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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第六章 たった一つの時間旅行
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たった一つの時間旅行10:リセット

 始まってしまった戦争を止めるには、果たしてどうすればいいのでしょうか?


 平常心で頭を働かせることができたなら、もしかしたら事態をひっくり返すことのできる妙案が思いついたのかもしれません。

 ですが、現実の私がしたことは制止を呼びかけるくらいで、それも意味をなさなかったのだから安全地帯から見下ろしていただけと変わりありません。


 アリエさんを物陰に残して私は一人、魔法でバランスを取りながら宙に浮いていました。眼下では忍びの勢力と国に仕える甲冑武士、総勢数十人にも及ぶ人々が争っています。


「みなさん! 武器を……武器を収めてください! ……ケホ、ケホ…………みなさん!」


 滅多に出すことのない大声を張り上げたせいでむせ返ってしまう。それでも私は声を出し続けました。出し続けるくらいしかできることを思いつきませんでした。


 ある忍びは背後から刀で切り付けられます。その気配を察知してか身をひるがえして致命傷を避けるも虚しく、肩から切り離された利き腕が地面に力なく崩れます。痛みに耐え切れず膝をついたところを狙われて、今度は首から頭が転がり落ちました。こうして、一人の命が失われました。


 ある騎士は投擲された何本ものクナイを器用に刀で受けます。逃してしまったクナイもまた甲冑で受けて身を守ります。そこにすかさず短刀で切りかかる忍者に、それでも何とか対応する武士。刃物の打ち合いが拮抗します。しかし、囮のクナイは罠としての用途も併せ持っていたのでしょう。地面に落ちるクナイに足を取られた武士の喉元に忍びの持つ短刀が深々と刺さり血飛沫を上げました。そしてまた一人、間を置かずして一つの命が無くなりました。


 突如として鳴る大きな爆発の音に目を向けると、立ち昇る太い煙の中に人だった物の影がいくつも見えました。元々は人の命を奪うために作られたのではない爆薬が、誤った使われ方をして複数人の命を無差別に奪います。


 人の命が人の手によって一つ、そしてまた一つ、秒針が時を刻むように失われていきます。


「もう……やめ……」


 片方の陣営がいなくなるまで、私の声が彼らに届くことは決してありませんでした。大勢の犠牲を払い忍び側の一勝として、この場限りの争いは終結します。ですが、戦争そのものは間を開けてまた別の場所で繰り広げられるのでしょう。片方が完全に消えてなくなってしまうまでは。






 忍びの者たちが暮らす集落は決して無事とは言えない傷跡を残しているけれど、まだ村としての機能を残していると言える有り様でした。

 つまりは元通りという訳にはいかずとも、それに近い状態に復興できるということ。言うまでもなく、亡くなった人の命はどう足掻いても取り返すことはできませんが。


 村の出入り口付近にある家屋はどれも火の気こそないものの、内と外を隔てる障子が壊され、荒らされた形跡の残す屋内を筒抜けにしていました。


 畑の被害はより深刻なもので、丹念に育てられた作物はそのほとんどが踏み荒らされています。未熟な物はこれ以上の成長を期待できず、食べ頃だったものは食べるに値しない程に形を崩されていました。


 不幸中の幸いとして、戦う力を持たない子供や女性の惨劇の行く末を物語る光景はありません。


 基本的に村の手前側に畑が密集していることで、一人でも多くの人を避難させる時間を稼ぐことに繋がったことが今回の被害状況を形付けた原因となるのでしょう。


 争いが終わってから数刻が過ぎ、私たちは集落の中へ向かうことにしました。

 時間を開けたのは単純に気持ちの整理がつかなかったという他ありません。


 爪痕を残す集落は皆が避難してしまったのか人の気配を感じられませんでした。その雰囲気が心細さを助長して、アリエさんの握る手を無意識に少しだけ強めていたことに気づく。


「巫女様方、ご無事でしたか」


 若頭が音もなく背後から現れるものだから、驚くと同時に警戒心を高めて杖を構える。


「これは失礼しました。驚かせるつもりはありませんでした」

「あ、いえ。人の姿が見当たりませんが、皆さんどうされたのですか?」

「避難させました。そして、今はこの地を放棄して別の場所に里を移す準備をしています」

「随分と手際がいいのですね」

「我々は忍び。いつ襲われてもいいよう、常日頃から準備していたのです。とは言え、里を移す実践経験はこれまで一度もありませんが」


 今まで一度もなかったと言うなら、どうして準備をするようになったのでしょう、と疑問に思うのは野暮でしょうか。そもそも忍者という者たちの役割もよく分かっていませんが。この国の歴史を勉強すれば、それらを理解できるのかもしれません。


