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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第四章 たった一つの色彩設計
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たった一つの色彩設計07:逃げ癖

 またまたやってしまいました。ピーはどうしていつもこうなのでしょう。


 逃げる先はいつも先ほどまでいた丘の上だけど、少し前までは今いる地底湖の中だった。


 頭の中がパニックになると、うわーってなって逃げ出してしまう癖がある。

 友達と呼べる相手がいないのだって、魔法のことを隠さなきゃって思いながら人と接するせいで頭が混乱して、それでいつも逃げてしまうからだと思う。

 絵を描くのだってそう。お使いだとかの頼み事だって一人で上手くこなせない。


「どうしてピーはこんなにもダメダメなんだろう」


 十二個しかない魔法使いの枠をこんな自分が無駄に使ってしまって、世界のみんなに対して大変申し訳ない気持ちになった。


「誠に申し訳ございません」


 湖の真ん中で停滞して、最大級の謝罪の体勢をとる。


 水中を移動してここまで来たけど、ここだけの話ピーは泳げなかったりする。今も実は泳いでなんかいなくて、魔法で水を操って体を押してもらっていただけだった。


 そもそも泳げたって地底湖の水はとても冷たくて、水の魔法がなければ凍え死んでしまうと思う。

 だから、どうせここまでは誰も来れない。それを過去の逃げ続けた実績が証明していた。逃げ場所としては打ってつけの場所だった。


「……シャンシャンって……な、何の音ですか……?」


 何の音かは分からないけど、その音が着実に近づいてきていることだけは分かる。

 そして、音の正体がもう逃げられない所まで迫っていると気づいたその時、ピーの体が下から持ち上げられて水の外に締め出されてしまった。


「ピトゥーラさん、少し手荒な真似をしてしまって申し訳ありません。怪我はないですか?」


 とても綺麗な純白の魔法使いが目の前に立っていて、思わず見惚れてしまう。


「あわわわわ……な、なんで陸の上にいるんですか……さっきまで、湖の中だったのに」

「いえ、湖の上に氷の足場を作っただけですよ」

「わあ、本当です」

「でも、どうしてこちらまで移動したのですか?」

「あ、いえ……特に理由はない……ですけど。えっと、移動したんじゃなくて、逃げ出したんです」

「もしかして、わたしのお願いはまずかったのでしょうか?」

「い、いえ……。あっ、でも、問題は一つあります。この湖の奥深くには灰の悪魔が住み着いているんです。だから、怖くて行けないんです」

「もしかして湖に入ることをしなくなった理由はそれですか?」

「あ、はい……そうです。で、でも……どうして知ってるんですか?」

「町長からですが……」


 逃げ場所がいつも湖の中だったってこと、アスタロトさまにはバレてたんだ。

 実はこの地底湖は遊泳禁止となっていたりする。水深はかなり深いし、水温も凍えるように冷たいから、酔狂でもない限りルールを破る者はいないけど。


 次にあった時、きっと叱られてしまいます。


「あわわ……ごめんなさい……」

「いえ、構いませんが……。しかし、水中で悪魔と戦うのは確かに厳しいですね」


 ミナさんは指で小さな魔法陣を作ると、真剣な表情で水面を見つめた。だけど、本当は新しい方法を考える必要はなかった。

 ピーの最大級の魔法を使用すれば、おそらく一撃で悪魔を仕留めることができるから。

 それを使った後は気絶してしまうから一人じゃできないけど、誰かが一緒ならそれも使える。


 だけど、ピーはなんて卑しい人なんだろう。

 ミナさんに連れてってほしいと頼まれた時、打算的な考えが閃いてしまったのだった。絶好の機会というやつだと思ってしまったのだ。


「あ、あの! ピーの魔法なら水中でも、勝算はあるんです! だ、だから……その代わり……ピ、ピーを……この町の外に連れ出してほしいんです!」


 言った。言ってしまいました。

 交換条件となれば断られないと考えるピーはなんて卑しいのだろう。


「外に連れ出す……ですか。えーと、この町の事情を詳しく知らないのですが、この町に住む方々は外には出られないルールなのでしょうか?」

「い、一応、そうです。アスタロト様の許可が要りましゅ……」


 本当はただ外に出られればいいというわけじゃない。だって、ピーが一人で旅をして生きていけるなんて有り得ないのだから。それは自信を持って言える。

 だけど、それを言ってしまえばお仕舞いな気がして、訂正する言葉が出てこなかった。


 卑しいお願いをしているのだから落ちる所まで落ちてしまえばいいものを、ピーはなんて中途半端なんだろう。


「……なるほど。先ほどの定期連絡というのはそういうことですか。進まない方が良い仕事とは何なのか気にはなりましたが」

「は、はい。あれは、アスタロト様から出題された、町の外に旅に出るための……条件です」


 この町は鎖国しているわけでは決してなく、人間族のそれも男の人が訪れることはむしろ歓迎している。けれど、サキュバス族が町の外へ出ようとすることにはとても厳しい。

 だからこそ、ピーにとって町の入り口の大きくて頑丈な扉は牢獄を連想させられる。不自由があるわけではないから、ほとんどの住人はそんなこと考えもしないのだろうけど。


 この町のルールを説明すると少しだけ沈黙が続いて、ミナさんは口を開いた。


「……正直に言いますと、画家を続けていくとなればピトゥーラさんの頼みに協力することは難しいと思います」

「ち、違うんです。絵を描くこと、やめるために、旅に出るんです」

「そういうことでしたか……そろそろアリエさんの件も決断しなければいけないタイミングなのかもしれませんね」


 ミナさんは憂いのある表情で呟いて、少し考え事をするとうなずく。


「分かりました。出来得る限りのことは致しましょう。ですが、まずはアスタロトさんと話をさせて下さい」

「そ、それだと……アスタロト様にバレて、しまいましゅ……」

「それもそうですね。連れ出すことは話さないようにします」


 アスタロト様とは何を話すつもりなのだろうか。分からないけど、あの人は勘が凄くいいから、ピーの脱走計画がバレてしまわないか不安だった。

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