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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第五章 たった一つの前奏曲
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たった一つの前奏曲07:運命改変

 深手を負った灰の悪魔と、その周りにはオモチャのように散らばる男たちの亡骸だけが残されていた。


「あっ……あわわ……」

「二人とも、無理して見なくていいから」


 私は見慣れていないであろう二人の視界を背中で覆った。


「手負いの悪魔にトドメさしておくから、二人はむこう向いててくれるかしら」


 刀に魔法石を当てると同時に抜刀する。そして、音もなく一太刀で悪魔の片割れの首をはねた。

 悪魔の遺体は残されることなく灰となって消えていった。


「そういうことだったのね。……でも、それなら……」


 ここではミナが人に魔法をかけることをためらうようになった原因を知ることができた。

 だけど、この出来事は町を襲った悲劇とは違う。


「あたしは町に戻ろうと思うけど、みんなはどうする?」

「えっと……一緒に行きましゅ」

「ねえ、ミナお姉さまを探しに行かなくていーの?」


 多分だけど……その必要はない。


「……探さなくても、ミナは必ず町に戻ってくると思うわよ」

「どうして分かるのさー」

「だってあの子、おそらく記憶違いしてるのよ」


 ミナは過去を変えると言って一人どこかへ行ってしまった。

 だから、私はてっきりここで“悲劇の元凶”と遭遇したのだと思っていた。


 だけど、私は頭を二つ持つ獣の悪魔を知らない。


「町を襲った悲劇はさっきのやつと何ら関係ないんだもの」






 悪魔の口の中で爆発を引き起こし、残り一つの頭を粉砕する。


「はぁ……はぁ……これでわたしの勝ちです」


 悪魔が灰と化して散るのを確認した後、私は杖を下ろした。


 一人で悪魔をなんとか倒すことはできたけど、やっぱり皆さんと一緒に協力して戦った時に比べて安定感が違った。


 服が悪魔の返り血で汚れている。これが血なのかどうか定かではありませんが。

 こんなに汚れてしまったのは非常に荒っぽい戦い方をしてしまったせいだ。


 こんな戦い方を続けていたら、悪魔の脅威を終わらせるのに命がいくらあっても足りないことだろう。


「これで過去は変わったのでしょうか……」


 でも、胸につっかえてるスッキリしないこの気持ちは何なのでしょう。


 何かを間違えている気がする。


「あの悪魔が町を襲ったとして……森までなくなってしまうのはおかしくありませんか」


 違う……。あんな弱い悪魔じゃない。


 町を破壊したのは。森を焼き尽くしたのは。

 おじいちゃんを殺したのは……。


 どうして記憶違いをしてしまっていたのでしょうか。だけど、私は思い出した。


 今まで戦ってきた悪魔なんて比にならない、それは物語の中でのみ存在する恐ろしい怪物を模した悪魔だった。


 ここはどの辺りだろうか。私は辺りをぐるっと見渡した。


 不吉な色をした煙が空高く上っているのが見える。


 あの煙が何を意味するのか理解した時には既に、私は駆け出していた。






 私が到着した時には既に町は原形を失っていた。


 物語でたびたび登場する厄災の象徴。だけど、それは空想上の生き物であるはずだった。


 目の前にいる灰の悪魔は間違いなく絵本で見たことのある姿形を模していた。


 逃げ惑う人々が己の不運を呪うように叫んでいる。

 その叫び声の中でたびたび聞こえる単語が耳に残る。


 ドラゴン──それが悪魔の姿だった。


「今の内に逃げるぞぉ!」


 数人の女子供を引き連れて避難する者が叫ぶ。


 灰の悪魔は明確な意思を持って人々を攻撃するわけではなかった。

 何かを探すように辺りを一瞥している。


 だけど、両翼をはためかせば、それだけで辺りの木々や建物はたちまち倒壊してしまう。


 その圧倒的な存在感に戦々恐々とさせられた草花は生命力を奪われ枯れ果てていく。


 ただそこにいるだけで人の営みを……この世界を破壊する存在。


「破壊の悪魔……」


 物語に登場するドラゴンを彷彿とさせる灰の悪魔を私はそう呼んだ。


「こいつが……悲劇の本当の元凶……」


 真に倒すべき相手はこの悪魔なのだ。

 だけど、私一人で勝てるのだろうか。それどころか、マイカさんたちみんなの力を借りても、戦えるかどうか分からないというのが正直な判断だった。


 でも、そんなのは関係ない。私はただただあの悪魔が憎かった。


 感情を表に出さないようにするのは得意だけど、きっと今の私は醜い表情をしているに違いない。


「今のこの条件なら雷雲を発生させられます。クーニャさん──」


 今の私は一人だったことを忘れていた。

 魔法少女の姿になることはできない。それはつまり、天候を操作するほどの大規模な魔法はできないことを意味する。


 このままでは確実に勝てないと頭では分かっている。

 それでも、私は杖を握る手の力をキュッと強めた。


「ぼくのことを呼んだかな?」


 後ろから呼びかけられるその声を、どういうわけか懐かしいと思ってしまった。


「クーニャさん……どうしてここに。あなた一人だけですか?」

「さっきまでみんな一緒だったけど、マイカにぼくだけ行くように指示されたんだ」

「マイカさんの言葉が分かるのですか?」

「いいや、断片的にしか分からなかったよ。でも、言いたいことは伝わったから」

「そうですか……」


 クーニャさんに背を向けるように悪魔を見た。


「……魔法少女の力が必要なんでしょう?」

「ですが……」


 私はみんなを遠ざけて一人で来てしまった。それなのに力を貸してほしいなんて今更だ。


「そうだね。今更だよ。だって、一緒に戦うってもうとっくに決めたことなんだから。ぼくは別に何とも思ってないよ」

「……分かりました。それなら、力を貸してください」

「りょーかい!」


 そして、私たちは魔法少女となった。


 クーニャさんと初めて出会った時と同じように魔法で雷を生み出す。


 閃光が悪魔を真っ二つに割った直後、怒りの咆哮が轟いた。


「何一つ……変わってません……」

「いや、でも……。地面は削れてるよ」


 たしかに雷に穿たれた地面は削れている。

 だけど、悪魔に直撃して、はたしてこうなるだろうか。


「なるほど。ダメージを与えられなかったのではありません。わたしたちは干渉できないんです……」


 魔法少女の姿から元の格好に戻る。


 杖を持つ手の力が抜ける。こぼれ落ちた杖は音を立てて地面を転がった。


「変えられませんでした。ははっ、そんなのは最初から分かってたじゃないですか……」


 破壊の悪魔はわたしたちに背を向けて歩き出す。

 私の家がある方向だった。いや、幼い私のいる方向というのが正しいのでしょう。

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