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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第五章 たった一つの前奏曲
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たった一つの前奏曲11:リスタート

 過去を映し出す世界から帰ってきた私たちは、ミールさんの研究室に戻ってきていたらしい。

 気を失って倒れているところをミールさんが発見したのだという。


 目を覚ました時、魔法によって作られた世界に私たちが足を踏み入れてから二十ばかりの日付をまたいでいた。


 私たちの身に起きたこと、それからあの世界で知ることができた真実を説明するためにアスタロトさんのいる領主館に全員で集合した。


 全てを説明し終えると、まずはミールさんの責任問題の話となった。

 そもそも、どうしてあんなことをしでかしたのか事情をたずねるが、事の元凶であると思っていたミールさんはあの日の出来事を何も覚えていなかったし、そもそもミールさんが私たちに探索を要請した世界だって全く異なる性質の場所であったらしい。


「いや~、過去に起きた事象を異世界にまるまる再現するのは確かにウチも考えたよ~。だけど、悔しいことにミナ君の魔法の力を借りても実現できなかったんだ」


 ミールさんは何一つ自分に責任はないという素振りでそう言った。


「君の意図しないものであっても、君の魔法のせいであることは違いないのだろう? それなら、まずは彼女たちに謝るべきだと思うよ」

「そうだー! アリエたちに謝れー。死ぬ思いというか、実際に一回死んだんだからなー」


 アスタロトさんの意見にアリエさんが乗っかる。


「嫌だね。ウチは操られていたのだよ。そう、つまりは陰謀に巻き込まれたのさ~」


 ミールさんは他人を小馬鹿にした表情をする。そういう私も、別にミールさんを責めるつもりは少しもなかった。


「本当に操られていたのかもしれません。あの世界に一人とても異質な存在がいましたので」

「先ほどの話に登場したフードの人物というわけだね」

「はい、そうです。あの人物が真犯人だとして、それ以上のことは分かりっこないので誰の責任とかはもういいんです」

「君がそう言うなら、この話はもうやめようか。それで、ミナ君たちはこれからの旅の方針をどのようにするんだい?」


 アスタロトさんの視線がこちらを向く。


 過去を振り返ることによって、旅の目的──灰の悪魔の脅威を終わらせること──それを現実のものにするための一縷の希望をしることができた。


「あなたは最後に何かを受け取ったはずなのです」


 私以上に私を知っているフードの人物がそう言った。


 おじいちゃんから受け取った何かを思い出すことができれば、もしかしたら世界を灰の悪魔の脅威から救えるのかもしれない。


「幼いわたしが見た破壊の悪魔──ドラゴンの姿をした悪魔を探して討伐しようと思います」

「そうかい。でも、先ほどの話を聞く限りでは仮に見つかったところで勝てるとは思わないな」

「その通りだと思います。ですので、他の魔法使いを探すことも平行して行います」

「仲間を増やすということだろうか?」

「いえ……仲間はもう増やしません。ただ、もっと強くなるための情報を入手できるかもしれませんので」

「……そうかい。それが君の答えというわけか」


 アスタロトさんはわずかに肩を落として私から目を逸らした。その仕草が私には期待を裏切られて落胆しているように映った。


「私は君たちの旅のパトロンになると言った。それはこの町を繋ぐ街道を塞いでいた悪魔を討伐してくれたお礼の意味もある。だけど、そもそもは君のせい……なのだろう?」

「──ッ! ……分かりました。何かをしてほしいということですね」


 灰の悪魔は魔法使いだけをつけ狙う習性を持っていた。だけど、あの日を境に標的は魔法使いから生きるもの全てへと変化した──私のせいで。


「話が早くて助かるよ。そうだね、まずはどこから説明しようか」


 アスタロトさんは机の上に世界地図を広げる。


「魔法使いは十二しかないと言われているだろう。だけど、この世界には多くの町が点在する。この地図だって大して正確ではないからね。地図に記されている以上にあるのは間違いない」


 アスタロトさんは地図に線を引いて、十二個の領域に分割した。


「例えば一人ひとりの担当をこのように分担したとして、それでも広大なこの範囲を全部守ることは難しい。だから、全ての町に灰の悪魔から身を守るための武力を持たせたいんだ」

