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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第四章 たった一つの色彩設計
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たった一つの色彩設計11:人魚姫の魔法少女

 その条件を加えて再度考え始めるミナさんは少ししてこう結論付けた。

「残念ながら、止める手段はありませんね」


「えー、どうしてよ。もっとこう……いつもみたいにいい感じの作戦あるんじゃないの?」

「はい、あるにはありますが……」

「なんだ。あるならあるって初めから言いなさいよね」

「いえ、止める手段は本当に思い付きません。ですが、特定の場所に向かって来ると分かれば、その場所に魔法を放つことで当てられるのではないでしょうか」

「誘導するってこと? だけど、どうやるのよ」

「それは今から試しますが、最悪の場合は魔法少女の姿になってわたしが囮になります」

「あれー? でも、今の格好で変身したらどうなるのー?」

「言われてみればどうなるのでしょうか。それも試してみましょう」


 そう言って、ミナさんは杖を掲げる。杖の先端の機械仕掛けにも見える不思議な装飾が淡い光を発すると共に稼働し始めた。

 何かの魔法を使っていることくらいは分かるけど、傍から見ても具体的に何をしているのかは判断できなかった。


 それを何度か繰り返すけど、ミナさんはあれもダメ、これもダメと呟いて思い通りにいかないことが伺えた。


「ミナ。ちょと、ミナ! あまり悠長に調べてる時間はないみたいよ。次の反撃が始まったみたい」


 マイカさんがそう言うと、悪魔は長いヒレを使って自身の鱗を引きちぎる。それはまるで自傷しているかのようだった。

 そして、どういう理屈か回り続けるその鱗をピーたちのいる方へと投げ付けてきた。


「ここはアリエに任せてー」


 具現化させる灰色の左腕を前方にかざして、投擲された鱗を受け止める。それでもなお止まらない回転がアリエちゃんの左腕をザクザクと切り裂いていった。


「なんなのこれー。ずるいよー」

「あんた、その腕大丈夫なの!」

「うん、痛くはないよー」

「アリエさん、ありがとうございます。念のため、後ほどアリエさんの腕に問題ないか診てみましょう。それと、ピトゥーラさん。こちらをお持ちください」


 ミナさんが小さな石をピーに手渡す。おそらくは魔法石だと思うけど、これはどんな魔法が込められているのだろうか。


「あちらの悪魔に何かしら習性はないものかとあれこれ試してみましたが、都合良くはいかないみたいです。ですので、わたしが囮になることに決めました」

「待ってよ、ミナ……。その囮ってあたしじゃいけないわけ?」

「マイカさんの方が泳ぎは得意かもしれませんが魔法少女の力を借りますし。それに、どこにいつピトゥーラさんが魔法を放つのか合図を出す必要がありますのでわたしの方が適任でしょう」

「じゃ、じゃあ……この石は合図のため、ということですか?」

「はい、そうです。そちらの魔法石が振動したら合図だと思ってください。それと、位置に関しましては光で示しますので準備をしておいてください」


 クーニャちゃんを腕に受け止めたミナさんはあっという間にその姿を変えてしまった。


 背中の大きなリボンなど可愛らしい装飾が施され、大胆に腋や背中を露出する衣装。

 魔法少女ってなんだろうと思ったけど、これがそうなんだと説明されるまでもなく理解できた。


「これってもしかして、ピーのと同じ……」


 だけど、それってもしかしてミナさんも気絶してしまうのではないだろうか。


「あ、あの! ほ、本当に大丈夫なんですか……?」

「はい。大丈夫ですよ。ピトゥーラさんのこと信じてますので」


 魔法を信じると言うならまだ分かるけど、なんで出来損ないのピーなんかを信じてくれるのだろう。失敗ばかりで、逃げてばかりで、そんなのばかりのピーを信じてくれる人なんていないと思ってた。

