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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第四章 たった一つの色彩設計
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たった一つの色彩設計18:マスターピース②

 ピーはとりあえずキャンバスに筆を入れてみることにした。


 色を懸命に塗り重ねていく。その間だけは時間も雑念も忘れることができる。


 身の回りの世話はミナさんだけでなく、マイカさんやアリエさんが交代でやってくれた。だから、ピーは絵を描くことだけに集中することができた。


 そして、いよいよ数枚の絵を描き殴るように完成させることができた。


「ピーは本当にこれでいいのですか……」


 ミナさんが絵の具の顔料に使用する珊瑚を持ってこの空間を訪れる。


 数枚のキャンバスがミナさんの視界に入る。だけど、その瞬間のミナさんの表情は普段と変わらない整った顔立ちだった。


 やっぱり、これではダメだ。心を動かすことが出来ていない。


 別にミナさんのせいにしているわけではない。

 そもそも、作品が完成した瞬間の自分はどうだった。自分の心さえ動かすことが出来ていないじゃないか。


「こんなのボツだあぁぁ〜〜」


 思わず水の魔法でキャンバスを粉砕してしまう。


「ピ、ピトゥーラさん! 絵を壊してしまっていいんですか?」

「あわわ……思わずやってしまいました。でも、あれは他人に見せられるものじゃないので、い、いいんです」

「そうなのですか……」

「やっぱり、もう……無理です……。ピーの作品は、誰も感動させられません! 自分さえ感動させることができないんです! けほっ、けほっ」


 ミナさんに当たるなんてピーは最低だ。


「そんなことはないと思いますが……。そうだ! 絵にピトゥーラさんの魔法を使うのはどうですか?」

「魔法……ですか? でも、そんなの反則だと思いましゅ」

「その気持ちはわたしも分かります。魔法で悪魔を倒して誰かに感謝されて。それはいいのですが、金品を受け取ってしまうのはルール違反に思えてしまいます」

「あわわ! 分かります。魔法なんて運良く使えるってだけで、才能でも何でもないですから」

「はい、そうですね──」


 しばらくの間、魔法談義で共感しあって大いに盛り上がった。


 気づけば、共感のあまりお互いに抱きしめ合っていた。


 ミナさんがこんなに大胆なスキンシップをしてくれるのは予想外だったけど、それは本人も同じ感想だったようで顔を真っ赤に染めて身を離す。


 その恥じらいの表情もまた可愛くて、ピーは一体これにいくらお金を払えばいいのでしょうか。


「えーと……話が逸れてしまいましたね。確かに抵抗があるのは分かります。ですが、魔法を使った絵はピトゥーラさん、あなたにしかできません」

「たしかにそうかもしれませんが……」

「それに何より、一人のファンであるわたしが、あなたの描くたった一つの魔法の絵画を見てみたいと思いました」

「ミナさんが……ファン、ですか? でも、どうして……」

「お母様がピトゥーラさんの作品の数々を見せてくれました。お母様には敵いませんが、すっかりわたしもルキフェル先生のファンになってしまいました」

「ピーにファンが……」


 顔に熱がこもっていくのが分かる。きっと、ピーの顔は先ほどのミナさんよりもずっと赤くなっているに違いない。


 すごい。すごい。すごい……。


 ミナさんがファンだと言ってくれただけで、すごく沢山のものが込み上げてくる。


「す、すみません。わたし、何か嫌なことを言ってしまったでしょうか」

「あわわ……ち、違います。すごく……嬉しいんでしゅ」


 歩いているはずなのにずっとずっと進歩しているという実感が得られなくて、だからもう立ち止まってしまいたかった。


 だけど……上手く言えないけど、そういうことじゃなかったのかもしれない。

 ピーの世界が確かに広がった気がしたんです。


 そして、まだ見ぬ美しい世界に馳せる思いをピーなりに表現するアイデアが降りてきた。


「あ、あの! ありったけの珊瑚がほしいので、手伝ってくれませんか」

「持ってきたこの量じゃ足りませんか?」

「す、すみません。今思い付いたものを描くには足りません」


 珊瑚はタダじゃない。町中の至る所に生えているけど、あれは勝手に取ってはいけないのだ。

 だけど、地底湖の底にあるものなら取ってもバレない。それに量だって桁違いにあるから、自然を破壊してしまうこともないと思う。


 久しぶりに白い空間の外に出て、水の魔法を使って地底湖に潜った。


 みんなに協力してもらって、ピーだけじゃ担げない量の珊瑚を採取する。ついでにマイカさんの刀も回収した。


 こうして、あっという間に山積みの珊瑚が白い空間に築き上げられた。


 町で採れる珊瑚は絵の具の顔料になる。とても鮮やかな色が出るため人気があり、この町を支える産業の内の一つでもあるのだ。


 なので、このことがアスタロト様にバレてしまうと絶対にすごく怒られる。怒られるだけじゃ済まないかもしれない。

 だけど、ピーはきっと欲望に忠実なのだ。


「あ、あの……皆さん、手伝ってくれてありがとうございます」

「力仕事なら任せてよー。アリエはこれでも牧場で仕事してたからムキムキなんだよー」

「ア、アリエちゃんの腕はそんなに太くないですし。い、今のままの方がいい、です」

「そうかなー」


「そ、それでなのですが……作品が完成するまで決して誰もここに入らないでほしい……です」

「えっ。でも、ご飯はどうするのよ」

「マイカさんのご飯は、とても美味しいのですが、完成するまで我慢……しましゅ」


「分かりました。心配して居ても立ってもいられないマイカさんの姿がありありと浮かびますが、入れないように見張っておきます」

「あ、ありがとう……ございます」

「何よ、信用ないわね」

「はい、こういう点に関してマイカさんは過保護なので信用ありません」


 皆さんがこの空間から出ていったところで大きな筆を手にする。


 これは水の魔法を使うための道具だから、絵を描くのには一度も使ったことがない。


 大きな水の塊を宙に出現させて、その中に珊瑚など絵の具を作る材料を入れる。こうして、空間そのものをパレットにした特大絵の具の完成である。


「ふー、ここまでは上手くいきました」


 何色もの絵の具の塊を宙に漂わせながら、ピーはキャンバスを見渡した。

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