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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第四章 たった一つの色彩設計
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たった一つの色彩設計10:水魚の悪魔

 大きな筆の先っぽを地底湖の水面に浸けて魔法を唱える。とは言っても、何かを声に出す必要はないですが。


 こうすれば手足を動かすのと同じ感覚で水を自在に操ることができるようになる。そして、水面にピーたちが入ることのできる大きさの不自然な空洞を開いた。


「こ、この円の中からは出ないように、し、して下しゃい」


 ここからは湖底を歩いて移動することとなる。自分たちの周りだけ魔法で水を追いやり続けることで水中にドーム状の空間を築けば、空気だって心配ない。

 魔法自体は何かをしながらでもできるくらいには慣れている。だけど、誰かと一緒にいるということに慣れてなくて、思ったよりも緊張していた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。それじゃあ、離れないように手を繋いで行きましょ」


 マイカさんがスキンシップでピーの緊張をほぐしてくれる。

 水着の姿だから抱きしめられると肌と肌が直接触れて、それがとても気持ちよくて幸せな気持ちになる。


 もちろん、サキュバスの吸引能力ではないです。マイカさんが可愛くて素敵な女の子だからです。


 吸引能力というのは肌を触れ合わせることで相手の精気──体力みたいなものを奪う力のことで、意識しなくても奪ってしまうものでもある。だけど、その能力は角の大きさに比例すると言われていて、つまりはピーの能力は赤子レベルしかないということになる。


「そいうえば、ピーちゃんのその筆、魔法使いにとっての杖だったのね」


 水の中へ向かいながら、離れないように隣で手を繋ぐマイカさんがピーに優しい顔を向ける。

 ちなみに、その隣にアリエちゃん、ミナさんと並んでいた。


「は、はい……物心付く前から一緒でした。でも、お母さんも知らないそうなので、魔法使いに与えられる道具的な何かなんだと思います」

「へー。そういえばミナの時計みたいな杖は……どうだったかしらね」

「あっ、そろそろ湖の底に到着します」

「結構、深いところまで来たんじゃない。水の中を歩くってこんなんなのね。水族館ってのに似てる感じかしら」


 とは言うけど、マイカさんやミナさんの故郷はそこまで栄えた町じゃないらしく、水族館にも行ったことがないらしい。

 マイカさんのいう通り水中を歩くのは水族館のようだけど、お魚さんの密度がまるっきり異なる。というより、この湖に全然お魚さんはいないのです。その違和感にミナさんも気づいた。


「色とりどりの珊瑚礁が辺り一面に広がっていてとても綺麗ですが、魚はあまりいないのですね」

「は、はい……昔はお魚さんだけじゃなくて、様々な生き物が住んでいたのですが……最近は悪魔が住み着いたせいか見かけなくなってしまいました」

「なるほど、このような場所にも悪魔の脅威は広がっているのですね」


 幸いにも、話に出てきた灰の悪魔に遭遇することなくかなりの距離を進むことができた。このまま会うことなく目的地の洞窟まで辿り着けますようにと心の中で願う。


「あー! もしかして、あの穴がゴールの洞窟じゃないのー」


 アリエさんの指差す先を見てみれば、確かにそこには巨大な魚の住み処みたいな穴がぽっかりと開いていた。


「はい、方角的にそうだと思います」


 アスタロト様から湖底の地図を見せてもらって大体の方向感覚を持っているミナさんが同意する。だけど、どうして分かるのでしょう。ピーもあの地図は見たけどさっぱり意味が分からなかった。


 その時、薄暗い湖底に一瞬だけ夜の帳が差し込んだ気がした。

 なんだろうと思って上を見ると、頭上で灰色の大きな魚が円を描いて泳いでいた。


「あわ、あわわわわ。あれが住み着いてる悪魔でしゅ!」

「思ったより大きいわね。この前の岩のやつほどじゃないけど、これまで見た中で二番目じゃないかしら」


 水魚の悪魔は両ビレを腕のように伸ばし、その先端には捕食された魚が握られていた。鱗の中にはクルクルと回転しているものがあって、きっとアレも危ないものに違いない。そして、何より恐ろしいのは鋭い牙を見せつける大きな口が上下に二つある不気味な顔だった。


「ピトゥーラさん、対抗できる魔法があると言ってましたが、何かフォローは必要ですか?」

「あわ、あわ、あっ……えっと、どうするんだっけ」


 テンパってしまって何をしようとしていたのか思い出すことができない。

 そうしている内に、悪魔がピーたちのことを見下ろしてから猛スピードで距離を詰めてくるのだった。


「これならどうですか!」


 ミナさんが黄色の魔法石を水面に投げ込むと、その石を起点にして目に見えるほどの電撃が広がった。しかし、水中で分散してしまったためか悪魔は身じろぎ一つしなかった。


「ミナ、その石一つちょうだい」


 電撃を発生させる魔法石を受け取ったマイカさんが腰の刀を構える。そして、鞘から引き抜くと同時に刀を手放した。

 水中を突き進む刀が迫り来る悪魔の額に触れた瞬間、電撃が悪魔に直接流れ込む。これには流石に耐えられなかったようで、怯んだ悪魔は頭上の先ほどまでいた位置に戻っていく。


「刀、後で回収しなくちゃいけないわね。投げちゃったから次はもうないわよ」

「ご、ごめんなさい。ピーが慌てちゃったから」

「あ、責めてるわけじゃないのよ。ほら、深呼吸」

「は、はい!」


 マイカさんに習って深呼吸をしてみる。


「代償として気絶する強力な魔法を使えば一撃で仕留められるのよね。だけど、何か問題がある感じかしら」

「はい、そうです……。あの、思ったよりも動きが早くて、確実に攻撃を当てられる自信がなくて……」

「そういうことね。どのくらい動きを止められればいいのかしら?」

「えっと、一瞬だけでも止まってくれれば大丈夫かも……です」


 それを聞いて、ミナさんが作戦を考え始める。


「ピトゥーラさん、止めるのが近すぎてもダメなのですよね。魔法にわたしたちが巻き込まれてしまいますし」

「あわわ、考えてませんでしたが、その通りだと思いましゅ」


 その条件を加えて再度考え始めるミナさんは少ししてこう結論付けた。


「残念ながら、止める手段はありませんね」

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