「それができれば苦労しませんが、悪魔に魔法以外の攻撃は通用しません。武力──つまりは魔法をどうやって持たせるというのですか?」

「君の魔法石という便利な道具があるだろう。それとミール君の空間を移動する魔法を組み合わせるのさ」


 ミールさんがこの前作ってくれた、道具を空間移動させる魔法石を町に設置する。

 すると、私のいる場所からその町に何かを輸送するのにかかるありとあらゆるコストがゼロになる。

 つまりは、攻撃用の魔法石を安定供給するための仕組みが完成するわけだ。


「なるほど……。確かにそれなら大量生産できない魔法石を広い範囲に供給することができます」

「君たちがいない間にミール君と考えたんだ。設置するにはどうしても君たちが直接いかなければいけないらしい。だから、君たちの旅のついでで構わない」


 私にとって断りずらい言い方をされた時はどんな依頼をされるのかと思ったが、蓋を開けてみれば断る理由のないものであった。






 その日の夜、ベッドで休もうかと思った私をマイカさんが呼び止める。

 クーニャさんも残して二人だけで宿を出た。


 町の奥、大きな湖が目の前に広がる場所までやってきた。


「それで……話というのはなんでしょうか?」

「分かるでしょう。アリエとピーちゃんのことよ。旅に連れて行くのかどうか、まだ答えを聞かせてもらってないわ」

「……正直なところ、答えはまだ出ていません。どちらを選んでも、心のモヤモヤは晴れない気がするんです」

「まあ、そうよね」


 マイカさんは私の背中に回るとこう続けた。


「もう一度、戦ってみる? 旅に出る時は負けたけど、今のあんたになら勝てそうな気がするわ」


 私が旅に出ようとした時、マイカさんとは喧嘩になって本気の勝負をしたのだった。

 その時はマイカさんに不意を突かれたけど、それでも圧倒的な戦力差で勝つことができた。


「確かに今なら負けてしまうかもしれませんので、やめておきます」

「まあ、そうよね。男の子同士ならそういうのも有りかもしれないけど、あたしたち的には無しよね」


 マイカさんが私を背中から抱きしめてくる。頬と頬が触れあって、普段なら無意識にする息遣いすら気をつかってしまう。


「破壊の悪魔と戦った時のあれ、荒療治だったことは謝るわ。ごめんなさい。だけど、ミナにはトラウマを克服してほしかった。罪の意識で苦しみ続けてなんてほしくなかった」

「理解はしています。なので怒ってはいません。それに、やっぱりわたしのせいなのです」

「それは悪魔の理が書き換えられたことを言ってる?」

「はい……その通りです」


 マイカさんの腕の力が少しだけ強くなるのを感じた。


「ミナの魔法はみんなの魔法──ミナのおじいさんが繰り返し言ってきた言葉よね」

「そうですね」

「魔法がみんなのものであるなら、悪魔の脅威だってみんなのものなんじゃないの。魔法使いだけに押し付けるなんて間違ってる。書き変わった今の方がとても自然だとあたしは思うのよ」

「……」

「ミナのおじいさんが理を書き換えられた理由は分からない。だけど、書き換えた理由は分かる。灰の悪魔の脅威は魔法使いだけの問題じゃない。この世界のみんなで協力して解決するべきものだって考えたからよ」


 自分自身を俯瞰してみると、マイカさんの考えは確かにしっくり来る。だからといって、はいそうですと受け入れてくれるわけではないのが感情というものの厄介なところだった。


「心のモヤモヤが簡単に晴れるなんてことはなくて、何なら一生付きまとってくるのかもしれない。それなら、とりあえずミナのおじいさんが残した言葉に従ってみるでもいいんじゃない。アリエとピーちゃんのこと、明日には決断しておくのよ」


 マイカさんはそう言い残して、一人先に宿へと戻っていった。






 次の日、この町から出ることのできる唯一の場所に集合となった。


 クーニャさんとマイカさんが隣にいる。

 アスタロトさんとミールさんからはお金と、それから空間移動魔法を込めた数種類の魔法石を受け取った。

 そして、アリエさんが一人。ピトゥーラさんの彼女のお母さんが二人。


「あの……マイカさん……」

「うん? なによ」

「マイカさんにはこれまでの旅で辿ってきた道のりを引き返してほしいんです」

「魔法石供給用の道具をこれまで訪ねた町に設置してくるってことよね。私たちの故郷に戻って確かめたいこともあったし、ちょうどいいわ」


 確かめたいこととは何なのでしょう。

 でも、今は二人に決断したことを言わなければいけないので後回しにしておきます。


「えっと……まずはアリエさん」

「はっ、はいー。何でしょう、お姉さま」

「私と二人になってしまいますが……えっと……旅に同行していただけませんか?」


 私は顔を真っ赤にしてアリエさんに手を差し伸べる。


 不安などの感情が頭の中で溢れて何も考えることができなかった。

 ちゃんと伝わるように言えただろうか。そもそも言おうと思っていたことを言えたのだろうか。そんなことすら分からなかった。


「う、うん……アリエは凄く嬉しいよー。だけど、ルッキー先生は……?」


 アリエさんはとても優しい子だ。だから、友達がどうなるか分からない状況で一人だけ感情を表に出すことはしなかった。


「ピトゥーラさんも……えっと、もし可能であればマイカさんの手助けをお願いできればと思っています」

「やったねー! ルッキー先生。これで外の世界に出られるんだよ」

「あわわ! えっと、えとえと……ママ。行ってきて……いいですか?」

「ええ、もちろんです。狙ったからにはしっかり虜にしてくるんですよ」

「マ、ママ! そ、そういうことではないです」

「冗談です。しっかり頑張ってくるのですよ。ピーちゃんのこと、お母さんは応援していますからね」


 私は一応、町長にも確認を取った。


「アスタロトさん、ピトゥーラさんの出国許可はいただけるのでしょうか」

「ああ。構わないよ。だって、先生は最高傑作を完成させたじゃないか。私もミール君に見せてもらったよ」


 町の中と外を遮断する大きな扉が鈍い音を立てて開門する。

 久しぶりに見る本物の太陽はとても眩しいものであった。


 これまでの漠然としていた旅は一点してやることが明確なものとなった。


 私たちの故郷から出発した日のことを思います。

 ここまでの旅も長いものではあったけれど、ここからの旅が何だか再スタートであるように感じた。


 私はクーニャさんとアリエさんと共に、そしてマイカさんはピトゥーラさんと共に、別々の方向へ旅を再開する。

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