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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第四章 たった一つの色彩設計
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たった一つの色彩設計13:一つ目の要件

 ミールさんが魔法で生み出した温泉のある空間。ここから遠くには山が見えるけど、そこまで行けるわけではない。

 それどころか、露天風呂と洗い場、それから脱衣所のようなスペースがあるだけで、それより先は見えない壁に阻まれて進むことができなかった。


 気を失ったミールさんが目を覚まさなくてはこの空間から抜け出すこともできない。


 水着しかない私たちは脱衣所に置いてあった寝巻きを羽織って、彼女が起きるのを待つことにした。


「いやー、すまないね〜。気を取り直して……君たちは何か要件があってウチを訪ねてきたのだろう? それを聞こうじゃないか」


 要件は二つある。一つは灰の悪魔について知っていることはないか。そして、もう一つは洞窟の奥ではなくサキュバス族の暮らす町に滞在してほしいという内容である。


 まずは前者から話すことにした。


「なるほどね〜。君たちは灰の悪魔を根絶する方法を知りたいわけだ。しかし、悪魔に関しては実験が上手くいかなくてね。研究もあまり進んでいないのさ」


 魔法で作った空間に悪魔を閉じ込めてみたり、複数の悪魔を引き合わせてみたり。しかし、どういうわけか悪魔はその空間を抜け出してしまうため、思うように検証できないのだという。


「ああ、だけど比較的最近になって知能をわずかに持った悪魔を観測するようになったね〜」


 知能を持つ灰の悪魔と言われて思い浮かんだのは、クーニャさんと出会った時に遭遇した発火の悪魔だった。


 あれ以外の悪魔は何というか、自身が持つ固有の能力を本能的に使ってくる印象だった。

 全く知性がないとは言わないけど、どこか体系的だったり暴走しているだけなのだ。


 だけど、あの悪魔だけは他とは違った。対峙する私たちを倒すための作戦を持っていたように感じた。


「それでしたら、わたしたちも遭遇したことがあります。正直に言って、魔法少女の力がなければ確実に死んでいたでしょう」

「人の言葉を理解するほどの知性を持つ悪魔が現れたら、もう手の施しようがないだろうね〜」


 そこでミールさんは疑問符を浮かべると、目をキラキラと輝かせた。


「ちょっと待って! その魔法少女っていうのは何なの〜!」


 説明するよりは見せた方が早いと思い、一瞬だけあの姿に変身する。


「先ほどの姿になると一時的に魔法の力を比較ならないほど上げることができるのですが」


 ピトゥーラさんは魔法少女という呼び方はともかく、もう一つの力があることを知っていた。しかし、ミールさんはそれを知らないようだ。

 かく言う私もクーニャさんに出会うまでは知らなかった。


「ほうほう、興味深いね〜。クーニャ君がその力を行使するためのキーになっているということかい?」

「はい、わたしにとってはそうです。ですが、ピトゥーラさんは筆ですので、ミールさんにとってのキーは先ほどの本になるのではないでしょうか」

「これね〜。まあ、今度試してみようじゃないか。それよりピトゥーラ君も魔法使いだったのだね」

「はい……あれ? ピトゥーラさんがいませんね」

「ああ、ピーちゃんはまだ温泉の方にいるわよ。なんだか考え事をしてるみたい」


 悩んでる風には見えなかったため心配はいらないとマイカさんは言う。


「そうでしたか。二つ目の要件は彼女も関わることですので、いた方がいいかと思いましたが」

「それじゃ、あたしが呼んでくるわよ」

「はい、お願いします」


 マイカさんが脱衣所を出ていくのを見送った。


「それじゃあ、ピトゥーラ君が来るまでの間、別の話をしようか。気になっていたんだけどね、君たちの魔法はどんなことができるのかな?」

「ピトゥーラさんは水を操る魔法です。わたしの魔法は何というか──」


 具体的にできることを織り交ぜながら、なるべくかいつまんで説明する。もちろん、魔法石についても話した。


「魔法石というのは非常に興味深いじゃないか。それはウチの魔法をストックすることも可能なのかな?」

「はい、おそらくできると思います」

「そうなると……アレとかアレを実行できるんじゃないか……。おっと、考え込んでしまった。しかし、君の魔法は時間を操るものだと思っていたけど違うのだね」

「時間……ですか。過去に戻ったりは流石にできませんが、どうしてそう思ったのですか?」

「いや、君の持ってる杖だよ。まさに、そんな感じがするじゃないか」


 確かに時計のカラクリをモチーフにしたようなデザインだと思う。そして、この杖は間違いなく魔法使いの代物だ。感覚的に何となく分かるのだ。

 だけど、私にとっての鍵はクーニャさんである。すると、この杖は誰の物になるのだろうか。


「もしかしたら、この杖は別の魔法使いの持ち物なのかもしれません」

「そうなると……ミナ君の魔法は識の魔法になるのか……ふむ」

「十二個ある魔法の種類を全部知っているのですか?」

「いやいや、ただの仮説だよ。その中から消去法で考えてみたんだけど、仮説に仮説を重ねるにはまだ早計だろうね〜。聞き流してくれないかな」

「そうですか……」


 識の魔法──名前からでは何ができる魔法使いなのか判断できないし、私の魔法をそう呼ぶ理由も分からなかった。


 例えば知識から取っているのだとすれば、知りたいことを魔法が何でも答えてくれて、物事を見分けることができるのでしょうか?

 私の魔法は人のように言葉を話すことなんてないし、やっぱり織の魔法という名前はしっくりこなかった。


「そういえば話が逸れてしまったけど、悪魔に関する話の続きをしようじゃないか」

「やはり、何か知っていることがあるのですね」

「まあ、知ってるというよりはこれも仮説を交えた話になるのだけどね。君は悪魔がこの世界に現れ始めたのがいつか知っているかな?」

「十年ちょっと前……でしょうか」

「その通り。正確には分からないけど、長く見積もっても十数年前だろうね。だけど、ウチたちは当たり前に悪魔の存在を知っている。それを世界の脅威とし、魔法使いでしか対処できないことを共通認識として知っている。それを疑問に思わないかね?」

「どうでしょう。悪魔の存在を世界中に周知させるのに、十年という歳月は十分な時間だと思いますが」

「そうか。君たちくらいの年齢だと幼い頃には存在していたことになるから不思議に思わないのかもしれないね」

「と、言いますと?」

「悪魔という存在が常識として浸透したのはね。悪魔が現れ始めた時期とほぼ変わらないのだよ」

「……思い返してみれば……確かにそうだったかもしれません」

「悪魔に限ったことではないのだけど、この世界は変なことが多すぎると思うんだよ。ピトゥーラ君がウチの作ったこの空間を不自然だと言ったようにね。おっと! 彼女たちが戻ってきたみたいだ。この話はまた今度にしようか」


 マイカさんがピトゥーラさんを連れて戻ってきた。


 肝心のピトゥーラさんはどことなく表情から迷いが取れていて、晴れやかな印象だった。


 一方でマイカさんはとても珍しいことに、どういうわけか顔が赤らんでいた。

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