあるって聞いてそこからインスピレーションを受けた」

「それは俺も聞いたことがある。でも、それをバスケに応用しようっていう発想にはならないだろう」

「そうか?」

 今回のゲームは家族対抗フリースロー対決。

 二人姉妹のいる四人家族を用意し、どっちの家族が先に勝つか、だたそれだけの賭け。

 勝負がシンプルなので、盛り上がっているのだろう。

 またしてもここで会場から歓声が上がった。

 ラビットのチームの長女がシュートを決めたらしい。

「よくやった。それじゃあ最後はお母さん、頑張ってくれ。入れたら解放だ」

 泣きわめきながらボールを手にする、ラビットチームのお母さん。

「どんな気分なんだろうな? 旦那の頭でバスケをするって」

「さあ?」

 今回は掛け金を全部持っていかれそうだ。

 まあ親の金だしどうでもいいけど。

 そんなことを考えていたら、この日一番の地鳴りに近い、歓声や怒号が飛び交った。

 ラビットチームのお母さんが一発で決めたらしい。

「よっしゃ。俺の勝ちだな」

「そうだな」

 どうでもいいと思っていたが、やはり負けると悔しい。

 金なんてどうでもいい。勝ちたくなってきた。

「ラビット。リベンジさせてくれ」

「いつでもどうぞ」

 余裕綽々なラビット。

「それじゃあ今すぐ」

「受けて立とう」

 そう言うとラビットはマイクに向かって話し出した。

「ゲームセット。お疲れさまでした。ラビットチームの勝利でーす」

 スクリーンが表示され、俺らが映しだされる。ゲームマスターの登場だ。

 ラビットチームに賭けていた者たちはかなり興奮状態にある。金が増える喜びもそうだが、やはりこの背徳感にハマっているのだろう。

「しかーし。これだけではありませーん。延長戦に突入でーす」

 なかなかにエンターテインメントなラビットだ。アイデアマンなだけあってマイクパフォーマンスも面白い。

「解放してくれるって言ったじゃない!」

 俺のチームのお母さんが怒鳴るように言った。

 活躍もしないで何を抜かしているんだ。

「気が変ったのでありまーす。準備がありますので、お待ちを」

 スクリーン映えを意識して、両手を広げて大げさにラビットが言った。

 そしてマイクと映像を切った。

 両家族とも「嘘つき」だとか「早く出して」だとか泣きわめいているが、逆にそれが観客を湧き立てている。

「準備なんて必要か?」

「まあな。俺の方が有利だけど、王者の特権で許せ」

 ラビットがそう言うと、スタッフに指示を出した。

「どういうことだ?」

「見てればわかる」

 ラビットに言われた通り、競技場を見下ろす。

 黒服を来た数名のスタッフが、競技場に入ってきた。

 それを見た女六人は怯えながら逃げまわり始めた。

 しかしフェンスに囲まれた競技場には出口はない。

 スタッフに二人の女が捕まる。

 どちらもお母さんだ。

 そして、一人のスタッフがチェーンソーで二人の頭を切り落とした。

 それだけ終えると、黒服のスタッフは会場を後にした。

 再び俺らが映し出された。

「さあて、今度は姉妹対決でありまーす。どちらが勝つか、それではベットタイムでーす」

 モニターが切れる。

「おもしれーじゃん」

「だろ?」

 会場の賭け金額が俺らのタブレットに表示される。

 やはりさっきの結果からかラビットの方が賭け金額が大きい。

 しかしその分、見返りは少ない。

 俺の方はリスクはあるが、勝ったら何倍にもなる。

 安定を求めるか。勝負に出るか。

 まあでもそんなものはささやかなことだ。

 それよりも、この誰もやったことのない、今まで見たこともないゲームそのものに意味がある。

 だからそこ、アルティメットゲーマーズは楽しいのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うえー!! さすが寿々喜さん! すごい。こんな吐き気を催す邪悪さを形にするなんて! なかなか出来ないですよね。 マジすげぇ、筆力。
[良い点] 親のお金で賭けてる、というところからすると、ラビットもフォックスも、まだ若いのでしょうか。 金持ちで小賢しいガキどもがイキがってる感じなのかなぁ、と想像して、アングラなコミックっぽさがあり…
[良い点] ああ、バクチーな闇バスケ(?)かー、と考えていたらまさかの!!でした〜Σ(゜д゜lll) これはかなりグロテスクですね。 そして怖い。まさに狂気。 実際にこんなゲームがどこかで行われている…
2022/08/03 22:19 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