「ところで、アオイの奴の姿が見えませんがどちらに?」

「今は別行動しています」

「なにぃ! あいつ、あれほど巫女様から離れるなと言ったのに」

「いえ。武士の者たちからわたしたちを安全に逃すために囮になってくれたのです」

「なるほど。……無事だといいが。しかし、どうしていきなりヤツらは襲撃してきたのだろうか」

「忍びの者が姫さまを誘拐したこと。それを宣戦布告と見なして、大々的に事を構える口実を手にした……ということみたいです」

「姫様……? 姫様を拐へなどと指示を出した覚えはない。そんなのは濡れ衣だ!」

「はい、おそらくは自作自演でしょう」


 魔法使いの悪魔(ファウスト)か、またはその仲間が裏で糸を引いているのは間違いないでしょう。


 私たちをこの国に招待したのは何かしらの目的があってのこと。そして、マイカさんの地位を利用されて戦争の引き金を引かされてしまった。


 戦争させることそのものが目的というのはないでしょうから、おそらくは何かを狙ってのこと。普通に考えれば、忍びの勢力を潰すことでしょうか。

 いえ、まだ国側が黒で忍び側が白と決めつけるには早いのかもしれません。それに滅ぼすだけなら魔法使いの悪魔(ファウスト)一人で十分なのではないでしょうか。


 裏で糸を引く魔法使いの悪魔(ファウスト)の仲間なのか操られているのかはともかくとして、その存在がもし両陣営にいるとすれば文字通り好きなようにできる。


 少なくともマイカさんが話していた女性天皇は確定として、忍び側にも同じような存在がいると仮定します。


 そうすれば、私たちが都から脱出するために選んだ経路が筒抜けになっていたことに続いて、この隠れ里の場所がピンポイントでバレていたことにも納得がいきます。


 なら悪魔の仲間は誰なのか。国側が天皇であることに鑑みれば、それなりの権力を持つ者の方が利点は多い。となれば、この人でしょうか。


「ん? どうしましたか?」

「いえ、ちょっと考え事を……」


 咄嗟の嘘というのも思い付かなかった私は、興味を惹かれないよう何でもないことのように返事をする。


 そういえば、アオイさんが前にこう言っていた。彼女のお兄さまは若頭になってから変わってしまったと。

 それは若頭になったと同時に操られてしまったことを意味するのではないでしょうか。


「お前! 無事であったか。事情は巫女様から聞いている」


 若頭が私の背後に向かってそう言った。

 もしかしてアオイさんが戻ってきたのではないでしょうか。


 後ろを振り返ると、そこにはやはりアオイさんの姿があった。服はボロボロになって少し肌が露出している箇所もあるけど、取り返しのつかない外傷は見受けられなかった。


「アオイさん! ご無事でしたか」

「うん、だから平気だって言ってたでしょ」


 アオイさんは両手を前に出して走り出す。私を目がけて抱きついてくるそれは、他所から見ればまさに感動の再会を映す場面のように見えたことでしょう。


「えっ……?」


 腹部に感じたことのない痛みが走る。お腹を下したとかではありません。


 アオイさんが私の傍から一歩だけ身を引く。すると、私のお腹に突き刺さる刃物の姿が露わになった。


 魔法使いと言えども、所詮は魔法が使えるだけの人でしかありません。つまりは刃物で刺されれば、それだけで出血多量となって死んでしまいます。


 側にいるアリエさんが何かを言っているけれど、聞き取ることができませんでした。そして、彼女は隠していた灰色の左腕を曝け出して、具現化させた悪魔の剛腕でアオイさんを殴り飛ばしました。


「……」


 私はここで呆気なく死んでしまうのでしょうか。


 もしもやり直すことができたなら、人ひとりの命を軽んじるように奪っていく戦争というものを回避できたらいい。


 感じたことのない激痛を伴いながら、私が最後に思い残したのは戦争のことでした。


──リセット

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