 また視界が涙で滲んでいってしまう。泣くことには慣れているピーだけど、嬉し泣きというものは何だか知らない感じで恥ずかしさを覚えて、慌てて涙を拭った。


 こんなに素敵なミナさんの命がかかっているのだから決して失敗は許されない。だけど、これまでの経験上ここぞというタイミングで失敗することが多かった。

 どうすれば失敗の確率を減らすことができるのだろう。その答えは簡単だった。ピーの意思を介在させなければいいのだ。


 悪魔のことは視界に入れない。自分で魔法を放つ位置やタイミングを調整することも一切しない。ミナさんのことを信じて、彼女の合図だけを頼りにすればいい。


「じゅ、準備しますので……みなさん少し下がっててくだしゃい」


 ピーにも実は魔法少女の力がある。あれを魔法少女と呼ぶことは知らなかったけど、ミナさんの変身した姿を見てピンときた。

 卑屈で根暗なピーにはあの派手な格好似合わないと自分では思っている。もっとキラキラしていて可愛らしいアリエちゃんの方がずっとお似合いだ。


 だけど、そんなのは些細な問題だと思うことにする。


 ミナさんはクーニャちゃんと一つになって姿を変えた。つまりはクーニャちゃんが変身するためのファクターとなっているのだと思う。

 あの時計みたいな杖は関係ないんですね。


 ミナさんにとってのクーニャちゃんは、ピーにとっては昔から持っている大きな筆だった。


 特別な合図はいらなくて、筆を胸の前にかざすだけでいい。そして筆と一つになると、ピーの姿は多くの装飾が施された水色のドレスへと変貌した。


 この姿はこれまでお母さんにしか見せたことがない。ピーなんかには不相応な格好だけど、お母さんは人魚姫みたいで素敵だとピーを抱きしめて褒めてくれた。でも、お母さんはピーのことを無条件で褒めてくれるから、きっと世間の評価とは異なる。

 お母さんのために一応言っておくとピーに甘すぎるのではなくお世辞でもなく、お母さんは素のままに褒めるいる。ピーの大して凄くないことを恥ずかしげもなく自慢するのが何よりの証拠だった。


「その姿……ピーちゃんも魔法少女になれたのね」

「は、はい……たぶん同じ力だと、思います」


 囮となって水中を進むミナさんがその前方に光を灯した。きっと、あれが合図に違いない。だから、ピーは悪魔のことを見ずにあの光だけを見ればいいのだ。

 両手を光の射す方へ差し伸べて、そこに全神経を向ける。光の位置を中心に水の濃さが増していけば、通過する光がぐにゃりと曲がりだした。


 準備はこれで完了だ。あとはミナさんから受け取った石が振動するのを待つだけだった。


「あっ、来ました!」


 合図を受け取ったその瞬間、ピーが使うことのできる極大魔法を解き放った。


 水中が揺れる。それはともすれば地震が起きたとさえ錯覚してしまうことだろう。

 そして、極大魔法の対象範囲となる球状の境界面が何かを訴えるように甲高い音を立てた。


 水の空間が球の中心を基点に一瞬で超圧縮される。それは水晶玉のような固まりとなり、結晶の割れる音を立てて粉々に散る。


 水魚の悪魔もろとも、水も何もなくなってしまったその空間に周りの水が流れ込み、波の音が遅れてやってくる。

 ピーたちのいた息のできる空間は消滅し、荒れ狂う水流になす術もなく体を持ってかれる。


「あばばばば……」


 人魚姫のような魔法少女の姿から元着ていた水着の姿に戻された瞬間、緊張がプツンと途切れたかのように意識が薄れていく。

 だけど、水の中にいるせいで息ができない。それどころか、慌ててしまい肺にあった空気を全部吐き出してしまった。


 ピーはなんて考えなしなのでしょう。こうなることは考えれば最初から分かったことなのに。


 その時、誰かがピーの体を抱きしめた。


「お母さん……どうしてこんな所にいるの?」


 声にならない声が溢れる。何だかとても温かい気持ちになって安心した。


 だけど、よくよく考えなくてもお母さんは今の時間、多分だけど仕事をしていると思う。だから、こんな所にいるわけがない。

 ああ、きっとマイカさんだ……。


 ピーの唇に何かが触れて空気が流し込まれた気がした。気を失いかけて溺れるピーに、マイカさんは酸素を口移ししてくれているのだった。


 綺麗な女の人とキスをしているだなんて、気を失いかけていて良かった。そんなの恐れ多過ぎて絶対に拒絶してしまう自信がある。

 やっぱり、マイカさんにはミナさんがお似合いだと思うわけです。


 だけど、この感覚はなんなのでしょう。

 このキスがピーの中に流れるサキュバスの血を目覚めさせたことに、この時はまだ気づいていなかった。それはいわゆる、サキュバスにおける初潮であったことにも。

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