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2.初恋は何もできないまま終わってしまった

ミュスカーと、彼の兄であるアーロンに出会ったのは十二の時だった。

双方の親が社交界において意気投合して、それ以来家族ぐるみの付き合いとなったのだ。


ミュスカーは明るく社交的で、すぐに友人と呼べる存在になった。

その頃のリリィは引っ込み思案で、いつも大きなぬいぐるみを抱えて誰かの背中に隠れるようにして私のことを窺っていた。


ふたつ年下の幼馴染だというリリィは、私の家とミュスカーの家との交流の場に必ずくっついてきた。

あまりにもミュスカー達と親しげなので、最初は妹だと思っていたくらいだ。


そうしてその場で一番幼いからと、みんなが彼女の我儘を叶えてあげるのが常だった。


リリィは新しく加わった私の存在を異分子と判断したのか、警戒心もあらわに睨みつけてきて、私と仲良くなろうとはしなかった。

彼女の姉であるデイジーも集まりに参加することがあった。

彼女は思慮深く聡明で、常に誰の邪魔にもならないように配慮をした上で場を盛り上げるのが上手だった。


デイジーは私とミュスカーの四つ上で、アーロンと同い年だ。

デイジーとアーロンは仲が良くて、美男美女が楽し気に会話しているのをいつも憧れの眼差しで見ていた。


アーロンはいつも私に優しかった。

デイジーと話をしている時でも、リリィとミュスカーに置いてけぼりにされて一人になると、必ず話しかけてくれた。

デイジーも笑顔で会話に加えてくれて、だから私は三人でいるのが大好きだった。


アーロンを意識し始めたのは十五の時。


彼の父であるハノーヴァー卿が、戯れ半分に「両家の絆を確かなものにするのはどうだろう」とお酒の席で言った。それに私の父が便乗したのだ。

ミュスカーとアーロン、好きな方を選べと冗談交じりに言われて、私はその場を逃げ出した。

引き合いに出されて困ったなと苦笑するアーロンを見て、彼と結婚したいと強く思ったのだ。

自覚した途端に急激に恥ずかしくなって、居ても立っても居られなくなってしまった。


それまでただの憧れと思っていたのに、男性として意識してしまってからはまともに話すことも出来なった。

幼かったのだ。

そしてそんな幼い私を、アーロンが好きになってくれるはずもない。


すっかりアーロンとの距離感を見失って、それ以来彼に近付けなくなった。

アーロンは何か言いたそうにしていたけれど、私が避けるせいで悲しい顔で諦めた。


もう二度と前のようには話せないかもしれない。自分の馬鹿な行動のせいで、彼との楽しい時間を取り戻せなくなってしまった。


その絶望に追い打ちをかけるように、ミュスカーが教えてくれた。


本格的に両家の縁談の話が進み始めた中でのことだ。


アーロンとデイジーは親に内緒で付き合っている。

そしてすでに結婚の約束もしているのだと。

その証拠だと言って、二人きりの密会場所に連れていかれた。

彼らは人気のない公園の四阿で、仲睦まじく笑い合い、親密な距離で話をしていた。


その日ほど泣いたことはない。


目を腫らして翌日顔を合わせた私に、ミュスカーは言った。


「兄さんにはもう相手がいるし、僕にしときなよ」


ぶっきらぼうでつっけんどんではあったけれど、その言葉には優しさと愛情を感じた。

だから頷いたのだ。彼と結婚するという提案に。

きっと私もミュスカーを愛せるようになる。そう思えた。


それが気のせいで気の迷いだったのだと気付くのは、ずっとあとのことだったけれど。

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